A.地の文による描写だけですが、第一章においてコノハ(コノハナサクヤ)と数十年間組手で鍛えあっていますので、対人戦闘は大方慣れています。ちなみに永琳の薬草探しの護衛の際に妖怪とも戦っているので、対妖にも経験が入っています。
突然の主人公の戦闘慣れに困惑した読者様もいるかもしれないが、それはすべてそういったシーンを書かなかった私の責任だ。だが私は謝らない。
( 0W0)<ショチョー!
※今後の時系列の調整により、満希の目覚めた時期を変更しています。
・現代から3000年前 → 現代から2400年前
ストーリーにあまり関係する事でもないので、深く気にせずとも大丈夫です。
直棒に刺して固定したシカ肉を事前に用意しておいた焚火の上に翳し、焼き始める。
その瞬間、原始的ながらも香ばしい匂いが鼻孔の奥を刺激し、食欲をより一層駆り立ててくれる。
思わず一口喰らい付きたくなったが、しっかり火を通しておかないと衛生面に不安が残ってしまうので我慢我慢。
今日は朝昼飯、共に山菜と果物メインにしてきたからだろうかいつもより一層焼肉が美味そうに感じる。
やっぱり毎日食べるのを控える事は正解だったかもしれないな。新鮮味が蘇ってくる。
約100年。
諏訪の国を出て旅を始めてから、既にそのような月日が流れていた。
ん?何でそんな正確に分かるんだって?
こまめに日数管理してたんだよ。最初の頃はちょっと面倒だったけど今ではもう慣れた。
まぁそれはどうでもいいとして、話を続けよう。
俺はこの100年間、針路を西に向けて旅を続けてきた。
とは言っても正確に西に向かっているわけではない。時には北に向かってフラフラ、南にフラフラと不明確な足取りで進んでいるし、旅の途中で村を見つけたら、1~2年単位で住居を構え、妖怪退治や農業手伝いをすることで生活している。
しかしあまり悠長に長居してると外見の不変に気付かれてしまう。そうなると化け物として追い出されかねないからな、その辺の引き際は弁えてるつもりだ。
そんな感じで、村暮らしと野宿を年単位で転々と変えてきつつ生活をしてきた俺だが、今は野宿を行っている所だ。
最近村で生活してたのは、1か月くらい前だったかな。あそこの村も人の暖かみがあって良かったなぁ、妖怪が来なくて修業の時間が多くなったりしたけども。
さて…肉がちゃんと焼けるのももう少し時間が必要みたいだし、時間つぶしに話を続けよう。
まず先ほども言ったが、俺は今西に向かって旅をしている。
何故西に向かっているのかというと、理由は割と単純。いずれ築かれるであろう都が出てくる方角に向かっているのだ。
俺の旅の目的は多くの人を助けるためにも強くなる事。そして都には人がたくさん集まる。
つまりそう言う事だ。折角強くなったのに、無人の土地にいたって意味が無くなってしまうからな。
けど多分、今の時代に都が出来る場所に行っても無駄なんだよなぁ。
行く先々の村の様子を見る限りだと、今の時代はまだ縄文時代が終わった印象を受けるから、いま行ったところで都が出来るのは……。
えーっと、確か700年位に都ができるんだったっけか。
今の時期は多分紀元前の…3~400年くらいってところだろうか。そんで700年って言うと古墳時代の終盤、つまり飛鳥時代だから……げっ。
「…嫌な数字が出て来たな」
なんで今更になってそんなことを考え始めてしまったのだろうか。もっと早いうちに気付くべきだった。
正確な数値までは叩きだせないけど……下手したら千年くらいは待つ羽目になるぞ。
いやいや千年って。流石にそんなに早く来たって小さな村とか草原とかしか無いに決まってるだろう。そんな周りで千年も何をして待てと。
流石に俺もヒマつぶしの達人じゃあない。都が出来る千年もの間を効率よく修行に回せるか、なんて人の一生涯を十倍にした計画なんて立てる気力も湧かないし、かといって長期間周辺の村に滞在するなんてことも不可能だ。
そうなると、少し今後の方針を改めて行かないといけないよなぁ…。
「……とりあえず、飯にしよう」
いつの間にやらしっかり焼き上がったシカ肉が目に映ったところで、思考を中断させる。
頭を働かそうにも、先ずは腹を満たさなければ十分な案は思い浮かばないだろう。諸々の事は食後にゆっくり考えるとしよう。
そう結論付けた俺は、肉汁が表面からポタリと垂れる焼肉に向かって口を近づけ、ガブリと一口。
「…塩気が欲しいな、あと香辛料とか」
複数回に及ぶ咀嚼は、調味料の偉大さを再認識させるのに十分な行為だったとさ。
―――――――――――――――――
「さて、これからどうしたもんかな」
夕食と睡眠を済ませ、太陽が十分昇ってきた所で俺は行動を開始する。
まぁ行動とは言っても、歩きながら今後の方針を今一度確立させるだけなんだが。
しかし実際問題、どうしたものだろうか。
もう一度確認しておくが、俺が今いる時代は大体紀元前の300年くらいだと推理する。
んで、日本で一番古い都が出来るのが確か700年くらいだったと習った記憶がある。ちょうどその差は1,000年となる。
そしてここからが本題。
この1,000年をどう埋め合わせていくか、だ。
「…名案が思い付かない」
飽き飽きとした思いを吐き出すかのように、大きく溜め息をつく。
それも仕方ない筈。なにせ昨日の時点で食後と寝る前の時間に考えてみたのだが…ちっと案が思い浮かばなかったのだ。
朝起きて改めて考えてみれば良い案が浮かぶかもしれない、という期待を胸にその日は考えることを中断し、眠りについたのだが…。
そしてこの有様である、寝ようが寝まいが変わりませんでしたと。泣きたい。
まぁ泣いたところでどうしようもないから泣くに泣けないんだけど。
それよりも、もう一度しっかり考え直してみるとしようかな。
「おい、そこの貴様、止まれ!」
ここは一度顔見せも兼ねて諏訪子のとこに戻ってみようかな。んで、決まり次第また出発みたいな感じで。
けど息巻いて旅に出たにも関わらずノコノコ戻ったらなぁ…特に神奈子が何を行ってくるのかが分からん、やっぱりなし。
「おい!止まれと言っている!聞こえんのか!」
いっそ山籠もりでもしてみるか?
んー…でも山籠もりを甘く見てたら駄目なような気もする。嘗めたら死にそう、これもなしか。
他には……
「聞けぇぇぇぇぇっ!!」
「おおう!?」
な、何だ!?何が起こった!?
というかいつの間にか目の前に人がいるんだが!
…いや、良く見たら人じゃないな。服装については山伏(修験僧が着る服)だが人間としてみるには異質な物がある。
鳥類の嘴を彷彿とさせる口元。
そして真っ黒な翼。
人外であることを示すには十分すぎるほどの素材だ。
「おのれ…我ら鴉天狗の領地にぬけぬけと侵入してきた分際で、しかも無視をするとは…
命知らずもいい所の人間がいたものだなぁ…!」
鴉…なるほど、どうりで黒い翼を生やしているわけだな。
しかも只の鴉じゃなくて天狗ときたもんだからな……っていうか全然鼻が長くないな、天狗って鼻が伸びてるような種族じゃなかったっけか。
というか、こめかみに青筋が浮かび上がっているのが見える限りどうやら相当怒っているようだ。
無視とかの単語が聞こえて来た辺り、どうやら気付かなかった俺が悪いみたいだが。いや悪気はないんだよ、うん。
「あー…えっと、すいません」
「今更謝罪したところで我らを侮辱したことが拭えると思ったか?甘いわ!」
いや、普通に謝っただけで別にそんな事は思ってないんですが。というかそもそも侮辱すらしてないし、『我ら』って勝手に被害者が複数いることになってるんだが。
けど相手は頭に血が上ってるような感じだし、今の状態で誤解を解くのは難しそうだな…そもそも解けるのかこれ。
「だが、安心するがいい。我は意地の悪い事をする趣味は無いのでな」
お?もしかして、これは特別に見逃してくれる感じじゃないか?『この場は無かったことにしてやるから、さっさと立ち去れ』的な感じで。
…ってあれ、何か背中の刀に手を掛けている――
「苦しまないよう、一瞬で誅してくれるわ!」
「のぉ!?」
急に斬りかかってきやがった!あぶねぇ!
っていうか意地の悪い事はしないってそう言う事かよ!ネチネチ突っ掛らないとかそう言う意味じゃなかったのかよ!
「いやいや、此処は平和的に追い払う所だっただろ!何で殺しにかかって来てるんだよあんたは!」
「我ら神聖なる天狗の領域に踏み入れた代償だ!死して償うが良い!」
「死んでお詫びをとか、今時流行らんわ!」
あれ、でも昔の時代って割とそういうケースが多かったような…。
まぁいい、そんな事を考えるより今は目の前の事態を収拾するのが優先だ。
俺は振りかかる斬撃に対し、バックステップで一気に後方へと下がることで回避と距離稼ぎの両件を果たす。
そして、『炎と熱を操る程度の能力』を発動。俺の身体からは高熱の炎が湧きあがり始める。
俺から炎が出て来たことに吃驚したのだろう、鴉天狗の男は目を大きく見開いて俺の方を凝視する。
「貴様…まさか人間の分際で能力を!?」
「人間にだってそういう奴がいるって事だよ…行くぞ」
驚いている鴉天狗に向かい、俺は地面を一気に蹴って接近を始める。
「くっ…!」
俺の接近にビクリと身体を跳ねさせた天狗であったが、直ぐに身を構え直すと紫色の妖力弾を数発俺に向かって放ってきた。
俺はそれらの弾幕に炎を当て、相殺。二つの力の塊は中にて散滅していった。
一直線の移動を守ったまま鴉天狗の傍まで肉薄すると、腕をスッと引いて攻撃の構えを取る。
「っ…!」
無論、そんな俺の急接近を許したまま何もしない相手では無い。
鴉天狗は急いた動作ではあったものの、近くに来た俺に対して手に持つ刀で斬撃を繰りだそうと、高々と頭上に刀を振りかざす。その顔は焦りに満ちていた。
上段の構えからの斬撃、相手が次に放とうとしているのはそれであろう。
この攻撃を処理しなければ俺の身体には痛々しい切り傷が出来上がってしまうのは明白だ。当然喰らう訳にはいかない。
しかし、俺はそれに対して回避も防御も行うつもりは無い。
理由は、いたって単純明快。
「遅い」
俺の方が早く決められる、それだけだからだ。
掌に炎を纏わせる。
俺は敵の刀身が己の身に迫る前に、引いていた腕を一気に押し出すと、その照準を敵の腹部に定める。
そしてがら空きとなっているその部分に、炎を纏った掌底を叩き込む。
「がふっ!?」
潰れた声を発する鴉天狗。
その体は掌底による衝撃で勢いよく後方に吹き飛び、やがて大き目の樹木に激突。そこで漸く体が止まった。
相手を派手にぶっ飛ばしたところで、恐る恐る俺は一言呟いた。
「正当防衛…だよな?」
というか、死んでないよな?アレ。
ちょっとだけやりすぎたような気もするが…まぁあのままやられてたら俺も死んでたかもしれないし、仕方ないと言えば仕方ないかもしれないが。
……よし。
「せめて安静な体勢にさせておこうか」
ほんの少し湧き上がってきた罪悪感を拭う為に、吹き飛ばした鴉天狗の元に歩み寄る俺。
近くまで来たところで容態を窺うが、呼吸はちゃんと行っているのでどうやら気絶しているだけらしい。結構安心した。
まぁ、もう一方の憂いは拭いきれないんだけども。
「はぁ…せめて誤解を解いておきたいところなんだけど…この調子じゃ起きた瞬間に敵対心向けられるんだろうな」
そうなったら再び戦闘になるか、それとも殺す気満々の眼で睨みつけられるか……どっちにしろお断りしたいところだな。
仕方ないけど、ここは早々に退散してこれ以上の面倒事を増やさない様に――
「そこまでだ、愚かな人間よ!」
突然の、威圧感を含めた声。
正直言って嫌な予感がビンビンとしてくるんだけど。これ振り向いたら絶対碌な光景があるよね。
ここは振り向かずに一気に逃げてしまいたいところだけど…俺の予想通りだと逃げられないよな…。
――仕方ない。
腹を括り、俺は大人しく声のする方を振り向いてみる。
20人はいるであろう、鴉天狗の集団が敵意剥き出しで俺を包囲している光景を。
しかもその内の一人は、いつの間にか俺の背後まで迫っており、得物である刀の切っ先を俺に突きつけている。
「随分と勝手が過ぎたようだな…大人しく縛についてもらおうか。抵抗の意志があるならば…」
今まさに俺に刀を突きつけている、周りの鴉天狗とは異なった装束を着た男は恐らく隊長格なのだろう。
冷淡な瞳を鋭くしながら、男は俺の首元に刀を添えてきた。
「そっ首、身体から離れているものと思うがいい」
「…………」
…もしかしなくても……俺って大ピンチ?
――終
今回から【天狗山の激闘編】に突入!
そして主人公、いきなり捕まってしまう!呆気ない!
では、次回もお楽しみに。