ちなみに清く正しい射命丸さんですが、今満希がいる時代ではかなり若年の設定としています。だから取材モードと素の切り替えも無いのでタメ口全開となっているです。&若気の至り!
射命丸は敬語じゃないと駄目だろjk…という意見を持つ方もおられるかもしれませんが、その辺りはどうか温かい目で見守ってください。幻想郷編に入ったらちゃんと敬語も使っていますので。
???「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
???「この街を泣かせる奴は…許さねぇ!」
???「絶対ゆるさねぇ!!」
えー!?
早苗「絶対許早苗!」
あぁ、あなたは別にいいや。
早苗「えー!?」
里を出てから数十年。
酒を飲み、喧嘩をする日々に一味違う刺激がほしかった俺は、強い存在を求めて各地を転々と巡って来た。同族とは違う強さを持った存在と戦うために。
里の奴等も、俺の土産話を楽しみにしながら俺を見送ってくれた。次に帰った時にはどんな強い奴がいたか、酒の肴に目一杯語ることを約束して。
しかし、どいつもこいつも俺の期待を裏切ってばかりだ。
最初は威勢よく向かってくる野良妖怪も、ちょっと小突いただけで尻尾を巻いて情けなく逃げて行った。歯ごたえなんてあった物ではない。最近になっては、俺の角を見ただけで逃げ去ってしまう奴もいるくらいだ。
やはりこの血の滾りを満たしてくれるのは、同種しかいないのだろうか。
そう思っていた俺だったが…近頃とある話を小耳に挟んだ。
この近くの山に住む天狗という種族は、天魔という長を中心にした組織を形成しており、また、縄張り意識が非常に強く侵入者は容赦なく始末しにかかって来るのだとか。
-―おもしれぇ。
そう感じずにはいられなかった。
侵入者を容赦なく倒すという事は、その天狗という種族はそれ相応の実力を備えているという事だ。更にその上には天魔という頂点が控えている、それは更に強者だと予測できた。
そいつらなら、きっと、俺に刺激を与えてくれるに違いない。
好奇心に対して従順な俺は、その天狗がいるという山に足を向けた。その胸の中には確かな期待感が宿りつつある。
さぁ、天の狗たちよ。
貴様たちはをどこまで楽しませてくれるか?
――――――――――――――――――
5日目。
何だかんだでここでの生活も半分以上過ぎてしまっていることに気付いた。今日を含めて後三日働けば、俺はめでたくここから解放されるという約束だ。
何故だろうか…最初は『一週間なんてあっという間だろ』みたいなことを考えていたのに、現時点で長く感じてしまっている。旅の頃には無かった濃い一日が詰まっている所為だろうか…でも基本ヒマだった気が。
まぁ、何はともあれあと3日。
いつも通り職務に励んでいくとしましょうかね。
「ようよう人間ちゃ~ん、今日もお仕事頑張ってる~?」
…こいつの絡みを終わらせてから。
「茂武さーん、こいつさっきから全然喋ってないっすよ。茂武さんの凄味にビビってるんじゃないっすかー?」
「ばっかお前、俺が人間相手に威圧掛けるわけないだろ?俺様が目の前にいるもんだから緊張しちゃってるんだって」
「なるほどっ、流石は茂武さんっすね!」
「だろー?ギャッハハハハ!」
目の前で騒いでるアホ二人はほっといて、とりあえず今の状況を説明しておこう。
先ず俺はいつも通り、射命丸と共に巡回を行っていたのだ。
しかしその途中で、射命丸が別の天狗に呼び出されたのだ。なんでも、天魔直々に話があるとかなんとか。
代わりの見張りを付けるかどうかは任せるとの事だったので、別に逃げはしないだろうという事で射命丸は代理の見張りを付けることはせず、俺一人を残して天魔の屋敷へと向かって行った。
で、一人で待っていた所に茂武と舎弟が現れて……今に到るというわけだ。
「まぁ、俺様を目の前にして緊張するのも無理ねーわな、という事で気分をほぐしてやる……よっ!」
「…っ!」
前触れも無く放たれた茂武のストレートパンチが、俺の顔面をとらえて迫ってくる。
俺は多少吃驚したものの、問題なく見切ると身体全体を反らしてその一撃を躱す。
避けられたことが面白くなさげな様子の茂武に対して、俺は冷ややかな視線を送りつつ距離を取る。
「あーあー、そこで避けるとかマジありえねー。普通は殴られてカッコ悪くぶっ飛ばされるところだろうがよー」
「…どういうつもりだ?」
「こういうつもりだよ。いつもは文ちゃんが一緒にいるし、何より天魔様がお前に無闇な危害を与えない様にって俺たちに通達してるから、誰かの目があっちゃこんな事できないからよー」
「そうそう、それに最近の射命丸はお前の事信用してるみたいだしな。天魔様の命令もあって余計に難しかったんだぜぇ?」
「けど問題の文ちゃんは天魔様の屋敷にいる……お前をボコボコにする絶好の機会ってワケ」
ゲスじみた笑みを浮かべながら、そう語った茂武たち。
これまた随分と小物じみた言動だこと…そこらのチンピラと何ら変わりないぞこいつら。
こんなことをする動機は……まぁ聞くまでも無さそうか。そもそも俺は人間であり天狗にとっては見下すべき存在、加えて最近は侵入者を見逃すなんて事もやってしまっている俺だ。この手の連中にとっては気に入らない行動だったのだろう。
…なら、この間の時に止めればよかったんじゃないのか?侵入者を倒す名目で、俺を攻撃することも出来た筈だし、立場上、射命丸も動けなかった筈じゃ…。
「おーいお前らぁ!そろそろ出て来いよ、こいつボコんぞー!」
すると、茂武はどこへ向けてでもなく声を張り上げる。その直後、奴の声に応じて近場の草陰から複数の若い天狗が現れて俺を取り囲み始めた。誰もが俺を敵視するような眼をしている。
「いやー、あん時侵入者と一緒にお前も始末するのも悪くは無かったけどさ、もっと面白くするために今日お前をボコボコにしたい奴集めたら、すぐにこんだけ集まってくれたぜ?人気者は辛いよね~」
…なるほど。
つまりあの時あっさり見逃した理由は、俺が天狗の間で問題視されることと今回の状況を生み出す準備をする事、というわけか。俺の行動を良く思わない連中を集めて、今日という日に一斉に攻撃を行う。
天魔の命令がある筈だが…あくまでこれは命令無視の行動なのだろうか。
まぁいい。やられる前にやり返せば――。
「おっと、下手に逆らう真似しちゃダメだと思うぜー?ここで抵抗すればお前の評価は更にガタ落ち、お前に温情を図ってくれた天魔様や監視役の文ちゃんの評判も一気に低くなるぞ?しかも文ちゃんはお前を信用して一人で残してきたんだから、それを裏切るとなると…」
「…っ」
憎たらしいが……確かに茂武の言うとおりだ。
俺が今こうして無事でいられるのも、天魔が処刑を見逃すだけでなく、滞在中は天狗たちに俺に危害を加えない様に触れ回ったお陰だ。…これはつい最近知った事だけど。
射命丸に至っては俺の監視役、俺が面倒事を引き起こさないために配属されているのだ。しかも今は俺が何も問題を起こさないと信じて離れてる、そんな時に俺が暴れてしまえば…。
この天狗の山に足を踏み入れたのは、間違いなく俺の知識不足と不注意だ。
しかし天魔は侵入者扱いの俺に生きるための機会を与えてくれ、射命丸も突っぱね気味ではあるがちゃんと俺に接してくれた。
ここで俺が戦ってしまえば、二人の名誉は有害な侵入者を無暗に匿ったという名目で確実に崩れてしまう事だろう。そんな二人の恩を仇で返すようなことは、俺には出来ない。
非情に歯痒いが……俺は、こいつらに対して抵抗することが出来ない。
「………」
構えかけた拳を、力が抜けるようにゆっくりと下ろす。抵抗が出来ないのならば、構えた所で意味が無いからだ。
俺が抵抗しない事を察した茂武は、今まで以上に口角を吊り上げて笑みを現すとこの場にいる天狗たちに対して、ただ一言発した。
「やれ」
茂武による開始の言葉。
統率者による号令と共に、周りの天狗たちが四方八方から一斉に俺に襲い掛かってくる。
先ずは後方に位置していた天狗が俺の背中に肉薄すると、両腕を脇から掛け俺の動きを封じてくる。
すかさず、前方の天狗が俺の腹部に目掛けて鋭く拳を打ち放つ。
突き刺さる拳の痛みに、苦悶の表情が俺に浮かび上がる。
しかし、まだまだ攻めは衰える筈がない。別の天狗2体が俺の頬に一撃、更に腹部に一撃とパンチをお見舞いしてきた。
肉の薄い頬に掛かる鋭い痛みに囚われた直後に、鈍器のような重みの痛みが腹部に生まれる。胃の中を吐き出すような感覚に襲われるのも難儀な話ではなかった。
「ごふっ…!」
切れた口内から出た血と僅かに湧き上がった胃酸が混じった物が、少量だが口から吐き出してしまう。
威力そのものは、以前の諏訪大戦時の闇妖怪・ルーミアには程遠いがこちらは狙いが的確な所為で余計に痛く感じてしまう。
ルーミアで思い出したが、最近こういう痛みを感じたことが無かったな…旅の途中で出会った野良妖怪はそこまで強くなかったし、久々のせいか余計に痛いのかもしれない。
その後も、天狗たちは動きを封じられた俺に対して暴力を振るっていった。いちいち数えてはいないが、大体20発位は殴られただろうか。
どうやら、流石に少し喰らいすぎたみたいだ。視界がいつものような鮮明さが無い、ぼんやりとしたものとなっている…それってヤバくね?
「ふ~ん、人間にしてはかなり頑張ってんじゃん。妖怪の力なら普通一発目で気絶、2回も喰らったら最悪死んでる筈なんだけど…お前、ホントに人間?」
「…人間だ」
妖力持ってるとかでもないし、急速な再生能力もあるわけではないから種族としては間違いなく人間だ。…まぁ軽く人間のカテゴリから外れてるけどな、さすがにその辺は自覚してるつもり。
「…ま、いいや。お前が何であろうとボコることには変わりないし、なっ!」
「ぐぁっ!」
茂武の一撃と同時に、俺の拘束が漸く解かれる。その代わりとして俺は殴られた衝撃で地面に転がり、倒れ込む。
俺は手をついて上半身だけ起こし、天狗たちの方を見る。まだまだ殴り足りないのだろうか、全員やる気十分といった顔つきである。サンドバッグの身にもなれコノヤロー。
さて、この状況はどうしたものか…………ん?
「おっ、まだまだ元気あるじゃん。ならもういっちょとっ捕まえて――」
「茂武さぁ~~ん!!」
やはり、俺の見間違いとかではなかったみたいだ。
茂武が再び俺に仕掛けようとしたその時だった。後方の空から一人の天狗が茂武の名を呼びながら、こちらに向かって来たのだ。
やって来た天狗は地面に足を着けると、そのまま茂武の近くへと駆け寄った。汗をかいたその顔には焦りの様子が包み隠さず浮かんでいる。相当急いできた…だけではないらしい。
「ちょっと何だよー、折角人が楽しん出るって時に――」
「お、鬼が……鬼が攻めて来ました!」
邪魔をされてつまらなさそうにしていた茂武の表情を一変させるには、その言葉はあまりにも効果的すぎた。
報告を聞き終わった瞬間、茂武の表情は化け物でも目の当たりにしたかのような恐怖心に煽られた表情となった。連動して顔色も病人のように蒼白気味に成り変わり出す。
「は、ははは…お、鬼……ちなみに、数は?」
「どうやら、一人のようです。ですが…」
「ひ、一人か……いや、まだ問題ない筈。余計な増援が現れる前に巡回兵を集めて袋叩きに――」
相手の数を聞いて希望を見出した茂武が、それでも乾いた笑顔で支持を出そうとしたその時だった。
ズンッ、と。
重々しい威圧感が瞬時にその場を支配する。まるで地球の重力が重く変化したかのような感覚、身体に張り付いて地に叩き伏せようとする重みだ。
それと同時に俺は察知する、コレは妖力だと。巡回の天狗ではどうやっても出す事の出来ない、非常に強い密度の妖力がこの重圧の正体である。
その根源が誰なのか……言うまでもないだろう。
「…………」
茂武の乾いた笑顔が3分と続くことは無かった、仕方ないと言えば仕方ないかもしれないが。まるでこの世の終わりを見たかのような絶望感に満ちた表情に加え、生気を抜かれたかのように血の気が失せた顔色となってしまっている。
終いには涙目になってるし…なんていうかもう、目も当てられない程に顔が荒れてしまっている。
「……と」
「と?」
「突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!!死にもの狂いで突っ込むぞぉぉぉ!!」
あ、自棄になった。
「ちくしょー!!折角副隊長にまで上り詰めたって言うのに、なんでこんな厄介事が舞い込んでくるんだよぉぉぉ~…………!」
と盛大な愚痴を零しながら、部下を引き連れて妖力のする方向へと飛んでいった。何だかんだで防衛の意志がある辺り、そこだけは尊敬できる気がする。
さて、誰もいなくなってしまったわけだが……。
「…仕方ないか」
やれやれ、身体が痛むっていうのに……。
――終
次回、鬼さんが大暴れ!