満希「けどなぁ…恋愛描写の無い作品って言うのも物足りなさを感じる人だっているんじゃないか?シリアス押しで2828するシーンが無いとかどうなんだよ、それは」
???「…恋愛の対象人物になるだろう人物がそれを言うと、何とも違和感が…」
※若干編集を入れました 4/21
『満希先輩……先輩はどうして私の言葉が信じられるんですか?』
『急にどうしたんだ?』
『だって……誰も信じてくれてないんですよ、私には神様が見えてお話も出来るってこと。みんな相手にしてくれなかったり、気持ち悪いって言って私を避けたり……先輩は、どうして……?』
『そうだな……』
遠い昔の事だ。
俺には仲の良い後輩が一人いた。確か高校の頃だっただろうか。
『特にそれらしい理由は無いな』
『え?』
『強いて言うとすれば…お前がそんな嘘を吐くような奴じゃないって知ってるから、かな。お前って年下相手にも敬語使うようなド真面目だし』
『ド、ド真面目……』
その娘は神様が見えるんだと言っていた。
彼女の性格を知っている俺は、その言葉を信じることが出来た。
『まぁ、周りがどう言って来ようとあんまり気にするなよ。俺はお前の言葉を信じてる。必ず【味方】でいるからな』
『……っ!……先輩』
『ん?』
しかし、周りは彼女の言葉を信じようとしなかった。不気味だ、嘘つきだと言って彼女の話を否定していた。
『普通』は『特別』を忌的な物見でいるのだ。
『……ありがとうございます!』
『どういたしまして……でいいのか?』
その後、俺は家の事情で別の地域の学校に転校することになった。今までの学友と卒業式を共にすることはできなかったが、同窓会で顔を合わせることを楽しみにしていた。
そして俺は引っ越し先にある大学に入学することが決定し、春休みにはかつての級友たちと顔を合わせておこうと、地元に戻ってきた。
しかし、帰ってきた俺の耳に届いたのは、2つの最悪な知らせであった。
1つは彼女が転校した後に、その娘が同級生からイジメを受けていた事。
そしてもう1つは、その娘が――。
東風谷 早苗が、行方不明になった事。
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「…夢か」
4日目。
何とも心地の悪い目覚め方だな、と思えた。身体はそれなりにいいコンディションなのだが、頭の中にはどうにも重苦しい感覚が。朝からこんな状態というのは中々テンションが下がってしまう。
やはり原因は、今しがた見た夢の内容だろうか。それとも…。
「雨…」
先程からと外から聞こえてくる、ザァザァとしたノイズにも似ている音。それを確かめるために寝起きで覚束ない目で外の景色を覗き見た。
昨日の晴れ模様はどこへやら、空は鉛一色に染まり上がりながら少なくない雨を振り撒いていた。空までこんなコンディションとは…ますますテンションが下がってしまうんだが。
まぁいくらテンションが低かろうが、今日もやる事に変わりは無い。
俺は寝床から起き上がり、朝食を済ませるために調理場の方へ足を向けるのであった。
「入るわよー」
…どうやら朝食をとるのは少しだけ後回しになるようだ。
玄関の方に視線を向けてみると、案の定そこには射命丸がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。既にいつもの服装に着ているうえ、身なりもしっかり整えている…この人メチャクチャ朝が早いんじゃなかろうか。
「おはよう、いつも以上に崩壊した髪型になってるわね」
「おはようございます、せめて俺の身支度が整ってから来てくれませんかね」
とりあえず、普段の髪が崩壊気味だという旨の発言に怒るべきだろうか。まぁいいや。
そもそも、射命丸がこんな朝早くからこれの家にやって来るなんて初日以来じゃないだろうか、最近は仕事場で会うようになってたしな。
「で、今日は家にまで来てどうしたんですか?」
「ああそうそう、今日は雨だから雨笠を集会所から借りて来るわよ。あんたも濡れたまま巡回なんて嫌でしょ」
「まぁ嫌ですけど…」
チラッと、俺は射命丸の手に持っている物に注目する。
…いや、あなた普通に目的の代物持ってるんですけど。なんで
「あんた、私が何年巡回兵務めてると思ってるの?自前の雨笠くらい持ってるわよ」
「あっはい」
なるほど。まぁ数年勤務にも関わらず雨天時に必要な物を持っていないというのも不自然な話だよな。
あ、でもそれなら2つくらい持っててもおかしくないんじゃ――
「別に一つ持ってれば事足りるから、そんな期待した目で見られても出てこないわよ」
「あっはい」
残念。
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未だ強く降り続ける雨の中を進み、俺と射命丸は中央の集会所に入る。
普段はここで食堂を利用しているため決まった通路を進んでいたが、今回は前述したとおり雨笠を借りるためにここに来ている。なので食堂行きの道ではなく事務室として機能している部屋に移動する必要がある。
その通路を進んでいる所だが…どうにも空気がいつもより違っている。
正確に言うと、すれ違う者達や通りがかった部屋の中からこちらを見てくる者達の、俺に対する視線がいつもと違っているのだ。今までのそれは、特例としてここで働く人間という存在に対する嫌悪と好奇が混じった雰囲気だった。気分は動物園の檻で見世物になったような感じで。
しかし、今日の皆の眼は違う。
好奇の色が大きく失せ、その分嫌悪の感情が強くなったような視線が俺に向かって浴びせかけられているような気がするのだ。下手をすれば、前々から嫌悪を持っていた奴はそれを通り越して憎悪さえ感じられるほどに、強く。
「…おい、あれって…」
「あぁ…やっぱり人間は碌でも無いな…」
通り掛かる天狗たちは、ギリギリ聞こえるか聞こえないかの声量でヒソヒソ話をする始末。振り向いてはいないが、話しぶりから恐らくその眼は敵意が含まれているに違いない。
やはり、昨日のチャラい天狗は天魔に報告をしたのだろう。
それもご親切に、天魔だけでなく周りの天狗たちにも言いふらして。
「よぉ~人間ちゃん、今日もお勤めご苦労さーんっと」
そしてこのご本人である。
「いやぁ、なんだか今日はみーんなピリピリした感じって言うかさー。やっぱり昨日の侵入者騒ぎが原因なのかなー?」
昨日と変わらないにやけた面で俺の元に歩み寄って来ると、いきなり肩を組んできた。親しい間柄なら別に問題ない行為なのだが、仲が良いとか一切無いので流石にこれはちょっと馴れ馴れしい、引くわー。
ちなみに近くにいた射命丸はというと……あっ、ちょっと距離を引いてる。そっちだけずるい。
「ああ、そうそう。俺様ってば新入りには優しく接するいい男だからさぁー、人間ちゃんの分の雨笠、持って来てあげたんだぜ?有難く思いなよっ」
そう言いながら、チャラい天狗は持っていた雨笠を俺に押し渡して来た。
雨笠を受け取った直後は、中々気が利く奴なんだな、と評価を改めてみようかとも思った。が、それは一瞬のうちにして消え去ってしまった。
理由は簡単だ。何故ならこの雨笠…。
「いやぁ運が悪かったよねぇ~。もう残ってる雨笠を貸してもらったんだけど、それしかないらしくってさー」
雨笠は、見るも可哀想なくらいのボロボロ具合だった。編み部分が何か所も破れているため穴だらけで、最早雨具として機能できるような状態ではないと見ただけで判断できるほどだ。
しかし、素材の品質を見る限りでは年月の経過による劣化でこうなった物ではないと推測できる。これほどひどい状態になるにしては、材料がまだ新しいからだ。それに何ヶ所か、人工的に作ったような綺麗な切り跡が確認できた。
どうしてこうなったかは……まぁ予想できるな。
「あ、事務の人らに言っても無駄だから。さっきもいったけどこれしか残ってないんだってさ。俺もこう言ってるんだから、早く仕事に行くんだぞ?」
目の前の男は申し訳なさそうな感情が一切ない、どころか思いっきり楽しんでいる表情をしている。
言わずもがな、俺に対する嫌がらせ何だろうが…やる事が小さい気がする。
そうして、男は別れの言葉を継げながらその場を去っていった。やはりあの男がいない方が空気が良いのは気のせいではないよな。
ま、何はともあれやる事は終わらせたんだし…。
「んじゃ、行きますか」
「え…ちょっとあんた、まさかその雨笠で行く気?」
雨笠って言うか、最早ガラクタと成り果ててしまってるんだけどなコレ。
「いや、別にこれは使いませんよ」
「…は?」
「俺の能力を使えば、別に雨なんてどうとでもなりますから」
そう。
俺の『炎と熱を操る程度の能力』…その中の熱を操って俺の周辺の熱を一気に高めれば、雨なんて身体に届く前に蒸発できるのだ。
仮に濡れていたとしても、俺自身の服と体の温度を上げればあっという間に乾かすことが出来る。地味だけど便利なんだよな、この能力。
「……じゃあなんで此処に来たのよ?」
「…………」
あんたが連れて来たんでしょうが、と言ったら殴られるだろうか。
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午前の巡回も何事も無く終わり、休憩時間に入っている。
外は未だに雨が降り続いていたが、時間が経って勢いも控えめになって来ていた。この分なら午後の途中で止んでくれるかもしれないな。
というか、止んでほしい。能力を使用しながら何時間も働くというのも結構大変なんだ。一日くらいならまだ耐えられるけど、疲れることに変わりないから是非ともお天道様にはご機嫌になってもらいたいものだ。
さて、リクエストも通したところで昼食タイムに入るとしよう。
今日は能力を長いこと使った所為でいつもより腹が減ってるからな、少し多めにとっても罰は当たらないだろう。さぁ、今日は何を食べ――
「あぁ
「ん?」
声がするのは厨房の方からだった。
俺が料理から視線を外してそっちを見てみると、厨房で料理を作っている一人のおばちゃん天狗が、こちらに手招きをしている。申し訳なさそうな感じが表情から漂っているが…一体どうしたのだろうか。
「あんた、何かやらかしたの?」
「いや…いただきますとご馳走様は欠かさずに言ってるし、飯を残したことも無いですけど」
「あっそう…まぁ早く行ってきなさいよ。特別に待っててあげるから」
射命丸からもそう言われ、俺はおばちゃんの近くに寄ると彼女の話を伺う姿勢に入った。
重々しげながらも、おばちゃんはゆっくりと口を開き…。
「ごめんけど…今日はここでご飯を食べるのは止してくれないかい?」
「えっ?」
言い難そうにしながらも、彼女は確かにそう言った。
食堂で飯を食うなって、俺別に食堂に迷惑を掛けた事なんて無い筈だけど。……はっ、まさかいつもより多めにご飯を取ろうとしたことがばれたとか!?それで対策として俺を門前払いに…!
……なわけないか。
原因は言わずもがな。俺は食堂内の様子を横目で確認し始める。
ヒソヒソと、俺の方を見ながら隠れて会話をしている者もいれば、来るんじゃねえよと目で訴えてきている男もちらほらといる。
更に奥のテーブルでは、朝絡んできた男とその舎弟がニヤニヤしながらこちらの様子を眺めていた。
「茂武副隊長が直々に命令してきちゃってねぇ…『あの仮働きの侵入者にここで飯を食わせるな』って。それに他の人たちにも
「茂武副隊長?」
「ほら、あそこの奥の方にいる人だよ」
奥の方……あ、あのチャラ男か。あいつって射命丸より偉い立場だったのか、どうりで射命丸が強く避けられないわけだ。
まぁそれはどうでもいいとして。やはり俺が昨日の子を助けたことが随分と触れ回ってるみたいだな…下手したら天狗全員に知れ渡ってる事だって有り得る話だ。
…仕方ない。ここで騒ぎを起こすわけにもいかないし。
「…分かった。それなら明日以降も来ない方がいいよな」
「そうしてもらえると助かるよ。ちゃんいつも美味しそうに食べてくれるし、食べ終えたら声も掛けてくれるからアタシたちも作り甲斐があったけど……本当に、ごめんよ」
沈痛な表情で俺に詫びると、おばちゃんは厨房の方へと戻っていった。
折角飯を食べようと思っていたんだけどな…仕方ない。人間の俺にも平等に美味い飯を作ってくれたおばちゃんたちに迷惑を掛けるわけにもいかない。
「ちょっと人間、何の話をしてたの?」
「…すいません、今日はそっちだけで飯を済ませておいてください」
「あ、ちょっと!」
「…戻るか」
食事をしない食堂にいてもどうしようもない。俺は空腹のままの胃袋を連れて食堂から出て行った。
最中、後ろから茂武とか言う男の笑い声が聞こえた。
――――――――――――――――――――――
ぐぅ~、と腹の音が鳴り響く。
「腹…減ったな」
能力の長時間使用で空腹感は普段以上。それに加えて食堂では食事をすることが出来なかったため、実質昼食抜きのキツイ状態だ。
何とか午後も乗り切れるように気を張ってはいるんだが…やはり力が出ない、出そうとするたびに胃袋がクレームをつけて来なさる。こっちは何も入ってないんだから力むんじゃあない!とでも言いたげな様子である、俺の胃袋。
空腹のお陰で、今は多少の雨が降っているが能力の使用を避けている所だ。少しずつ衣服や身体が濡れてしまっているが…あとで纏めて乾かしてしまうか。
それにしても…天狗の縄張り意識とはずいぶん強いんだな。
俺がここに足を踏み入れてしまった時も、出会った時の天狗は問答無用で俺を斬り殺そうとしてきた。まぁ俺が不覚にも無視をしてしまったことで拍車が掛かってしまったっぽいが。
しかも人間だけでなく、他種族の妖怪すらも始末しようとしているときたものだ。昨日の河童の女の子に対する処置がそれを物語っている。天狗ってここまで縄張りに徹底していたのか。
しかし天魔は此処の事を知らない俺を生かすような処置を施しているし…。あの天魔があんなに排他的だとは思えないんだが…。
そう言えば、今の天魔って新しく赴任したって誰かが言ってたっけ。
…天魔とそれ以外の連中での処置の仕方がどうにもちぐはぐとしているな…いや、現状の俺の扱いを考えると、寧ろこうなる事を見据えて罰として天魔は…?
――ぐぅ~…
と、色々と考えているところの俺を前触れも無しに腹の音が妨害してきた。直後には空腹感も一緒になって俺の思考を妨げてくる。
あぁ…考え事をしてたらますます腹が…。
と、そこへ…。
「…案の定、情けない姿になってるわね」
昼食を終えた射命丸が、片手に小さな袋包みを持って俺の元にやって来た。空腹に加えて雨で濡れている俺は、傍から見たら確かに情けない姿なんだろうな。否定できないのが悔しい。
「ああ、どうも。もう休憩は終わりましたか?」
「それはもう平和的にね。……やっぱり茂武が一枚噛んでたみたいね」
「らしいですね」
「周りの人たちの話を盗み聞いてみたら、どういう事なのか理解できたわよ。まったく…だから昨日言ったじゃない、面倒な事になるって」
「ははは…まぁ性分ですから」
乾いた笑顔で、俺はそう答えた。
「随分と損な性分ね……ほらっ」
「うおっ」
射命丸が無造作に投げつけてきた袋包みを、俺は何とかキャッチする。もう少し優しく投げてくれんのかね、この人は。
というか、今の衝撃で結びが解けて……!
「食堂のおばさんたちからよ。残したりでもしたら殺されるかもね」
「…残すわけないでしょう」
包の中にあったものは、笹の葉を下に敷いている3個の握り飯だった。更にその傍らには漬物やお浸し、更になんと焼き魚の切り身もあった。
こんな物を渡されて残すなんて…そんなことできるわけがない。
「…いただきます」
合掌と共に感謝の台詞を述べると、俺は握り飯を豪快に一口食す。塩気もほんのりと感じた瞬間、ここまで手を込めて作ってくれたことに対しての嬉しさが湧き上がってきた。
空腹の胃袋に次々と食べ物を入れていく。大食いキャラでないにも関わらず、その手は次々と飯に手を付けていった。
「……ごちそうさまでした」
それらを完食するのに、5分とも掛からなかった。
笹の葉も片付けると、俺は立ち上がってさっきから何も言わない射命丸の方へと体を向ける。
「…ありがとう」
俺は射命丸に対して、そう告げた。
言われた当人はというと、眼をパチクリとして呆けたようなリアクションを一度とったかと思うと、すぐに怪訝そうにジト目でこちらの方を見てきた。
「…なんで私に対して言ってるのよ。言うなら食堂の人たちに言ってきなさい」
「今の飯、もし射命丸が渡してくれなかったら俺は食えてなかった。けど、こうしてちゃんと俺に渡してくれた」
俺のその発言で、彼女の表情が再び切り替わった。訝しげにしていたものから、今度は虚を突かれたかのように驚いたものへと。更にその表情にはただ驚いてるだけじゃなく複数の感情が入り混じっていると、傍目で感じられた。
何はともあれ、確かに俺は射命丸に感謝している。
彼女は他の天狗とは違い、こうしてちゃんと対応してくれているし接し方もいつもと変わらない。少しつっけんどんな所はあるが、十分
その辺りも含めて、俺は彼女に告げたのだ。
ありがとう、と。
「~~~っ!ああもう、別に礼を言われる筋合いは無いわよ!あんたは真っ当な対応をしろって天魔様から言われてるだけだし、別に深い意味なんてないわよ!」
「深い意味?」
「うっさい!追及するな!」
…何か意図があったのだろうか、飯を渡してくれたことに。
いや、でも本人は無いって言ってるから別に気にしなくてもいいのか。
少しすると射命丸の方も落ち着いたようで、先ほどのように感情的な様子は一先ず無くなっていた。
「…それと、敬語が抜けてるわよ。私の事も呼び捨てにしてたし」
「あっ」
思わず忘れていた…。
「はぁ…まぁ良いわよ。何か聞いてても違和感しか感じられないし、どうせあと3日程度だから普通の話し方をしてもいいわ」
「あ、そう?じゃあ遠慮なく」
「切り替え早くない!?あんた絶対心の中では私のこと呼び捨てにしてたでしょ!」
「いや、当たり前だろ」
「あんたって奴はぁ…」
その日の午後は、午前や昼休憩の事があったのにも関わらずいつもより賑やかな時間を過ごすことが出来た。
――終
『天狗山の激闘』編もいよいよ後半に突入…あれ、これまで全然激闘していないような気が…。
…まぁ、次回で漸く激闘が始まるから大丈夫ですよね?(震え声)