東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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カグツチ「しょー、よー、あー、はー、みー!」
満希「言いたいことは、まぁ分かるよな?……多分」




第9話 カグツチとコノハ

 3日前にイザナギさんから頼まれた、一日間のカグツチの子守りと言う初めての仕事。

 

 今日にいたるまでの予習はしっかりと行ってきた。おむつの履き替え方、ミルクの作り方、ご飯のタイミングなどなど…基本的な事ばかりだが、この辺りを押さえていれば問題ないという事らしい。

 

「…と言うわけだから安心して良いぞー、カグツチ」

「うー♪」

 

 そして俺は今、少し前にイザナギさんたちから連れてこられたカグツチと一緒に家にいる。

 親もいない状態で他人の家にいてはこの子も緊張してしまうのではないかと少し不安があったが、まるでそのような様子を感じない。予想以上に胆の据わった子だよな

 

 さて、これからどうしようか。

 取り敢えず一日面倒を見て欲しいとは言っていたが、イザナギさんさんたちは日が沈むまでには仕事を終わらせて帰って来るらしいので、それまで何をするか考えなければならない。

 

 …まぁ、その辺考える前にやる事ならないとな。

 

「よし、遊ぶか!」

「おー♪」

 

 さっきから遊びたそうにしてるカグツチを放って考えるのも気が引けるし、まずは一緒に遊んでみようか。

 俺はそう思い至るとカグツチを抱き抱え、事前に渡されたおもちゃが置いてあるリビングの一角へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

「ふぃ~、たっぷり遊んだな、カグツチ。楽しかったか?」

「うー♪」

「そうかそうか。それは何よりだよ」

 

 おもちゃ遊びにたかいたかい。

 お馬さんごっこやお絵かき。

 

 俺とカグツチは思いつくものとその時の気分で色々な遊びを行った。

 カグツチの年齢を考えると少し年齢層が高めの遊びが混ざってたので喜んでくれるか不安だったが、カグツチはどの遊びも満面の笑みで楽しそうにしていた。俺も不安も杞憂に終わるその笑顔につられて、俺も遊びの最中は口元が緩んでいたのを自覚している。

 なんだかんだ言って、子供が楽しんでる姿って言うのは微笑ましいものだ。

 

「みー、みー」

「ん?どした?」

 

 何やら、カグツチが自分のお腹を指差したと思うと、続いて口を開いて中を指差し始めた。

 なるほど、どうやらお腹が空いてるみたいだな。あれだけ遊んだんだからお腹が減るのも当然だな。

 

「よし、ならご飯にするか」

「うー♪」

 

 しかし、そうは言うが俺は少し悩んでいた。

 育児についての勉強ではカグツチ位の赤ん坊は、母親の母乳かもしくは哺乳瓶に入れたミルクで食事を済ませるらしい。

 しかしこの間のパーティでもあったが、カグツチは既に肉も野菜も食べられるような状態である。そんなカグツチが粉ミルクだけで満足するだろうか?

 ちょっと聞いてみるか。

 

「なぁカグツチ、ミルクだけでお腹いっぱいになるか?」

「んーん」

 

 どうやら駄目らしい。しかもこれだけ首を思いっきり振ってくるとなると、案外大食いなのかもしれないな。

 けどどうしたものか…こないだのパーティで一気に食材を消費したから今の家の冷蔵庫の中身では料理を作る事は出来ない。かと言ってこれから材料を買って作っても時間が掛かりすぎるし……

 

「お邪魔するわよー」

 

 そんな事を考えている最中、玄関の方から赤ん坊波に手のかかる存在の声が聞こえてきた。そう言えば、この間様子を見に来るって言ってたっけ…断ったはずなんだが。

 

「様子見に来たわよー。どう、アンタちゃんと子守りできてるの?」

「なかなか順調だよ。お前が来るまではな」

「来客が来ようが来まいが、調子崩すんじゃないわよ。カグツチが困るのよ」

「ああ、そうだな」

 

 俺も困るっての。

 と、やって来たのはいつも通りの格好をしたコノハナサクヤだ。

 やれやれ、今日は平和な日常になるかと思ったんだが…気苦労が追加されそうだなこれは。

 

「で、そろそろご飯の時間の筈だけど…アンタたちもう食べたの?」

「いや、カグツチがさっき腹を空かせてな。家には食材も無いしどうしようかと思ってたところだ」

「そんなの、外食で済ませればいいじゃない。どうせ今日は平日なんだし、適当に探せば空いてる店もあるでしょ」

「外食か…まぁ、仕方ないか」

 

 子供にはなるべく家庭の味を味わってほしいんだがな…まぁその辺りはイザナギさんたちに任せるか。

 

「ならさっさと行くわよ。さあカグツチ、ご飯食べに行きましょ?」

「おー♪」

「…で、ちゃっかりついてこようとしてるし」

 

 どうせ俺に奢らせるんだろ?まったく……

 まぁ、貯金には余裕もあるし一人分くらい大した費用じゃないから別にいいか。

 

 という事で、急遽加わったコノハナサクヤと共に俺とカグツチは家の外へと出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

「ラッキーだったわねー。入るタイミングが良かったのか、ちょうど昼時なのに空いてたわねこのファミレス」

「ま、そういう時もあるって事だろうな」

 

 家から出て歩く事3分。

 俺たち3人は家の近くにあるファミレスで食事をすることにし、ウェイトレスの案内の元席に着いた。ファミレスを選んだ理由は言わずもがな、子供向けのメニューが確実にある事と家から近い事だ。

 

「ほーらカグツチ、好きなの頼んでいいわよ。お代は全部満希が払ってくれるんだから」

「俺が払うのは二人分だけだぞ」

「アタシとカグツチの分でしょ?分かってるわよそれくらい」

「ごめん、ちょっと意味が解らない」

「冗談よ。別に自分の食事位自分で払えるわよ。貧乏じゃあるまいし」

 

 まぁ、正真正銘のお嬢様らしいしなこいつ。というかお前の冗談は本気と見分けがつき辛いんだよ。

 

「こー、こー」

「ん?どうしたの…ああなるほど、それが食べたいって事ね?」

「そー♪」

「オッケー。今頼んであげるから待ってて頂戴ねー。ほら満希、決まったんならパネル押しなさいよ」

「へいへい」

 

 この時代のファミレスは各テーブルにモニターが設置されており、そこに載っている料理の写真を指でタッチすることによって注文を決めることが出来るハイテク仕様だ。

 最初の頃、ウェイトレスを呼ぶベルが無くて戸惑っていたのはいい思い出とも言えよう。

 

 さて、そんな事はさて置き俺はモニターを押してそれぞれの注文を済ませる。

 

『それでは3名様で、以上のご注文でお決まりでしょうか』

「思ったけどさぁ、この確認の画面って要らないよね」

「店側の気遣いを素直に受け取れよ」

 

 俺は文句を言うコノハナサクヤを一蹴し、確認ボタンを押す。

 

『ご注文有難うございます。お客様をご家族とお見受け致しましたため、家族サービスを適用させていただきます』

「……はあ!?」

 

 突然、コノハナサクヤがモニターの言葉に反応して思いっきり声をあげてきた。

 

 ちなみにこのモニターなのだが、その場の席の温度をキャッチ・分析して人数や年齢などを特定することが出来る。

 ただし、人数の把握は正確なのだが年齢などに関しては曖昧な判断が少なくなく、時々このような勘違いが発生してしまう。

 

「ああもう何よこの機械!壊れてんじゃないのっ?誰がこいつの妻になるかっての!」

「機械の勘違いに突っかかるなっての。どうせ安くなるんだし、俺らの所為にならないしこのままいくぞ」

「いや、アンタなに家族ってこと受け入れようとしてんのよっ?……はぁ、まぁどうせ注文終わっちゃったんだし、今更どうこう言っても無駄って事ね」

 

 そう自己完結したコノハナサクヤは乗り出していた身体を元に戻すと、ため息交じりに複雑そうな表情を浮かべてしまう。

 結局渋ってるじゃんかよ。俺は前にも似たような勘違いがあって慣れてるから良いけども。

 

「家族……結婚、ね」

「?…なんだよ、急に」

 

 ふと、コノハナサクヤが独り言のように呟いた言葉が耳に届き、俺はそれに反応した。

 向こうは向こうで俺に聴かれていたのを察していたかのように、そのまま言葉を紡ぎ始める。

 

「…この間ね、またお見合いの話が出て来たのよ」

「またか。お前もその手の話は結構断ったって聞いてたんだが…親はまだ諦めてないのか?」

「らしいわよ。それどころかますます婿探しに火が付いたみたい」

 

 はぁ、と彼女は更に深いため息を一つ零す。

 

「…けどさ、アタシはまだ結婚する気なんてさらさらないの」

「それ、前にも同じようなこと言ってたな」

 

 一か月前くらいだっただろうか。街の中のゲーセンで彼女と一緒に遊んでいる最中、今回のような話が浮き上がってきて似たようなことを話していた。

 それ以前も、その時も、そして今も、コノハナサクヤは結婚をするそぶりを全く見せない。…そう言えば、何故そこまで頑なに結婚を断るのか聞いたことが無かった。

 

――何でそこまで嫌なんだ?

 

 俺は、今まで聞き損なっていたその事を彼女に訊いてみた。

 

 そしてコノハナサクヤは、その理由を話し始める。

 

「アタシね…お姉ちゃんが一人いるのよ。お姉ちゃん、アタシよりも色んなこと知ってるし、色んなこと出来るし、アタシよりも色々上手くこなせちゃうんだよ」

「……」

「けど、お姉ちゃんは自分に自信を持ってないのよ。自分なんか大したことない、もっと凄い人はたくさんいる…って。顔も前髪を長くして隠しちゃうくらいだし、お姉ちゃんにもお見合いの話がいくつか来てるけど、どうせ相手が失望するだろうからって全部断っちゃってる」

「ふむ…」

 

 俺は軽く相槌を打ち、話の続きを遠回しに促す。

 

「お姉ちゃん自身はそんな風に振る舞ってるけど…アタシはどうあったってお姉ちゃんに憧れてる。尊敬してる。アタシよりもずっとスゴイお姉ちゃんなんだもん、だから…そんなお姉ちゃんを差し置いて、アタシが先に結婚するなんて絶対にイヤ」

 

 強い意志を秘めた瞳を俺に向けながら、コノハナサクヤは口を再度開く。

 

「お姉ちゃんには、アタシなんかより先に幸せを手に入れて欲しい。アタシが結婚するのは、お姉ちゃんが幸せになるのを見届けてからでいいのよ」

 

 そう言って、彼女は動かし続けていた口を止めた。

 

 なるほどな……それでこいつはあれほど結婚を嫌がってたのか。結婚自体が嫌なのではなく、自分が慕う姉を差し置いて先に進むのが嫌で、姉には先に幸せになって欲しいからって。

 普段から単純な我儘を見せていたから、こういう理由のあるものがあるとこいつの見方がまた一つ変わってくるな。

 

 …さて。

 

「そうこうしてる内にご飯が来たぞ、カグツチ。やったな」

「うー♪」

「おい、さっきまでのシリアスを返しなさいよ」

 

 いや、だって話が長いし。

 カグツチなんて待ちきれなかったのか早速食べ始めてるぞ。

 

「俺も腹がそろそろ限界なんだよ、たっぷり遊んだし。な?」

「なー♪」

「いや、だからってさっきまでの話に全然触れないってのはどうなのよ!?」

「だって腹減ったし、な?」

「なー♪」

「そのやりとりとっとと止めなさい!すっごい腹立つ!」

 

 ぷんすかと俺に対して怒りを示してくるコノハナサクヤ。

 さて、からかうのはこの位にしておくか。怒りを爆発されても後々困るし。

 

「俺は良いと思うぞ、そういうの」

「え?」

「姉には自分より早く幸せになって欲しいって話。俺は一人っ子だからその気持ちがわかるなんて軽々しくは言えないけどさ…そういう考えは俺も良いって思えるぞ」

 

 そう言って、話している間に出来上がってテーブルの上に出現した料理のうち一品をコノハナサクヤに向かって差し出し、俺も自分が注文した物を手前に引き寄せる。

 

 直前にふざけた発言をしていたから説得力が低いかもしれないが、今のは紛れも無く俺の本心を吐露している。

 こいつの言っている事は兄弟がいない俺でも何か共感を持てるものだったし、俺にも同じような存在が居たらそういう道を選ぶと思う。

 

「まぁ、そう言うわけだ。お前はお前の思うままに振る舞っていけばいいと思うぞ」

「そ、そう……まぁ満希にしては悪くない意見だったんじゃないの?」

「何故上から目線だし」

「………ありがとっ」

 

 ん?何か言ったか、こいつ。

 

「なぁ、さっき何か喋ったか?」

「えっ、いや、別に。み、満希はバカって言っただけよ!」

「…なんで俺は急に罵倒されたんだ?」

 

 解せぬ。

 

 まぁいいや。取りあえず飯だ飯。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

「さーて、腹いっぱいになったか?カグツチ」

「うーうー♪」

「よしよし」

 

 どうやらしっかり腹を満たしたみたいだな。…まさかサイコロステーキを頼むとは思ってなかったが。やっぱり神の赤ん坊は一味もふた味も違うらしい、半日くらいしか経ってないけど、それが良く理解できたよ。

 

「さて、そろそろ家に帰るか…。コノハナサクヤ、お前はどうする?一緒に来るか?」

「んー…一緒に遊ぶのも悪くなさそうだけど、今日は家に帰るわ。ちょっとお姉ちゃんと話もしておきたいし」

「そっか」

 

 姉と話がしたいという事は…やはり食事前のあの話が関係しているのだろうか。

 まぁコノハナサクヤがどう思ってるのかは分からないが、その辺りは身内で解決してくれるだろう。

 引き留める理由も無い俺は、カグツチを抱き上げて家へと戻るべく歩き出そうとする。

 

「満希!」

 

 進もうとしたその時、突然コノハナサクヤから声を掛けられそっちを振り向く。

 すると俺の方に向かって小さな物が投げられているのを視認出来た。

 

「おっ…と」

 

 放物線を描いたそれはちょうど俺の胸元辺りに落ちてきて、俺はカグツチを片手で抱くと、空いた手でそれをキャッチする。

 いきなりなんなんだよ、と突然の行動に対する文句を心の中で浮かべつつ、手の中に納まっている物を確認する。

 

「これは…ブレスレット?」

 

 銀色の金属を主体とし、所々に朱色の宝石が埋め込まれたお高そうなブレスレットが俺の掌にあった。

 サイズも見る限りでは俺の手首のサイズにちょうど良いくらいの大きさで、普通につける分には邪魔にならないくらいのコンパクト感がある。

 

「それ、アンタにあげる」

「これを俺に、でもどう見ても高そうな感じがするんだが…」

「いいから、別に高くないんだし寧ろ安い部類なんだから大人しく有難く受け取りなさいよそんでさっさと腕に付けなさいよ!」

「な、何だ急に?」

 

 俺が高級そうなブレスレットを受け取る事に抵抗感を抱いていると、いきなりまくしたてるかのように早口でしゃべり始めた。しかもちょっと怒ってるように見えるし…それになんで今ここで付けるんだ?

 

「ほら、早く!」

「わ、分かったって」

 

 謎の威圧に押され、俺は大人しく渡された銀と朱のブレスレットを左の手首に装着する。

 っ!凄いなこれは、持ってる時は見た目相応の重さがあったのに、つけてみたらさっきまでの重さが嘘のような軽さになっている。それどころか、重さすら感じないくらいだ。

 

「…一体どこでこんなの売ってたんだ…?」

「ど、何処だっていいでしょ。いい満希?それはこれから肌身離さずちゃんと身に着けておくのよ」

「え?なん――」

「良いからっ!分かった!?」

「……はい」

 

 何かしらんが、死ぬまで着けることを義務付けられてしまった。何なの?呪いの装備なの?まぁ、重さは全然気にならないし別にいいか。外したら後で煩そうだし。

 

「そ、それとさ……」

「まだ何かあるのか?」

「そ、その……アタシの事……コ、コノ…」

「この?」

 

 This?いや、いきなり英語はおかしいだろ。それにあいつ英語言ってないし。

 

「コ、コノハって呼びなさい、これからはアタシの事を!」

「…え?」

 

 モゴモゴと言い辛そうにした後、コノハナサクヤはそう言った。倒置法ってお洒落だな。

 というかコノハって…あいつの愛称だよな。確か今までは呼ぶのを認められてなかった筈なんだが…何でこのタイミングで?

 

「ちょっと!その、何で?ってリアクション止めなさいよ!折角恥を忍んで喋ったって言うのに!」

「いや、だってこのタイミングで愛称呼びを認められるとか…」

「い・い・か・らっ!四の五の言わずにこれからはコノハって呼びなさい!良いわねっ!?」

「……はい」

 

 コノハナサクヤ――コノハの威圧に負けて、俺は大人しく……って俺さっきからこんなのばっかりだな。

 

「そ、それじゃあアタシは行くから。じゃあね」

 

 まるでここから直ぐに逃げ去りたかったかのように早口早足でこの場を去っていくコノハ。

 

「うー」

「?どうした?」

「そー」

「…これか?……罰ゲームみたいなもんだ」

 

 こうして俺は呪いの装備を手に入れましたとさ。………はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 俺が家に戻り、カグツチとの遊びを再開して数時間後。

 

 窓の外を見てみると、外は既に夕焼け色にいた。どうやら長い間ぶっ続けで遊んでいたらしい。カグツチはともかく、俺が気付かなかったとは…俺も今日は楽しめたって事なんだよな。

 

 俺は朱に染まる夕方の空をリビングの窓越しに眺めつつ、俺の膝の上にいるカグツチの頭を軽く撫でる。

 

「…………」

 

 頭を撫でられたことに対し、カグツチは何も反応を示さない。まぁ示さないのも当然だ、何故なら……。

 

「ただいまー、満希くん」

「お邪魔します」

「同じくお邪魔するよ。やぁ満希くん、今日はどうだった……って、おっと」

 

 仕事が終わり、家に戻ってきたアマテラスさん、イザナミさん、イザナギさんの3人。

 イザナギさんがリビングのソファにいた俺に声を掛けようとしたが、途中で気付いて声の大きさをガクッと落とした。

 

 そう、カグツチは遊び疲れて眠ってしまっているのだ。

 

 帰ってきた3人はゆっくり静かに俺とカグツチの方へ歩み寄ると、囲んでカグツチの様子を眺めはじめる。

 

「うふふ……カグツチちゃん、幸せそうに寝ていますね」

「ええ、そうですね。どうやら今日は満希くんに任せて正解だったみたいです」

「どうやらそうみたいだね」

 

 カグツチが起きてしまわない様、極力小さな声で話し始める3人。カグツチの幸せそうな寝顔を見て、3人の表情にも自然と笑顔が浮かび上がっている。

 

「それに、ほら…」

「?…あらあら」

 

 イザナギさんがカグツチの手の先を指差す。俺はその指の先の事について知っていたため、微笑ましそうにするイザナミさんの隣で苦笑いするしかない。

 その指差した先には、俺の上着の一部をガッチリと掴んでしまっているカグツチの手があった。

 

 そんな光景を見て、イザナミさんは俺の方を向いて喋り始める。

 

「…ねぇ満希くん、もし良かったら明日の朝までこの子の面倒を見てくれませんか?」

「お二人が良いなら、俺も大丈夫ですよ。何回か試してみたんですけど、完全に掴まれちゃってますし…」

「ふふふ…」

 

 逃がさないとばかりに掴んでくるカグツチの手。

 こんな小さな手にも関わらず、それでいて眠っているのにその力は凄まじく、俺一人の力では引き離そうとしてみてもビクともしてくれなかった。打つ手なしと、俺は諦めるしか道は無かった。

 

 

 

 こうして俺は、それ以降もずっと眠りっぱなしのカグツチと共に翌日を迎える事となった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 そして翌日、起きて俺の服から手を離したカグツチは、名残惜しそうにしながらも朝食後に迎えに来たイザナギさんと共に帰っていった。

 俺も昨日は退屈しない一日となっていたし賑やかだったから、あの子と別れるのは少し寂しいものがあった。けどまた会いたいときに会えばいいんだし、そう悲観的になる事も無いか。

 

「…しかし、まさかカグツチがこんなもの作れるとはな……」

 

 ベランダに立っている俺はそう言うと、右手の中指に填められている黒色のシンプルな指輪を太陽の光にかざし、それをまじまじと眺める。黒光るその姿はあの子が作ったとは思えない程大人っぽい雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 実は、カグツチがイザナギと一緒に帰ろうとしていた時の事。

カグツチはイザナギの元に行く前に、俺の足元に近づくと俺に向かって小さな黒い指輪を渡して来たのだ。

 どうやらコノハに影響されて、ならば自分も、と言わんばかりに俺に贈り物がしたかったようだ。

 俺はそんなカグツチの思いが嬉しくて、アイツの時とは違い自分からカグツチの前でその指輪を自らの中指に填めた。

 

『うー♪うー♪』

 

 そして俺が指輪を填めたことに対してカグツチは更に大喜び。

 再び抱き着いてきてなかなか離れなかったりして帰るタイミングが遅くなったのは余談だ。

 

 

 

 といった経緯で、俺はカグツチからこの黒の指輪をプレゼントされた。

 

 更に驚く事と言えばこの指輪、なんとカグツチが自分の神力を指輪と言う形に具現化させて作ったのだという。つまり、この指輪にはカグツチの力が眠っているという事になる……この指輪、実はけっこう危険なんじゃ?

 

「…まぁ、今更か」

 

 その時はその時だ。

 俺はそう納得させ、部屋の中へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は悠々と、平等に流れて行く。

 

 

 

 そして、暁宮 満希がこの地に降り立って30年後。

 

 

 

 大きな運命がまた一つ、動き始める。

 

 

 

――終

 




カグツチとの一日だった筈なのに、コノハとの話が4割を占めてタイトル詐欺の容疑が私に掛かる事となった…。
そう言えば今回はカグツチくんがうーうー言ってましたが、おぜうさまではないので悪しからず。

おぜうさま「私の専売特許を奪うとは……ゆ゛る゛さ゛ん゛!」

ちゃうねん。


【連絡】
Toituku様のご意見を参考にして、コノハナサクヤの呼び方を『コノハ』へと変更することになりました。何気に長くて面倒だったんですよね、あの名前…
改めて、ありがとうございました!

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