東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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 縁は頼もし。




第39話 暁宮 満希の開業交渉

 件のスリ男の暴走について。

 

 俺から財布をすろうとしたあの男、話に聞くと最近巷を騒がせていたスリ師なんだという。なんでも数か月前から被害が発生しており、その後も同じ被害に遭う者が続出していたのだとか。都内に配備されている憲兵も人混みの中でひっそり行われる犯行を捉えることが出来ず、被害者自身もいつ無くなったのか分からず犯人の人相すら特定できない……という八方ふさがりの状況が続いていたそうだ。

 しかし、今回は狙う相手が悪かった。神や妖怪と普通に過ごしてきた俺にとっては、あんなコソ泥行為を見破るなんて容易い事。天狗の速度や上級の神々の戦闘を直に見て培われた動体視力の賜物ある。

 

 なぁなんにせよ、元凶はこうしてお縄につかれたんだ。第2のスリが再び現れない限り、皆も突然財布が消えるという心配に怯える事も無いだろうさ。

 

 スリの件についてはここまで。そろそろ俺の視点を戻らせてもらおう。

 

 

 

「……と言う訳で、この都に店を構えたいんだが」

「ふむ……頼まれた依頼は何でも行う仕事、ですか」

 

 俺は現在、かの有名な聖徳太子―豊郷耳 神子―と肩を並べて街道を歩いている。

 こうなった理由は、スリの暴走が収まって賑わった住民たちがある程度落ち着きを取り戻した時を狙い、俺が神子へとある頼みごとをしたから。

 そう、その頼みごととは以前言っていた『この都に自分の店を営みたい』という事。騒動の前に俺が歩きながら考えていた内容だ。俺が懸念していた、偉い人に会う方法が偶然とはいえ現にこうして叶ったので、このチャンスを逃すまいと、彼女に話を持ちかけたのだ。

 

 俺の話を聞いた神子の反応は悪い受け取り方をしたようには見えない、寧ろ俺の仕事に少なからず興味を示している様子が感じられる。もしこの時点で嫌そうな顔をされたりでもしたら、既に俺の望みは絶たれていたに違いない。

 

 

 

 すると、彼女の方から一つだけ質問を投げ掛けられた。

 

「少し仕事の内容について訪ねますが……もし道徳的に反する依頼が貴方の元に来たら、どうしますか?」

「と、いうと?」

「そうですね、例を挙げるとすれば……復讐、などですかね」

 

 それを聞いた俺は思わず、あぁ、と声を漏らして納得してしまった。確かにその辺りはハッキリしておいた方が良いだろう。

 

 彼女が俺の仕事の無いようについて懸念しているのは一点、それは『頼まれたらなんでもやる』という部分だ。言い方を変えてしまうと、どんなにぶっ飛んだ内容の依頼が飛び込んできても、断ることは出来ないという事になる。

 隣町まで買い物に行って来てほしいと頼まれれば、買い物袋をぶら下げて長期間ショッピンクに身を投じるし。クジラが食べたいと頼まれたら捕鯨の為に海に赴くし。森の木陰でドンジャラホイしろと言われたらドンジャラしてくるし。笑○亭△瓶さんのあの素敵な笑顔をやって見ろと言われたら、全身全霊を掛けてあの笑顔を再現するし。

 

 ……どれも流石にぶっ飛び過ぎてんな。そもそもこんな依頼共、誰もしねーだろ。

 

 とにかく、俺が今後行おうとしている仕事はそう云うものなのだ。

 なんでもとは聞こえがいいが、必ずしもそれが良い意味を持つとは限らない。その何でもというワードにかこつけて、よからぬ事を依頼する者だって現れるかもしれない。

 

 そんな依頼が来たら、俺は受けるというのか。

 神子が危惧しているのは、まさにそこである。

 

 金の為に手を汚し続けるのか?

 

 誰かを陥れる心を持つのか?

 

 そして、それは……許される事だろうか?

 

 

 

 俺は、こう考えている。

 

「そうだな……まぁ、受けるだろうな」

「っ……!意外ですね、そこは否定すると思いましたが」

 

 確かに、神子の言う事は尤もだ。一般的な回答ならば、悪い依頼が来たら断るのが普通だろう。ましてや神子自身が先ほど道徳的な行為を認めないという言い方をしていたから、尚更その答え方が妥当となってしまう。まさか否定的な意見を持っている高位の者に対して、その意に反する答えを持ち込むわけにはいかないから。

 

 では、なぜ俺は神子の考えに媚を売るような真似をせず、ストレートに答えたのか。案外、その理由は難しくない内容だった。

 

「だって店に求められてるのは、あくまでこうしてほしいっていう『結果』だろ?だったらそこに至るまでの『過程』は、指示が無い限りは俺の自由って事だろ?」

「それは……」

 

 先ほど神子は復讐という例を挙げてみせたが、肝心な部分は何も触れられていなかった。

 その触れられていない事項こそが、俺が見捉えたポイント。万の事を営む者として、利用すべき点だ。

 

「なんでもやるっていう名前を背負う以上、ぶっとんだ依頼が来るのは覚悟してる。だったら俺は、それを最小限の被害で収まるような結果になる様に、過程を色々と工夫していくだけさ」

 

 

 

 

 

 ――もちろん、殺しになるような依頼は流石に突っ返すけどな。

 

 

 

 俺は彼女にそう告げる。きっと今の俺の顔は、明確な答えを提示したことで迷いの無い、真っ直ぐな表情になっているだろう。

 

 そして、俺の答えを聴いた彼女の口元がゆっくりと動かされていく。

 

「……十分ですよ。そう言う事でしたら、私からは何も言う事はありません」

 

 彼女のこの先の言葉が何なのかを予想するには、そう時間が掛からなかった。寧ろあっさり理解することが出来たと言えよう。

 

 目の前でこんな穏やかな笑みを向けられていたら、な。

 

「この都において『何でも屋』を開くこと、聖徳太子の名に於いて許可いたします」

 

 この瞬間、俺はこの地で立っていく場所を得ることが出来た。当然、喜ばずにはいられない。もしここで断られてたりでもしていたら、また一からやり直しだったのだから。

 

 内心で安堵しているおれに向けて、再度神子の方から言葉を掛けられる。

 

「今回は興味深い話を聞けたので、特別に場所の方もこちらで見繕っておきましょう。もし立地が気に入らないという事でしたら、申し訳ないですが……」

「いや、寧ろ有難い話だよ。まだ都に来て間もないから、どこの土地が空いてるか把握し切れてなかったし」

 

 願っても無い話だ、それどころかそこまでしてもらっていいのだろうかと思う程のレベルだ。まさか質問に答えただけで場所を見つけてくれるなんて、実に気前が良い。

 別に開業を急いているわけじゃないけど、長期間の宿屋暮らしは費用が掛かるので、住み込みの出来る職場だったらそこに移ってお金に余裕を持っておきたいと思っていた所だ。

 

「ふふ、では開業に向けて積もる話もあるでしょうし、軽い打ち合わせをしておきましょうか。少し距離がありますが、私の寺まで来てもらってよろしいですか?」

「寺……もしかして、法隆寺?」

「ほう、都住まいではない様子なのに中々詳しいんですね」

「都に来た時、小耳に挟んだんでね」

 

 未来人だから何でも知ってるよ!

 

 ……なんていった暁には、感心するような視線はきっと変人を冷たく見る目つきに変わっているに違いない。じゃあ絶対言いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 法隆寺までの道がてら、ただ歩くだけじゃ物寂しくてつまらない。こういった時間は世間話が割に合う物だ。

 

 そう思った時、俺が旅人だと知って興味を示した神子に対して、俺が旅の間で体験した事を語った。

 こちとら既に何千という年月を生きた身だ。面白い事やビックリした事、失敗談にお伽染みた武勇伝と、話すネタはこれでもかという位にストックが用意されているのだ。最近は諏訪子たちとの生活に偏っているので、そっち方面の思い出が多くなっているが、それでも話の種としては良い暇つぶしになる内容は十分にある。

 

 例えば、数か月前に諏訪子たちが思いつきで酒盛りを始めたのだが、どちらが上手く料理を作れるかというテーマで論争が始まった事がある。内容は説明するのが面倒なので省かせてもらうが、結果としては両者がそれぞれ作った料理を食べさせ合い、ダブルK.O。

 意識が戻れば、お前の料理はマズイマズイと言い合いを始めだし、またもや口喧嘩。俺の『自分の料理を食べてみれば』という言葉を実行し、2度目のダブルK.O。

 2度目の復帰の際には、二人は互いにかけた非難を謝り、涙をグッと堪えながら慰め合っていた。ちなみに俺はその時、村に降りて村人たちと鍋をよそっていた。お野菜うまー。

 

「ふふふ……貴方は面白い人だと思っていましたが、なるほど、周りの方々も十分に個性があったのですね」

 

 神子は俺のオチを最後まで聞くと、口元を緩みを隠しながら笑いを堪えていた。

 笑いを取るためにネタとなってくれた神様二人には全く感謝である。これからもドゥンドゥンコント染みた生活を過ごしてもらいたいものだ。

 主に俺の話のネタとして。

 

「っと、この道を曲がればすぐに法隆寺ですよ」

 

 笑いを無事押さえ込んだところで、神子が思い出したかのように道の先の角へ指を指す。

 

 もっと彼女たちの面白話を披露したかったのだが……仕方ない、またの機会にしよう。

 

 俺は神子と共に彼女が指した方向へと角を曲がっていく。

 

「そうだ、もしよろしければ私の部下にも会っていかれませんか?もしかすると、いつか貴方にお仕事をお願いする時があるかもしれませんし」

 

 こちらの方を向きながら嬉々として話しかけてくる神子。前方不注意は危ないと言っておきたいところだが、前方に歩行者は見当たらないし、道端に転がっていそうなものは転がっていない。彼女の足取りもしっかりしているので、恐らく口出ししても無意味だろう。

 目前には既に寺が姿を現しているし、前を見なくても問題ないという事で受け取れたから。

 

「そうだな、折角だから挨拶くらいはしておきたいし」

「決まりですね。ではまた後ほど顔合わせをしていただきましょうか」

 

 そう言って彼女は足を止め、こちらを向いたまま前方に向けてスッと手を差しだす。

 

「さて、どうです?ここが私が住んでいる大寺、法隆寺です」

 

 彼女の手が示すその先を、俺は追って確認する。

 

 …………ふむ、成程な。

 

「へぇ、最近の寺って中々独特な装飾がされてるんだな」

「……そうですか?特に独特と言われるまでの飾りはしていなかったと思いますが」

 

 そりゃあ、こんな寺は独特としか言えないだろう。

 何せ……。

 

 

 

 

 

 屋根に『火』がついた寺というのは、斬新・独特という他ないじゃないか。

 

 メラメラ燃えてますよ、現在進行形で広がっておりますよこのお寺。ほんのり空気が暖かくて、焚き木染みた匂いが僅かに漂ってくるよ。

 

「これなら夜でも明かりには困らないよな、うん」

「?……こんな昼間から明かりなどつけては――」

 

 チラリ、と。

 俺の言葉を訝しく思った神子は後ろにある法隆寺の方を見る。

 

 そして再び、俺の方へと顔を向け直す。

 

「……っ!?」

 

 ガバッ、と。

 凄まじいスピードで再度、法隆寺の方へ首を回した。

 俗にいう二度見というやつである。

 

「は、ちょ、これ、なに、え、ええええぇぇっ!?」

 

 愕然とした様子で未だメラメラと燃えている法隆寺を凝視する神子。見るからに混乱状態である。

 

「なんだ、あの火は装飾とかじゃなかったのか」

「当たり前でしょうがっ!どこをどう考えたらアレを装飾だと思うんですか!?あからさま過ぎるくらいの火災現場でしょう!」

「いやぁ、偉い人の寺だっていうもんだからあれくらいの迫力が無いと駄目なのかなって。これなら民衆も驚く演出だよなって納得してたわ」

「確かに迫力でしたけども!民どころか、住まいにしてる私自身が一番びっくりしましたけど!」

 

 結論。どうやらあの火は狙って付けたものではないらしい、つまりはまんま火災である。

 しかし、神子のこのリアクションは中々に面白い。普段はどっちかというとツッコミポジションだった俺も、ボケに回れるかもしれない。

 

 という果てしなくどうでもいい事を考えている俺は、内面外面共に冷静でいた。長い年月を生きた影響で、これ位の現場は刺激と受け取るには足りないのか、それとも隣に十分なリアクションをしてくれる子がいるから、なんか驚く気持ちが失せたのか。……多分後者だと思う。

 

「どうしてこんな事に……っ!まさか、また布都が仏像に火を……」

「これ入ってもいいかな?」

「あ、どうぞ……って良い訳ないでしょうが!わざわざ火災現場に飛び込むなんてどこの夏の虫ですか!」

 

 あ、その言葉ってこんな昔からあったんだ。

 

「と、とにかく貴方は此処から離れていてください!直ぐに人手を集めて消化活動を……」

「あぁいや、俺がやるからいいぞ」

「……えっ?」

 

 動きが固まった神子を横に、行動に移る。

 俺は地面を蹴り宙に身を置いた状態で更に足元を蹴り、空中でジャンプ動作を行う。

 

 跳躍飛行。空をスイスイと飛べなかった俺が持っている、現状の飛行手段だ。

 

 繰り返し行った跳躍により、既に俺がいる場所は火災現場となっている屋根の真横。

 屋根に跳び移った俺は、未だ燃え盛る炎に手を添える。

 

 そして、火を吸収し始めた。

 

「なっ……!?」

 

 遠い下の方で、神子が驚く声を聞きとりつつ作業を継続。

 俺の手によって吸収され出した炎は、酸素を奪われたかのように徐々にその勢いを失っていく。

 

 そして十秒も経たない内に、屋根に拡がっていた火は完全に鎮火された。

 あれくらいの火災を消す程度、能力を開花させ始めた頃から出来ていたので、能力を十分に操れる今では自分の手を握るぐらいに造作も無い事だ。

 火が跡形も無く消えた事を確認すると、俺はその場から跳んで地面に向かって急降下していく。

 

 そして激突寸前に地面を蹴ってふわりと浮かぶと、そこから約50センチ下の地面に向かって着地。落下速度の調整のための一手間だ。こうしないと着地の衝撃が凄まじくて足がとてつもなく痛くなる。

 

「満希さん、今のは一体……それに貴方は……」

 

 神子が着地した俺の傍へ歩みながら呟くようにそう言ってきた。表情を窺ってみるが、予想通りの反応と言える。

 

「まぁ、その辺は追々説明するよ。それよりも、中に入って俺の仕事についての話を進めてしまわないか?ここに至って特に何か進むわけでもないだろ?」

「……そうですね。では、応接の間へ案内しましょう。私について来てください」

 

 保留という形でこの話は一旦終わりにし、俺は先行し始める彼女についていく。

 

 

 

 さて、これからどんな新しい生活が待っているのか……楽しみだ。

 

 

 

――終

 




■NGシーン■

満希「とうっ!」
神子「屋根の上から飛び降りた!?けどあのままじゃ……」

≪グキッ≫

満希「アシクビヲ クジキマシター!!」
神子「当たり前でしょう!?というか捻挫で済む話ですかこれ!?」
満希「いや、今日はイケるかと思って……足が痛くて立てにぃ」



執筆速度が遅い分際でありながら、ちょっと書いてみたいなーっていう新作が二つくらいあるんですよね。

満希「身の程知らずな……ちなみに内容は?」

 東方が一つとまどマギが一つ。折角なので次回のあとがきにでもどんなものか予告っぽく書いてみようかなーって思います。

満希「いや、誰が見たいって言ったよ」


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