東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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 一体この作品、何話まで行くんだろうか……。
 一応この作品は『王道路線の長編小説』として無難な展開を予定してはいますが、1編につき十数話構成となると……考えるのを止めよう。ただでさえ幻想郷の異変までまだまだ遠いというのに。



第44話 霍 青娥の興味

 先日、俺の開く何でも屋に一件の依頼が飛び込んできた。

 

 依頼主は、小さな子供たちだった。時々俺の営業に興味を持った近所の子供たちが、思いに駆られて特に依頼も無く店の看板を潜る事があり、その時は茶を用意して、一緒に遊んだりする。

 『こんにちは』と入り口の扉を開けながらやって来た子供たちの声と姿を見た時、いつも通り茶の準備をしなければならないと思って、居間から腰を上げて玄関に向かったが……彼らの重々しい雰囲気を見て、気持ちを切り替えた。

 

 

 

 仕事モードとなった俺が子供達から聞いた話は、妖怪退治の依頼だった。

 驚く中で彼らの口から伝えられた事実を纏めてみると、以下のようになる。

 

 まず彼らの最近のブームとして、都の近くの森を探検する事が流行っているのだという。そして森で見つけた珍しい物を持ちよって、自身の宝として自慢するようにしているとか。

 あまり森の奥に行くと迷子になってしまう可能性があるとのことで、子供たちの中でもまとめ役のような存在としている子がセーブを効かせてくれているらしいが……あまり看過できる内容ではなかったので、多少注意はさせてもらっている。

 

 それで話を戻すが……森の探検を始めてから一週間で、子供たちは奇妙な視線を感じ始めたらしい。まるで、自分たちの姿を一部始終眺めているかのように、随分と執着した視線だったとか。子供たちもそれに警戒して、単独行動を避けて、数人で固まって行動し始めたらしい。視線を感じた時点で探検を止めて欲しかったのだが……この対処も、まとめ役の子が回していたな、きっと。

 

 しかし、ついに事件は起こってしまった。

 

 とある子供たちが、その視線の正体……妖怪に出会ってしまったのだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

「……で、怖くなった子供たちは、たまらず貴方に依頼を持ちこんできたって事ね?」

「あぁ。依頼が来たのは昨日だったけど、やはり日中で動いた方がこちらとしてはやりやすい。夜は人間側に不利が寄ってしまうからな」

 

 そう言って俺は、子供たちが最近遊び場にしているという、件の森へと足を進めている。

 

 ……最近知り合った、青娥と共に。

 

「で、何でお前さんも来てるわけ?」

「あらあら、そんなつれない事言わなくてもいいじゃない。貴方が本当に真面目に仕事しているのか、気になってはいたんだし」

「止めてくれない?人を甲斐性無しみたいな疑い掛けるの。これでもちゃんと働いてるから」

 

 タイミングが良かったのか悪かったのか。子供たちが依頼を持ちかけてきたその時間、ちょうど青娥が遊びに来ていたのだ。

 しかも俺と青娥が一緒にいる姿を見た子供たちが『お兄ちゃん、けっこんしてたの!?』『何でも屋さんのお嫁さんだー!』と言った具合にはしゃいでしまうのだから、誤解を解くのに苦労した。青娥は面白がって何も言ってくれなかったし。

 青娥も青娥で、別に俺の所に遊びに来るのは良いけれど、神子たちと違って職を持たない彼女だからどうにもその頻度が多い気がしてならない。ニートか。

 

「それにしても今回の事、少し解せない部分があるな」

「解せない部分?」

「あぁ。あの子たちの中で実際に妖怪に会ったって言う子がいたんだけど……襲われたような形跡が見当たらなかった」

 

 先日子供たちから事情を聞いたのだが、その中には妖怪に実際に出くわした当事者も加わっており、その子たちからも話を聞くことが出来た。

 そこで、気掛かりな事があった。先ほども言ったように、彼らの身体には傷らしきものが一切見当たらなかったのだ。

 その子たちも発言していたのだが、妖怪と出くわした後は直ぐに気を失ってしまったらしく、目が覚めた頃には気絶した時と同じ場所で倒れていたとの事。

 

 何故、妖怪は何もしなかったのか?

 

「取り敢えず、今の所は真相を3つくらい予想出来てる」

「お聞かせ願っても?」

「一つ目。妖怪に出会ったっていうのはただの勘違いだったって線。けどこれは可能性として考えると低く見積もれる」

「どうして?結局子供の言う事だし、想像力の高いあのお年頃なら十分に考えられる線じゃない?」

「……におい。正確には妖気の名残り、って言った方が正しいな。昨日話を聞いていた時に、僅かだけど子供たちの身体から感じることが出来た」

 

 妖怪という存在は、得てして人間とは異なる存在。

 その一端として取り上げられるのが、生物の力の源……妖怪で言うと妖力に該当する。その妖力なのだが、これは他の種族の力よりも随分と癖が強いのだ。本能のままに動く妖怪というのは、他のどれよりも生物として純粋で、言い方が悪くなるが獣じみている。

 そこがポイントとなっているのだろうか、大半の妖怪は妖気をその体に纏わせているのだ。そしてその妖気というのが注目点であり、振りまいている妖気は周囲に残留しやすい性質を持っているのだ。

 ちなみにこれは低級~中級妖怪の大半に見られる傾向であり、上級となれば妖気を完全に遮断できると思われる。まぁ上級妖怪なんて滅多に出会わないから、真実は謎だが。

 

 今回の依頼主である子供たちの身体には微かな妖気の付着を感じた。つまり、あの子たちの身体に妖気が付着していたという事は、妖怪に出会っていた証である。これを踏まえると、彼らが妖怪と出会った可能性は非常に高くなるのだ。

 

 

「子供の身体に付いた臭いで云々って、文面的だけ受け取ると変態的な発言よね」

「なんでや」

 

 青娥のぶっ飛んだ発言はさて置き、続けて俺は推測を並べていく。

 

「二つ目は、何かしら呪いの類を受けたのではないかという考え」

「まぁ、妖怪なら特有の呪術も使える存在もいるわよね。けどその割には、平静でいるわね」

「ぶっちゃけ、これも可能性が低いからな。呪いで死を与えるにしては、現にこうして俺らに居場所もばらしてるし隠密性もあったもんじゃない。俺らが感じ取れないほどの呪術を使える妖怪なら、もっと狡く上手い具合に事を運んでるだろうさ」

「確かに呪いの類は感じなかったわね。となると、最後の3つ目の予想が一番可能性が高いのかしら?」

 

 自身の興味をそそらせたかのように、青娥が楽しそうな笑みを浮かべながらこちらを覗き込んでくる。性根はアレだけど、こうして見るとやっぱり美人だなこの子は。どうでもいいか。

 

 こちらに寄り添ってくる青娥に苦笑で返しながら、俺は口を開く。

 

「高いか低いかはなんとも言えないが、筋は通った予想だとは思ってる。子供たちが出会ったのは、小童妖怪だと思う」

「こどもの妖怪……あぁなるほどね」

 

 説明をする前に、青娥は俺の予想を理解してくれたようだ。

 

 子供たちを襲うことなく、ただじっと様子を見ていたのだとすると可能性としてあげられるのはこれだったのだ。森に住まう妖怪というのは縄張り意識が強い傾向が多く、森に入った子供たちに対して敢えて危害を加えないというのは違和感がある。となると、『危害を加えなかった』のではなく、『危害を加える程の力を持っていなかった』のではないかという持論を生み出す。

 森に入ってきた子供たちに興味を示して観察を続け、思い切って目の前に現れたはいいが、子供たちは気絶。どうしようも無かったので、小童妖怪はその場から立ち去る。

 これが俺の思いついた予想だ、ある程度理にかなっているとは自負している。

 

「まぁ、推測の域を出ないのはこれも同じだが」

「けど他の推理よりは可能性は高いんじゃないの?話の落としどころとしては面白みが無くて、私としては微妙だけど」

「少なくとも、どう転がってもお前さんの好みになるようなオチは無いから安心して残念がって良いぞ」

「安心ってなんだったかしら?」

 

 とりあえず、これから出向く森に居る妖怪が凶暴性を持ち合わせていない確率はかなり濃い。

 ここは下手に争いごとに持ち込ませず、平和的に、話し合いだけで事態を収拾させることも可能かもしれない。こちらとしても、あまり事を大きくするような事をしたくは無いしな。

 

 ……どうでもいいけど俺って森の中で戦う機会が多すぎる気がする。運命さんはどうあっても森を火の海にしたいわけ?一々火移りを気にして戦うのも疲れるんだけど。

 

「それにしても、件の妖怪って一体どんなのかしらね~。予想通り子供の妖怪なら、可愛いかしら?」

「……だといいんだけどな」

 

 

 

 ……何だろうか。この胸によぎる不安は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

「ハァハァ……早くこの間の子供達来ないかなぁ。あのつぶらな瞳に小さなおてて、丸いお顔……女の子のそれとかもう最高でしょハァハァ、幼児最高!……って誰だお前たちは!?」

「何このひっどいオチ」

「確かにひどいわねー」

 

 これまでかなりシリアスな雰囲気を醸してきた。依頼も一見すると実態が平和的そうでありながら、どこか裏があるかのような。そう思わせる様に『嫌な予感が……』的なコメントまで最後に残したというのに。

 

 子供の妖怪かと思いきや、蛇の頭をした変態妖怪だったでござる。ここまで引っ張っておいて、コレは無いと思わないだろうか。

 というかこの妖怪、以前にもどこかで見たような気がするんだが……いつだったかな。

 

「あ~……一応確認するけど、最近この森に入ってる子供たちを観察してたのってお前?いや、違うなら違うでこっちは問題な――」

「幼女たちを愛でるのは当然」

「違うって言えよそこは。なんで散々推理した挙句、その答えがこんな変態なのかなぁ」

「違う、おれは変態じゃない。仮に変態だとしても、変態という名の紳士さ」

「うるせぇ変態」

「紳士らしさがどこにも感じられないわね」

 

 だろうな。俺もそう思っていた所だ。

 

 しかし非情に残念だ。まさかこんな変人に出くわしてしまうとは。しかも俺が所見ではなく、既にこいつに出会った子供たちが居るというのだからなおさらだ。純粋な心にこんなヘドロみたいな汚れた精神が巡り会うとか、違う意味で涙ものである。

 いや、別に幼い子供が大好きってことを非難しているわけじゃない。好きなら好きで、それが純粋なものであるなら俺だって認めざるを得ないだろう。現に子供好きな人というのはこれまで何人か見て来たのだから。

 

「幼児の生脚ペロペロ」

 

 けどもう駄目じゃんコイツ。生脚舐めるとか言っちゃってるし、完全に絵面がアウトになるとしか思えないし。

 というかどう考えてもこいつ男なのに、幼児って言う事は性別関係ないって事だよね。男の子でも構わないって事だよね。そうなると益々危険だよこの変態。

 

 とりあえず、元の住処に帰そう。早急に。

 

「あのー、取り敢えず子供たちが怖がってるんで、子供たちの為にこの森から立ち去ってくれると嬉しいんだけどなぁ……」

「え、子供達怖がってるの?それは大変だ!」

「だろう?子供好きならその辺汲み取ってもらえると――」

「怖がった顔、描いて保存しないと」

「やっぱりド変態だった!」

「今更じゃない?」

 

 既に救いようが無かった!もう手遅れの段階まで来てしまっていた!

 これはアレか、住処に帰す程度じゃ足りないんじゃないだろうか。ここまで変態をこじらせているとなると、相当な荒療治が居ると思われる。

 

「いやいやいや、俺さっき子供怖がってるって言ったじゃん。なんでお前そんなことできるわけ?変態こじらせすぎだろ」

「違う、おれは変態じゃ――」

「それはもうやった」

 

 何で変態の言葉をリピートしなければならないのだろうか。こちらから願い下げである。そう言えば、あの台詞って元ネタ何だったっけか。

 

「それで、貴方はこの妖怪をどうするのかしら?」

「どうするも何も、早急にこの森から出て行ってもらうしかないだろ。最近発見されたって事は、此処が奴の帰るべき故郷ってわけでもないだろうし」

「ロリショタが近くにいるならここがおれの故郷で良いんだけど」

「ロリショタ言うな、土に還されてぇか」

 

 もうやだこの変態。

 

「とにかく、おれはここで幼児たちと愛の巣を作る計画を最近考えてるんだ!おれの尊い理想を邪魔させないぞ!」

「妄想の間違いだろ」

「ウオォォォォォ!!」

「聞けよ……」

 

 俺の冷めたツッコミに耳を貸すことなく、妖怪はイノシシのような勢いで俺に向かって突進を繰り出してきた。蛇頭の癖にイノシシとはこれ如何に。

 つまらない冗談はさておき、いきなり戦闘ムードに入ってしまったので……。

 

 

 

 

 

 切り替えさせてもらう。

 

「っシャァ!」

 

 蛇頭の妖怪は、持ち前の鋭い爪を以て俺を引き裂こうと腕を振るって来た。既に互いの距離は、腕をピンと伸ばした状態よりも肉薄している。攻撃範囲とリーチを考えるなら、既に奴は俺に攻撃が届くほどの位置を取っていた。

 

 が、所詮は真正面からの見え透いた攻撃だ。

 俺はその攻撃を難なく躱し、無傷で奴の爪から逃れることに成功する。そしてそのまま身を軽く翻すと、妖怪と適当な距離をとった。

 

「青娥。加勢するか?」

「あらあら、もう女の子の力を借りようとするの?ちょっと情けないんじゃないかしら」

「いや、さっきから面白そうって顔で眺めてたみたいだからな。戦いたいって言うなら俺も止めないぞ」

「……今回は遠慮しておくわ。貴方の勇姿でもじっくり拝見させてもらうから~」

「変態と争っても勇姿には見えないと思うが……おっと」

 

 少し離れた場所にいた青娥と話していた最中であったが、俺は空気の流れを読んでその場を跳躍し、離れた。

 

 俺が先ほどまでいた場所は、妖怪の鋭爪によって容赦なく串刺しになっていたからである。

 串刺しにした本人は小さく舌打ちをすると、態勢を立て直して俺に接近。再度爪を振るった。

 

「おのれ……人間のくせにチョコマカとすばしっこい……!」

「人間長くやってると、速くもなるさ」

 

 放たれる連撃を受け流しや回避で捌きながら、苛立っている妖怪に対してそう言い放つ。やはりこういう手合いは冷静さを欠くと攻撃が単調になるのだから、避けるのには苦労しない。最も、普通の人間なら殺られていてもおかしくない攻撃である事に変わりはないが。

 

 ……まるで俺が完全に人間を止めたようなセリフ回しになってしまったが、あくまで俺は人間のカテゴリに属してるから。妖怪とか言われたら凹むかもしれないから。

 

「んじゃ、ちょいと速攻で片付けさせてもらおうか」

「ぐはっ!?」

 

 カウンターの要領を加えながら、俺は迫りくる妖怪に対して腹部に蹴りを叩き込む。

 

 もともとこの戦い、あんまりモチベーションが湧くような導入じゃなくなってたし手早く終わらせてしまいたいというのが本心だ。

 それにこの手合いは放っておいたら別の意味で危なっかしい、いつ放送禁止用語を言ってくるかと思うと気が気でならない。

 

 俺の蹴りによって地を転がされる妖怪を見据えながら、俺は右手に填めている指輪を弾き、鳴らした。

 音が響くと同時に、俺の身体は光に包まれ、その容姿を一変させた。

 

 

 

『モード・カグツチ』

 

 

 

 今は遠い場所にいる弟分にして友人の火神、カグツチの神力を元に形成された、俺の強化形態。

 厳つい黒の鎧に纏われたその姿は見る者を震え上がらせ、太陽に照らされた際の輝きは黒曜石のように気高く、雄々しいと思わせる威信を秘めている。

 当然、変わったのは外面だけではない。

 

「ちくしょ……っ!?」

 

 身を起こしたばかりの妖怪は、その顔を驚愕の色に染め上げられる。

 無理も無い話だ。

 『モード・カグツチ』の状態に入った俺の戦闘能力は、通常の頃よりも格段にパワーアップしているのだから。腕力・脚力はそこらの鬼に引けを取らないほどに跳ね上がり、防御力も鎧の影響で急増。更に敏捷性に至っては鎧という装備の癖に、天狗並のスピードを発揮できるというのだから、自分でもビックリである。

 だから、この妖怪は驚かざるを得ない。

 

 先ほどまで数メートル離れた場所にいた俺の姿が、瞬き一つで眼前に現れていたのだから。

 

「てい」

「ぶはっ!?」

 

 あんぐりと口を開けた、間抜けな顔に目掛けてデコピンを一発。

 ただのデコピンと思ってはいけない。何せ今の状態で放たれるデコピンは、さながら普通に殴られるのと同じ衝撃があるからだ。

 

 そして額にそれを受けた妖怪は、軽く吹き飛んでいった。

 

「よっと」

「ぐっ……て、え?さっき吹っ飛ばされたのに、何でこんな近くにいるわけ?というか何で腕掴んでんの?」

「投げるから」

「え」

 

 ん、何か可笑しなことを言っただろうか?

 

「いや、そんな顔されてもこっちが言葉に困るんだけど。こっちも色々と言いたい事があるんだけど取り敢えず言わせてもらうと……なんで投げるのさ。あと投げられるなら幼児が良い」

「いや、ここでボコボコにしても結局この森に居座る可能性もあるから、たぶん事は解決しないだろ。ならいっそこの手で強引に引き離してしまえば、万事解決になると思って。あと最後のは諦めろ」

「どんな荒々しい手法とってんの!?人間がそんな事思いつくとか規格外だから!でも夢くらい見たっていいじゃない、あの小さなおててに掴まれてるってだけで……うほ」

 

 さて、ぶん投げようか。

 

「ほら行くぞ。歯ぁ食いしばれ」

「あ、もう一日待ってくんない?あの幼児たちを一緒に持ってい――」

「そぉい!」

 

 どこに向けてでもなく、とにかく遠くに向けて。

 俺は全身全霊の力を込めて、妖怪を空の彼方へブン投げた。

 

「せめて一人だけでもぉぉぉ………………」

 

 

 

 変態が遠ざかっていくことを確認しながら、俺は依頼の完了を確かなものと感じ、力を抜いた。

 それと同時に、武装を解除する。俺の姿は物々しい鎧装束から一変し、いつも通りの学生服に早変わり。

 

 何というか、大して動いてないのにどっと疲れた気がする。

 

「くすくす……お疲れ様、何でも屋さん」

「お前はホントに終始見てるだけだったな……別にいいけど」

「自分の発言を一々反故にするほど軽い女じゃないのよ、私って」

 

 ああ、そう……としか返事が返せそうになかったので、咄嗟に適当な相槌を打ってがお魔化しておく。変態に絡んだ所為で減った気力では、上手い言葉が見つからなかった。

 

「それはそうと……」

「?」

「貴方って、あんなにすごぉい力を隠してたなんて……こう見えても、結構ドキドキしてるのよ?」

 

 そう言って、相変わらず読めない笑顔を此方に向けてくる青娥。チロリと晒した舌先にそっと指を添え、流し見るような眼でこちらを見つめてくる。

 こうやって妙に妖艶な雰囲気を放っているのを見ると、動作に一々艶を入れないと気が済まないかと思ってしまう。

 ちなみにそれに対して俺は特に反応なし。歳をとりすぎて、ちょっとしたことでは動揺しなくなったのだろうか。……それはそれで寂しい。

 

「うふふ……ねぇ、まだまだ力を隠してるでしょ?」

「なんでわか…………普通に分かるか」

「あんな下級妖怪で全力を出す方が可笑しいわよ。普通の人間なら全力を出しても無駄だろうけどね」

「サラッと人を人外扱いするの止めてくんない?」

 

 プー太郎だったり人外だったり……こいつは普段一体、俺をどんな目で見ているというのだろうか。絶対碌な見方をしていないというのは確定だが。

 しかし彼女の言葉を絶対に否定できるほど、俺って人間の枠に収まってないからなぁ。自分ではあくまで人間として扱われていたいけど、カグツチたちの力を借りたあの光景を見せつけていると、そうも言っていられないというのが何とも。

 

「まぁそれはそれとして……私、貴方の本当の『力』が見てみたいなぁ」

「……気長に待てば、いつか見れるんじゃないか?」

「もう、イケず」

 

 イケずで結構。

 

 俺はそう言い放つと、やって来た道筋に向けて踵を返し、帰り支度を整える。

 ぶーぶーと文句を言いながらもついて来ようとする彼女を背中越しに確かめつつ、俺は小さく溜め息をつく。

 

 力なんて、わざわざ見せびらかすほどでもないだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『いつか見れる』ねぇ…………ふふっ、私って焦らされるのは苦手なのよねぇ」

 

 誰かが、そう言った。

 

 

 

―――終

 




シリアス⇒ギャグ⇒シリアスという謎のサンドイッチ手法。ほら、一粒で二度美味しいっていう言葉もあるから(震え声)

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