???「空を飛ぶこと自体ならアマテラスや永琳も可能だったんだけど、教わってはいなかったんだよね」
満希「30年も時間があったのに?」
???「その辺は本編にて釈明予定」
先日、諏訪子の粋な計らいによって彼女の管轄する村で暮らすことが決まった、俺こと暁宮 満希。
いきなり居住するなんて決められて村の人たちも流石に困るんじゃないだろうか。そう俺は心配していたのだが…。
「お前さんは村の子を妖怪から守ってくれたんだ!そんな良い人を住まわせないなんて失礼じゃないか」
「それに洩矢様直々の命令とあれば、儂らが断る道理はありゃせんよ」
といった様子で、村人ほぼ全員から手厚く歓迎された。特に妖怪に襲われた女の子の両親は何度も何度も頭を下げて俺に感謝の言葉を掛けてくれた。オーバーなんて思ってはいけない、親さんたちにとって子供と言うのはそれくらい大切な存在だという事だ。
それにしても諏訪子って、この村だと随分尊敬されてるんだな…尊敬と言うよりは、畏敬って感じがしたが。
さて、そんな事があった後。
村人たちと協力して独り暮らしに向いたサイズの一軒家を村の中に製作し、俺はそこを拠点として村での生活を始めた。
俺がこの村でやる事は、大まかに数えて3つある。
1つは諏訪子の使いとして、彼女が村に伝えたい事を連絡したり逆に村から諏訪子に知らせるべきことを伝えたりする。要するに、この二つの間でパイプ役を務める事だ。ちなみに諏訪子の話し相手になるという仕事もここに含まれる。
次に、村の農業を手伝う事。これについては一から教えてもらう形となるので、なるべく早く覚えたいものだ。
そして3つ目は村周辺の妖怪退治。俺が炎を操る力があるというのは洩矢神の加護のお陰という事で認識され、村にやってくる妖怪たちを遠慮なく追い払うことが出来るようになった。これも何となく諏訪子の使者としての役割って感じだな。
以上が俺の仕事だ。現状だと2つ目の農業手伝いが難しそうだが…何とかやっていくしかないか。
「それにしても満希さん…あんた農業の知識なしでどうやって生活してきたんだい?」
「あ、あはは…」
農業のやり方が分からない事を愛想笑いで誤魔化すのも大変なんだよ。早く技術身に着けてしらばっくれるようにしておかないと。
とまぁ、村での過ごし方はそんな感じになっている。
今のところは妖怪も現れていないので、農業や伝達役として動くときに色々な人と話をする機会があるので交流も出来て順調な生活を送れている。30年前…いや、何千年も前になるのか、あの頃とは また違った環境と雰囲気だが、こういうのも悪くは無いな。
――――――――――――――――――
そして俺は今、諏訪子と共に社の近くにある庭くらいのスペースの場所にいる。
一体そんな場所で何をするのか?それはと言うと……。
「はい、それじゃあこれから空の飛び方を教えていくからねー」
「うぃっす。よろしくお願いします、諏訪子先生」
以前諏訪子がやっていた、空を飛ぶという事。俺はそれを彼女から教わろうとしているのだ。
「先生?」
「相手にものを教える立場の人の事を、敬意を込めてそう呼ぶんだよ。諏訪子は俺に空の飛び方を教えてくれようとしている。だから先生ってワケ」
「へぇ~、先生…先生…うん悪くないかも」
どうやら先生という言葉の響きに好印象を持ったのだろう。諏訪子は何回か言葉を口に出して反芻すると表情を綻ばせつつ、悪くないと口にする。…が、表情と声を見れば寧ろ良いと思ってくれているようだな、実に分かりやすい。
「よーし、それじゃあこの諏訪子先生が早速教えて進ぜよう!」
「へへー」
…と、調子づき始めた諏訪子のテンションに合わせつつ講義がスタートしていった。
まず空を飛ぶために必要な事は、能力の時と同様で頭の中でイメージを固めておくだという。
能力の時といいこれといい、イメージの構築というのは非科学的な現象と強く結びついた関係なのかもしれないな。だからあの時代は空を飛ぶ手段が乗り物頼りだったのか。
まぁそれは置いといて。
空を飛ぶときのイメージは実に単純で、自分の体が宙に浮く感じを頭の中に思い描けばいいらしい。更に、移動するときは水中の魚のようにスイスイと動くような姿をイメージすればいいだとか。
よし、早速挑戦だ。
まぁイメージは能力とかで手慣れてるから、今回は楽勝だろうな。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「おお浮いて……いでっ!?」
「浮いたのは良いけど、落ちちゃったね」
「くそ、もう一回……あだっ!?」
「残念、また落ちちゃった」
「もういっちょ……あべし!?」
「…ほとんどおんなじ光景を見せられてる気がするよ、わたし」
あれれ~?おかしいぞ~?…と名探偵ごっこでふざけるのは止めておいて。
うーむ…何故かイマイチ上手く飛べないんだよなぁ。浮けるまでは合格なんだが、いざ動こうとすると急に浮力が身体から消えるっていう感じがしてしまう。はて?イメージが悪かったのか?
「ねぇねぇ満希。飛ぶときにどんな感じを頭に思い浮かべてるの?」
「んー、普通に自分が空を飛んでる姿なんだけどなぁ…浮いてる時はそのまんま浮いてる姿を浮かべてるけど」
「あれ、おっかしいなー。わたしも飛ぶときはそんな感じでやってたんだけど…」
「やってた?やってる、じゃなくて?」
「長年やってれば一々想像しなくても手足を動かす感じで自然に飛べるようになるからね。満希の炎だって、最初に比べたらそんなに想像しなくても出てくれるんじゃない?」
「……言われてみれば、確かに」
諏訪子の言うとおり、最近は炎を放出する時は昔のように根気強くイメージする必要も無くなっている、軽くイメージするだけでいい程度だ。別段気にしたこともなかったな、そういえば。慣れ、みたいなものか。
それにしてもイメージ自体は諏訪子も似たようなものだったらしいので、どうやら間違ってなかったようだ。けど実際問題、出来てないんだよなぁ…。
「まぁ何度もやって見て進歩が無かったら……」
「無かったら?」
「まぁ、才能が無いって事だね」
「…空を飛ぶ才能?」
「そ」
バッサリとそう言い切ってしまう諏訪子。
才能が無い、かぁ…そう確定されるときっとショックなんだろうなぁ……。
いや、まだそうと決まったわけじゃない筈だ。
何故ならまだまだ練習は始まったばかり、現に浮く段階まではクリアしているんだから、この調子で頑張ればきっと空を飛べる時もそう遠くは無い筈さ。
「…よし、もういっちょ再挑戦だ!」
「頑張れ~」
諏訪子の応援を受けつつ、俺は再び空を飛ぶ練習に身を投じる。
いやー、空を飛ぶ感覚ってどんな感じなんだろうな。なんだか今から楽しみでしょうがない。
――――――――――――――――――――
結論。飛べませんでした。
俺に空を飛ぶ才能はありませんでした。
「……………」
「(あーうー…声を掛けづらいよー…)」
負のオーラを出しながら体育座りで俯く俺。
諏訪子もきっと気を遣ってくれてるんだろうか、先程から落ち込んでいる俺に余計に声を掛けてくることはしてこない。
あれから何十回何百回と飛んでみようとしてみたが、一回目の時から一切の進歩を見せずにただ浮いて落ちてをひたすら繰り返すだけとなってしまった。中にはイメージの仕方を変えて色々と工夫も重ねてみた時もあったが、どれも空振りという結果で終わってしまった。
けど落ちる体験を繰り返したお陰で受け身を取るのが結構上手くなった、やったね!
……自分で行ってて虚しくなってきた。
「…………はぁ」
「(やめてー!溜め息はやめてー!凄く居た堪れなくなるからー!)」
いかん、つい溜め息が出てしまった。
あぁ…結構楽しみにしてたんだけどなぁ、飛べること。なんだかんだいって自分の力で空を飛べるって子供の時とか憧れてたし、タ○コプターとかかなり欲しい道具だったもんな。
けど練習の成果を見る限りだと、俺に跳ぶ才能無いみたいだし…。
………諦めるしかないよな…うん。
「…社に帰ろう、諏訪子」
「あ、う、うん」
これ以上やっても時間の無駄みたいだし、帰ってお茶でも飲んでまったりして飛ぶことなんて忘れよう。うん、それがいい。
そう俺は結論付けると、諏訪子に声を掛けて社に引き上げることにした。
俺は肩を落としながら、トボトボと力無く歩いていると…。
「ゲコゲコ」
「あ、今の鳴き声は…」
ふと、久しぶりに聞いたことのある鳴き声を耳にする。
諏訪子も鳴き声とその正体に気付いたのか、近くの草むらに向かうとその辺りを探り始める。
俺も諏訪子に続いて、周辺の草を探っていると……。
「あ、いたいた~」
諏訪子が鳴き声の主を見つけたらしい。
俺は彼女の方へと歩み寄り、視線の先にいた者の姿を視界に捉える。そこにいたのは…。
「やっぱりカエルか…何か懐かしいな」
鮮やかな緑色の体色をした小さめのカエルが、水たまりの近くにいた。
都の中ではカエルなんて一度も見たことが無かったので、思わず感傷に浸ってしまう位の懐かしさを俺は感じた。
「この子って面白いよね~。変な鳴き声だし、ピョンピョン跳んで移動するし」
「確かに、他の生き物と比べても変わってるよな」
「でしょ?…あ、逃げちゃった」
俺たちの声に驚いたのか、蛙は俺と諏訪子がいる場所とは逆の方向に向かってピョンピョンと跳んで逃げて行った。
……ん?
「ピョンピョン、跳ぶ…」
何だろう…?何か、頭の中で引っ掛かるものがある。
いや、その言い方だと語弊があるな。
そう、パズルのピースのような……あともう少しで完成するような感覚…。
跳ぶ…跳ぶ……とぶ………っ!!
「もしかして…!」
頭の中のパズルピースが、ピタリとはまった瞬間だった。俺はその時一つの妙案を思い浮かべる。
ただし、あくまでこれは可能性の一つ。思い付いたはいいものの本当に成功するとは限らない。
「けど、やってみる価値はあるな…!」
「え、え?どうしたの急に」
「悪い諏訪子、今日は一旦帰るわ!」
「え、えぇ!?」
驚いている諏訪子には申し訳ないが、俺は一人で考えを整理をする時間が欲しいので急いで山を下りて家に帰る事にした。
さて……この方法は上手くいくかな?
――――――――――――――――――
そしてその翌日。
準備を俺は諏訪子の元へと再び現れ、もう一度空を飛ぶ練習に付き合ってもらうために昨日と同じ場所にやって来た。
「まったくもう…昨日は急にどうしたのさ?ぶつぶつ独り言を言ってるかと思ったら急に帰るって言いだして」
「スマンスマン、ちょっと試してみたくなった事があってな、考える時間が欲しかったんだ」
「試してみたい事?」
「ああ、まぁ見てなよ」
俺は不思議そうに小首を傾げる諏訪子から離れると、昨日と同じように地面から脚を離して浮き始める。
さぁ、ここからが本番だ。
俺は浮いた状態で片足を持ち上げると、近くにある地面から距離を突き放すかのように、思い切り宙を蹴った。
「ふっ!」
俺の体はクラウチングレースのスタートのように、颯爽とした勢いで空へ向かって一直線に跳び上がった。
「おおー!」
「まだまだ、こっからだぜ」
驚いている諏訪子に小さく笑みを返すと、俺は空中で態勢を整える。そして初動の時と同様に足元を蹴り、空中で続けて跳躍した。
真上に向かって2度跳躍した俺は、そこから更に2度宙を蹴って更に上昇する。この時点で、地上との距離は約6メートル。2階建てのビルの高さくらいまで上昇したことになる。
「さらに…」
俺は空中で一旦停止し、今まで真下に向かって蹴っていた脚の方向をずらす。そして再度蹴って跳躍を行うと、今度は真上ではなく、斜め上に向かって跳びあがった。
そこから俺は跳躍した先々で様々な方向に向かって宙を蹴り、不規則な動きで宙を跳び回った。
ある程度跳んだところで、俺は空中で体を止める。昨日こっそり練習した甲斐もあって、中々いい具合に出来たな。
「っと、こんなもんかな」
そして俺は地面に降りるために体勢をやや下に向けると、地面を蹴って地に向かって降りはじめる。そして程よいところまで降りたところで体勢を整え、掛けた浮力を消して地面に降り立った。
すると、無事に地面に着地した俺に対して諏訪子が勢い良く駆け寄ってきた。
その表情は面白い物を見つけた時の子供のように嬉々としたもので、えらく興奮していた。
「凄い凄いっ!あんな飛び方初めて見たけどすっごいカッコ良かったよ、満希!」
「ははっ、ありがとな」
諏訪子らしい飾り気のない真っ直ぐな褒め方を受けて、俺は思わず笑みを零す。やっぱり年の割に見た目相応の反応をするなぁ、この子は。
「それにしても…よくあんなの思いついたよね。いつの間に考えたの?」
「ああ、昨日カエルがいただろ?」
「カエル…うん、いたね。直ぐに逃げちゃったけど」
そう、俺のこの跳び方…実はカエルが跳ぶ姿を目にして思い付いたものだった。
俺は空を飛ぼうとしても、浮くまでは良いのだがいざ動き出すと自分に掛けていた浮力が消えてしまい、落下してしまっていた。何度やっても同じ結果になるところを見ると、やはり俺には『飛ぶ』才能がないということだ。
霊力に頼って飛び回ろうとしても、動き出したら落ちてしまう…ならば、霊力だけに身を任せて動くのではなく、そこに自分の手を加えていけばいい。
そこで俺が閃いたのが、今回行った跳躍飛行だ。
俺は空中にいる際、自分の足元に霊力の塊を即席で作りそれを空中での足場とする。そしてそれを蹴って『跳ぶ』事で、地上でのジャンプのように空中でも移動をすることが出来る。一度の跳躍では精々1.5メートルが限界だが、それを何度も積み重ねれば十分な距離が期待できる。
持続して跳ぶことが出来ない俺が空中でも移動できる、最も理想的な飛行方法である。
それを一通り諏訪子に説明すると、彼女は感心したように声を漏らした。
「へぇ~…カエルが跳んでる姿でそこまで思いつくなんてね~。満希って頭が良いんだね♪」
「いや、今回はたまたま思いついただけだよ。それよりも…ありがとな、諏訪子」
「ふぇ?」
「あの時諏訪子がカエルを見つけてくれたから、俺は今日の跳び方を思いつくことが出来たんだ。あれがなかったら、もしかしたら俺はこの方法を思いつかなかったかもしれない。だから…ありがとう」
俺は諏訪子に面と向かって立つと、そう彼女に礼を言った。
最初に礼を述べた時から呆けたようにポカンとしていた諏訪子。どうかしたのだろうか?
…と思った矢先、諏訪子は急に表情を変えだした。今度は顔を少し赤らめて恥ずかしそうにしている。
「べ、別にそんなお礼を言われるほどのことはしてないよっ。それに結局、先生らしいことはしてあげられなかったし…」
「それでも、わざわざ俺の空を飛ぶ練習に付き合ってくれたんだ。だからお礼くらいは言わせてくれよ」
「あう…そ、そこまで言うんならもう何も言えないよぉ…」
ますます諏訪子は顔の赤みを深めて、俺から目を背けてしまった。
はて、お礼を言っただけなんだが…何か気に障ったのだろうか?
「どうかしたか?諏訪子。何か顔が赤いけど…まさか風邪か?」
「え?い、いや、大丈夫だにょ!」
「だにょって…」
凄い噛み方だな。
まぁ本人も風邪じゃないって言ってるし、体調とかは大丈夫か。……じゃあなんで顔が赤いのかが気になるがあんまり追及しても諏訪子が困るか。
「ほ、ほらほら!そんなことより満希がちゃんと飛べた事をお祝いしないと!早速今からお祝いの準備始めるよ!」
「お祝いて、別にそこまでめでたい事でもないんじゃ…」
「いいからいいから!ほら、満希は倉からお酒を持って来て!」
「……はいはい」
こうして、俺の無事に飛べた(跳べた)事を記念し、その日は諏訪子と二人で酒盛りを開いた。
取り留めのないきっかけで始めた小さなお祝いだったが、非常に楽しいひと時を過ごすことが出来た。
――終
さて、何で主人公が上手く飛べないという設定を付けたのか。
本編では『飛ぶセンス(才能)が満希に無かったから』という事にしていますが、実は個人的な理由があります。
という訳で2種類の『とぶ』の特徴を上げてみます。
【飛ぶ場合】
・空中での小回りが利きやすく、弾幕なども掻い潜るのに適している。
・個人差もあるが、瞬発性が比較的高くない。
・飛んでいる最中は霊力or魔力or妖力を常時消費するため、燃費が悪い。
・飛んでいる時の安定性が高い。
【跳ぶ場合】
・一直線に進むため連続で使用すれば小回りはある意味飛ぶ方よりも利く。だが精密な動きに関しては劣る。弾幕は掻い潜るよりも振り切る方が適している。
・足で空中に造った足場を蹴るという手動的な動作の影響で瞬発性が高い。
・浮くときと足場を作る時に霊力or魔力or妖力を消費するため、燃費が良い。
・浮くときも跳んでいる間も姿勢や身体の向き・バランスなどを、飛ぶ時よりも整えないといけないため、安定させるのが難しい。
…と言った感じで、適当に特徴を並べてみました。スピード感を出すなら後者の方が向いているのではないかと思い、跳ぶ方を採用しました。
あと、空中を跳ぶ方が見栄えがいいと思ったのが主な理由です。
月歩での移動とかカッコイイじゃない!(*・∀・*)