東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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???「学生生活ってね、もっと楽しむべきだと思ったね」
満希「何だ急に?」
???「いや、社会人になると昔の事をふっと思い出すんだけどさ…もっと学生だった頃にいろいろやっておけばよかったな、て思う事が出てくるのよ。ウチなんて高卒の後に専門にまで入ったのに、碌に青春してなかったなって」
満希「あー……うん、そうだったな」
???「というわけでこの小説を見ている学生の皆さん、若いうちに色んなことに手をつけて行くことをお勧めしますよ!」

結論:学生の頃に戻りたい。



第33話 天・狗・生・活5

 6日目。

 

 鬼の襲撃という激動の昨日が過ぎ行き、平穏な空気に満ち溢れた今日。天狗の山はいつもと同じように一日を始めていく。

 …とは言うものの、今日の山は人…と言うか妖怪の気が薄いせいか静けさがいつもより目立っている。

 まぁそれも無理のない事だろう、何せ先日での被害は重傷者が十数名、軽傷がそれと同数、その中間くらいの傷を負ったものが60数名と、中々に規模のあるものとなったからだ。軽傷以外の負傷者は、安静にするようにとのことで暫く療養生活を送る羽目になってしまっている。

 しかし結果的には誰もが命に別状は無い怪我ということだったので、そこは素直に喜ばしいと思える所だろう。

 

 もしあの時鬼を止められなかったら…下手をしたら無茶をして死んでしまう奴がいたかもしれなかったかもな。天狗って噂通りプライドが高いし、誇りがうんたらかんたらとか語りつつ、意地でも止めようとする奴だっていてもおかしくないし……絶対にいそうだな。

 

「…まぁ、少なくとも誇りとか関係なしの意地っ張りが居るけどな」

「何の話よ?」

「別に、何も」

 

 さて、そんな療養を勧められるほどの怪我をしていても尚こうしていつもの巡回を行っている意地っ張りさんはさておき。

 

 …いや、さておく前に聞いておこうか。

 

「なんで普通に仕事してんだ?休んだ方が良いって言われてたろ」

「なんでって……そりゃあ、私はアンタの監視役なのよ?アンタを放っておいて何か問題でも起こしたらそれこそ私に責任が回って来るじゃない」

「…代理で誰かつければいいんじゃないか?」

「ただでさえ致命的な人員不足だって言うのに、侵入者一人の監視に貴重な人員を裂くわけにはいかないでしょ。だからこうして無理のない程度に私が出てるってワケ……っとまぁ、もう何個か理由はあるけどね」

 

 まだ理由がある?

 ただでさえ今の仕事に不満を抱えてるっていうのに、怪我を負った状態でその面倒な仕事をやらされてる上でまだ理由があるというのか。なんだかだんだん可哀想な感じがしてきた…。

 

 ではその理由とは何なのだろうか?

 それを訪ねようとした直前、射命丸の方から話を切り出し始めてきた。

 

「まずはアンタをここで働かせた理由について話すようにって天魔様に言われてるから、そこから話させてもらうわよ」

「?…俺が働いてる理由って――」

「負傷した天狗の代理じゃないわよ。一応天狗だって数は揃ってたんだし、別の奴を回すなんて十分に出来たわよ。態々アンタを働かせる必要が無いくらいにはね」

「マジか」

 

 そういえば最初辺りに疑問に感じただけで、どうして此処で働くようにしたのかなんて深く追求してなかったな。追々判明させると考えておきながら、この件についてはまるで進展が無かった…。

 まぁその辺の疑問も射命丸から話があるということだし、ここは素直に耳を傾けて聞くとしよう。

 

「アンタが処刑されず、ここで勤務をするようになった理由は2つ」

 

 そう言って射命丸は、ピッ、と1本目の指を真っ直ぐに伸ばす。

 

「1つは天狗の生物としての立ち位置が他より上である事を示すためよ」

 

 

 

 射命丸からの説明を纏めてみると、以下のようになる。

 

 天狗全般が考えている外部の脅威から平穏を維持する方法は、1つに統一されている。

 

 それは『力の表示による恐怖』。

 

 自分たちは強い力を持った存在だ、だから手を出すことは危険である…という一種の威嚇行為。威嚇をされた対象は、天狗が元々強い種族であることを知っていれば益々その存在に萎縮し、知らなければ未知の強大さに怖れ、手を出すことをためらうようになる。それはすなわち、戦わずにして勝利と同等の意味を持つ。

 味方の損耗が無く、自分たちの安全が堅固なものとなる…天狗にとっては実に理想的な勝ち方と言えよう。

 

 そこが、俺をここで働かせた理由に繋がってくる。

 

 まず俺が天狗の下で働いている所を、事情を知らない余所者が見ればこのような考えを持つに違いない。

 

 『ついに天狗は人間を奴隷にするほどになったのだ』、と。

 

人間からしてみれば、天狗はいずれ自分たちを支配するつもりなのだと恐怖をし、妖怪との力量差を踏まえて戦意喪失に陥ることで自ら天狗から離れるようになる。これにより余計な戦闘は回避される。

 そして別の妖怪からすれば人間自体に実力が無い事を知りつつも、天狗の行動力に少なからず危機感を覚え、下手に攻撃をするのは不味いと察する。出る杭を打とうとして逆に返り討ちにされるという可能性を脳裏に過らせながら。

 

 天狗は人間を支配するまで力があり、勢いをつけている…それを外部に知らしめるという事が、俺をここで働かせた最大の要因だそうだ。

 

 

 

 一しきり説明を終え、ふぅと一息つく射命丸。長々とした説明、心に痛み入る。

 

「アンタは前に天魔様に投獄を提案したそうだけど、それだと外部に広めようとしても信憑性の薄い話として片付けられる可能性があったから却下にしたそうよ。百聞は一見にしかず、って言葉もある位だからね」

「なるほど、それで……けど肝心の外部の人が見てくれなかったらどうするつもりだったんだ?」

「そうね…滞在期間の延長か、近くの村に出向いて知らしめるとか…そんな事になってたかもね」

 

 やだな、それ。勝手に勤務時間延長とか労働者にはたまったものじゃない所業じゃないか。

 

「顔に出てるわよ、嫌そうな顔してる」

「マジか」

 

 と言いつつも、嫌な顔を隠したりもしなければ弁明もする気も起きないという。自分で言うのも何だが、どんだけ嫌がってんの俺。

 まぁ食堂の飯は美味いしこうして知った顔と話すこと自体は悪くないんだがな…いかんせん普段の業務がヒマすぎるのと、めんどくさく絡んでくる奴がいるのが難点ではある。

 

 …それで思い出した。ついでに聞いておきたい事があったんだ。

 

「なぁ、あの茂武とかいう奴はどうしたんだ?今日も絡んでくるかと思ってたんだが…」

「ああ…あいつならアンタに勝手に暴力を振るったことが天魔様にばれて呼び出し喰らってるわよ、今頃お説教でもされてるんじゃない?」

「…あいつも怪我してたよな」

「ええ、してたわよ」

 

 休む暇も無く説教喰らわせるとか…天魔も中々容赦ないな。

 

「そう言えばあいつとその仲間が前に言ってたんだが、なんで天魔は天狗から俺を守るような命令を出したんだ?」

「そうね…まぁ言ってしまうと、ここでアンタを働かせてる2つ目の理由に繋がって来るのよね」

 

 イマイチ意味が解せない、といった雰囲気を醸し出すと、それを察した射命丸の方から話が始まる。

 

「天魔様はね…天狗の長として立つには不十分なくらい優しい方なのよ」

「あの天魔がか?最初の頃結構キツイ威圧をかけら――」

 

 

 

 

 

『猫ちゃん可愛いよぉぉ~~~♡』

 

 

 

 

 

 ……あぁ。

 

「…どうかしたの?」

「…いや、なんとなくどころか大分納得出来たような気がしてな」

「…?取りあえず話を続けるわよ。今の天魔様は前任の天魔様のお孫様でね、その血縁が理由で今代の天魔様として選ばれたのよ」

 

 なるほど、お爺ちゃんが孫を跡継ぎにする…マンガとかだと孫が反発しそうな展開になりそうだな。…すごくどうでもいい感想だ。

 

「けど厳格な前任とは打って変わって今の天魔様はさっきも言ったけどお優しい方でね、以前までは制限されていた事を解放したり意見箱を作って積極的に皆の意見を聞こうとしたり、私たち部下の視点で物事を見て下さる方なのよ」

「ふむ」

「加えて、侵入者に対する処置についても改革を始めるようになったのよ。今までは山に入った時点で侵入者は始末するって決まりだったんだけど、天魔様はあくまで追い払うにすると定めだしたのよ」

「ふむ……なに?」

 

 射命丸の説明がある中で、俺はどうにも引っ掛かる部分があったため思わず疑惑の籠った声を挙げてしまった。

 射命丸は先ほど、天魔は侵入者を追い払う制度に変更したと言った。彼女が優しい人物だとはたった今聞いているから、別にそのこと自体は可笑しな事じゃない。

 

 …俺、此処に来た時思いっきり襲われたんだけど。それも殺すくらいの勢いで。

 それに俺だけではない、この間の河童の子だって穏やかな帰され方をされていなかった。この辺りはどう言う事なのだろうか。

 

 どうにも矛盾が生じてる気がしてならないんだけど…と感じつつ、その旨を射命丸に訪ねてみることにした。

 

 俺の質問を聞き終えた射命丸は、その問いに対しての答えを返してくる。

 

「新任期っていうのはいつの時代も忙しなくてね、今までとは規則が違ってくると自分の価値観と合わなくなる事が多いのよ。まぁそう言う連中は保守派とか言われてるわね」

「…なるほどな。まだ今の天魔のやり方に賛同してない連中がいる、と」

「そ。若い世代や穏健な人たちからは支持を得てるんだけど、年寄り組や天狗としての誇りを鼻にかけてる連中については、天魔様のやり方に不満を抱いてるのよ。賛同者はその反対意見を納得させるために色々と頑張ってるのが、今の時期ってわけ」

 

 なるほど、一見すると統制がバッチリ整っている天狗だが、裏側はそのような事情を抱えていたのか。だから俺のような侵入者を始末しようとする輩がまだ潜んでいると。

 そう聞くと天魔も大変なんだな…自分の立場を踏まえた上で双方どちらかに猛烈な反感が生じないような処置を施さないといけないのだから。先ほどの天魔の性格を聞く限りだと、俺を働かせた理由についてもこじつけ的な印象を感じてしまう。

 

 そうなると恐らく、2つ目の理由というのが…。

 

「で、長くなったけど2つ目の理由は…アンタを処刑したくなかったっていう天魔様の意志が絡んでるからよ」

 

 説明が長くなったことにより下ろしていた手を、射命丸は再度持ち上げると、ピッ、と2つ目の指を真っ直ぐに伸ばした。先ほど一つ目の理由を話す時に一本目の指を上げていたから、今のが俺が此処で働く2つ目の理由という解釈で良いのだろう。

 

 それにしても、天魔がそんな風に考えていたとはな…。さっきも侵入者に対する処置を甘くしたとかなんとか言ってたし、巡回兵の行動はどうあれ天魔自身はその方針を曲げずにいたかったか。

 とにかく、これで疑問に思っていた事も解けたので頭の中のモヤモヤ感も多少は拭う事が出来たであろう。態々教えに来てくれた射命丸に感謝しなくちゃな。

 

 …そう言えば、さっき射命丸はこの事を教える以外にも他に理由があってここに来た、といった言い方をしていたような気がする。俺の働く理由を説明する前に「まず」とか言ってたはずだ、俺の聞き間違いとかでなければ。

 なんだろうな。

 

「俺が働かされてる理由については分かった。それじゃあ、次の話を聞かせてもらってもいいか?」

「次?」

「ほら、お前が怪我をしてまでここに来たのって、それを教える以外にも理由があるんだろ?」

「あっ…え~っと…それは……」

 

 どうしたのだろうか?

 俺から話を聞きこもうとしたら、いきなり射命丸が落ち着きが外れた様に慌て始めた。手を忙しなく動かしたり、眼をキョロキョロと泳がせたりと見るからに不自然な動作だ。

 

「なんだ?実は別に他に理由は無かったとか?」

「そ、そうじゃなくて!ちゃんと理由はあって…その…あの……」

 

 

「あ、アンタの…………趣味って何…?」

「…?スマン、よく聞こえなかった。なんて言ったんだ?」

「や、やっぱり何でもないっ!もういいから、早く見回りに行くわよっ!」

「っておい、怪我人なんだからもうちょっとゆっくり歩かないと――」

「え…キャッ!?」

 

 言わんこっちゃない。態勢の崩れ方から察するに、たぶん草場の小石かなにかにつまづいたのだろう。だからゆっくり歩けと注意したのに。

 

 やれやれ…と心の中でため息を吐きつつも、俺は彼女が地面に倒れる前にその元に駆け寄ると、地面に激突する前に彼女の身体を受け止め支えた。

 

「へ…あれ…?」

「何やってんだか…怪我は無いか?」

 

 受け止めてはみたものの、もしかしたら止め方が悪くて余計な負荷を掛けてしまった可能性もあるため念を入れる名目で射命丸に安否の確認を尋ねる。

 しかし、彼女からの反応が無い。それどころか、まるで彼女の身体だけ時間が止まったかのように静止してしまっているんだが。

 

「……おーい、少しは反応してくれよー」

「…………――っ!?」

 

 動く様子が無いのでどうしたものか…と思っていた瞬間、射命丸は急にコンセントにプラグを挿し込まれたON状態の電気器具のように即座に反応を示すと、俺の身体から離れて自力で起きあがった。というかあまりに急すぎて俺もビックリしたわ。

 なんかよく分からんが、まぁこの様子なら問題ないとみていいのだろう。怪我してたらこんなに早く動けるとは思えないし。

 

「ああ、あ……!」

「…さっきからどうしたんだ?」

「…っ!べ、別に…何でもないからっ!」

 

 そう捲し立てると、射命丸は俺の方を見向きもしないまま、そそくさとその場を立ち去って行った。本当にさっきから行動に落ち着きが無いというか、妙にぎこちない印象を受けるな。

 

 ところで彼女の顔色が何となく赤かったような気がするが、風邪かなにかだろうか?でも病気って感じでも無かったしな。

 …見たところ元気だしまぁいいか、ってかこれでホントに風邪とかひいてるなら強制的に休ませてやる。

 

「って、俺を置いて行くなっての…」

 

 俺の事など気に留めないペースでどんどん先に行ってしまう射命丸に呆れつつ、俺は彼女の背中を追いかけることにした。

 

 

 

――終

 




恋愛事に敏感な人は、もう射命丸の様子が分かってるかもしれませんね。ここからそれっぽく射命丸の心境を動かしていくようにしていきたいのですが…上手く書ければ良いなー、頑張ります。
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