東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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Q.満希の服装って初期はブラウスタイプの学生服だったけど、今いる時代だと完全に目立つんじゃない?
A.ネタバレになるので答えられませんが、服そのものに『とある処置』が施されています。その処置の影響で、他の人から見て満希の服が違和感なく見えているのが理由です。




第24話 天・魔・邂・逅

 捕まってしまった。

 

 いきなり何を言い出すんだ?と思うかもしれない第一声だったが言葉の通りだからしょうがない。

 だって捕まったんだもの。

 

 そして俺は腕を縄で縛られた状態で、天狗たちに周辺の家々より一際大きな建物に連れてこられた。

 内装は当然だが和式、建物そのものの詳細は聞かされてないから分からないが、流れからして裁判所的な役割を示す施設だろうか、それとも……。

 

「ぐずぐずするな、キッチリ歩け!」

 

 いやいや痛い!痛いから押すなっての!

 …まったく、せっかく人が考察をしている所だっていうのに邪魔をするとは…。

 

「まったく、新しい天魔様の就任で忙しい時に余計な仕事を…これだから人間という下等生物は」

「天魔様って?」

「これから死ぬ貴様が知る必要はない。黙って歩け」

 

 ひどい。

 まぁ、別に説明してもらわなくても何となく想像はつくんだけどな。

 

 様づけ、就任…。

 恐らく天狗界のトップ的な人物って意味だろうな。一人の就任で忙しくなるほどの階級とくれば、やはりその辺りが妥当な線と言っていいだろう。

 という事は、これから俺はその天魔って人に会わされて処刑の段取りでもつけられるってことか。

 

 それにしても、新しい天魔の就任時期にやって来るなんて…俺もタイミングが良いのやら悪いのやら。

 

「貴様の処罰は天魔様の御意志によって決まる。天魔様は同胞思いの御方だからな、貴様が巡回の者を一人倒した事を聞けば即刻死罪となるだろうな」

「やっぱり天魔様って偉い人?」

「貴様は黙っていろ」

 

 じゃあ話しかけないで欲しいんだけど。喋られたら何かしら答えないといけないような気になるだろうが。

 ならもう黙っておくとしようか。質問したところで一蹴されるのがオチって分かったし。

 

「まぁ、恨むのなら我らが領地にノコノコ足を踏み入れた己の軽率さを恨むのだな」

「…………」

「ふん…恐怖で言葉も出てこないか。惨めなものよ」

 

 えー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も連行されるがまま、俺は大人しく建物の奥へと進んでいく。

 俺を連行しているこの男の先程の話しぶりからして、恐らくここは天魔っていう人物の拠点。それに天魔様に処罰を決めてもらうとも言っていたところから、その線は確定と言ってもいいかもしれない。

 

 少々…いや、かなり厄介な事になってきたな。

 

 まず俺はこのままおめおめと処罰を受けるつもりは無い、一切無い、これっぽっちも無い。そもそも受けたい奴なんていないだろうけどさ。

 まぁそう言う事だから、処罰を受ける前に何とか隙を見つけて、この天狗の山から逃げ出してしまおうという事だ。それが現状のベスト。

 

 しかし、問題もある。

 

 まずは天狗の軍勢相手に逃げられるスピードを俺が持っているのか、という事だ。

 鴉天狗はみな翼を背中に生やしていた、ということは空中の移動は十分に優れていると言える。そのスピードも恐らく速い筈だ。

 しかし俺は自由自在に飛ぶような翼も無ければ、スピードも無い。跳躍飛行だって瞬発力こそあるものの、全体的なスピードと長距離飛行が出来ない事を考えると、それで対抗するのはかなり厳しい。

 

 そしてもう一つが…天魔の存在だ。

 俺は天魔という人物の事を全く知らない。姿、能力、性格、思考…どれも知識として一切頭に入っていない。

 もし天魔のスペックが俺以下だったならば、まだ逃げ切れる可能性が残っている。しかし以上に備わっているとなれば……。

 

 一応旅の間はトレーニングをやってはいるものの、もし戦う事になった時に今の俺で天魔を倒すことが出来るかどうか難しい所だ。

 

 

 

「おい、何を呆けている。到着したぞ」

 

 連行している男の言葉で俺はハッとなり、意識をそちらの方に向ける。

 既に場所は長い通路を進み終えているようで、眼前にはやや大きめな木製の扉が存在していた。天魔の部屋の前、と言ったところだろうか。

 

「失礼いたします、天魔様」

 

 男は俺に対して発していた声色から一変、生真面目そうなイメージの声で中にいる天魔に対して声を掛けだした。

 

 さて、先程は逃げる算段を立てていたが…良くかんがえたら可能性はまだある。

 もしも天魔が穏健な人で、厳重注意をするだけで俺の身を解放とかしてくれるパターンだってある筈だ。

 

 よし、そうと決まれば早速平和的に――

 

「あ゛ぁんっ!?」

 

 無理かも。

 

 返事が完全にヤクザだったよアレ、パンチ決め込んだおっちゃんが頭に思い浮かぶくらいドスが効いてたよアレ。

 ヤクザを説得するとか難易度高すぎでしょう?

 というか声が高めだったって事は、天魔はもしかして女性なのか。でも今の返事は怖かった。

 

「て、天魔様?いかがなさいましたか?」

「な、なんでもない!気にしなくても良い!」

 

 …あれ、何か様子がおかしいぞ。

 もしかして今のヤクザチックな返事ってデフォルトじゃなかったのか。天魔の人の声も完全に女性らしく変わってるし。

 

「コホン…話は先ほど伝令の者から聞いている。侵入者を捕えたそうだな」

 

 あ、声色がキリッとした感じになった……けど地じゃなくて設定してるなコレは、空気で分かる。

 中々に忙しい人だ。

 

「はっ。そして今、ここに連れてきております」

「よし、ではここに連れて参れ」

「御意。…さぁとっとと入らんか」

 

 やや乱暴な案内を受けつつ、俺は天魔の部屋であろう空間に足を踏み入れる…というか踏み入れさせられた。

 

 部屋の内装は実にシンプルで、丁寧な編み具合の茣蓙がしかれている床に余計な飾りが無い木造の壁。

 家具は数個のクローゼット…この時代だと別の名前があったけど何だったけか、まあいいや。それと中央には木のテーブルが設置されており、その上には蝋燭立てと書類と思わしきものが置いてある。

 

 そして、そのテーブルの奥に向かって、座っている女性が一人。

 

 長い髪の色は黒で、型はポニーテール。

 黒の着物を着用しており、上半身には真っ赤な陣羽織のようなものを羽織っている。また、その背中には大きな鴉の翼が。

 美人と呼んで差支えない程で、端正整った顔立ちに付けられた鋭い眼が俺の姿をじっと捉えてきている。

 

 間違いなく、この女性が天魔と呼ばれている人なのだろう。

 

「貴様が我ら鴉天狗の住処に侵入して来た者か。まだ歳若い故か、随分と豪胆な行動をとるものだな」

 

 変わらず、眼を逸らすことなく俺の方を見てきている天魔。

 歳若いって、一応これでも百数十年は生きてる身なんだけど…あ、でも土の中にいたときも考えると、もっと長い事生きてるのか俺。

 

 まぁそれはどうでもいいとして、彼女の観る目つきはどうにも居心地が悪い。

 判定、値踏み、評価。

 そういった表現が相応しい雰囲気で俺を見てくるんだからな、まるで審査員のようだ。逃げたい。

 

「さて、早速ではあるが先ずは貴様に問いていくとしよう。貴様は旅の者か」

「あ、はい。…なんで分かったんです?」

「なに、この周辺の村々は我ら鴉天狗の領地に入ったらどうなるかを良く知っている。幼子ならまだしも、見た所20に近い年頃の貴様が常識当然のそれを知らないというのもおかしな話であろう。ならば、話を知らない旅の者という線以外に考えられまい」

 

 ふっ、と俺に向けて嘲笑の笑みを零しながらそう語る天魔。

 やはり上に立つ者としてその辺りの分析力が優れてるみたいだな。訊いておく、と言っておきながらほぼ確信めいてた様子で質問をしたし。

 …まぁ20歳とか余裕で過ぎてるんだけどな。流石に見た目で判断するのはムリか。

 

「では次の問いに移ろう。…我ら鴉天狗の領地に侵入した理由をな」

 

 

 

 威圧。

 

 二つ目の質問がなされた瞬間、俺の肌にはその一言が感覚として飛び込んできたのだ。ピリピリと無数の小さな針で刺激するかのような、緊張感の籠った痛みが肌にまとわりついてくる。

 加えて、対峙する彼女の視線も先ほどよりも鋭みを帯びているようになった。値踏みを行うような様子は無く、それはまさに敵を前にしたかのような攻撃的な鋭利さ。

 

 当然、このような敵意の視線・眼差しを受けて何も感じない俺ではない。

 突然警戒心を出してきた天魔の影響で少なくない動揺が心の中で生じている。これほど刺々しい様子を晒してくるのなら、なぜ最初から露わにしなかったんだ?

 それにこの天魔……神奈子や諏訪子ほどではないかもしれないが、かなりの強者だ。肌で感じた威圧の濃さを体感して、そう判断できる。

 

 俺が戦って勝てるかと言われれば……恐らく無理だ。

 実力も彼女の方が上だろうし、仮に幸運で勝てたとしてもここは烏天狗の本拠地、数の暴力で袋叩きにされるのがオチだろう。

 

「(という事は、平和的に話を進めないと…)」

 

 確実に死ぬな、いや冗談抜きで。

 

 とにかく、正直に話して俺が此処の人たちに敵意を持っているわけではないという事を証明しなきゃいけないな。

 

 …よし。

 

「俺は侵入をしたつもりはないです。たまたまそちらの領地に入ってしまっただけで、事を構えるような真似するつもりはありません」

「たまたま、か……。しかし、貴様は我ら天狗の者達からは侵入者とされている事に変わりは無い。そんな立場の貴様がどんなに言葉を並べようとも、変わらないことだってあるのだぞ」

 

 …天魔の言いたいことは分かる。

 詰まる話、侵入者の分際でどんなに言い訳しても誤解を解くことは出来ないって事か。

 

 確かにその通りだろう。

 俺は現時点で向こうにとって侵入者…ここの鴉天狗たちに危害を加えるかもしれない存在だ。そんな危険性を孕んだ奴が証拠も無しに『俺は危害を加えない』と言ったところで、きっと誰も信じてはくれないだろう。

 現にこうして天魔も言葉にして俺を疑っているし、先程俺を連れて来た鴉天狗も部屋の傍らで俺の事を注意深く観察してきている。余計な真似をすれば即刻…といった具合に。

 

「つまり…俺がそちらにとって無害である証拠が欲しいと」

「あるというのか?その証拠とやらが」

「いや、俺が貴方たちにとって危害を加える存在ではないという証拠は残念ながら持ってないです」

 

 だが、天魔さんよ。さっきのあんたの言葉にはちょっと掬えるものがあったぜ。

 

「やはりそうであったか貴様っ!天魔様、こやつは我らに危害を加えないという確証を持ち合わせていません!このような害悪、即刻処罰するべきかと!」

「確かにそう……だけど天狗さん。逆に聞くけど、あんたは『俺がそっちに危害を加える証拠』を提示できるのか?」

「……なに?」

 

 怪訝な表情で俺の事を睨みつけてくる天狗。

 

 「だから、証拠だよ。確かに俺はあんたたちの害にならないって証拠は出せなかった。…だけどそっちは碌にその証拠を出さずに俺に処罰を下そうとしている、その辺はどうなんだ?」

「何を馬鹿馬鹿しい事を…!我らの神聖なる領地に侵入した時点で、下賤な貴様如きに証明を見せる必要などない!それどころか、巡回中の同胞が妖気を発した場所に我らが向かった時には、貴様は既にその同胞に手傷を負わせていた!むしろ最初から証拠が挙がっているようなものだ!」

「………」

 

 激昂を示した態度で捲し立てるように喋る天狗の男。それほどまでに俺を処刑したいのだろうか。

 しかしそれとは逆に、天魔は何も言わずに俺と天狗の様子をじっと観察している。どういうつもりだろうか。

 

 …まぁいい。

 

 言ってほしい事は言ってくれたからな。

 

「なるほど…一応確認するが、あんたたちは『自分たちの仲間が妖気を発した事に気付いたから現場に来た』んだよな?」

「そうだ、それが何だというのだ!」

「ああ、それなら……」

 

 

 

 

 

「…なんで『侵入者である俺の気に気付いて現場に来た』じゃないんだ?」

 

 

 

 

「…っ!?」

「巡回をしてた天狗が妖気を出した……それはつまり、天狗側が真っ先に俺を攻撃したと説明が出来る、そして俺の方から襲い掛かったという事はあり得なくなった」

「…い、いや、人間風情の霊気など、そこらの空気と変わらない程に脆弱。それを考えれば…」

「それだと天狗を倒せる人間の霊気も感じ取れない、って事になる言い分になるな。それに倒したと言っても別に殺したわけじゃないし、先に攻撃されたから俺は正当防衛をしただけだ」

「屁理屈を…!」

 

 天狗の男の表情がみるみるうちに怒気に満ち溢れていく。先ほどから自分の言葉が否定されまくっていたらそうなるもの無理はないか。

 かく言う俺も少し煽り気味に喋っているんだが…まぁここに来るまでに散々雑に扱われてきたからな。これ位の報復は可愛いものだろ。

 

「それにさっき、天魔さんも言っていた事を掘り返してみますが」

「ほう、私の発言か?」

「ええ、『天狗の領地に入ってはならない事を知っているのは、周辺の村々だけ。なら貴様は事情を知らない旅の者だろう』といった感じに俺に言ってきましたよね」

「ふむ…確かにそのように言ったな」

「天魔さんがそう解釈できたという事は、当然部下の鴉天狗の人たちもそう考えることは出来た筈。なのに真っ先に妖気を発し、問答無用で俺を斬ろうとした……あまり雲行きの良い話じゃないですね」

「………」

 

 さて、これで3つほど向こう側にとって不利な材料を用意することが出来た。

 

 天狗側から先に手を出してきた。俺は正当防衛を果たしただけ。

 向こうはこちらが旅人と知っていた、もしくは容易に判断できたのに、強引に暴力で解決しようとした。

 加えて、周辺の村々とは違い事情を把握していなかったため故意による侵入ではない可能性が高い。

 

 といった具合か。

 

 しかし、いくら材料を並べた所でそらを覆されかねないほどの大きな問題が一つある。非常に厄介な問題だ。それは……。

 

 

 

『天魔様、ここは我らの領地ですし侵入者の言い分など気にしなくても良いのでは』

『うむ、それもそうだな。そして周りに知られない様にこっそりと始末して、この事はなかったことにすればよい。というわけで処刑』

『ぎゃああぁぁ!?』

 

 

 …っていう展開。

 今の俺の立場が立場だから、こんな話が出てきてしまっても何らおかしくは無い。

 

 というか、今のまま話を進めても恐らくこれに似た運命を辿ってしまう可能性が高い。さっきから侵入者扱いの癖に物申しすぎだしね、俺。生意気と思われても仕方がない……多分もう遅いか。

 

 という訳で、このまま言い包めてハイさよなら…なんてハッピーなオチは期待しない方がいいだろう。

 ならどうするか、というと…。

 

「そこで不躾ながら…俺の方から一つ、提案をさせていただきたい」

「提案だと?貴様、自分の立場を理解して――」

「良い。話してみろ」

「天魔様!?」

 

 不機嫌に表情を歪めている鴉天狗の言葉を遮り、無表情のままの天魔が俺に話を催促してくる。

 

 俺は小さく頷くと、その提案について語り始める。

 

「今回の騒動は互いに非があります。俺の方では事情を知らなかったとはいえそちらの領地に足を踏み入れてしまった事と、天狗の一人を撃退までしてしまった事」

「ふむ…すると我らの方は、貴様の事情を理解出来た筈なのに問答無用で侵入者扱いした事と、先に手を出して暴力沙汰に発展させたこと、か」

「ええ。このまま俺を見逃してしまうよ天狗の面目が立たない。しかし処刑となると、さっきの非があるにも関わらず身勝手に罰する、という天狗側にとって良くない評判が触れ回る危険性があります」

「…なるほど、確かにそれは我らとしても避けたいところだな」

 

 バツが悪そうにそう言葉を漏らす天魔。

 やはり思っていた通り、これくらいの規模にもなると妖怪でもそういう風評被害は避けたいらしいな。

 

「加えて…俺は旅人ですがそれなりに顔が広いと自負しています。以前滞在していた村では旅の行き先は知られているので、俺の姿が見えなくなったとなればここが挙げられるのも時間の問題になるかと」

「…建前は大体わかった…が、そろそろ先ほどの提案とやらを教えてもらおうか」

 

 さて…天魔からもう一度催促がかかった事だし、話すとしようか。

 

「俺をここの牢に一週間閉じ込める、それも食料提供は一切無し。という案です」

「…これはまた、随分と意外な提案だな」

 

 投獄。

 それが俺の提示する案だ。

 

 俺としては当然リスクなしでこの場から去りたい、のだが言わずもがな、向こう側はそれを許すはずも無い。

 ならばここは自分からリスクのある処罰を受けに行き、相手を納得させやすくする。これが俺の目論見だ。

 

 想像通り、やはり向こうは驚いている様子。まぁ自分から『投獄してください』なんてお願いしてくる奴なんて前代未聞だろうしな。

 …言っておくが、これはあくまで最低限のダメージで済ませようという策であって、決して自虐趣味に走っているわけじゃないので悪しからず。

 

「しかし正気か?一週間も飲み食いせずに居るなどと……死ぬ可能性は十分に高いぞ?」

「まぁ、普通の人間ならそうでしょうね」

「…まるで自分は普通の人間じゃないとでも言うような言葉だな」

 

 普通の人間じゃない、か。

 

「だって変わった人間ですからね、俺」

 

 不老不死疑惑が浮かびそうなほどの長寿っぷり、炎を操る能力、人間とは思えない身体能力。

 これだけ例をあげてしまうと、確かにもう普通の人間とは言えないな。

 

 因みに言っておくと、別に一週間飯抜きでも死ぬことは無い。

 旅暮らしをしてきて食糧不足に悩まされたことも少なくなかったお陰で、一週間くらいなら飯抜きでもなんとかなる身体になっているのだ。伊達に百年以上生きていない。

 

 

 

「…面白いな、貴様」

 

 天魔は俺の解答に面白みを感じたらしく、不敵な笑みを浮かべた。

 

 どうやらこのリアクション、俺の案は無事に受け入れてくれるらし――

 

「よし、貴様の意見は却下だ」

 

 

 

 …………あれ?

 

「その代わりに別の刑を言い渡す。貴様が負傷させた巡回兵が復帰するまでの間、その者の業務を代行せよ」

 

 

 

「えっ」

 

代行?あの巡回兵の?

それってつまり、此処で仕事しろって事?

 

 やだ……なにその急展開…。

 というか侵入者扱いだったのにいきなり仕事させるなんてどういう事…?

 

「案ずるな。復帰の間は空き家を一つ用意してやろう。貴様が旅人ならばこの近くに住処は建てていないのであろう」

 

 いや、別に住居の心配とかじゃなくて…。

 

「お待ちください、天魔様!このような下賤な人間に天狗の業務を任すなどどういうおつもりです!しかも一時期とはいえ居住を許すなど…っ!」

 

 そうそう、俺が言いたいのはそう言う事だよ。天狗さんの言うとおり。

 とにかく話が唐突過ぎるんだよ。普通だったら俺の提案を受け入れる、もしくは別の処罰を自分で判断して下すなどするはずだ。

 なのに住み込みで働いてもらうという、侵入者扱いの人に対する処置としては前代未聞な方法を提示してきた天魔。

 

「なに、このままこの男を牢に閉じ込めたところで我らに利があるわけでもなし。かと言って罰を下しても我らの失態を拭う事は出来ない。ならば巡回の一人の空きを埋めるためにこの男を使うというのも、一つの手だろう」

「ですがっ…」

「ならお前が負傷した者の分まで働くか?」

「…っそれは…」

 

 部下である天狗の苦情を受けながらも、天魔は凛とした様子で話し始める。

 しかも反対していた天狗を押し黙らせてしまっている。まぁ部下の方は非常に不服そうにしている辺り納得はしていない、権威に阻まれては何も言えない、と言ったところだろうか。

 

「では予定通り、負傷者の復帰までの期間はこの男に我らの業務の一端を請け負わせる。他の者達への通達は私が行おう」

「…ちなみに俺に拒否権は?」

「出来ると思うか?」

 

 無理だな。

 

「…理解したみたいだな。ならば私はここを出る。貴様は私が戻ってくるまで待機していろ」

 

 天魔はそう言って立ち上がると、俺の横を通り過ぎて部屋から出て行った。

 天魔の足音が徐々に遠ざかっていく中、部屋にいるのは俺と俺を此処に連れて来た天狗の二人。

 

 

 

「…貴様、もしや妖術で天魔様を誑かして――」

「無いから」

 

 

 

けどホント、これからどうなるんだ…?

 

 

 

――終

 

 




自分で書いておいてなんですが、まさかの超展開でしたね。

捕縛されて。
口論して。
提案して。
却下されて。
働かされる。

こうして簡潔に言えばアリっちゃアリな展開かもしれませんが、中身に天狗があるから…。
まぁ天魔様の言う事は基本絶対ですし、次回より天狗代行として働くことになる満希でしたとさ。

それでは、次回もお楽しみに!
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