「ハイスタート」
なんとも気の抜けた開始の合図……。
そう私は思ったが、受験生である私は気を抜くわけには行かない。
「デュエル!!」
カードが5枚デッキから手札に加わった。
個性社会、いわゆる超能力者達が正義と悪に分かれて戦っている世界。
ここがヒロアカの世界だと知ったのは私が4歳の頃だった。
どこにでもいる子供と同じように私もヒーローに憧れ、個性が目覚めるのを楽しみにしていた頃だった。
そんなある日に目を覚ますと体に変化が現れていた。
なにやら光り輝く黄金色の体になっていたのだ。
それに視界がおかしくなっていた。
個性の目覚めというやつだった。
異形型と呼ばれる身体が変化する個性が目覚めたのだと子供ながら気づいた私は、この金色のカッコいいと思えた色の慣れない高身長の体をどうにか動かし、鏡を見た。
そこに映るのは異形型と呼ばれるのも納得の禍々しいモンスターだった。
赤い瞳が四つあり、金色に輝く鎧を纏って胸には赤い宝石が輝く、一見するとクールで派手でかっこいいとも思えたのだが、それは私自身だからという甘めの評価であって、単純に怖いといえる姿だった。
子供だった当時の私はあまりの衝撃に気絶した。
まぁそのショックで前世の記憶を思い出したというわけだ。
前世の記憶においてヒロアカという名前やストーリなんかはほんちょっとしか知らない。
原作をほとんど知らないと言っていいがそれで良かったのかもしれない、私という存在によってこの世界は私の知っていた世界とは確実に異なっているのだから。
そして私の個性は『黄金卿エルドリッチ』だった。
医者は首を傾げていたがなんやかんや固有の名前を勝ち取った。
個性特殊異形型とかつけられてたら生きてけない。
見た目が遊戯王のモンスターカード、黄金卿エルドリッチになるというだけではなく遊戯王の力、デュエルといわゆるカード効果の実体化能力も備わっている個性だ。
デッキに事前に入れておけばレッドポーションを使って誰かを回復させられるし、死者蘇生を使えば蘇生もできる万能の力……とおもったけど
その効果は時間経過で自然と消えるという制約が当然存在していた。
回復程度なら効果が消える頃には傷が癒えているが、死者蘇生に関してはただもう一度殺すだけだ。
あと破壊は殺しかねないが墓地に送る効果は体の自由が効かなくなるなど独特の制約があった。
流石に世界の摂理をぶっ壊すチート能力ではなかったのだ。
十分強い個性だとは思うが。
カードを得る、まぁ能力の習得には努力が必要なのだが死者蘇生ほどガッカリさせられたことはない。
まぁ薄々わかっていた。
そして現状は紆余曲折あったがヒーロー目指して試験を受けているというわけだ。
「この手札、すぐには動けないか……構築がダメだったか? 普通に罠デッキの宿命か」
ジャラジャラと指輪をつけてマントもゴテゴテの装飾が施された、試験には似つかわしくない派手派手な格好をした金ピカ鎧の私は思わずそう呟いた。
個性のせいでこういう格好をしないと個性発動は滞るし、精神が落ち着かなくなってしまった。
ちなみに私の好物は黄金色に輝く焼き芋だ
私の個性を説明すると、簡単に言えば1ターン3分の遊戯王をやる個性だ。
自分にだけ見える1日に一回変更と補充ができるデッキを準備し、デュエル開始の宣言をして5枚ドロー、そこから3分おきにカードを一枚デュエル終了の宣言かデッキがなくなるまでこれまた自分にだけ見える手札に加えることが出来る。
手札に悩んでいても仕方ない。
次のターンがくる前に、手札のカードを4枚伏せる。
そうすると私の前にカードが4枚現れる。
フィールドに出たカードは実体化されるのだ。
普通に物理的に破壊されるので注意が必要だ。
実体化されるカードの強度は気力で変わる。
気力は気力だ。
未だ駆け出さずに様子を見ている他の受験生が戸惑うのがわかるが今は特に何も出来ない。
トラップカードは大抵伏せたターンには使えないのだ。
次のターンまでの3分間私はただ立って待つことになる。
なので残った一枚のカードを使う
「現れよ。『呪われしエルドランド』」
永続魔法呪われしエルドランド。
効果としては1ターンに1度少々のライフを払うことでデッキから特定のカードをサーチできるのだが、まぁここでは単純に実体化能力を使う。
ライフを払うのは単純に体に痛みが走るので普通に避けたい。
本気を出せば黄金で出来た都市を実体化することもできるが、そんな気力を無駄にすることはせず、現れたのは黄金の椅子。
エルドランドにある玉座のみを実体化したのだ。
ここに座って次のターンを待つことにした。
エルドリッチというモンスターなんだから殴りに行けって?
現在の私の身体能力はただのちょっと鍛えた人間程度だ……デュエルで黄金卿エルドリッチを召喚しないと私の身体能力はモンスター並みにならないのだった。
試験相手である強そうな機械に立ち向かうには少々心もとない。
罠が使えるまで無駄な消耗は避けるべきだろう。
「君達は行かないのかね」
足を組んで、海外版イラストのように玉座に座った私は未だにこちらを呑気に見ている一部の受験生達に喝を飛ばすのだった。
いやお前が行けよ、とは言われないのはこの姿になって良かった点かも知れないな。