引っ越しの影響でひと月近くパソコンが出来ない状態に陥り、今日になってようやく復帰です。書き溜めも多少出来たので、ハイペース気味に投稿していこうかと思います。
ついでに、過去編もこれでラストです。
高校3年生に上がる直前、俺は父親の昇進の都合に合わせて引っ越しをしなければならなくなった。
地元の友達と別れることになるのは非常に寂しかったが、俺一人が我儘を言ったところで家族を困らせる事しか出来ない。昇級という吉報に両親は喜んでいるのに、俺が水を差すような真似もしたくなかった。
そうして俺は、両親と共に遠く離れた都会の地で新しい生活を始めた。
その半年後、俺の携帯が着信を知らせるべく鳴り始めた。
電話の相手は、山田であった。
『満希か、満希だよな!?』
「っ……久しぶりなのに全く落ち着きが無いな。一体何の――」
『いいから聞けってっ!早苗ちゃんが……!』
「早苗?あの子がどうかしたのか?」
『早苗ちゃんが……行方不明なんだよ!!』
刹那、俺の頭の中は空白で埋め尽くされた。
そこからの俺の行動は、ほとんど無意識によるものとなった。
その日、学校に通っていた俺は近くの友人に早退を告げて学校を飛び出し、家に帰った。そして最低限の荷物を纏めると、地元に戻るべく駅へと走り、一縷の無駄も与えないといった状態で地元に向かっていった。
電車に揺られつつ次の目的地に向かうまでの間で、俺は漸く思考を取り戻す事が出来ていた。
早苗が行方不明?
何でそんなことになった?
そもそもいつから?
原因は?
現状は?
家出?
誘拐?
友人は?
家族は?
突然の異常事態。足りなさすぎる情報量。
広々と考える割には全くまとまりのない思考を廻らせた俺であったが、不毛な考察ばかりで無駄に脳みそを働かせるだけとなった。
そんな俺とは対照的に、電車は時刻通りに進んでいった。
何も変わらない。いつも通りに。
それが、ひどく苛立たしく感じた。
――――――――――――――――――――――
数か月ぶりの地元であったが、懐古の情を抱く余裕を感じることは当然無かった。
駅では山田が俺の到着を待っていたようで、俺は逸る気持ちを抑えながら事情を聴きだした。
俺が転校した後、山田たちの学校に転校生が訪れたらしい。学年が早苗と同じで、編入されるクラスも彼女と同様
しかしその転校生は、早苗が通っていた中学校の同級生だった。只の同級生だったら、これ程の騒ぎにならなかったのかもしれない。だが、そうはならなかった。
その同級生は、中学の頃に早苗を孤立へ追い詰めたグループの一人だったのだ。
早苗の元同級生……つまり転校生は、学校に入った際に早苗の姿を確認すると人目を憚るように接触を図った。つまり、誰にも秘密で会うようにしたのである。
そして転校生は早苗に対して、裏でいじめを行うようになったのである。理由は『変なものが見える気持ち悪い奴を苛めて何が悪い。昔は何人かで同じような事をやったんだから、別に構わないだろう』というものだそうだ。まったくもって反吐が出る。
加えて転校生は早苗に対して脅迫を掛けていたらしく、苛められている事を誰かに話したら早苗のあの性質を大体的にバラし、話した相手もいじめの対象として加えて苛める人数も増やすと脅されたらしい。
結果、早苗が行方不明になるまで彼女が苛められていた事が世間に発覚することは無かったという。
なぜこれほどまで詳しく情報が揃っているのかという点についてだが、既にあの転校生は早苗の心身的傷害を加えた人物という事で警察の方で取り調べをさせられたらしく、行方不明の一因としてなにかしらの処罰がくだされることが決定したらしい。なんでも、早苗が消える数日前にそのいじめの現場を目撃した生徒がいたらしく、その証言をもとに情報を手に入れたのだという。
「早苗を追い詰めた奴に罰が下ったのは置いとくとして、早苗は……早苗はいつから行方不明になったんだっ?」
「分からない……親御さんの話だと、数日前までは普通に家に帰って来たのに朝になったら急に姿を消したらしい。警察でも誘拐や家出の可能性を含めて捜索してるらしいけど……」
「……ちっ」
俺はそこまで聞き終えると、山田の横を通り過ぎようと駆けだそうとした。
が、その直前になって山田に腕を掴まれて足を止める事となる。
「待てって!警察の方でもいろんなとこ捜してるんだ、お前一人が動いたって早苗ちゃんが見つかるわけないだろ!」
「だからなんだ。警察が見当つけてない場所とかも残ってる筈だろ。その辺りを俺が捜せば――」
そうだ、警察がすべての場所を探したとは限らない。自分たちにとって都合のいい、もしくは楽な場所ばかりを探し回ってるだけの可能性だってある。
俺は早苗と仲が良かった。俺が彼女がいそうな場所をピックアップして直接探したほうが、ずっと希望が――
「いいから落ち着きやがれっ!」
その瞬間、俺は地面に倒れ込んでしまった。
否、正確に言えば……山田が俺の頬を思いっきり殴りつけ、その勢いで地面に叩き付けられたのだ。
突然の衝撃に驚き隠せないでいた俺であったが、直ぐに身を起こして山田に食って掛かった。
「てめぇ、いきなり何しやが――」
「お前こそ、さっきから何してんだよっ!」
しかし、俺の勢いも山田が俺の胸ぐらを乱暴に掴むことによって、虚しく消え失せる。
「さっきからお前らしく無いんだよ!普段は常に余裕を持ってるようなクールガイのくせして、何だよ今の慌てようは。そんな焦った状態で早苗ちゃんが見つかると思ってんのかよ!」
「っ……!」
「お前は早苗ちゃんの王子様なんだろ?だったらそんなアタフタしてないで、頭冷やしておけっての」
そう言って山田は俺の胸ぐらから手を離した。
……そうだ。山田の言うとおりだ。
俺がここで焦って行動したって、事態は良くなるはずがない。虱潰しにやるよりも、もっと落ち着いて早苗の行き先を推測して、明確に目星を立ててから捜索を行うべきだ。その方が時間の無駄にならないし、見つかる可能性も十分高まる。
俺は支えを失ってその場にへたり込んでしまったが、先程よりかは頭の血が多少下がっていた。柄にもなく、山田如きの説教で落ち着きを取り戻せたらしい。
「……悪い、世話掛けた」
「気にすんなって。それより早く行こうぜ、満希。お前が思いつく限りの場所に当たって見ようや」
「へいへい……んじゃ、確率の高そうなところから当たっていくか」
そんな軽口を叩きあいながら、俺と山田はその場を離れていった。思い付く場所へ全て回る為に、早苗を見つけ出す為に。
だが。
東風谷 早苗の姿は、それ以降も見つけることが出来なかった。
――俺はあの子の『味方』でいるつもりだった。あの子もそれを聞いて喜んでくれて、俺もそれを破ることは無いと約束した。
――だけど、彼女は居なくなった。
――俺が傍に居てやれなかったせいで。俺が離れたせいで。
――嗚呼、目も当てられない。
――俺は、とことん最低な……。
――大嘘つきだ。
――――――――――――――――――――――
「……と、いった感じだな」
そこで、俺のつまらない昔話は幕を下ろす。
随分と長い昔話になってしまったような気がするが、実のところ神子に説明した時間は大して掛かっていないどころか、むしろ短いくらいに収まっている。何せこの時代の人に学校やらショッピングモールやらの話題は通用し無さそうだから、ザックリ言うと『昔に会った年下の子と友達になって、なんか約束とかしたけど裏切ってしまった』程度の話になってしまったのだ。
4話くらいかけて昔話が展開したけど、神子に事情を話した時間は10分くらいしかない。さながらNARUT○の2年後スタート前のナルトVSサスケの時の、突然描かれたサスケの過去のようである。
というか、かれこれ何千年も過ごしてるのによくNARUT○とか思い出せたなオレ。昔を思い出した影響で、その辺の記憶がちょっと蘇って来たんだろうか。すごくどうでもいいけど。
「なるほど……かつての友人との約束を破ってしまい、その責任から今の正義感があるという事ですか」
神子も俺の話を聞いて、納得したそぶりを見せている。
……ところで。
「なんかすごい久しぶりだな、神子」
「え、え?なにがです?」
……何だろう、自分で言いだしておいてよく分からなかった。まぁいいや。
「ただの独り言だ。気にしないでくれ」
「は、はぁ……」
さて、気を取り直して。
「……やっぱり可笑しいと思うか?俺のこの在り方は」
「……何故、そう思うのですか?」
「俺はさっき、自分は助けたいと思っているから助けてるって言ってた。正直あの時は気が動転してみっともなかったから、今思い出しても恥ずかしいんだが……まぁいい。とにかく俺は意欲的に人を助けているつもりだ、だけど――」
そこまで言って言葉を途切れさせた俺は、少しだけ遣る瀬無く思って。
自分の顔を隠すように手を当てて、言葉の続きを吐き出した。
「……やっぱり心のどこかで、償いの気持ちが根付いてしまってるんだって思えた」
神子に俺の心理を見透かされて。
早苗との過去を思い返して。
やはり俺は、徹しきれていなかったのだと再認識させられた。
俺が積極的に人助けを始めようと思ったのは、二度と早苗や『あの子』のような事を起こさせないようにするためだったから。
そのために大学に入ってからはボランティアサークルへ真っ先に所属して、個人でも人助けの活動を始めるようになった。蓮子とメリーが所属する秘封倶楽部に兼部することになったのは予想外であったが。自由度が高かったし、気が向いた時に来る程度のものだったので、特に不満は無いけども。
大学で活動を始めてからは、色んな人を助けてきた。変わった奴だという風に見られることも少なくは無かったが、それ以上にやりがいを感じることが出来たから、充実していた。
だけど。
生まれてきたその充実感は、やはり償いの思いが関係していたのだろうか。
『これでまた一つ、早苗に対しての償いが出来た』
『きっともう少しで、彼女は赦してくれるだろう』
……俺は心のどこかで、そんな事を思っていたのかもしれない。つくづく現金な奴だと思う。
掌で覆われている裏で、俺の表情には自虐的な笑みが浮かび上がっていた。
――やっぱり俺みたいな大嘘つきは、心が汚れてるのだろうか。
「私は、良いと思いますけどね」
だが。
そんな中で、彼女は……神子はそう言ってきた。
その言葉に反応して、俺は掌で顔を覆い隠す事を止めて彼女を真正面から見やり始める。
「本気で言ってる?」
「ええ」
至極真剣な面構えで、彼女はそう頷いてみせた。
「純粋な気持ちで人助けしてなかったかもしれないのに?」
「それはあくまで一面に過ぎません。悪い部分を見つけたからといってそれが感情の基軸となるわけではありません。そもそも貴方のそれは悪い訳ではないですし」
「償いだぞ?人の為じゃないんだぞ?」
「早苗さん……でしたね。彼女のためと思ってやってきたのでしょう?ならば彼女のため、ひいては人の為です」
「心のどこかで、人助けを通じて悦に浸ってたかもしれないんだぞ?」
「それこそあくまで可能性の話ですし、そこに罪悪感を感じた時点で正しいと思いますが。それにこれまでの貴方の人柄を考えれば、優越感を求める類の人種ではないかと」
次々と言葉を投げ掛けて見たものの、彼女は真っ直ぐな顔を崩すことなく全て論破してしまった。
……こりゃ口喧嘩でも勝てそうにないなぁ。言い包められる自信がある。そんな自信いらないけど。
俺が次の言葉を出せずに苦笑している所を見た神子は、小さく一息ついた。
「やはり、急にこのような事を言われても貴方自身が納得するわけではないでしょう。今日の所はこの辺りにしておきましょうか」
そう言って神子はスッと席を立つ。直前の言葉と組み合わせてみれば、その動作が茶会終了の合図という事になる。
流石に俺も思う所があったので、ここで切り上げてくれたことは正直助かったと思っている。彼女に続くようにして、俺は同様に席から立ち上がった。
その時神子から、一言だけ。
「貴方が貴方自身を否定しようとも、私は貴方を立派な方だと思っています。貴方がこの町で行ってきた所業は、友として誇らしく思うには充分すぎますからね」
と、言われた。発言をした本人は一礼をすると、その場を立ち去って行った。
間を置いてから彼女の言葉を整理し、それをよく噛み締める。
一人だけになってしまったその場で、ポツリと俺は独り言を漏らすのであった。
「……俺ももうちょっとしっかりしないとなぁ。年上なんだし」
――早苗……俺、もうちょっとだけ考えてみるよ。
――終わり
最後の文で頭に『――』を付けると末文の締めと被って非常にややこしくなると思いました(作文感)