A.あれは白髪天パさんが独自に作った名前だそうなので、こちらで普通にそう呼ぶのはちょっと変なんですよね。オリジナリティ性のある名前を、何で普通にある言葉みたいに堂々と使ってやがるんだーって。
今作でも満希の職業は『何でも屋』『万屋』として通していくので、『万事屋』という名称はタイプミスが起きない限りは出て来ません。悪しからず。
満希「そもそもタイプミスをするなって話だ」
ですよねー。
「時に屠自古、大一大万大吉って言葉を知ってるか?」
「どうしたんだ?急に……いや、知らねーけど」
大一大万大吉。
今より約1000年後、歴史上でも特に有名なあの秀吉の家臣である石田三成が好んでいた言葉で、自らの陣紋にその言葉を使用していたほどだ。ちなみに元ネタは源平合戦にて木曾という敵将を討ち取った、光成とはまた別の石田将軍が使用していたものらしい。
『大』はこの天下の事を示し、それ以外の文字はそのままの通りだ。『一』は一個人、『万』はそれ以外の万民、『吉』は幸福、平和をそれぞれ意味している。
『一人は皆の為に、一人は皆の為に動けば、この天下は幸せなものへとなるであろう』
これが、大一大万大吉の意味。
偶に耳にする One for all , all for one の意味を、より具体的に示した言葉と言えよう。今に思ってみれば、中々に感慨深い言葉だ。石田三成が思い入れを持っていたのも納得がいく。
史実では徳川家康が関ヶ原で勝利したため、彼の理想であるそれは叶う事は無かったが、もし石田三成が勝利した時、天下はどのようなものになっていたのか。
あまり歴史を変えるような事はしたくないので石田三成を勝利させるという事はしないが、ちょいと気になってしまうのも事実である。
「ふぅ~ん……なるほど、そう言う意味か」
歴史のネタバレにならない程度で意味を意志得てみた結果、屠自古の反応はご覧のとおり。一種の薀蓄として受け取った程度のリアクションである。
まぁノーリアクションとは違ってちゃんと聞いていてくれてるので、そこまで悲観的に感じることは無いが。……話し手の身としては、もうちょっと抑揚が欲しかったと思っている。
そんな事を思いながら俺は現在進行形で請け負っている、何でも屋としての仕事を再開するのであった。ちなみに内容は、近場の野菜売りの店で仕入れた商品の品質チェック。傷が無いかとか色々注意深く観察している所である。
「で、その大一大万大吉がどうしたんだよ?今の仕事と何か関係が?」
「いや、何も」
「言ってみただけかよ!?」
だって、さっきから同じ作業で飽きそうだったんだもの。
――――――――――――――――――――
「ところで、何で屠自古がここに来てるんだ?」
「さっき来たとき声掛けただろうが……太子様に頼まれて、お前の様子を見に来たんだよ」
そう言いながら屠自古は、チェックし終えたばかりの野菜を手に取って弄び始めた。どうでもいいけど、傷が付いたら強制買取だからそのつもりで。
もしそうなったら無理矢理買い取ってもらう算段を心の内でつけつつ、俺は彼女の言葉の内容を反芻する。
「神子が、ねぇ。まだ3日しか経ってないっていうのにもう様子見って……そんなに信用されてないのかね、俺って」
自嘲気味な笑みを零しつつ、ふとそんな事を言ってみた。俺もチェック済みの野菜を手に取って手癖のようにそれを弄り出す。傷が付いたら強制買取だからそのつもりで、屠自古。
「……おい、今何か嫌な予感がしたんだけどよ」
「気のせいだろ」
何とも勘がいい。
不明瞭とはいえ、心の中での画策に何かを感じ取ることが出来たとは、これがいわゆる女の勘という奴だろうか。
……違う気もするが。
「まぁいいや。別に神子はお前に不信感を抱いてる訳じゃねーよ。その辺は側近のアタシが保証してやる」
曰く。
俺に今の仕事を許可してくれた神子は、どうやら俺の事を一目置いてくれているらしい。
屠自古がそう自信を持ってそう言い切れる根拠としては一つ。彼女が神子自身から直接話を聞いたから、だそうである。
『彼の欲は実に興味深いものがあります。今まで多くの欲をこの耳で聞き届けましたが……彼のソレは、なかなかどうして――』
そんな風に、彼女は言っていたそうである。
彼女が俺に興味を持っているというのは以前から知っていた。別に自惚れとかそう言うのではない。俺が彼女と2度目の邂逅を果たした際、会話の中でそれらしい風潮を垣間見えた故での理解だ。
だから屠自古から理由を聞かされた時は、妙にしっくりと、納得した。
……いや、ちょっと待った。今サラッと謎めいた言葉を言ったぞ。欲ってなんぞや。聞いたって何ぞや。
「んで、実際問題、景気の方はどうなんだよ?少なくとも一個は仕事を貰えてるみたいだけどな」
俺の顔に眼を向けていた屠自古は、そう言って視線を手元の野菜の方へと移した。
俺としては欲がどうたらという点が気になるので聞いておきたいんだが……まぁいい、その辺りはまた今度本人から直接聞いてみることにしよう。先ずは今さっき問いかけられた質問に答えておく必要がある。
一言で言い表すとすれば……悪くはない、と言ったところだろうか。
俺が居を構えているこの仕事場は人通りもそれなりによく、近くには住居も多くあるから立地的には非常に良いアドバンテージがある。神子が手配してくれたここは、中々恵まれた場所だったと確信している。
立地については問題ない。
しかし問題は、職そのものについてである。
俺が開いた『何でも屋』。内容そのものについては看板名の通りで、加えて一度説明すれば実態が把握できるシンプルさだ。頼まれた仕事は何でもやる、そういうスタンスで始まったこの仕事は、今の時代からしてみれば斬新の一言だ。
そう、感じ良く言ってしまえば『斬新』。
だが、逆に悪く言うと、それは『不明瞭』であり『正体不明』。
つまるところ、この仕事を利用した事の無い初見の者にとっては、この店の表面は胡散臭く見えてしまうのである。
得体の知れない、怪しい存在に触れたがらないのは人間の性の一角。都の人たちは店の扉を開けるための好奇心をあまり湧かせず、寧ろ敬遠を示してしまっているのだ。
と、此処まで言うと店は閑古鳥が鳴く状態だと思われるかもしれないが、そこまで悲観的な状況でもない。
先ほど言った、正体不明を避けるのは人間の性というのは、あくまで一角に過ぎない。
開店初日、俺が開いたこの店に興味を示した近所の人が、物は試しとばかりに店の看板を潜り、俺に依頼をして来たのである。
当然俺はその機会を逃すことなく、営業者として涙目なくらいの超安価で依頼を引き受けたのだ。
その結果、徐々にではあるが俺の知名度は上昇していく結果を生み出すことに成功した。現在3日目だが、控えめな依頼が1日2~3件、多くて4件といった状態となっている。決して裕福とは言えないが、神子への献上金を差し引いてもギリギリ黒字が出来ているのは幸いな事だ。
以上。
その辺りを屠自古に説明し終えたところで、俺は手に転がしていた野菜を元の場所に戻す。
ちなみに余談ではあるが、俺の元にやってきた初仕事は、引きこもりのニート青年を部屋から出すという物だった。人生経験豊富の俺の深い説教を以てしても、部屋から出すのに数時間かかったのだから、中々にハードな依頼だったと言えよう。
……もうちょっとそれらしい依頼があったんじゃないかな?
「ふぅん……まっ、上手いことやれてるんなら太子様も安心されるだろうよ。アタシも太子様に湿った報告をしなくて済んで、喜ばしいことだよ……と言う訳で、そんなアンタの商売継続を記念して、アタシから一つ依頼を出してやんよ」
屠自古は不敵な笑みを俺に向けながらそう言ってきた。
話題の転換、そして本題と思われる件への突入。
その2つを上手いこと繋ぎ合わせたのだと思っているのならば、屠自古……。
…………全然自然じゃなかったぞ。
――――――――――――――――――――――――
「ほら、これも宜しく。絶対に落とすなよ?」
「あいよ。そういうフリだな?」
「やりたいなら止めないけど、ぶっ飛ばすぞ」
じゃあやりません。後が怖いもの。
都中央の大通り。
先ほどまでいた職場の入り口に『外出中』の札を立て、俺と屠自古が向かった場所が、そこである。相も変わらずな人通りと喧騒が漂うこの中に、俺たちは身を投じていった。
大通りに出てからというもの、屠自古は俺を連れて様々な店を訪ね、商品を選定。そして購入していった。主に購入しているものは日用品や食材といったところだ。
そして俺は、彼女が買っていったものを次々と手に抱えていく。
……あれれ~?おかしいぞ~?俺は確か、依頼があるからと言われて此処にやって来た筈だろ。何で買い物に付き合わされてるんだ?依頼はどうした。
だけど、どんな依頼が来るかと構えていても、やって来るのは荷物のみ。これじゃあ、屠自古の荷物持ちをやっているようなものじゃないか。
「……って、これが依頼か!?」
やってるもなにも、どう考えても荷物持ちが依頼内容としか考えられなかった。ここまで来ておいて依頼について話題を振らず、ただ荷物を持たせるとなれば尚更だ。
気を構えていた俺はその行為が無為なものと気付くと、遅すぎるノリツッコミをせざるを得なかった。
「今頃気づいたのか?なにせウチには男手が足りないから、ちょうどアンタみたいなのがいてくれて助かるんだよ。ほら、これも宜しく」
そう言って屠自古は、新しく買った物を更に俺の荷物に重ね乗せする。腕に掛かる重みが増したことを感じている間にも、屠自古はまた別の店に足を運んでいた。
その姿を見送りつつ、俺は内心でため息を吐いた。まさか、こんな小規模な荷物持ちの為に依頼が来るとは思ってもいなかったからだ。
別に、依頼内容自体に嫌悪を抱いているわけではない。今の俺には選り好みをするほどの余裕なんてないし、毛嫌いする程の者でもないからだ。
そう。どちらかというと、拍子抜けと言った方が良いだろうか。
屠自古は聖徳太子である神子の補佐、そんな彼女からの依頼となると、それ相応の難易度と重要性を想定していたのだ。下手をすれば、その依頼次第で国政に大きく関係を引き起こす様なもの、と。そう考えると、否応にも気を張ってしまうしかない。
しかし蓋を開けてみればこの通りだ。提示された仕事は政務とは関係なしのプライベート寄りな事情ときたものだから、肩に掛かっていた緊張感も呆気なく消えていったのだ。
余計に気負ってしまったせいか、夕刻にもなっていないのに疲れた気がする。
「ほれ、こいつも頼むぜ……って、何だ?まさかもうへばったって言うのか?」
その呆れた視線を止めれい。というか、誰のせいだと思ってるんだ。
「別に……この程度で疲れるほど軟弱じゃないんでな。で、まだ買い物は続けるのか?」
「もちろん、あと3件くらいは回っておかないとな!」
「……取り敢えずアレだ。今度からはもっと分けて買い物してくださいますかね」
暁宮 満希。
今日も今日とて、何気ない日常を過ごしている。
――終
???「魔法使いって、ロマンがあるよね」
満希「また脈絡のない話題を……」
???「それだけです。特に話は膨らみません」
満希「えっ」