満希「失明せよと申されるか、てめー」
都市内の中央通り。
ボランティアの清掃活動から数日が経過した。
今日は講義が無い日という事で、気晴らしにショッピングに出かけている。特に買いたい物があるわけでもないのだが、まぁ、気まぐれで何か買いたい物が出来るかもしれないし偶にはこういうのもいいだろう。
「ねーねーメリー、向こうの店に行ってみようよ!なんか可愛い服飾ってあるし見てみたい!」
「はいはい。分かったから腕を引っ張らないで…ってだから引っ張ないでってイタタタ!」
「はっはっは、人気者は大変だな」
「満希くんも笑ってないで蓮子を止めて欲しいんだけど、って危ないから蓮子ぉぉ!?」
まぁ一人で買い物と言うのも寂しいものがあるので、いつもの面子を誘ってみたらどちらも来てくれた。しかしメリーは大人しくしてくれてるからいいとして、蓮子を連れて来たのは失敗だったか?これじゃあ休日なのに全然リラックスできん……。
「おっと?どうしたのミッ○ー。まさかもうバテちゃったとか?」
「ああ、誰かさんのハツラツぶりを見てるだけでお疲れモードときたもんだ。もちっとクールにいかないか?」
「何言ってんのよ。折角の休日なんだから、パパッと動いて色んな物を見て回らないと時間が勿体ないでしょ?」
集合場所に15分遅れてやって来たやつが何を言うか。
しかし蓮子が言うように時間が勿体ないというのは分からなくもない。こういう時間は経つのが早いものだから、あれぐらいアクティブに動くつもりじゃないと沢山見て回ることは出来ないだろう。どこまで見て回るのか知らないが、蓮子の事だ。虱潰しに見て回る気でいるに違いない。
さっきは蓮子を連れて来たのは失敗だったかとか言ったけど、案外そうでもなかったかもしれない。
「ほらほら、ボーっとしてると置いてっちゃうわよ、ミッ○ー!」
「れ、蓮子ってば~~~!!」
「……」
少なくとも、退屈しないで済みそうだ。
二人のドタバタした様子を遠目で見ながら、そんな事を考える。二人に置いて行かれないよう、足を速めて二人の元へと駆け寄るのであった。
――――――――――――――――――――――――
都内デパート。
それから俺たちはファッション店に喫茶店、デパートなどそれぞれの気が向くままに足を運んでいった。基本的に蓮子の強い要望からチョイスされてるので、ある意味蓮子のためのツアーのようなものになってるしまっている。
まぁ俺も楽しくさせてもらってるから何も文句は無いんだが。
「それじゃあ満希くん。ちょっと向こうの自販機に行ってくるからね」
「大人しく待ってなさいよミッ○ー、おすわり!」
「噛みつくぞこの野郎。メリー、コレ連れてさっさと行ってきなよ」
「うん。ほら行きましょ、蓮子」
「オッケーオッケー。あぁミッ○ー、お土産はドッグフードでいい?」
「ああいいぞ。健気なご主人に全部食わせてやるから」
「じゃあお土産はアイスクリームに決まりね!そうすれば私の物になる!」
いや、これからジュース買うんだろお前。というかそれは最早お土産じゃあない。
そんなツッコミを出す間もなく、蓮子はメリーと一緒にジュース(+アイス)を買うために自販機のある場所へ向かって言った。アイスも買うなら余計に時間かかりそうだな。
…そして今更だが蓮子、本気で危ないから伏せ字の位置は統一してくれ。マジで。
「さて、戻ってくるまで何してようか―」
「ひっく…ぐす…おかあさぁん…!」
「っと?」
適当にスマホでも弄ってようかな、とそれを取り出そうとポケットに手を突っ込んだその時、俺の耳に誰かが泣いている声が聞こえてきた。
声がする方を見てみると、4歳くらいの女の子が目元に手を当てながらトボトボと歩いているのが見えた。どうやら、母親とはぐれて迷子になってしまったらしい。
「…よし」
やる事を決めてからの俺の行動は、自分でも感心するくらい早かった。
――――――――――――――――――
「ありがとうございます!うちの子をここまで連れてきてくださって…!はぐれている間に娘に何かあったらと思うと…!」
「いえいえ大丈夫ですよ。何も無くてよかったです」
あの後俺は迷子の女の子を迷子センターに案内し、デパート全体に放送を掛けてもらった。
少し離れた場所にいたのだろう、母親は放送が終わってから約3分後に汗を多少掻きながら迷子センターにやってきた。親子で抱き合って感動の再会を果たしたところで、母親は娘を隣に俺に向かって深く頭を下げてお礼を言ってきた。
無論、あくまで俺は女の子を案内してあげただけなので大したことはしていない。寧ろ放送を入れてくれたデパートの従業員さんにお礼をいうべきだろう。
「本当にありがとうございました。ほら、ミカもこのお兄さんにありがとうってお礼を言いなさい」
「うん。……ありがとう」
ちょっと恥ずかしいのか、女の子は母親の手を握って寄りかかりつつ、俺にお礼の言葉を口にしてきた。
やっぱり面と向かってお礼を言うのって緊張する時があるもんな。気持ちはよく分かる。
そして母親は再三俺にお礼を言うと、女の子を連れて迷子センターを出ていった。
去り際に少しだけだけど、女の子が俺に笑顔を見せてくれたのが見えたのは嬉しかった。
「さて、俺もそろそろ戻るかな。…あいつらに何も言わずに来ちゃったし」
別に連絡を取っても良かったが、迷子センターへ向かう道中は女の子が泣かない様に元気づけながら向かっていたため、そこまで余裕と言う訳でも無かったし。
待たせるとうるさい人物が約一名いるので、面倒事にならないために先ほどの場所へ戻ろうと、俺は足を動かし始めた。
だが、俺の歩みは直ぐに止まってしまった。
「理解できないな」
唐突に投げかけられたその言葉によって。
俺はその台詞を放った人物が視界に移り、その姿を視界に捉える。
低めの声に加え男性特有の体格から、人物は男であることが推測できる。
全身を黒いフードで覆っており、顔や頭はおろか手も黒い手袋を着用しているため露出した部分が殆ど見当たらない。精々フードの顔部分だろうが、影が濃くて何も見えやしない。
正直に言うと、不気味な奴だ。
現代でこんな怪しすぎる格好をしたら即通報ものだろう。加えて動作も先ほどから殆ど行っていない。まるで、誰かの手が無いと動かない人形に様に。
「何故そこまで親身になって他人を助ける。あの娘を助けた所で、貴様に利が訪れるような事は無かった筈だ」
俺が不審に感じている事を横目に、黒の男は淡々と言葉を紡いでいく。
ホント、喋れば喋るほど怪しいなこの人……。
「……別に。助けたかったから助けただけです」
「理由になっていないな。ヒトは必ず何かしらの利を求めて行動を起こしている。その利を己の物とし、更なる豊かさを求めるためにな」
「さっきから何を……」
「もう分かっているのだろう。我は貴様の在り方を認可していない、人間は人間らしく、己の為に愚かに画策するがいい」
さっきから何なんだ?この人は。本気で訳が分からない。
つまり、俺が何のメリットも無しに人助けをしたのが可笑しいって言いたいのか?
「……別に、あんたがどう言おうと関係ない」
「ならばどうするというのだ」
「俺はあんたに認められるために誰かを助けるんじゃない。俺は俺のやりたいようにやってくだけだ」
既に敬語を捨てて男と話しているが、もう必要ないだろう。ここまで癪に障る物言いをされておきながら敬語で話すなんて、心が大地のように寛容な奴じゃないと無理だ。
「…………」
目の前に居る男の言う事を無視して俺はそう言ってやった……が、男は反応する気配が無い。ホントに気味が悪い。
「……の愛した……と……か、なるほど」
「……何だって?」
掠れたような声で放たれた独り言は、声量が小さすぎた所為で断片的にしか聞き取ることが出来なかった。益々不気味である。
「まぁ良い。せいぜい己に繋がれた鎖に踊らされるがいい。小さな人間よ」
黒の男は唐突にそう言うと、俺に背を向けてその場から去り始める。
……いや、冷静に考えたら不審人物だろあいつ!ナチュラルに会話してた自分が怖いわ!
とにかく、怪しすぎるから取り調べを受けてもらうぞ。恨むんならアンタのファッションセンスとかを恨んでくれよ。
俺はその黒の男を警察に突き出そうと、彼の方へと走り寄り、肩に手を置く――。
「うおっ!?」
――ことは無かった。いや、出来なかったの方が正しいのだろう。
俺の手があの男の肩を、一片の手応えも感じずにすり抜けて行ったのだ。確かに俺が触れようとした肩は、そこにあったはずなのに。
俺はバランスを崩しつつも、なんとか態勢を立て直す。そして男の方に目を向けた。
だがその時には……。
「……!?いない……」
男の姿は何処にもなかった。
何処かに隠れたのかと思い周りを見渡してみるが、あの姿を潜めることが出来るような場所は近くに全くといっていいほど無い。
遠くに曲がり角があるのが確認できたが、距離が遠すぎる。あの時間で向こうにいくのはいくらなんでも不可能だ。
……なんだったんだよ、今のは。
あまりにも摩訶不思議な体験に茫然としてしまうしかない俺。
謎はまるで解決していないものの、紗奈たちが待っている事を思い出した俺はそそくさとその場を離れるのであった。
――――――――――――――――――
「いや~、今日は楽しかったよね二人とも!」
「そうだね。私もなんだかんだで欲しい物も買えたし。……蓮子は一番お金を使ってたけどね」
「ふふ~ん、だって色々欲しい物があったんだもん。欲しい時に買わなきゃ損でしょ?」
「…うん、蓮子は結婚したら長続きしそうにないわね」
「なんで!?」
あの怪しい黒の男と出会ってから、俺は特に何もないまま蓮子たちとのショッピングを続けて行った。
時刻もそろそろ夕時に差しかかってきたため、今は買い物を終了して帰路についている所である。
正直な話、あの後は変な男の事が気になって買い物に集中できなかった。あいつが残していった言葉……どうにも心に引っ掛かってくる。
あいつは、人間というのは自分が得をするために誰かを助けるんだ、みたいなことを言っていた。そして、見返りもなしに助けることは愚かだとも言ってたな。
それはつまり、人は私利私欲に塗れた人間だと言っているんだろう。そして俺のやっている事は異端なんだと、そう解釈して受け取れる。
――ふざけるなよ。言いたい放題、勝手な事をベラベラ喋りやがって。
あいつにも言ってやったが、俺は俺のやりたいようにやって来ただけだ。別に誰かを助けることで利益を求めてる訳じゃないし、愚かな事だとも思ってない。
どうしてあの男がそう言う考えを持っているのかなんて解らない。だけど全ての人間がそうだというのは見当違いだ。純粋に他人の為に動ける人だって必ずいる筈だ。
俺だって――。
『いた……い、よ……』
『えへへ……満希先輩が味方でいてくれるなら頼もしいですね!』
「っ……!!」
――助けたい……助けなきゃいけないんだよ、俺は。
「…~ぃ、お~い!ミッ○ー!応答願いま~す!聞こえたら右手を上げてくださ~い!」
「満希くん、どうかしたの?」
「…ん?ああ、大丈夫。ちょっと考え事してただけだ」
いかんいかん、完全に意識が内の方に向いてたみたいだな。
二人とも俺の方を向いてる辺り、どうやら俺の方に話が振られてて反応が無かったから気になったんだろうな。
「なんだ、聞こえてるんじゃん。じゃあ右手上げて!」
「随分難しそうな顔してたけど、考え事?悩みがあるのなら相談に乗るけど?」
「いや、ホントに大丈夫さ。大したことじゃないし」
「あれ?二人揃って私を無視してない?取りあえず右手上げて!」
「…それならいいんだけど。けど、いざという時はちゃんと私にも話してね?」
「ああ、分かってる。その時は頼りにしてるからな?」
「よし、とにかく右手上げて!」
「ホントに何がしたいんだよお前は!?」
仕舞いには俺の右腕をとって無理矢理手を挙げさせようとするし…っていでででで!お前そう持ち上げたら関節がヘンな曲がり方になるだろうが!止めんか!
「私の寂しさがシカトでマッハ」
「何を訳わからんことを…」
「こう見えても、私だってちゃんと心配してるんだから、言いたくなったらちゃんと相談に来てよね?」
「自覚あるなら改善してくれ…言われなくても、ちゃんと相談するさ」
どうやら二人に心配かけてしまったみたいだな。
けどこれはあくまで俺の問題だ。余計な騒ぎを起こすのも気が引けるし、二人があの男と関わりを持つ事はもっと気が引ける。変な事吹き込まれたりでもしたら大変だ。
まぁ、そんなホイホイと会う事もないだろうし、案外もう会う事も無い可能性もあるから気にする必要も無いのかもな。
そうと決まれば、あんな男の事忘れてしまおうか。こうしてまた騒いでれば自然と頭の中から消えてくだろうし。
「よし、折角だしおやつでも買って帰るか。この辺コンビニあったよな確か」
「お、さんせーい!」
「もう、蓮子はまた買うのね…お小遣い使い切っても知らないからね?」
そう言えば、コンビニ行く途中の道に公園があったっけ。しかもこの間掃除した場所だっだよな。
行き先も明確になったところで、そこに向けて俺たちは歩き出した。
もし、この時コンビニに行く提案をしなかったら。
公園の近くを通り掛からなかったら。
そう思うと、俺はきっと震え上がっていただろう。
けど、逆に。俺があの時コンビニに行くと提案したから。
公園の近くを通り掛かったから。
俺は…………。
「満希っ!!!」
声が、遠く感じる。
「満希くん!!しっかりしてっ!!」
目を開けているのに、どうにも景色がぼんやりとする。
いや、視界だけじゃない。意識も、今にも消えそうなほどか弱く思える。
「嘘でしょ…こんなの、満希が……死んじゃうなんて……!!」
この声は……ああ、蓮子か。珍しいな、あいつが俺を名前で呼ぶなんて。まったく、ちゃんと名前で呼べるならそうしなよ。
けど、あだ名で呼んでくれるなんてこいつくらいだったから、嬉しかった……かもな。
「満希くん…お願いだから、死なないでよ……行かないでよぉ……!!」
メリーの声も聞こえる。
二人とも、どうしてそんなに泣いてるんだよ。二人がそんなに泣いてる顔なんて、初めて見て――。
……あれ?身体が全然動かない。どうなってんだ?
なんで俺の身体から赤い水が……これ、血か?
なんで俺、血なんか流してるんだ?
……ああ、思い出した。漸く思い出せた。
俺は紗奈たちと一緒にコンビニへ行こうとしてたんだよな。その途中で、この間行った公園の横を通ろうとしてた。
そこで、見えたんだ。
公園から飛び出たサッカーボールを追いかけてる男の子と、その子に気付かないまま道路を走るトラックの姿が。
その瞬間、俺は走った。
二人の呼び止める声を背に、トラックが来ている事に気付いていない子供に向かって無我夢中で走った。
ギリギリだった。あと一歩遅れていたら恐らく間に合わなかっただろう。
そして俺はその子供を守るために抱き抱え、その子がトラックにぶつからないよう自分の身体を盾にしたんだ。
ぶつかった瞬間の事は正直覚えていない。どんな衝撃があったのかも、どれくらい吹っ飛ばされたのかも記憶から抜け落ちてしまってる。
けどこの血の量を見る限り、相当やられたんだろうな、俺……
「しっか………ねぇ………まして…!」
「満……救…………が助け……少し…!」
……やばい、二人の声がどんどん聞こえなくなってきてる。これ、もう俺が死ぬって事なのかな?
そうだ、その前にあの子はどうなったんだ?ちゃんと助かったよな?
……見つけた。うん、ちゃんと立ってる。それに傷も見当たらないし、無事でいてくれたんだな
……ホントに、良かった。
…………今度こそ、俺は――――――。
『昨日の午後5時過ぎごろ、○○県○○市内の公園付近にて20歳の青年がトラックにはねられ、死亡しました。現場にいた少年の友人2名によると、道路を飛び出した子供を助けるために、その子供を庇ったとのことです。警察は――』
人が文明の進化によって作り上げたテレビという物によって映し出されている、あの人間の最期。
だが、通りがかる人は誰もその光景を見ようともしていない。関係ない、興味が無いと言った様子で何事も無く歩いている。所詮、人間とはそのようなものだ。自分の知る者が死ぬでもしない限り、完全な他人に対して関心を示す事など無い。
「これが、他人を救おうとした結果だ。あの時幼児を見殺しにしていれば、少なくとももう何十年は生きていられる予定だっただろうに。まぁ、今となってはどんな仮定の話も無駄なことだがな」
テレビから目を背けると、我はヒトの群れの中に身を投じる。
「さて、恐らくあの人間の行いは神に気に入られる筈だろう。間もなく転生の処置も受けるに違いない」
「これから行う事は我からのささやかな贈り物だ。果てしない時を巡って尚、無償で誰かの為に働く意思が潰えていないというのならば……我は再び貴様の前に現れるとしよう」
―――――――――――――――
神と言うのも、正直楽なものではありません。自身の担当する地域を見て異常がないかを毎日見なければなりませんし、他の神々と情報交換をして他の地域の状態も聴く必要がある。
加えて死亡した生命の魂の行き場も私が判断するという仕事もある。ちなみに他の神々はこのような仕事はすることはありません。理由は単純なものです。
「おっと、新たな魂が来ましたね。……ふむ、暁宮 満希ね」
そうこう言ってると、私の元に魂が一つやってきました。私は魂に直接触れればその魂がどのような一生を歩んできたか知ることが出来るのです。
これが私の能力、『魂を操る程度の能力』というものです。
こうやって魂から情報を読み取るのは勿論、魂を肉体から切り離すという事も出来ます。魂のままで戦うのは基本的に不可能なので、一方的に相手を倒す事も可能です。
と、そうこうしている内に情報も読み取り終えました。
どうやらこの少年は短い人生の中で多くの人を助けてきたようですね。最後も子供を助けるために自分の身を犠牲にしてでも助けるとは…最近の人間にしては非常に献身的で素晴らしいです。
「うん、決めました。先ずこの子には天国で100年程度過ごしてもらう事にしましょう。そしてその後、再びこの地球に魂の転生を――」
「その必要はない」
「――っ!?」
突然の声と同時に、私の前に全身を黒のローブで包んだ一人の人間が現れました。
……!?人間なのに霊力が…無いっ!いや、それどころか僅かな魔力と……これは、妖力!?
「…何者です、あなたは」
「答える必要はない」
「ならば目的は何です?神界に侵入するなど、人間の出来るような所業ではないうえ、このような行動に出る理由が分かりません」
「目的程度なら話しても差し支えないだろう。我が此処へ来たのは……」
そこまで言うと、黒の男は自身の右手に持っている物を私に見せつけるように持ち上げ……あれは!?
「これを少し借りるだけだ」
「それは……暁宮 満希の魂!?」
どういう事!?あの子の魂はさっきまで私の隣にあったはずなのに……まさか一瞬で私の元から奪い取ったというのですか!?
しかし、私の能力は魂を操る事。あの男の元から彼の魂を離すことくらい造作でも……!?
「無駄だ。神の能力が何かは把握していなかったが、保険を掛けておいて正解だったようだ」
「能力が使えない……いや、使っているのに何も起こらない!?一体なぜ……」
「理解する必要はない。そして用は済んだ、これは貴様に返却する」
「え?ちょ……!」
只でさえ頭の中が混乱しているというのに、男は更に困惑させるためかと思えるほどに、あっさりと彼の魂を此方に投げ渡して来ました。
突然の事態だらけで動揺を隠しきれませんでしたが、私は余計な負荷を与えない様に彼の魂を受け止めることが出来ました。
というか魂を投げるなどなんてことをするんですかあの男!こんなぞんざいな扱い方をして、もし何か支障が発生したらどうするつもりです!
私はそう文句を言おうと男の方を見ますが……。
「っ……また消えましたね」
周囲を見渡してみますが、男の姿はどこにもありませんでした。
男の事も気がかりですが、その前に暁宮 満希の魂に異常は無いでしょうか……?
「……何も変わったところはありませんね。不気味なくらいに」
ますますあの男の行動が分かりません。結局あの男は何をしたかったのでしょうか?
とにかく、この子の魂を天国へ向かわせたら早急に他の神々に報告をして緊急の会議を……。
「……?」
神々に報告?緊急の会議?
「あれ?なんでそんな事しようとしたんでしたっけ……?」
そんなに大事なこと起きましたっけ?わたしはただこの子の魂の行き場を定めただけだったはず……。
「……気のせいですかね。それはそうと暁宮 満希の魂を天に向かわせるとしましょう。天国の暮らしもしっかり堪能してくださいね」
そう言って私は掌に魂を乗せると、能力を発動して彼の魂を天国に向かわせた。
今度は事故の無い、幸せな一生を過ごしてくださいね。
「……さて、他に魂も来ていないようですし巡回を始めましょうかね」
これで道は整えられた。後は時間が進めてくれるだろう。
さあ暁宮 満希よ。自身の在り方を曲げなかった貴様に対する我からの贈り物だ。存分に堪能するがいい。
そして、我も楽しませてもらおう。
我が人の世を滅ぼす、その時までの余興だ。
――終
というわけで安定の交通事故です。
本当はもう一話後で死亡イベント出す予定だったのですが、いい加減話の根本進めないと読者も私も飽きちゃうだろうし……
さて、次回からついに主人公の満希が東方の世界へと向かいます。
現代、創立当時、古代。果たしてどれから始まるのかは次回のお楽しみで!
【お知らせ】
以降の話は名前をすり替える程度の変更なので、改訂版とは打たないようにします。