東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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永琳「小説を読むときは部屋を明るくして画面から目を離したうえでこの薬を飲むと良いわ」
満希「なんです?それ」
永琳「不眠症促進薬。これで一週間くらいは夜通しで読書が出来るわ」
満希「ウェ!?(;0w0)」



第2話 握手と出会い

 俺の能力による消却の危機を脱したこの森の中を、俺と八意さんは歩いている。

 

 話を聞いてみると、どうやら八意さんは薬の材料を集めるためにこの森に来ていたらしい。

 という事で、行く当てが解らない俺は一先ず八意さんの手伝いをすることにした。荷物持ちとか材料とったりとかの作業なので大したことは出来てないけど俺の所為で時間をとらせてしまったからこれ位はやらないと申し訳ない。

 

「律儀よね、あなた」

「何がです?」

「独り言よ、気にしないで。あ、これもケースに入れておいてもらえるかしら?」

「了解です」

 

 八意さんの指定した材料を、俺はどんどん渡されたケースに入れていく。勿論、種類ごとに分けられる内装になっているのでその通りに入れていくのも忘れない。

 

 そうして手伝いをしていく中で、俺は八意さんから色々と教えてもらうことが出来た。

 

 まず一つ目に衝撃的だったのは…ここは日本では無いという事だ。

 東京、大阪、京都。日本人ならしてて当然の地名を取り上げてみたが、八意さんがどれも聞いたことのない地名だと発言したのだ。

 ここが日本ではないと知った瞬間は、思わず自分の耳を疑ったくらいだ。けど八意さんも嘘を言っているようには見えなかったし、恐らく本当の事なんだろう。

 

 次に衝撃を受けたのが、さっき俺を襲ってきたような妖怪が普通に存在しているという事だ。

 ああいうのは偶然的なものかと思いたかったが、どうやら八意さんの住んでいる都の周りが妖怪がウジャウジャといるらしい。

 じゃあ妖怪に会わずに都に行けた可能性は…0だったな。あの妖怪のおかげで都があるって事知れたくらいだし。

 

 そして最後に、今の時間が2014年ではないという事。年号を聞いてみたけど数字が長すぎてさっぱり分からなかった。未来にでもタイムスリップしたのか?

 

 …ここまで来ると笑えてくるなー、自分の置かれてる状況に。

 

「そういえば満希、あなたはこれからどうするつもりなの?」

「これから?」

「そうよ。恐らく都に向かうんだと思うけど…まさか森に残るわけじゃないわよね?」

「あ~……」

 

 確かに、俺は妖怪に襲われてる最中に都の事を知って、色々と調べものしようとしたんだっけ。

 けど八意さんから色々教えてもらった今、都に行って何をすればいいんだ?

 時代や場所が違うってことは都に行っても蓮子たちもいない筈だ。そうなると調べものの価値も必然的に無くなってしまう。

 後はどうして俺がこんな場所に突然来たのかとかだけど……都に行ったところで分かるものとはとても考えられない。

 

 どうしようかとウンウン唸っている俺を見かねたのか、隣を歩いていた八意さんは俺に向かってとある提案を投げ掛けて来た。

 

「ねぇ満希。もしあなたが良ければだけど、私の仕事の手伝いをしてみない?」

「八意さんの手伝い?」

 

 それを聞いた俺は彼女の顔を窺って見る。

 彼女は自己紹介の時と同じような微笑みを俺に向けており、冗談を言うような目をしていない。

 

「手伝いと言っても、今日みたいに必要な材料を運んでもらったり書類を整理してもらう位の簡単な仕事だけだから。いうなれば助手のようなものね」

「それくらいなら俺でも出来そうですけど…いいんですか?さっき会ったばかりの奴にここまでしてくれて」

「構わないわよ。ただし、一つ条件を付けさせてもらうけれど」

 

 そう言うと、彼女は自身のひとさし指をピッと立てると、その指先を俺の方へと向けてきた。…どういう事?

 

「あなたの持つ能力、それについてデータを取らせてほしいの」

 

 能力って…さっきの炎を操るとかなんとかってヤツだよな。別にデータくらいとってもいいけど…でもホントにそれだけでいいんだろうか。

 

「さっき説明しそびれたけど、本来能力と言うのは大半が妖怪が持っているものなのよ。それぞれの能力に耐えうる肉体を所有しているからね。だから人間の身で能力を持つ人は中々少ないし、しかも本来は人体に害をなす炎を操れる能力と言うのはその中でもかなり珍しい部類に入るのよ」

 

 なるほど、そう言われると俺のデータを取りたいって言うのも何か納得がいく。

 

「それで、どうかしら?もちろん強制するつもりも無いから、伸るか反るかは貴方の自由よ」

 

 そうは言うものの、彼女の提案は実に魅力的だった。

 

 良く考えたら俺一文無しだし、どこかに宿泊するなんて選択肢は自動で消去されている。無論、働かせてもらうためのスーツや履歴書なんかも用意できるわけがない。それに引き替え、八意さんの所に行けば少なくとも自分の仕事は確実に確保できる。

 住居は…あとで訊こう。最悪、お金借りるか給料前借りで凌ぐとしよう。

 

 この話、乗ろう。

 

「はい。喜んでその提案、受けさせてもらいます」

「決まりね。ならこれからよろしくね」

「はい!」

 

 八意さんが差し伸べてくれた手。

 

 俺はそれを手で掴み、彼女の手を握る。

 それにこたえるように、彼女も手に力を加えて俺の手を握り返してくる。

 

 見ての通り文字通りの握手である。

 

「それなら先ずは私の呼び方を変えて貰わないとね。一緒に働くのにいつまでも姓で呼ばれたら居心地悪くなりそうだし」

「え、そんな理由でいいんですか?」

「ええ、それと敬語もそれなりに崩してもらっていいから」

「そんな簡単でいいんです?」

「別に良いわよ」

「ええ~……」

 

 上司にタメ口とか、現代だと『礼儀がなってない!』って怒られるんだけど……。

 やごこ……永琳さんって絶対大物だよなコレ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

~都内 研究施設の一室~

 

 俺は永琳さんに案内されて都へと入り、街の中でも一際高い高層ビルへと連れて行かれた。

 此処へ来るまでに、俺の眼にはタイヤを使わず浮遊して移動する自動車や空中に浮かぶ映像モニター、翼も無いのに空を走る乗り物など、俺の住んでいた世界ではありえない物が沢山飛び込んできた。

 やはりここって未来の世界なんだろうか、でも永琳さんみたいな頭良さそうな人でも日本とか東京とかの言葉を知らなかったし……むむむ。

 

「それじゃあ満希、此処に座ってちょうだい」

「あ、はい」

 

 永琳さんが部屋の中のソファを手で示し、俺に座るように言ってきた。

 俺は彼女の言うとおり、3人並んで座ってもスペースがありそうなほどのソファに腰を下ろす。フカフカで柔らかい素晴らしい。

 永琳さんも俺が座ったソファとは別の、テーブルを挟んで対面にあるソファへ腰を下ろすと、いつの間にか持っていた書類とペンを俺の前へスッと置いた。

 

「取り敢えずあなたの事は書類で通しておくことにするわね。従来の審査も通らずに勤務することになるから、せめてこれ位はやっておかないとね」

「なるほど」

 

 そう言われると、俺って合格確定の書類審査だけで就職できるって事になるんだよな…現代日本にそんなこと言ったら就活者たちに殺されそうだな俺。

 

 俺は差し出されたペンを手に持ち、それぞれの項目を書き埋めた。

 途中で出身とか学歴とか正直に書いたら怪しまれかねない内容もあったが、永琳さんと相談して妥当なものを書いておくことになった。

 

 書類審査もあっさりと通過し、俺は改めて永琳さんの元で働く際の仕事内容について話を聞く。

 

 おおまかにカテゴライズすると、以下の項目が仕事の内容となる。

 

1.材料収集の手伝い及び荷物運び

2.書類の整理と管理

3.備品の買い出し

4.室内の清掃

5.外出時の護衛(能力を制御してから)

 

 …といった具合である。

 前に永琳さんが言ってくれたけど、確かに専門的な知識が必要になる仕事はなさそうだから、俺でもなんとかこなせそうだな。

 けど5番目の護衛が気になる……永琳さんは能力を制御してから詳しい話をするって言ってたが…まぁその時に分かるか。

 

「さて、それじゃあ仕事の件については一通り話も済んだことだし、次は住む場所について話さないとね」

「あ、それ聞こうと思ってました?どこかのホテルに寝泊まりとかです?」

「いえ、それだと費用が少しかさんでしまうから却下したわ。取りあえずあなたには私の――」

 

 そこから先の言葉を紡ごうとする永琳さんであったが。

 突如、部屋の扉をコンコンとノックする音が聞こえてきて。

 

「永琳、もうこちらに戻ってきていますか?」

 

 やんわりとした女性の声が扉越しに聞こえてきた。

 

「あら、この声は……ごめんなさい満希、ちょっと出てくるわね」

「大丈夫です」

 

 どうやら永琳さんのお客さんらしい。それなら俺の方よりもそっちの方を優先しないとな。

 

 さて、永琳がお客さんの方へ行っている間に今後の俺のやる事をもう少し具体的にしていかないとな。

 そう思った俺は、顔を天井の方へと向けつつ思考を廻らせ始めた。

 

 先ずは買い出しとかの仕事が出来るように土地勘を掴んでおく必要があるな。買い出しの最中に迷子になるなんてシャレにならないし恥ずかしいし。

 それに能力の制御を早くできるようにすることだな。仕事の内容を聞く限りだと仕事がない時間の方が多くなりそうだし、空いた時間を使って能力の練習をしとかないと。

 後はこの時代のメカに慣れたり、生活用品や事務用品を整えたり、職場の人にあいさつしたり…やることかなり多いな。

 

 

 

「ごめんなさいね満希、待たせてしまって」

 

 俺が天井を見ながらそう考え事をしていると、俺の元に永琳さんが戻ってきた。

 いや、足音が二つあるという事は永琳さんだけじゃない。もしかしてさっきの人かだろうか。

 

 そう思い俺は視線を永琳の方へと向けると、予想通り彼女の隣には見知らぬ女性が並んで立っていた。

 

 艶のかかった金色の髪を長く伸ばしており。

 端正な顔立ちには母性を感じさせるおおらかな笑みが浮かび上がり。

 たれ目から見える空色の瞳が宝石のように美しく輝いて。

 シンプルなデザインの純白のドレスを見事に着こなしており、清純な風格を醸し出している。

 

 世間的に言うかなりの…いや、それ以上の美人だと、その手の話に縁のない俺でも十分に理解できた。

 

「初めまして、永琳から少しだけど話を聞かせていただきました。どうやら色々と大変な目に遭ったようですね」

「あ、はい。まぁ何とか…」

 

 柔和な微笑みで話しかけてくる女性に対し、俺は今までこういう美人の人と話をするという経験が無かったので、若干緊張気味になっている。うん、自分でもカッコ悪いなコレ。

 永琳さんも負けないくらいの美人だったけど、あの時はドタバタしてたしいつの間にか慣れてたしな。こういう面と向かっての会話は不慣れだ。

 

「ふふ…そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。もっと肩の力を抜いてお話ししましょう。ね?」

 

 うっ…どうやら緊張してたのがバレてたみたいだ。まぁあれくらいどもってたら気付かれるのも当然か。

 しかし流石大人は違うよな。余裕の精神だ、場数が違いますよ。

 

「ああ、失礼しました。まだ自己紹介をしていませんでしたね。私はアマテラスという者です。どうぞ以後お見知りおきを」

 

 そう言って女性――アマテラスさんは丁寧に深々と俺にお辞儀をしてきた。

 それにしても姿勢までこんなに綺麗とは…もう何から何まで凄いとしか言いようが………

 

 

 

 ……ん?…アマテラス?

 

 え、まさかあの天照大神?

 いやいやそんなまさか。いくらトラックに撥ねられた筈なのに生きてて知らない場所に来てたり、いきなり妖怪に襲われたり、俺に炎を出す能力が生まれたりしてるとは言え、神様がこんな場所にいるわけが……。

 

 

 

 …あれ?ここまで来ると神様がいてもおかしくないんじゃね?

 

「あの…アマテラスさんってもしかして神様とかだったりします?」

「あら、よく分かりましたね?昔ちょっと色々あって、信仰を得て神様になったんですよ」

「………」

 

 もう色々と常識が働いてない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

「なるほど、つまり満希くんはトラックに撥ねられて死んだと思ったら何故か都から離れた草原で生きていて、永琳のお手伝いをするという事で此処に来たという事ですね」

「はい、そう言う事になってます」

 

 あれから俺はアマテラスさんにこれまでの経緯を説明した。

 正直、妖怪に襲われる前の出来事については信じてくれるとは思っていなかったので、話をして彼女が納得した時には俺自身が一番ビックリした。

 アマテラスさん曰く、神様として生きていたら別段信じられない内容ではないらしい。神様って凄い。

 

 何はともあれ、アマテラスさんの理解力が高いお陰で話が円滑に進んだため、俺たちはすぐに途中で打ち切られた話を再開することに。

 

「さて満希、さっきは途中になったけど、貴方の今後の住居について話させてもらうわね」

「はい、確かホテル住まいだと経費がかさばって良くないんでしたっけ」

「ええ、それに加えてこの辺りには手頃なホテルは立ってないのよね。どこも遠くてこのビルへの移動が不便になるだろうし。そこで貴方には私の家に来てもらおうかと思ってるのだけれど」

「…え?」

 

 WHAT?

 

「え…永琳さんの家に?」

「ええ、そう言ってるけど」

 

 いや、俺男ですよ?

 会って一日も経ってない男を家に連れていって、しかも住まわせるって道徳的にどうなのそれ?

 

「家にいれば勤務日の仕事の内容も伝えられるし、書類の整理も私が近くにいれば判断しづらい物があってもすぐに指示できる。色々と効率的だと思うのだけれど?」

 

 …あっ、なるほど。

 永琳さん…仕事の効率とかだけ考えてて、男女がどうこうっていうのは全然視野に入れてないのか。なんていうか、仕事一本道のビジネスウーマンみたいな感じで。

 

 俺がそんな風に考えていると、それまで俺たちの話を横で聞いていたアマテラスさんが声を掛けてきた。

 

「ねぇ永琳、ちょっと提案をしてもいいですか?」

「提案、ですか?」

「ええ。彼…満希くんを私の家で住まわせてあげても良いでしょうか?」

「アマテラス様の元へ…ですか?」

 

 永琳は多少目を見開かせて驚きながら、アマテラスさんの方を見やる。

 俺も正直、こんな提案が入ってくるとは思わなかったのでビックリしている。

 

「宜しければ、理由を聞かせていただいても?」

「勿論。理由は何個かあるのですが……中でも挙げるとすれば、彼の能力ですね」

「満希の…?彼の能力は……なるほど、そう言う事ですか」

 

 いや、永琳さん。何か分かったみたいだけど俺は話についていけてないんですよ。

 

「分からないの?」

「よく分かりません!」

「このたわけが」

 

 理不尽な。

 

「というのは冗談で……あなたの能力はアマテラス様の能力に近い種類だからよ」

「アマテラスさんの能力?」

「ええ。私の能力は『太陽の力を操る程度の能力』、炎や光など、太陽に関係したものであればある程度扱う事ができるのです」

「超高温の炎を操る事は勿論、相手の周囲の光を奪って何も見えなくするという事も出来るのよ」

 

 なんか俺よりずっと強力な能力だな…自分の能力がヘボく見えて泣けそうだ。

 そういえば、天照大神って太陽神って呼ばれてたんだっけ。なるほど…だから太陽の能力を持ってるのか。

 

「満希くんの能力は、少なくとも炎を操ることが出来ると聞いています。私なら能力のコントロールについて指導が出来る筈です」

「ちなみに私の能力は『あらゆる薬を作る程度の能力』、言葉の通り、殆どの薬を精製することが出来るわ」

 

 永琳さんも十分凄い能力だったんだな…。

 なるほど、確かに近い分野の方が教えるほうも教えやすいだろう。

 

「それで永琳、いかがでしょう?無論、強制する気はありませんが…」

「いえ、ここは天照様の提案でいかせていただきます。満希もそれで問題は無いかしら?」

 

 まぁ、俺は我儘を言える立場じゃないし住む場所を提供してくれるだけでも十分に有難い話だから、素直に二人の言う事に従わせてもらおう。

 それに折角アマテラスさんから一緒に住むのを許してくれたんだし、その厚意を無下にしたくないし俺も少しは気兼ねを軽くすることが出来る。

 

 俺が了承の意味を込めて頷くと、アマテラスさんは俺の近くに来て先ほどから浮かべていた笑みより更に笑顔を浮かべて手を差し伸べる。

 

「それじゃあ、これからよろしくね?満希くん」

「…はい!」

 

 俺は彼女の手を掴み、固い握手を交わした。

 

 

 

――終

 




永琳と同居すると思った?残念、オリキャラのアマテラスさんでした!
ちなみに古代から始めたかった理由の一つがこのアマテラスさんとの関わりが欲しかったからです。
ちなみにもう二人程、神話関係で絡みが欲しい人がいます。どちらも火に関係する神ですが…分かりやすいので予想しやすいかも。

○キャラ設定紹介○

【名前】アマテラス
【性別】女
【種族】神
【外見年齢】26歳
【髪】長い金髪、綺麗な艶がかかっている
【瞳の色】空色
【服装】シンプルなデザインの白いドレス
【特徴】おおらかで母性的な優しい性格。誰にでも等しい優しさを振る舞う姿勢から、多数の信頼と好感を得ている。かつてとある事を行った事により信仰を得て神となる。
    実は永琳より年下だが、立場の影響で彼女からは敬語を使われている。本人は基本的に敬語を使うスタイル。
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