東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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太郎A「小説を」
太郎B「読むときは」
太郎C「部屋を明るくして」
太郎D「画面から目を離して」
太郎E「見るようにな!」
太郎一号「We are TAROU(私たちは太郎です)」
満希「多いわ!」



第11話 退却と置去り

 都の東門前。

 

「死ねぇぇぇぇ!!」

 

 殺意を剥き出しにして次々と襲い掛かってくる妖怪たち。俺が駆けつけてから10分以上は経過しているが、一向に勢いは衰えていない。

 

「ハアァァァァっ!!」

 

 俺は腕全体に炎を集め、それを横へと払う。すると手の動きに連動して炎が地面と平行に薙ぎ払われ、火炎が妖怪の群れを飲み込んでいく。

 さらにもう一丁。掌に炎の塊を作成し、手を前に突き出すとその火球を前方へと発射する。放たれた火球は一匹妖怪の肉体に直撃すると、ドォン!と音を立てて炸裂し、周囲の妖怪もろとも吹き飛ばしていった

 

「隙アリィ!」

「うおっと…!」

 

 背後から襲い掛かって妖怪の鋭い引っかき。

 不意の出来事だったが『隙あり』なんて台詞を事前に入れてくれたお陰で反応をなるべく早くすることが出来た俺は咄嗟に前に転がって回避する。マンガとかでああいう台詞を言うシーンってよくあるけど、現実的に考えたら悪手なんだなぁと実際に体験して実感できた。

 

 とまぁそれはさておき、攻撃を避けた俺は転がった状態のまま足に火炎を纏い、態勢を直すと地面を蹴って炎付きの跳び蹴りを前方の犬っぽい妖怪へとかましてやる。

 

「ギャイン!?」

「よっと。……しかしキリが無いな。だいぶ倒したつもりなんだけど…減ってる気が全然しないぞこれ」

 

 妖怪に蹴りを浴びせた俺は着地し、周囲を見渡してみる。

 周りでは態勢を立て直した防衛隊が再び妖怪たちと激突し、各個で撃破を図っていた。俺の登場で妖怪たちにも多少の動揺が生じ、態勢も直っているお陰で順調に戦えてはいるが…いかんせん数が多いせいでジリ貧に感じてしまう。

 

 さて、どうしたものだろうか。

 

 俺たちの目的はあくまで足止めであって、妖怪たちの殲滅ではない。つまりこの場にいる妖怪全てを倒す必要は無く、妖怪たちの進行をロケット出発まで遮れば良いという話だ。

 それならロケットが飛び立つ準備ができ次第、この場をササッとトンズラして逃げてしまった方が被害を最小限に抑えることが出来る。

 

 となると、ロケットの発射準備が整うまで持ちこたえればいいんだが……連絡が来るまで分からないな。

 

「…まぁ、その時まで何とかするしかない、かっ!」

『ぐあああぁぁぁ!!』

 

 八方から襲い掛かってくる妖怪たちを、腕に纏った炎を薙ぎ払って吹き飛ばす。そろそろ能力も4割分くらい使ったぐらいだな。あまり長く持ちそうもないな…出来るだけ早く出発の準備が整ってくれると助かるんだが…

 

「き、君!大変だ!」

 

 突然、太郎一号が慌てた様子で俺の元に駆けつけてきた。顔色も血の気が無いように見えるが…

 

「どうしたんだ?もしかして仲間が危険なのか?だったら俺が――」

「違うんだ、そうじゃない!」

 

 

 

 

 

「ロケットが……次々と月へ向かって飛んでいるんだっ!」

「…っ!」

 

 ロケットが既に動いているって……まだ防衛隊員が全然乗り込んでいないにも関わらずか?

 まさか…この人たちを見捨てるつもりか……!?

 

「…いや、でもそうと決まったわけじゃないか。此処にいる人が乗り込む分のロケットなら最後まで残してある筈だろ?」

「……いや、それは有り得ないんだ。絶対に」

 

 断言してまで否定することで、可能性としてあった希望はあっさりと潰された。

 『どうしてそう言えるんだ』と顔に出しながら男の言葉を待っていると、それに気づいてか男はさらに喋りだす。

 

「ロケットの発射というのは、発射地点の近くにある基地から行うものなのだ。だが、今回は全ての住民が月へと移動する計画だ。ならば最後のロケットの打ち上げになったら基地で発射の制御を行う者は一体どうなると思う?」

 

 その問いに対して、俺は頭を働かせる。

 単純な話、制御を行う者はロケットに乗っている状態ではない。だというのにロケットを飛ばすという事は、その制御者は……。

 

 ……なるほど、そういう事か。 

 

「……基地に、取り残される」

「そうだ。だから上層部の方々は開発部にある依頼を出したのだ。一機が発射したら、間隔を挟んで連動式でロケットを発射させるシステムをな」

 

 連動式……連動っていうと、一つの動作が行われたら続けて別の動作を繋いで行うっていうあれの………っ!!

 

「まさか…!」

「そう、そのまさかだ。上層部の方が乗るロケットに設置されていた連動発射システムが作動したのだよ。もう全てのロケットが出発に向けてスタンバイを行っている」

 

 俺たちがそう話している間にも、また新たなロケットが轟音を立てて空へと飛んでいく。

 俺もロケットの近くにいたからその数は知っている。今回用意されているロケットは8機で、さっきのが飛んでいったのは3つ目だったから…

 

 残るロケットは5。

 

「……行こう」

「え…?」

「戻ろう、ロケットへ」

「あ、ああ……だが妖怪たちが…」

「俺が殿をやる。アンタたちは先行してロケットに乗り込んでくれ。足の速い人は更に先行して乗船できるロケットの確保を」

 

 恐らく、これが最適だろう。

 ここからロケットの発射地点までの距離は実際に走って来たから知っている。一機毎の発射のペースと時間を考えると、最後の一機までにはギリギリ到着できる計算だ。

 

「さぁ早く、もたついてるヒマはないぞ!!」

「わ、分かった……済まないが、後ろをよろしく頼む」

 

 考える時間も惜しい、今は一刻も早くロケットの元に向かわないとな。

 

「よし、ではロケットに向かって全力で走るぞ太郎!!」

『おおーー!!』

「…今、全員返事しなかったか?」

 

 なに、この太郎集団。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 未だ月に向かって飛んでいないロケットを目指して走っていく俺と防衛隊……太郎集団でいいか。

 

 俺は太郎集団の一番後ろに位置を取り、追撃を仕掛けてくる妖怪たちを炎で追い払っていく。妖怪たちの足もそこまで速くないらしく、俺たちと変わらない程度の速度でいる。後は体力と飛行して追いかけてくる妖怪たちが問題だな。

 とは言うものの、どちらも左程問題視する程ではない。何故なら、後者に関しては飛行する乗り物に乗っている一部の太郎が援護をしてくれているお陰で、飛ぶ妖怪の足止めがかなり楽になっているからだ。そして体力の方についてだが、此処からロケットの場所までの距離を考えると、体力が持たないという可能性は低めなのだ。

 妖怪たちから逃げることについては、恐らく問題ないだろう。

 

 だが、俺の心の中には一つ気掛かりな事が引っ掛かっていた。

 

「この展開……イザナギさんが関わってるのか…?」

 

 俺は既に姿が見えなくなるほど遥か遠くに飛んでいった国の上層部が乗ったロケットを思い、青い空を見つめる。

 上層部の人、という事はこの国のトップであるイザナギさんやイザナミさん、恐らくカグツチもだろうか。あの人たちはそのロケットに乗っていたのだろう。ならばあの人たちは、俺や太郎集団を見捨てる処置を取ったというのだろうか…?

 

「…いや、有り得ないよなそんな事。イザナギさんたちは、こんなことをやるような人たちじゃない」

 

 だが、信じられなかった。

 俺はあの人たちとは何度も話をしたこともあるし、アマテラスさんやコノハとも一緒に出掛けることもあった。俺の知っているイザナギさんたちは、国の為に動いてくれている人たちをアッサリと捨てるような事は断じてやらない。伊達に30年間交流をして来たわけではないという事だ。

 

「…となると、どういう事なんだ…?何かの間違いか、それとも――」

「キシャアアァァ!!」

「おっと、あぶな!」

 

 考え事をしている最中、カマキリのような両腕をした妖怪が俺に向かって飛び掛かって来た。

 俺は攻撃を躱してその妖怪の腹部に蹴りを叩き込んで後方の妖怪もろとも纏めて吹き飛ばす。

 

 しかし、本当に何故ロケットは俺たちを置いて先に行こうとしているのだろうか。

 システムの誤作動か?いや、でも聞く限りでも連動発射システムっていうのはかなり重要なもののようだし、誤作動が発生するような管理をしている筈がない。

 偶発的なものではない…だとすると。

 

「自発的……誰かが勝手に操作した?」

 

 誰かの仕業。

 

 俺はそこまで考えてみるが、首をフルフルと横に振ってその思考を途切れさせた。

 何故考えるのを止めたか?理由は簡単だ。一つは結果を明確にするための材料が殆ど無いから推理するだけ無駄だから。そしてもう一つは…

 

「み、見ろっ!5つ目のロケットが発射してるぞ!」

「た、大変だぁっ!!皆、急げぇ!ロケットの発射地点まですぐそこだぞ!」

「…今は目の前の事態を何とかしないといけないし、な」

 

 新たなロケットの発射に伴い、前方を走る太郎集団の走るスピードが上がったため、俺も同様に走る速度を速めていく。

 

 残るロケットは、3つ。

 

 

 

 

 

 そして走る事数分後、俺たちはロケットの発射地点の入り口まで到達していた。

 

「見ろ、ロケットがあったぞ!」

「残りの数は!?」

「もう2機しか残っていない……!見ろ、向こうのロケット、まだ入り口が開いてるぞ!」

 

 残るロケットは、2つ。

 しかし、片方のロケットは入り口部分がまだ開いているためそこから中へ入ることが出来る様だ。

逆に言えば、其処から入ることが出来なければもう他にロケットに乗り込む手段は残されていないという事。

 

「全員、急いで行け!」

 

 俺は彼らを背中越しに声を掛け、もうひと踏ん張りとばかりにスパートを掛けさせた。入り口がまだ開いているからと油断しててはいけない、いつ閉まるか分かったものじゃないからな。

 そして最後部に位置している俺は、未だしつこく追いかけてくる妖怪たちを炎で払いのけている。

 

「少年、君も早く来るんだ!」

「分かってる!俺も直ぐに乗り込むから、先に行っててくれ!」

 

 俺は今ロケットの方ではなく妖怪たちの方に身体を向けているから顔は見えなかったが、今しがた声を掛けてきたのは恐らく太郎一号だろう。一号は早く乗れと俺を急かしてくるが、事はそう簡単には済みそうにはない。

 妖怪たちの追撃は未だ続いている。向こうも俺たちが焦っていることに気付き、そこに付け入ろうと攻めの手を加えてきているのだろう。そんな状態の妖怪たちを放って、今ロケットに逃げ込んでしまえば既にロケットに乗り込んでいる人たちに危害が加わってしまう筈。

 

 それだけは、絶対に避けなければならない。だから俺は、最後尾で妖怪たちを泊めなければならないんだ。

 

「くっ…なるべく早く来るんだぞ!既に片方のロケットも飛んでしまっているから、もう時間は殆ど無いぞ!」

「…了解!」

 

 残るロケットは、1つ。

 

 俺もそろそろ急がないと、本気で乗り損ねてしまうかもしれないな。…それは本気でマズイ人が消えて妖怪だらけになってる都でどう生きていけと。

 

 とにかく、俺がロケットに乗り込むためには、先ず目の前の妖怪たちを追い払わなくてはならない。

……のだが。

 

「はぁ……ホント、どうしたらいいんだろうなこの状況」

 

 数えるのが面倒になるくらいの妖怪の数。東門に到着した頃よりはいくらか減ってはいるものの、大量にいる事に変わりはない。

 この数を振り切りつつ、妖怪たちの攻撃がロケットの方へ行かない様なタイミングで俺もロケットに乗り込んでいくのが条件なんだが……どうすればいける?

 敵は俺たちの事情なんてお構いもせずに襲い掛かってきている。そう簡単に事を運ばせてはくれないだろう。

 

「…とにかく、やるしかないか」

 

 低い可能性を信じ、俺は眼前の妖怪たちに向かっていく。いつか来るチャンスを胸に抱いて。

 

 

 

 

 

 …しかし、その願いは実に儚いものであった。

 

 どんなに力を振るっても、妖怪の侵攻の波が絶えることは無く。

 攻め手を止めてしまえば、その矛先はロケットに向けられかねない状況。

 

 

 

 俺は、ロケットに乗り込めるタイミングを掴むことが出来ずに…

 

 

 

 最後のロケットの扉が、閉ざされた。

 

 

 

 そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空へ向かい、飛翔する。

 

 

 

 残るロケットは、0。

 

 

 

「…最悪の展開だな」

 

 思わずそう愚痴ってしまった。だが、愚痴を言ってしまうのも仕方がないと思う。

 周りを多数の妖怪に取り囲まれ、退路は完全に閉ざされ、俺の体力もかなり消耗していると来たものだ。

 状況はまさに過酷。ロケットがもう残っていない今、妖怪が蔓延る都にも都の外にも逃げ場は存在しない。

 

「ちっ…随分しぶとくしやがって。大人しく殺されていれば苦しむ思いをせずに済んだものを」

「もうテメェはおしまいだ、人間!逃がした人間どもの分も合わせた苦しみを味あわせてやるよ!」

 

 おまけに向こうはまだまだ血気盛ん。それどころか人間を倒し損なった事にフラストレーションが溜まっているのか、先程より一層狂暴な面構えになっている気がする。

 

「……もう駄目かもなぁ、これ」

 

 何か活路は無いだろうか。そう考えては見たものの一向に案が浮かばず、俺の心は折れかけていた。

 

 …まぁ、でもみんなを避難させることが出来ただけでもよしとするかな。

 何だかんだで楽しい30年だったし、最初の頃妖怪に襲われた時よりも達成感のようなものが心を満たしているからあまり悔しくは無い。太郎集団をちゃんと助けられたからだろうな。

 

 これで、アイツらとの『約束』も果たされただろうか。

 

「…さて、それじゃあ最後の思い出づくりに100人斬りでも挑戦して――」

 

 

 

 

 

-ピッ…ピッ…

 

「…?」

 

-ピッ…ピッ…

 

「…なんだ?この音…」

 

 急に聞こえ始めた謎の電子音。その音は都全体に響き渡るような音量で鳴り出し、未だ継続している。

 妖怪たちも電子音に気付いたらしく、騒ぐのを止めて周辺をキョロキョロと怪訝に見渡している。

かく言う俺もその音の正体が気になり辺りを見回してみる。が、それらしく音を鳴らしている物は見当たらない。

 この音…まるでタイマーのような感じが…。

 

 そしてそのタイマーのような電子音は幾度か音を鳴らしていると。

 

-ピッ…ピッ…ピッ。

 

「っ、音が止ま――」

 

 

 

 音が停止した瞬間。

 

 俺の視界は一瞬のうちに完全な真白に塗りつぶされ。

 

 今まで聞いたことのない規模の爆音が俺の耳を劈いてきて。

 

 

 

 

 

 俺の意識は、そこで閉ざされた。

 

 

 

――終

 




うーむ…かなり難産でした、今回は。加えて仕事が忙しくて中々手を付けられず…。それに今回は表現がどうにも上手くいかず、ドラマティックな感じに書きたかったのですが難しい…

??「書いていればそれなりにドラマティックになるだろうと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。腐☆腐」

親父ぃ……。

さて、次回はちょこっと永琳たちのサイドを入れて、その後に第2章を始めて行きます。
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