モード・カグツチ大活躍!
もう まけないぞ!
その場の空気が落ち着いたことにより、戦いの火蓋が再び切って落とされた。
俺が落ち着いていると判断したら否や、鬼は一直線に俺の元へと駆け出し、拳を撃つべく振りかぶった。
鬼の一撃がどれほど強大で重いものなのか、先程の戦いで良く熟知できている。百聞は一見にしかず、そしてその一見は一験にしかず。身を以て知るというのは実に理解が深くなるという事がよく分かった。
先ほどの俺であれば、たった今放たれようとしている鬼の拳に危機を感じ、避けか受け流しに徹するほか無かっただろう。まともに受けようとしても結局手痛い目に遭うだけだと。
しかし、今の俺はそうではなかった。
今の俺には、あの拳を止めることが出来るという確かな自信が胸に宿っているのだ。
迫りくる拳。
俺はそこにそっと掌をかざすと……。
「んなっ!?」
鬼が動揺の声を挙げるが、それもそうだろう。
なんせ、鬼の拳を難なく受け止めてしまわれたのだから。先ほどまでの俺の力を考えると、信じられない光景だろう。
やはり今のこの姿、身体能力が格段に跳ね上がってるみたいだな……また落ち着いた頃に色々と試して、性能を明らかにしておくか。
それはそうと、鬼さん。そんな呆けたツラしててもいいのか?
「ふっ」
「ぐあっ…!?」
未だに動揺が冷めないままの鬼に対して、隙ありとばかりにパンチをお見舞いする俺。
素の状態で能力を駆使して殴った時よりも、明らかに鬼の反応が違う。明らかにダメージを負っているのが目に見えて確認できた。
俺のパンチを食らって軽く後ずさった鬼と再び均等な距離を作るために、ゆったりとした歩調で歩み寄る。
先程殴った時やこうして歩いてると分かるのだが、この鎧は実に不思議だ。これほど身体を覆っていて重そうに見える装備なのに、全く重みを感じることが無い。まるで普段の服を着ているかのような感覚だ。
「くそ…嘗めんじゃねぇ!」
と、鎧の驚きの軽さに感心している場合じゃないな。鬼の反撃がやってきている。
今度は蹴りを放って来ているが……。
今の俺には通用しない。
「また防がれ…ぐぁ!?」
鬼の強靭な蹴りをガッシリと腕で受け止め、隙を晒しているその体に対して踏みこみつつ拳を放つ。
俺の拳による一撃は、先程と同様に鬼の身体を後方へ向かって後ずさりさせた。初撃の時といい今の攻撃といい、やはり今の俺の攻撃力は鬼の肉体にも十分にダメージが通ほどにパワーアップしてるんだな。
これほどまでに自身の力が上がった様を目の当たりにすると、どうしても心に嬉々とした物を感じてしまう。やっぱり俺も男だし心は十代のつもりだし、こういう物には憧れてたのかもしれないな。
「くそっ……これならぁ!」
…っ?
何だ、急に体がアイツに引き寄せられてるような気が……。
「って、ホントに引き寄せられてるのか!」
「おらぁ!」
「っづ…!」
呑気にノリツッコミをやっている最中、鬼に向かって引き寄せられていた俺の身体には拳が迫っていた。
鬼の剛腕は俺の胸部辺りに直撃し、俺は痛みと衝撃を感じながら後ろに数歩ずり下がる。というか、鬼の一撃がこの程度って…鎧のお陰か頑丈さも随分と上がってるみたいだな。
しかし、今の引っ張られる感覚…鬼の種族が持つ特有の力、とは思えないな。そんな話は昔も最近も聞いたことが無い。
とすると、奴の持つ能力ってことか……。
「どうだ?これが俺の持つ能力『引き寄せる程度の能力』だぜ」
「…意外にあっさり教えてくれるんだな」
「別にこそこそ隠してたって意味ねぇし、知られるのも時間の問題だろうしよ。なら教えたって別に差し支えねぇだろ」
確かに、あと2,3発くらい能力を使う所が見れたら答えに辿り着けていたかもしれないな。
それにしても、引き寄せる力か……鬼からすれば、自分の得意分野の間合いを生み出せるから有効的な能力だろうな。
下手に離れようとしても、恐らく奴はこちらを遠距離戦に持ちこませないように能力を使ってくるはずだ。そうなるといくら距離を取ろうとしても無駄になる、か。
…ならば。
「っ、おいおい…俺から離れたって無駄なのはもう分かってる筈だろ?」
そう。俺は奴から距離を取るべく後ろに下がり始めたのだ。
確かにこのままだとあいつは能力を使い、俺を再び接近戦に持って来ようとするに違いない。
そこが狙い目だ。
「戻ってきてもらうぜ…おらぁ!」
来た。
身体が向こうに引き寄せられる感覚、奴が引き寄せの能力を使ったのだ。
俺は身体に掛かる変化に即座に反応すると、後退しようとしていた足を止め、グッと力を込めて大地を踏み入る。
そして、一気に地を蹴った。
俺の身体はさながらロケット花火のように急速に直進を始め、かつてないスピードで鬼の元へと肉薄した。
「なにっ!?」
余計に抵抗しても相手に準備の時間を作ってしまうようならば、そんな無駄な抵抗は切り捨てる。遠ざかっても近づけられてしまうのならば、いっそその流れに乗ってしまえばいい。
俺は相手の引き寄せる力を利用し、それに自分の力を上乗せして一気に鬼の元へと近づいたのだ。
「はぁっ!」
その流れを乱さないまま、俺は加速が加わった拳撃を鬼へとお見舞いする。そして身じろぐ鬼に追撃として、飛び蹴りを放った。
蹴りをまともに受けた鬼は苦しげな呻きを上げつつ、勢いよく後方へと吹き飛んでいった。
地面を転がっていく鬼を見据えながら、俺は相手に向かって言い放つ。
「さて…もう降参したらどうだ?これ以上戦っても、そっちの勝ち目は薄いと思うんだが」
そう。形勢は既に俺の方へと傾いている。今の俺は相手よりも確実に戦闘能力が上だし能力も先ほど破ってしまった。鬼にとっては肉体のポテンシャルこそ売りであり、能力による間合いの有利化も存在していたが、今となってはどちらも覆された状況だ。そんな中で戦っても勝算は低いだろう。
だから俺は、鬼に向かって降伏の勧告をしてみたんだが……。
「降参なんか……絶対にしねぇよ。俺は誇り高き鬼なんだ…お前のような強者に負けそうだからって、それにビクついて屈服するなんて真似、絶対にしねぇ…!」
鬼はヨロリと不安定気に立ち上がりつつそう告げてくる。そして最後まで立ちきった時、足を大きく開け、どっしりとした態勢で俺の方へと拳を構える。
「どんな敵だろうと関係ない…俺は、最後までこの拳を振るい続けるぜ…!」
笑っている。
自分の方が不利だというのに、勝ち目が圧倒的に薄いというのに目の前の鬼は笑っていた。小さな子供のように無邪気な笑みを浮かべながら、俺の眼をジッと捉えてきている。
きっと、楽しいんだろうな。拳を交える今の瞬間を。戦士と真っ向から戦う今の時間を、目の前の鬼は何よりも喜んでいるんだ。
ならば俺は、もうそれを止めることなんて出来ない。
ここで戦いを止めてしまうという事は、そんな鬼の期待・楽しみ・誇り。それら全てをぶち壊す事と同義となってしまう。
最後まで付き合おう、この戦いに。
「……」
俺の右腕に、炎が灯る。
火は俺の腕全体を包み込むように湧き上がると、フィナーレに華を添えるかのような盛大さで、轟々と激しく燃え上がり始める。無意識的に、俺の意志が能力に反映されたのだろうか。
「行くぜ…」
向こうも腕の筋肉を膨張させて、丸太のように太い豪腕を構えている。向こうも準備万端か。
緊迫した空間が支配する。まるで西部劇でのガンマンの決闘を彷彿とさせる、風の音のみが漂う時間。
しかし数秒と掛かった頃には、既に鬼の身体は待ちきれないとばかりに動き出していた。
鬼が、こちらに向けて走ってくる。獣のような猛声を放ち拳を大きく振りかぶりながら迫るその姿は、やはり妖怪でもトップの種族としての凄みや勢いを感じた。そこらの下級妖怪や人間では、恐らくこの時点で気絶して終わるかもしれないな、強化前の俺でも尻込みしかねなかったかも。
だが、今の俺には眼前の強大さをどうにかする程の力が存在しているお陰で腰が引けるような事にはならない。確かな自信を胸に真正面から立っていられた。
俺と鬼との距離は、拳が届きそうなほど縮まった時。
鬼は、その拳を鋭く突き出す。
そして俺は。
迫りくる鬼の拳を見切った瞬間、ほんの僅かに首を動かした。
照準が動かされたことにより、鬼の拳はチリッと俺の頬を掠めながら空を切る。
驚嘆する鬼。
俺はその隙を逃すことなく、炎の拳を再度握りしめると。
鬼の腹部に、豪烈な一撃を叩き込んだ。
「~~――っ!?」
メリメリと音を立てながら鬼の腹に突き刺さる俺の拳。
目が飛び出んとばかりに見開き、口元が大きく開く鬼の表情。
その瞬間、まるで爆弾の爆発のように俺の腕の炎が盛大に炸裂をし、鬼の身体を巻き込むといとも容易く吹き飛ばしていった。
鬼の身体は素早い勢いで吹き飛ばされると、そのまま後方にある木々を数本へし折りながら飛んでいく。そしてやがて止まった時には、鬼の身体はギリギリ目視できる程度の距離まで、森の奥へと吹き飛ばされた。
…これまた、盛大に吹き飛んだな。一応相手は鬼だし、手加減せずに挑んだんだが……やりすぎたか?
「…まぁ、後で何とかするか」
侵入者である鬼がたった今倒されたことにより、戦闘続きで騒々しかった森には静けさが立ち上る。
俺は落ち着いた周辺をもう一度見回して安全を再度確認すると、今度こそ身体に張っていた緊張感を解く。
……疲れた。何かもう、いろいろと大変だった。
急ぎ足で駆けつけるわ鬼と全力で戦う羽目になるわ、そもそもその前に天狗にこっぴどくリンチを受ける羽目になるわ…今日は厄日か?今まで暇だった分が纏めて清算されたかの様な多忙さだったぞ。
「…倒したのね?」
「ああ…っていうか無茶すんなよ。まだ身体ボロボロなんだろ」
射命丸が、腕を痛々しげに押さえながらフラフラと俺の元へと歩み寄ってくる。いや、普通に寝てても良かったんだけど…そんな無理してわざわざ立ち上がらなくてもいいって。
「……複雑ね。今までずっと馬鹿にして来た人間に山の危機を救ってもらった…なんて。後世に伝わったらとんだ笑いものよ、私たち」
そう語る射命丸の表情は、確かに気難しそうだ。
まぁ、気持ちは分からなくも無い。確かにこれまでの生活での俺に対する天狗たちの反応を考えると、今回の結果は天狗の高いプライドを大きくズタズタにしたようなものだ。
散々見下してきた種族に助けられたなどと周辺に知られれば、あっという間に天狗の評判はダダ下がりとなるに違いない。
…まぁ、でも。
「別に律儀に伝えなくても良いんじゃないか?」
「…つくづく、アンタってば変よね。この事が露見すれば人間たちの顔が立つし、何よりアンタたち人間を馬鹿にして来た私たちへの意趣返しにもなる筈なのに」
「別に、そういうのに興味ないしな」
今回の出来事をどうまとめるのか…その辺りは天狗の方で任せてしまおう、少なくとも元々は部外者の俺にどうこうする義理は無いし、そもそも面倒くさいし。
多分天狗の性格からして、自分たちで追い払ったことにするだろうけど……まぁ俺に何かあるわけじゃないし、いいや。
「取り敢えず、その辺りに転がってる天狗たちもどっか安静に出来る場所に運んでおくか」
「……そうね」
「怪我人筆頭は引っ込んでていいから」
現場に他の天狗が駆けつけてくるまでの間、俺たちは怪我人の処置に務めていった。
――終
●裏話
~鬼、出現!~
天魔「これは…っ!射命丸、直ぐにこの妖力の元に向かうのだ!」
射命丸「…はい!」
天魔「射命丸を向かわせたはいいけど……やっぱり私も行った方が良いかな…」
天魔「射命丸の妖力が……消えた……!?…私も行くべきね」
~天魔、出発!~
天魔「この感じ…あの人間も戦っているの…?」(一旦停止)
天魔「何この力は…!?今まで感じた事が無い…!!」(一旦停止)
天魔「鬼の妖力が感じられなくなった……一体どうなってるの…?」(一旦停止)
~~~
天魔「皆、怪我は無いか!?」
満希「いや、天魔さん遅いから」
天魔「あっはい」
天魔さんが来なかった理由:一々戦況の変化に驚いて立ち止まってた。
戦闘も終了したので、モード・カグツチ状態の満希について紹介をします。
『暁宮 満希―カグツチ・モード―』
【身長】172㎝
【体重】115㎏
【特徴】
カグツチの指輪を用いることによって変身する、満希の強化形態。容姿も普段のブレザータイプの学生服から刺々しい黒の鎧へと一変するようになっている。鎧の重さは数十kgだが、着用している本人には重さが感じられない仕様になっているため、スピードが鈍ることは無く、寧ろ上がっている。
基本スペックは従来の状態よりも飛躍的に上昇しており、膂力自体の向上によって攻撃力、防御力、俊敏性などが大幅に強化されている。特に攻撃力は上位の鬼に次ぐほどに強化されており、また、身に着けている黒の鎧で防御力も格段に上がっている。
向上された身体能力をフルに活用できるために武器は持っておらず、肉弾戦による近接戦闘を主なバトルスタイルとしている。更に能力の炎による火力強化を行うことが出来、そのパワーは上位の鬼を上回るほどになる。
しかしその一方で、炎の制御が限定的になるという制限がかかってしまい、炎を遠くに向けて放つことなどが出来なくなっている。ゆえに従来のバトルスタイルも合わせて考慮すると、完全近接型で遠距離攻撃を一切持ち合わせていない事がこの形態の最大の弱点である。
また、鎧の防御力についても問題があり、物理攻撃については生半可な攻撃では傷一つつかないほど頑強になっているが、魔法や妖力主体の攻撃については耐性があまり乗っておらず、殆ど普通にダメージが通ってしまう。そのため、遠距離戦を得意とする妖怪や魔法使いなどと非常に相性が悪い。
といった具合ですね。ポケモンで言うと『こうげき』『ぼうぎょ』『すばやさ』は恵まれているけど『とくこう』『とくぼう』は惨めな状態だという事です。今後戦う時はこの形態と通常時とを上手く使い分けて戦っていくようになっていきます。
満希「…なんでポケモンに例えたんだ?」
???「なんとなく例えやすかったから」