そんな主人公も、ついに旅を始めます。
「満希さん、本当に行っちまうのかい?考え直すなんてないかい?」
「すいません…もう決心してしまったので、今更止めるなんてしたくないんですよ」
「寂しくなるねぇ……お前さんってば献身的で頑張り屋だから、皆に好かれてるし、尚更にねぇ」
「ははは、好かれてるってのは素直に嬉しいですね」
東に掲げられた太陽。
濁りの無い真っ新に青い空。
「満希くん、旅に出ても元気でね。風とかひかないようにね」
「ああ。お前も早い所いい男見つけて、いい嫁さんになれよ?」
「っ!?……もう、馬鹿っ」
「おにーちゃん、もう行っちゃうの?」
「ああ、またいつか会おうな。その時はもっと大きくなって、な」
肌に心地よく触れてくる風。
それにあおられる草木と流れゆく雲。
「満希殿……儂たちは貴方と洩矢様に多く救われてきました。この感謝、語るにも日が沈むほどに、持つにも溢れかえるほどに多い。そんな御方が旅に出るのは非常に寂しいものです。しかし…儂たちに貴方を止める事など出来はしません」
「村長さん……」
「…いつか旅のお話を皆に聞かせてやってくだされ。そして、どうか怪我無く健やかな顔を見せてやってくだされ」
「……ありがとう、ございます」
これから、俺は……。
旅に出る。
―――――――――――――――
神奈子から提案された、全国を巡る俺の一人旅。
早速俺はこの事を諏訪子に持ちかけ、行かせてほしいと頭を下げ、願い出た。
正直、最初は反対されるものだと思っていた。
大和の国との決戦を終えて間もなく、信仰の在り方等も細かく決めていかなければならない、まさに節目の時である今。そんな時に旅に出ては、諏訪子もきっと忙しくなるに違いないからだ。一応ミシャクジさんたちもいるんだけど、交渉とか出来るメンツじゃないんで、結局諏訪子一人が会議などに出なくてはならない。
『ダメダメ!これから忙しくなるってのにフラフラ出掛けるなんて許すはずがないでしょ!そう言うのはやる事終わらせてからにしてよ!』
嗚呼、きっとこういう風になるんだろうなぁ……もう覚悟しておくかな。
と、思っていた時期が俺にもありました。
『いいよ~』
たった3文字で解決してしまった。
俺の杞憂は何だったのか…色々と気が抜けてしまったことはよく覚えている。
「けど意外だったな」
「何が?」
「お前があんなにすんなりと旅を許してくれたこと。てっきり反対されるもんだと思ってたけど」
俺の一言で理解が出来ずに首を傾げている諏訪子に対して、俺は補足で言葉を付け加えた。
事実、諏訪子があんなにあっさりと許可してくれたことには驚いた。
さっきも言ったが、時期も時期だから少なくとも最初の内は反対されるものとばかり思っていたんだが…。
でも、こうも簡単に許してくれると、逆に気になってしまうな。
「何か条件でもあったりするのか?」
案外、何か裏があったりするんじゃなかろうか。
「ん?別に条件とか無いよ」
無いんかい。裏も条件も無いんかい。
というか、それだとますます俺を旅に行かせてくれる理由が分からんな。こういうのって大抵は引き留めるのが妥当な選択肢にならないのだろうか。いや、何事もなく進めるならそれで問題ないけどさ。
と、俺が疑問を胸に抱いている所に諏訪子が言葉を漏らしだす。
「確かにさ、満希が旅に出るって言う事がどういう事なのかは分かってる。そりゃあ満希がいなくなるのは寂しいし、出来る事ならこれからも一緒にいたいよ。その方がずっと楽しいと思うし」
飄々とした態度から一転。
神妙な顔つきをしながら、諏訪子は語り続ける。
「…だけど、満希の道は満希自身が決めていかないといけない、っていう事もわたしは分かってるつもりだから。わたしには満希のやりたい事を縛る権利なんて無いし、寧ろ満希の事を応援するべきなんだって思う」
「…諏訪子」
「あはは…ほら、わたしって今まで友だちとかいなかったからさ」
以前に、本人から聞いたことがある。
諏訪子は神の中でも『祟り神』というジャンルに分類されているらしく、信仰のされ方も他の神々とは異なり、そもそも神力の根底が他者と変わっていると。
良く言えば特殊。しかし、悪く言えばそれは異質。厳密に言えば異質ではないのだが、普通の神様にとっては十分変わった存在である。
それが原因なのだろう、彼女には友人と呼べるものが今までいなかったのだと。
尊敬によって信仰を集める神。
畏敬によって信仰を集める神。
この差が交流の障壁となって、諏訪子と外部のつながりが非常に希薄なものとなっていた。諏訪子自身も、この違いを認めており半ば諦めていたらしい。
「満希がわたしと友だちみたいに接してくれて、すごく嬉しかったの。祟り神だとかそういうのを気にしないで、ありのままのわたしと一緒にいてくれたことが…」
だからこそ、俺みたいな存在は彼女にとって貴重だったのだろう。
諏訪子の幻術の影響を受けない、ただの人間とは少し異なる存在。
知己から神具を貰ってはいるが、神とは一切異なる存在。
特殊で、異質。
そんな俺の存在が。
「そうか……そう言ってもらえるのは、俺としても光栄だな。……だけどな、諏訪子」
「?」
諏訪子、お前は1つだけ思い違いをしてるぞ?
お前はさっき言ったな。『友だちみたいに接してくれて』…と。
けど、俺はそんな風に接した事なんて無い。『みたい』だなんて、まるで友達ごっこでもしてるかのような事はな。
いつからだったかはもう忘れてしまったけど、諏訪子…俺とお前は――
「俺とお前は、正真正銘の『友だち』だ。何年も長い付き合いしてるんだから、当然だろ」
「っ………うん…!」
その瞬間。
今までで一番輝いた笑顔を、諏訪子は俺に見せてくれた。
―――――――――――――――――――――
視点は、現代へと戻る。
村人たちの暖かな声が背中越しに伝わってくるのを感じつつ、俺は歩みを進めていく。
なんだかんだで、この村とも十年程度の付き合いをしてきた。
最初にあった時は俺の身長と半分くらいの背丈だった子供もすっかり成長した姿となっているし、新しく生まれた命も、天寿を全うしていった命もある。
共に畑仕事をこなし、同じ釜の飯も時々喰らい、他愛無い話を語らい、宴で賑やかに騒ぎ。いざ振り返って見れば、かつての都暮らしに負けない楽しさだった気がする。
そんな決して細くない繋がりが出来た村と離れて、後ろ髪をひかれる思いを抱いても、何ら不思議ではないだろう。勿論、だからといって戻るつもりは無い。
そう、旅に出ると心に強く決めたのだから。
そして今よりずっと強くなって、もっと多くの人を救うのだから。
「お…」
ふと、前方に立つ二つの影に注目する。
一人は諏訪子、そしてもう一人は神奈子だ。諏訪子の方は笑顔を浮かべながらこちらに向かって手を振ってきており、神奈子は腕組みをしつつ小さく笑って見せた。
俺は二人の傍に近づき、まず神奈子へ声を掛ける。
「見送りか?諏訪子はともかく、神奈子までしてくれるのは意外だな」
「まぁ諏訪子と比べたら繫がりは薄いだろうさね。けど私たちは酒も酌み交わし、戦い合った仲だ。見送り位しても不思議じゃないと思うよ」
「…だな」
言われた通り、俺と神奈子が一緒にいる時間は短かった。
初めて会ったのは互いに敵同士としてだったし、大戦の際も多少言葉を交わしたくらいで終っていた。本格的に交流が出来たのは本当につい最近だったのだ。
けど、それにもこうして見送りに来てくれるのだから、神奈子の器の広さが窺えてしまう。流石は大和の国の頂点。
「もし旅の途中で寂しくなったら、いつでも帰って来ると良いよ」
「どうせ笑いものにするんだろ?寂しがり屋め、とか言って」
「当然。強くもなっていないのにノコノコ帰って来るなんて男らしくないからね、それなりに逞しくなってから戻ってきなよ」
「いつでも帰って来ていいんじゃなかったのか?」
「弄られたいのなら、ね」
こうして話してみると、神奈子ともっと早く知り合っておけば良かったかもな。会話のノリも相性がいいし、いざとなったら一緒になって諏訪子を弄れるしで楽しそうだ。
神奈子と軽口を叩きあい互いに小さく笑い合うと、俺は次に諏訪子の方へと体を向ける。
「…じゃ、行ってくるわ」
「…うん、いってらっしゃい」
実にシンプルなものだと、自分でも思えてしまうほどの簡単な挨拶。
けど、それでいい。
そういう込み入った事は先日の時点で既に話し終えているし、それ以上を求めるつもりも無い。
行ってくると伝え、行ってらっしゃいと見送る。そんな単純なものでいいんだ。
俺は二人を横切り、再び進み始める。
明確な目的地は決めていない。先ずは気ままにフラフラと歩き、そこから考えてみよう。
「さて……どんな旅になるのやら」
空に溶け込む独り言を残し、俺はまだ見ぬ新しい地に思いを馳せるのであった。
――終
【反省】
・キャラごとの絡みが弱いせいでシリアスなシーンが薄っぺらく感じる。もっと一話使ってイベント発生させたり、感情豊かな描写も加えることでキャラ間のつながりを強めていく。
という訳で、今回の13~22話における『諏訪国編』は終了、次回より時間軸を飛ばして『天狗山の激闘編』に突入します。
ちなみに私の好きな東方キャラは幽々子様、ひじりん、みすちー、といったラインナップです。
主人公枠や紅魔勢が0だとマニアック臭が漂っている感じが…まぁ仕方ないですね。
早く書きたいなー、この3人。けど特にみすちーとか当分先もいい所だし…そもそも私の一話ごとの進行ペースと執筆速度だとどれも長いん―ゲフンゲフン。
では、次回もどうぞお楽しみに。