満希「というと?」
???「30話近く書いておいてなんですが……この作品のヒロイン、未だ未定です」
満希「…マジかよ」
三日目。
今日もまた、いつもと同じように巡回の仕事を行う事になっている。俺の上官と言う立場である射命丸もまた、俺に同行する流れだ。
普段なら以前と同様に、仕事場に直行して見回りを始めるのだが…今回は少しだけ違う。
『明日作業に移る前に、天魔様のお屋敷に来い』
先日の帰り際の事だった。
突然、天魔の側近と思われる男の天狗からそう命じられてきたのだ。
理由までは教えてもらっていないので詳しくは分からないが…曰く、天魔から少し話をしておきたいのだそうだ。
こういう召集は大抵嫌なイベントに発展するフラグが立つから気乗りがしないんだが…無視すると碌な事にならない気がするので行くしかない。そういうわけで大人しく天魔の屋敷に足を運んできたのだ。
ちなみに今は射命丸はいない、今回はあくまで俺一人で来てこいとの事だ。
さて、どんな話が出てくるのやら。
「…おっ?」
天魔の部屋の目前といったところだろうか、その辺りまできた時だった。
俺の進む先にポツンと佇む小さな姿が一つ確認できた。良く見てみるとそれは…。
「ニャー」
「猫か…」
白い毛並を揃えた、一匹の小さな猫であった。どこかから潜り込んできたのだろうか?
しかし猫を見るのも、存外久しぶりのような気がするな……野生の猫ってどうにも警戒心が強いから、旅の途中では中々姿を現してくれなかったから。
すると、猫は俺の方をチラリと一瞥した後にトテトテと愛らしい足取りで歩きだすと、近くの部屋に入り込んでしまった。
あれ、でもあそこって確か天魔の部屋――。
「あぁ~!会いたかったよ猫ちゃ~んっ!」
っ!?
「ねぇねぇ、今日はどうしたのかなぁ?またご飯が欲しい?それとも…ひょっとして私に会いに来てくれたとかっ!」
絶妙に甘ったるい声が猫の入っていった部屋から聞こえだしてくる。その会話の対象は間違いなく猫だと推測できる。
…というか、この声って絶対天魔だよな。声にほんのわずかな面影があるし。
あ、でも侍女とかが留守番してた可能性も――
「はぁ…昔は堂々と可愛いものを愛でられてたのに、天魔になってからは威厳を持つようにって言われて全然可愛がれてないなぁ……」
やっぱり天魔だった。紛うことなく天魔さんだった。
「あ、そう言えば猫ちゃんってこの間来てくれた子かな?ごめんねぇ…あの時は急に部下が侵入者を連れて来たって言うから思わず大声出して…ビックリさせちゃったね」
大声って…まさかあの時のヤクザみたいなお返事?あれって素の返事じゃなかったのか…そう言えば部下の方も驚いてたみたいだし、これが原因だったのか。
…という事は。
「天魔さーん、言われた通り来ましたー」
「あ゛ぁん!?」
再現、成功。
「さて…人間よ、今日は職務に入る前に少し言葉を交わしておきたいのだが…どうした?」
「いえ、なんでも」
いやぁ、面白い物が見れてよかったよかった。最近は仕事もヒマだし食事中は周りから集中砲火のように視線を受けてて落ち着かなかったから、久しぶりに笑えたな。表沙汰に笑ったら殺されるだろうから、あくまで心の中でだけど。
しかしさっきまでの猫との会話と今の喋り方のギャップがまた…これが同じ人物だと思うと中々珍妙だな。
「…まぁいい。それでどうだ、3日程ここで務めているわけだが…軽く感想でも聞いておこうか」
「感想…そうですね。中々大変な職場だと感じました」
特にヒマとか、周囲の視線とか、ヒマとか、ヒマとか。
…ヒマばっかりだな。
「ふ、随分と単純な感想が聞けたな…まぁ報告を聞く限りでは未だ侵入者らしき者と遭遇した記録は内容だし、ある意味では大変だったろうな」
そう言うと天魔は、含んだような笑みを浮かべて俺の方を見てくる。コレ、絶対俺がヒマだって事知ってるよね。知ってて面白がってるよね、コレ。
まぁでもいいか。俺だってさっき天魔の秘密を知ったわけだし、向こうだけが面白がれるわけではないからな……あとで射命丸にチクってみようかな。どんな反応するか楽しみだ。
「…何故だろうか、急に嫌な予感がしてならないのだが…」
それは俺のみぞ知る。
―――――――――――――――――――
さて、そんな天魔とのやり取りを終えた俺は業務の方へと移る事となった。
言わずもがな、今日も巡回だ。寧ろこれ以外に何かあるのかと。
「…と言う訳で、天魔さんって可愛いもの好きなんだよな。あんな喋り方で」
「いや、普通にばらしてるけどいいの?聞いてる私もアレだけど」
ただ見回るだけというのも何なので、天魔さんには話のネタの犠牲になってもらう事にした。つまりさっきの事を射命丸にカミングアウトだ。
呆れた視線を向けてくる射命丸も射命丸で気になるご様子、渋々言いながらも俺の話にしっかりと耳を傾けている。流石はトップに立つ者の秘密、ネタとしては十分に面白いようだ。
「で、結局天魔様からは何のお話があったの?そこんところはまだ聞いてないけど」
「いや、普通に最近の俺の調子を聞いてきただけです。仕事は上手くやっていけてるかって感じの」
「そしてアンタは天魔様の秘密を暴露…呼んだだけなのに秘密を洩らされる天魔様も災難ね」
とか言いながら、口元が二ヤけてますよ射命丸さん。そっちもそっちで何気に面白がってるでしょ。
と、そんな話をしていた時だ。
俺の身体の第六感が、1つの感覚を刺激し始める。抽象的に身に降りかかるこの感覚、旅の中でも幾度か体験したことがある。
これは、妖怪の妖力を察知した時の感覚だ。
射命丸の方を見てみると、どうやら彼女も妖力に気付いたようだった。やや険しい表情を現しながらその発生源に顔を向ける。
「っ」
「これは…」
ここで俺たちは、先程感じた妖力とは別物の新たな妖力の存在を感知できた。
二つ目については身に馴染みが無いので分からないが…最初の妖力については覚えがある。いや、覚えがあるという表現では少し語弊があるかもしれない。
正確には、最近知った、と言う所だろうか。これは、鴉天狗の妖力だ。
「やれやれ…喜びなさい人間。今日は暇だとぼやく必要が無さそうよ」
「いや、別に侵入者を歓迎してたわけじゃ…って何処へ!?」
反論虚しく途中で切れて。射命丸は俺の発言を背にいきなり飛び出していった。
突然の事で動揺しながらも、俺は地面を蹴って宙に身を翻すと、射命丸を追って空を跳び始める。
「決まってるでしょ!侵入者の妖力が完治できたという事は、戦闘に移行した可能性が少なからずあるという事。どうやら隣で侵入者が出現したみたいだから、私たちも増援に行くのよ!」
「いや、普通にそこの人たちに任せればいいんじゃない!?」
「だって侵入者とか滅多に来るものじゃないし、折角ならどんな侵入者か顔を見ておきたいじゃない!」
要するに、火事場泥棒である。
やっぱりこの人、警邏とか向いてないんじゃないかな。
「んっ…?」
その最中、急に射命丸の飛ぶスピードが落ち始めた。
何かあったのだろうか……あぁ、なるほど。
侵入者側の妖力がみるみるうちに小さくなっていくのが感じる。恐らく、天狗に脅されて山から逃げ出してしまったのだろう。
「…一足遅かったみたいね」
そうこうしている内に、ついに侵入者の妖力は察知できない程に小さくなっていった。
射命丸も深くため息を吐くと、そのまま下降していった。
俺も彼女に続き、地面に降り立っていく。どうやらまだ自分の領地内だったようだ、巡回のお陰で見覚えのある川辺に俺は足を着けた。
先に降りていた射命丸は、つまらなさそうに顰めた顔のまま妖力を感じられた方向を見やると、その場で再びため息を吐いた。
「はぁ…折角面白そうな場面に遭遇できると思ってたのに…期待して損したわ」
「ま、平和的に解決されたみたいで何よりじゃないですか。侵入者の妖力はもう感じられ――」
――天狗の妖気は?
「…っ!」
不意に掛けられた、己の中で生まれた一つの疑問。
夜間の月のように俺の胸でハッキリと浮かび上がったそれは、俺の次の行動を決定づけた。
妖力を再び探り出す。
天狗の妖力は……まだ失せられていなかった。妖力が感じられなくなったのはあくまで侵入者側だけであって、天狗の方は未だ妖気を放っているのである。
コレは一体、どういうことだ?
侵入者は追い払ったのではないのか。妖力が消えていないという事は、まだ攻撃的な姿勢を構えているという事だ…。なぜまだその必要があるのだろうか。
――もしや、追い払ったわけではないのか…?
「あれは…!」
思考を廻らせている俺の視界の隅に、ゆらりと何かが現れた。
川の上流から流れてきたそれは、水の勢いに任せて下流であるこちら側へと漂ってきている。
それは…人の姿をしていた。
「あ、ちょっと!」
射命丸が制止の声を掛けてくるが、関係ない。
俺は一直線に流れてきた人物の元へ跳躍し、傍まで跳ぶとその体を掬い上げる。そして水面を蹴って地面に着地を果たすと、拾い上げた人物をゆっくり下ろした。
その人物をよく見てみると、顔つきや体型からして女性だと判別できた。髪はやや青味を帯びてはいるが、黒色でボブカットとなっている。
雨合羽のような水色の装束を身に纏っており、背中にはこの時代にあると不自然な背負いのバッグが掛けられていた。
そして何よりも注目すべきは、頭の上に乗っている……皿。
もしかして、この女の子は…。
「…河童?」
河童。
日本でも空想上の生物や妖怪としてその名を馳せており、その知名度は内容や容姿まで世間的に知られているほどだ。
因みにその内容としては、頭に皿を乗せた水棲生物でキュウリが大好物、水辺を通りかかった人間の尻子玉を奪う…と言ったものだ。
…こんな女の子が尻子玉を取るとか絵的にシャレにならんでしょ…というか全然聞いてた姿と違うんだけど。
…いや、今はそんなことどうでも良かった。
俺は河童の女の子の身体を確認してみると、右足に切り傷のようなものがある事に気が付いた。さらにそれは新しいものだったのだろう、多くは無いが傷口から赤い血が流れている。
とりあえず俺は手持ちの布を手頃な長さに切ると、手早くそれを傷口に巻き付け、止血を行った。これで容態が悪化することは無いはずだ。
さて…。
「ちょっとあんた、もしかしてそいつを助ける気なの?」
「当たり前でしょう。ああ、それと山の麓までちょっと運んできますので」
俺は少女の体を持ち上げると、自分の背中に背負いこんだ。この子の服が濡れているので密着している俺の服も徐々に濡れてくるが、今は気にしていられない。
俺はそのまま山を下りるべく歩き出す。
「いや、ちょっと待ちなさいってば!」
「なんです?…あ、別に逃げたりしないですよ、ちゃんと戻ってきますから」
「そうじゃないわよ。あんた、そいつがさっきの侵入者だって気付いてるんじゃないの?」
「ええ、まあ」
射命丸の言うとおり、この子は先ほど天狗の後に妖力を出した当人なのだろう。この真新しい傷は天狗にやられたものだと推察できるし、何よりこの山に河童がいるなどと言う話は一度も聞いたことが無い。加えて射命丸もこの子を侵入者だと言っているようなものだったからだ。
しかし俺は、こんな状態の子を見つけておきながら放っておくような真似は出来ない。侵入者がどうとかは今はどうでもいい、助けられるなら助けたいのが俺のやり方だ。
一方で、射命丸は難しい表情をしたまま俺に対して向かってくる。その表情から察するに、俺の行動に反対の意があるらしい。
「そこまで分かってるなら、そいつを助けたらどれくらい面倒になるかも分かる筈でしょ。侵入者を勝手に逃がすなんてことがばれたらどうなるか…」
「ざ~んねん、もう俺様にばれてるんだよねぇこれが」
飄々とした声が、空より現れる。
俺と射命丸が揃って空を見上げてみると、そこには昨日見たばかりの姿が空に浮いていた。
そう。昨日の昼食時に俺にちょっかいを出してきた、あのチャラい烏天狗だ。俺が地面で奴が空という立ち位置上もそうだが、チャラい天狗はまるで見下すように、そしてほくそ笑んだ様子で俺の事を見てきている。
面白い物を見つけた、そんな顔だ。
「侵入者の気配がしたもんで近くを探ってみたら……文ちゃーん、これはちょっとまずいんじゃないのかな?」
「…………」
男の言葉が重なるたびに、射命丸の表情に忌々しさや焦りのようなものが増している事が窺える。
一方でチャラ男の方は、突き刺すような視線を浴びせられているのにもかかわらず依然として余裕な顔をしている。この手の男がこういう顔をしていると、どうも嫌な予感しかしない。
向こう側にとって面白いと感じそうな物はやはりこの子か、それとも…。
「まさか仮働きの侵入者が同じ侵入者を助けちゃうなんてなー、やばいよなぁ、侵入者を管理してる文ちゃんが何て言われるか不安で仕方ないな~」
「…別に、これは私の意思によるものじゃありませんので」
「そうは言ってもさぁ、実力行使で止めるような様子も無いし文ちゃんも侵入者を助ける手助けをしてたんじゃないの?」
「っだから…!」
やはり、俺の行動は監視役の射命丸にとってマズイ事だろうからな。
このままあの男が見たとおりに情報が通ってしまえば、射命丸は管理不行届やらで罰か何かが与えられるはずだ。彼女もそんな事態は避けたいと思っているに違いない。
しかし、彼女を巻き込むわけにはいかない。
これはあくまで、俺のエゴで動いてるだけなのだから。
「射命丸さんは俺の能力で動きを封じられている。だから俺を止めたくても止めることが出来ない状況になっているだけだ」
当然、これはウソだ。
確かに射命丸は俺がこの子を助けることに難色を示してはいたが、無理矢理阻止する様子は無かった。
「ちょっと、あんた――」
「へぇ~、それじゃあこれはあくまで人間ちゃんの独断、って事で報告してもいいんだな?」
「お好きに。射命丸さんは何も関わっていない」
射命丸が何か言おうとするも、俺と男の間でトントン拍子に話が進行していく。
やはりこの男、この展開を狙っていたのだろう。
自分が先ほど言い放った言い分だが、あからさまに随分と無理矢理な理由だった。しかし男は疑うそぶりも見せずにアッサリと納得していったのだ、普通なら本当かどうか疑うはずなのに。
この男の狙いは、俺だけが陥れられる状況に違いない。さっきから妙に顔が活き活きとしているのだから。
「んじゃ、早速俺は天魔様に報告に行こうかなー。それじゃあね文ちゃん」
終始面白がってる様子だった男は、天魔の屋敷に向けて飛び去って行った。
それからの事だ。
俺は誰とも出くわすことなく、無事に河童の女の子を麓まで送ることが出来た。
到着した頃には既に女の子の意識は戻っており、『ありがとうございます』と涙目で何度も何度もお礼の言葉を述べながら頭を上げ下げしてきた。関係ないけど、それを見て上司に何度も頭を下げるサラリーマンの謝罪シーンをほろりと思い出した。
ついでに天狗の山に勝手に入ってはいけない事も伝えておいてあげた、これで少なくとも河童たちは無暗に山に入り込むことはしないだろう。
トラブルも無事に解決したところで、俺は同行している射命丸と共に山を登り始める。流石に徒歩はキツイので今は飛んでいる。
「…あんた、どういうつもりよ」
ふと、空を進む最中に射命丸からそんな言葉を掛けられた。
どういう意味だ、という疑念の色を表情に現しながら俺は彼女の方に視線を向ける。依然として彼女は、複雑そうな表情を浮かべていた。
「あんた、あいつと話している時全然動揺してなかったわ。まるでこうなる事が分かっていたかのように…それなら明日からどうなるかも分かる筈でしょ?周りの天狗が、あんたを…」
「ああ、分かってる」
「っ!……あんた、想像以上の馬鹿よ。私を巻き込むような事もしないし、そうなる前に自分だけが被害に遭うように申し出るし」
「…これは、俺だけが背負う問題だから」
そう。これはあくまで俺だけの問題だ。誰かを巻き込むなんて真似は出来ない。
きっと明日からは周りからの風当たりが強くなるのだろう、特例で仮働きをしている人間でありながら、規律に背いて侵入者を助けたのだから。
それでも、俺はあの時見捨てるような行動は出来なかった。もし見捨てるようなことがあれば、俺はまたきっと後悔をするに違いなかったから。
「…知らないわよ、私は」
結局、最後まで射命丸の表情は優れないままであった。彼女も彼女なりに思う所があるという事だろうか。
その日の巡回は、何とも言えない空気が漂う中で行う事となった。
――終
最近シリアス多すぎぃ!
本当はギャグとかもっと書いていきたいのに…今回の編は環境が環境だから中々ボケが入れられない…。
次回の編ではギャグ分をたっぷりつぎ込んでいきたいです!