東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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満希「諏訪大戦までどれくらいなんだ?」
???「そう時間は掛けないつもり。せいぜいこれを含めて2~3話程度だし、早ければこの次の話にでも」



第16話 村の近くに妖怪?まさかあの変態ロリコ…違う?ならよか…いや結局危ないから良くないだろ!

 俺が跳躍飛行を会得してから一週間。

 

 跳ぶ練習を日々重ねながら、俺は村での生活を平和に送っている。村人には俺は諏訪子の使いとして認識されているため、跳んでいる姿を見られても不気味がられることは無いので安心して使用できる。

 寧ろ、子供からは憧れの眼差しを向けられたり『僕もお兄ちゃんみたいに飛んでみたい!』なんて言い出す子もいるから説得するのに苦労したりしているから、ある意味困ったものだ。親御さんに断りも無く教えることなんて出来ないし、教えたら教えたでそれを使って遠くに出掛けようとするかもしれないから、残念ながら教えることは出来ない。

 

 それ以外は特に変わった出来事は起きていない。

 農業について作業しながら教わったり、お隣さんとお茶を飲んでまったりしたり、子供たちと遊んだり、村人で集まって食卓を囲んだり。

 なんだかんだで、俺もこの村に馴染みつつあるようだ。

 

 まったく、平和な日々が続くというのは良いものだな。あの月移住計画の時の戦いが遠い日のように感じる……実際遠い日だったな、随分と長い間地面の中にいたから忘れてた。

 

 まぁ何はともあれ、こうやってのんびりと過ごしていけたら……。

 

 

 

「聞いたかい満希さん、最近この近くに狂暴な妖怪が現れたそうなんだけれど」

「…と思った矢先にこれだよ!」

「え、いきなりどうしたんだい!?」

 

 はい、俺の平和な日は終了を迎えましたとさ。平穏を返せこの野郎!

 

 ……と愚痴っていても仕方がないよな。妖怪、しかも狂暴と聞かれたら放っておくわけにもいかないし妖怪退治はそもそも俺の仕事の一つだ。職務怠慢も妖怪の村への侵攻も許されないし。

 という訳で、気持ちを切り替えてまずは情報の整理をしてみよう。え~っと、まず村の近くに妖怪が現れた、と。

 

「その妖怪っていつ頃に発見されたんだ?それと目撃者は?」

「あ、ああ…見つけたのは向こうの家の八五郎さんで、昨日の日の入り前に近くの森で山菜を集めていた時に見かけたらしいんだ。ちなみに八五郎さんは隠れて様子を見ていたから無事だよ」

「そうか……妖怪の姿とかって聞いてるか?」

「ああ、確か獣のような外見で2本足で立っていたとか。さっきも言ったけどかなり狂暴みたいで、近くの木をめちゃくちゃに引き裂いたり通りかかった猪を容赦なく仕留めたりしていたらしい」

 

 妖怪の目撃は昨日の夕方あたりで目撃者は無事、と。そして獣型で2足歩行タイプの妖怪で気性が荒い。今の所、被害は木々と周辺の動物。木を引き裂くという辺り、爪での攻撃に優れている可能性がある……。

 

 よし、だいたいこんな感じか。良い具合に情報が揃ってくれたな。

 

「ありがとな。んじゃ、俺は早速退治の準備してくるよ」

「大丈夫かい?満希さん。聞いた限りだと今回の妖怪はかなり危ない奴のようだけど…」

「前回も違うベクトルで十分危なかったけどな…。まぁなんとかやっておくさ。取りあえず村の人たちには、今日は外出を控えるように触れ回っておいてもらえるか?」

「分かりました。…怪我の無いよう、気を付けて」

 

 さーて、折角人がまったりライフを過ごしていたのを邪魔してくれたんだ。発散はさせてもらうぞ?

 俺はまだ見ぬ妖怪にそう忠告すると、準備をするべく帰路へ着く。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 それから時間が過ぎ、空が小麦色に染まっている今の時刻は夕方。目撃者の話にあった妖怪が暴れていた時間帯だ。

 妖怪が習慣染みた行動をしてくれるのなら、再びこの時間に現れる可能性がある。既に移動しているという事もあり得ない話ではないが…まぁ今回はそれの確認も含めて来てるんだ。

 

 俺は現場がある森の前へとたどり着くと、よし、ひと一息意気込んでから森の中へと入っていく。

 ちなみにこの森には明確な入り口が存在しないが、数か所存在する獣道の一か所を村人の手によって通りやすい道が作られているので、俺はそこから森に入っている。目撃した人もここから入ったことを考えると、ここからの方が妖怪との遭遇率も上がる筈だ。

 

 森の中に入った俺をまず歓迎してくれたのは、不規則に生えそろっている木々草々。村人たちが使っている道なので歩くスペースは見つけることが出来るのだが、そもそも訪れる頻度が高くないらしいため整備はさほど行われていない。

 詰まる話、他の道よりマシとはいえ鬱陶しい。

 

 足元の草に引っ掛からない様にしつつ、俺は自由に伸びている木の枝や葉を払いのけて先を進む。嗚呼、邪魔くさい。火で焼き払いたくなる。

 

「まぁ、そんなことしたら諏訪子が怒るんだけど……」

 

 普通に怒るだけならあのナリなので怖くないんだけど、力を使われると一気にヤバくなる気がする。まだ怒らせたことが無いから分からないが、諏訪子もあれで神の一人なんだしそんな気がする。

 まぁ、そこまで怒らせなければ不毛な想像で終わる話なのだが。

 

 

 

 さて、そんなどうでもいい事を考えながら草道を掻き分けて進んでいくと、雰囲気が異なる場所に辿り着いた。

 

「おっ。もしかしてこの辺りが……」

 

 俺はその場所に立ち止まり、周辺を見渡し始める。

 

 先ほどまで何事も無く生えていた木ばかりだったが、この辺りの木の幹には痛々しい削り跡が複数個所存在していた。中には同じ個所を削られ過ぎた影響でバランスを崩し、折れてしまった木も見受けられた。

 更に地面をよく見てみると、絵の具を撒いたように不自然に赤く着色された木の葉が在留している。

 俺は木の葉の一枚を拾い上げ、紅くなった部分を鼻に近づけて嗅いでみる。乾いてしまってはいるが、ツン、と嗅ぎ慣れていない鉄の香りが鼻孔に入ってくる。

 

「……どうやら着いたみたいだな」

 

 指に持っていた木の葉をポイと適当に捨てると、俺は再び周囲を見渡してみる。

辺り一面の傷ついた木々、地面に着いた赤いもの――動物の血……思っていた通り、ここは話にあった妖怪の目撃場所のようだった。

 

 確信を得られた俺は更に、奥に向かって次々と傷ついた木が立っている道がある事を見つけた。

 恐らく、この辺りを荒らした妖怪は木を引っ掻きながらそこを進んでいったんだな。

 

 となると、ここを進めば妖怪に追いつける。

 俺はそう推理すると、早速その道を進むべく足を動かす。

 

 

 

 が、その時。

 

「キシャァァァァァァァ!!」

「うおっ!?」

 

 耳を劈くような奇声を上げながら、何かがこちらへと近付いてくるのを感じた俺は声の方向を頼りにその場から横に転がり込んで一気に離れる。

 案の定、俺のいた場所には犬のような外観の妖怪が鋭利な長い爪を地面に突き立てていた。

 妖怪は地面に刺さった爪を強引に引き抜くと、再び俺に向かって襲い掛かって来た。

 

「シャアァっ!」

 

 袈裟斬りに払われる妖怪の爪。その長さは包丁よりも長く、鋭みを感じさせる輝きを放っていた。

 俺は身を反らして爪撃を寸での所で回避し、妖怪の横っ腹に蹴りを加える。が、あまり怯んではくれなかった。

 

 そして再度爪が迫ってくる。

 俺は妖怪の爪が届いていない手の部分を両手で受け止めると、受け流して背後に回り、ストレートキックで妖怪の背中を蹴り飛ばす。

 

「ギャウ!」

 

 今度のは多少効いたらしく、妖怪は小さな悲鳴を上げながら地面を転がっていく。

 

「不意打ちとはやってくれるなぁ…けどお生憎、こちとら神やら妖怪の群れやらと戦ってる身なんだよ!」

 

 俺はそう言うと、自身の全身から炎を放出し………あ。

 

「…俺がここで能力使ったら、火事になるんじゃ…」

 

 炎を出す寸前の所で、俺はその事に気付いて放出を取りやめた。

 

 俺の能力は炎と熱を操る程度の能力。そして辺り一面は森、こんなところで能力を使ってしまえば、あっという間にこの周辺は火の海と化してしまうに違いない。

 いや、火の海になる前に決着を着けて消火活動に入れば問題ないか?でも相手の強さが分からない以上、下手に早期決着を決めつけるのはあまり賢くない。ならば戦っている合間合間に火を消していくか?けどそれだと攻撃チャンスを潰すわ余計に隙を作ってしまうわで、こちらがかなり不利になってしまうだろう。

 

 むむむ、こんな所で能力縛りが来るとはな…いや、でも出力を考えて使えば、周りに火を移さないでいけるかも…?

 

「シャアアァァ!!」

「…ああくそ、人が考え事をしてる時に!」

 

 俺が悩んでいる間に態勢を立て直したらしく、再び獣妖怪は俺に爪撃を振りかざしてくる。

 後ろに跳んで爪を避けつつ、俺は右手を構えてそこに炎を纏わせる。

 

「よし、こんくらいなら大丈夫だろ」

「シャァァァァァァ!!」

「こっちも行くぞ!」

 

 此方に向かって突っ込んでくる妖怪に対抗し、俺も迫りくる妖怪に向かって駆けだした。

 

「シャア!」

「ふっ」

 

 先手は妖怪。先ほどから何度もやってきている爪での攻撃を俺に向かって放ってくる。

 俺は手前で跳躍して飛び越えることでそれを回避すると、振り向きなおして妖怪の背後目掛けて肉薄し始める。

 

「っ…シャッ!」

 

 妖怪は後ろ向きながらも気配で俺の接近を察したのか、振り向きざまと一緒に爪を振るってきた。

 俺は姿勢を低くとってそれを躱すと、腕を横に振った所為でがら空きになったボディに対して炎を纏った右腕による拳撃を、一発お見舞いする。

 

「グゥゥ!」

 

 生身での攻撃は今一つだったが、能力が加わればかなり効いている気がする。やっぱり能力の存在は戦いではかなり重要なんだな…。

 と感心しつつ。俺は右手を引いて…。

 

「もういっちょ!」

 

 同じ個所に向けて、もう一度拳撃を浴びせる。

 傷口にダメージを加えられた妖怪は苦悶の悲鳴を上げながら吹っ飛び、後方の木に身体を叩き付ける。

 流れはこちらの方が有利だ、この辺りで向こうも諦めてくれるとこちらも楽できるんだけどなぁ…一応聞いてみるか。

 

「さぁて、まだやるか?」

「ギ…ギ…」

「……やる気っぽいな」

 

 どうやら向こうはまだ諦めていないらしい。獣妖怪は敵意をむき出しにしながらも、手で身体を支えながらヨロヨロと立ち上がる。そして、爪を構えると、俺に向かって突進を仕掛けてきた。

 

 仕方ない…もう少しだけ痛い目にあって貰うとするか。

 

「シャアァ!」

 

 妖怪の腕の振りは、ダメージの蓄積が影響したせいで鈍くなっている。見切るのが随分と楽になった。

 俺は攻撃を回避すると、炎を纏った裏拳を敵の後頭部にかまし、怯ませる。

 

 そして敵が隙を見せている所を狙い、俺は右足全体に炎を纏わせる。

 足が纏った状態を保ちつつ、俺は一気に地面を蹴って跳び上がると、身体を捻る。その身体の捻りに合わせて足を思い切り振るった。

 

「おらぁ!!」

 

 俺は空中で強烈な回し蹴りを放ち、こちらに振り向きなおしていた妖怪の胸部に目掛けてそれを叩き込んだ。

 

「ギャインっ!?」

 

 空中からの回し蹴りを叩き込まれた妖怪は今までで最も大きな悲鳴を上げると、これまた今までで最も勢いよく吹っ飛び、地面をゴロゴロと転がっていった。

 

 俺が着地した後も地面に倒れ込んでいた妖怪だったが、やがてその身をフラフラと起こすとその場から一刻も早く逃げたいかのようにせっせと身体を懸命に引き摺って逃げ去っていった。

 

 妖怪の姿が見えなくなったところで、俺は身体に纏っていた炎をかき消し、一息つく。

 

「ふぃー…これで一件落着、だな」

 

 あの様子を見る限り、どうやらちゃんと俺の力を怖がってくれたみたいだな。これであの妖怪もここらで悪さをすることもないだろう。妖怪の被害によって怪我人が発生する可能性も一緒に断たれたわけだ。

 

 さて、退治も無事に終了したことだし後は諏訪子と村の人たちに報告をしてしまうとしよう。

 ……そう言えば諏訪子に妖怪退治に出るってこと伝えてなかったな。一応妖怪退治に出る時はひとこと言ってから出るって決まりだったんだけど……怒るかなぁ。

 まぁ怪我もしてないし、ちゃんと謝れば許してくれるだろう。ご機嫌取りにお土産でも見つけてこようかな、それなりに上質な肉とかで。

 

 

 

 ……とまぁ、諏訪子への対応について考えるのはこのくらいでいいだろう。

 

「…それにしても、なんで急に出て来たんだろうな、あの妖怪」

 

 少し気になっていた。

 

 今回の妖怪の目撃だが、あれ程暴れ回るような妖怪がなぜ今まで話題にすら上がらず、最近になって目撃されたのだろうか。しかもそこは村の近くの森、偶にそこに入る村人もいるというのに、これだけ木々を荒らす存在を今まで認知していなかったのか。

 

 別の土地から流れ着いてきたとか…?んで、新たな住処として狩りをし始めた?

 

「…いや、それは有り得ない」

 

 頭の中に浮かんだ可能性の一つを、すぐに俺は振り消した。

 何せここは諏訪子が守っている村なんだ。見たところ、妖力を押さえて侵入するなんて達人じみた真似をできるような奴でもなかったし、例え出来たとしても神である諏訪子の眼を掻い潜って森に入るなんて流石に無理がある。

 

 となると、あの妖怪が諏訪子に気付かれずにこの森にやって来た方法は……

 

「…駄目だ、分からん」

 

 考えてはみたものの、別段俺の持っている知識は妖怪の特性について精通しているわけではないので答えを導くことが出来ない。

 というか、諏訪子が気付けなかった理由を推理するなんて少し無茶過ぎるだろ…。

 

「…帰るか」

 

 これ以上考えても無駄だと悟ると、俺は潔く諦めて帰る事にした。

 案外、諏訪子ならそういう妖怪がいるのかとか知っているかもしれないし、帰ってみたら聞いてみようかな。

 

 そうして、俺は帰路へ着く。

 

 

 

 

 

 

 

 森を抜けようと歩み出した満希は、気付くことが出来なかった。

 

 

 

「試験感覚で暁宮 満希に妖怪を当ててみたが…なるほど、己の力については身に馴染んでいるようだな」

 

 黒いローブを身に纏った、不穏で不気味な存在。

それが木陰から自分を機械的な様子で観察していたという事に。

 

「かつて妖怪の群れから今の月の者達を守った男、2度生き長らえさせられた命でどこまで救いを与えることが出来るのだろうな」

 

 黒ローブの存在が無機質な声色でそう言った途端、その身が足元から霧のように霧散し始める。

 

「しばらくは観客として楽しませてもらおう、人の子よ」

 

 

 

 そして、そこには誰もいなかった。

 

 

 

――終

 




今回は比較的本腰で書いた戦闘描写でした。今迄はギャグ要素が入ったり乱戦だったりで誤魔化していたので真面目な戦闘は初めて…かも?
戦闘シーンは雑に書くと臨場感が失われるし、緻密に書き過ぎると観るのがだるくなりがちになるので、その加減がなんとも難しいですね。
え?だるくなるのはお前だけだって?……ですよねー(´・ω・`)

そして久しぶりの黒ローブの男の登場。これからどのように暗躍していくのかお楽しみあれ。

とまぁ、こんな文章力ですが書くときは色々と考えてはいます。こんな文章力ですが。

皆様が読む易いと思えるように、今後も改善を加えて行きたいと思います!

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