東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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第52話 暁宮 満希の戦い

 神子の容態を確認しに行った日の帰り道の途中。

 何でも屋を営んでいる俺を探して、尋ねてきた男がいた。

 男の名は、玄僧。

 クマほどの大柄に厳つい顔、髪は剃って坊主にしていた。服は無難な黒い袈裟だった。

 

 そんな男が、俺の営む何でも屋に一つの依頼を申し込んできた。

 

 

 

 

 

「仏の道を踏み外し、外道に手を染めたとされる聖徳太子を……暗殺してもらいたい」

 

 

 

 

 

「……」

 

 俺はポーカーフェイスを装いながら彼の依頼内容を聞いていたが、内心ではあきれてものも言えないほどだった。

 ちなみにこの場に青娥は居ない。多分どこかに離れて様子を見ているのだろう。

 

 神子が外道?なに馬鹿な事を言ってるんだ、この男は。しかも『手を染めたとされる』って……まるで他人から聞いたような口ぶりじゃないか。

 そもそも、神子が非道な事を行ったという話は全く聞いたことが無い。寧ろ彼女は善政を敷いて民からの評判も厚いって評判の筈だ。

 ……もしかして、道教の事を指しているのだろうか。

 

「少し話の進み方が逸っているのでは?もう少し詳細を話していただかないと、こちらも安易に首を振ることは出来ませんので。加えて太子殿は私も設営や依頼を通してお世話になっている身……その恩義に相応、もしくは上回る理由でなければ私も手を貸すことは無いかと」

 

 俺は依頼の内容に対して嫌悪感を内心で抱いていたが、何食わぬ顔で返答を引き延ばしつつ、事の詳細を聞き出すことにした。

 

「貴様……我らがお師匠様の命令に従わぬというのか!なんという無礼者だ!」

「お師匠様、このような怪しげな輩に力を借りる事などありませぬ!ここは我々の手だけで、事を成し遂げましょうぞ!」

 

 もちろん、俺のこの反応に対して難色を示す弟子二人。師匠の後ろに控えつつ、怒りを含めた発言を俺に繰り出してきた。

 典型的な高慢ちきキャラか……正直、関わるのも面倒くさいんだが。

 

「これ、よしなさい二人とも。……済まなかったな何でも屋殿。この二人はその熱心さゆえに直ぐに熱くなってしまいましての……」

 

 が、長である玄僧はそれをやんわりとたしなめる。お師匠まで俺だったら俺も近いうちにキレていただろうと思っておく。

 

それはさておき、玄僧は俺に事の詳細を教えてくれた。

 

 なんとこの僧たち、かつて神子たちが起こした宗教戦争の当事者であり、敗北した教団の一派だったのだそうだ。

 以前の戦争において敗北した側はその影響で散り散りとなってしまい、ほとぼりが冷めるまで自身が崇めている宗派を布教することが叶わなかったのだとか。

 また、敗北した者は世間からあまり好意的でない目を向けられてしまうため、彼らも暫くは世間の目を離れて身を潜めていたのだとか。

 

 そして彼らが俺の前にその姿を現した理由。

 それは、神子が本当は仏の道を信仰してはいないという噂が広まっているかららしい。恐らく、別大陸の青娥が神子の元に通っている事を知った者が、そのような噂を立てたのであろう。

 俺自身は聞いたことが無かったので、一部の地域で広まった小さな噂といったところだろうか。

 

 

 

 噂を耳にした玄僧は、こう思ったと発言する。

 

 噂が真実だというのであれば、国家にとって一大事。

 国の民は仏教を信じているというのに、頂点に立つ者がその心を持っていないなど、言語道断。

 このままで良い筈がない。

 この国をあるべき道に導くためには、自分たちのような仏教信仰者が代わって統治をしなければならないのだ。

 ならば今一度、聖徳太子には表舞台からご退場を願い、自分たちがこの国を……民たちを導いていこう。

 

 

 

 ……と、言った具合に。

 

 玄僧はまるで既に俺を味方につけたかのようなつもりで、色々と俺に語って来た。

 

「かつての戦いにおいて、信仰者たちはそれぞれが崇めし神を頂点として奉るべきだと主張し合った。結果的には聖徳太子の掲げる仏への信仰が主となってしまったが……今の彼奴には仏への信仰が無いというではないですか!」

「ふむ」

「この国を支えるべき大樹は、以前より前から仏への信仰と定まっていた。その定義を捻じ伏せて、国を我が所有物として好き放題を行う彼女の所業は赦される事ではない」

「……そのために、貴方が頂点に立つと?」

「然り。我が教えは仏への絶対的な崇拝と忠誠、それによる現の世での絶対的安寧な暮らし。今こそわが教えをお国の基と定め、私が神に最も近い存在となる皆を導く存在となります。真の幸福は、その中にありましょう」

 

 ……なるほど、大体わかった。

 

 先程から続くこの男の言動。

 神子の体調が思わしくないこの時期に浮き上がった、彼女の暗殺計画。

 その情報を知るためには、都の噂を聞く必要がある。ならば彼女が民に慕われている事も耳に入って居る筈。そうでなくとも暮らしている人の雰囲気で察することは出来る。

 この者たちは、それらの情報を突っぱねて自分たちにとって都合の良い情報のみを纏め上げ、暗殺の名義として使用。

 

 言ってしまうと、この男は自分の信仰する神を世間に浸透させたいがために、小さな噂を使って火事場泥棒をやらかそうとしているのだ。発言の所々に野心がチラついているのが丸わかりである。

 

「さて……貴方の言いたい事はよく分かりました」

「おぉ、では暗殺に協力を――」

 

 

 

 

 

「するわけねーだろ、悪餓鬼が。暗殺とか子供染みた事言ってないで、大人しく家で――」

 

 

 

 

 

 刹那。

 

 俺の身体は、壁を豪快な音を立てながら壊して外へと突き抜けていった。

 ドゴォン!と激しい衝撃音が鳴り響くとともに、壁が土煙を激しく立てつつ瓦解を始めていった。

 

 吹き飛ばされる直前、俺は腹に何かがめり込む感覚を得ていた。

 間一髪の所で腹に力を込めてダメージを和らげたが、一歩遅れていればこうして呑気に解説じみた事も出来なかった事だろう。

 

「な、何だ今の音は!?」

「隣の方から聞こえたぞ!一体何が起きたんだ!?」

 

 今の時刻はちょうど夕焼けが沈みかかった頃。そんな時にこのような暴動が発生すれば気付かない方が可笑しいだろう。

 俺の家の壁が粉砕されたことによって、その音を聞きつけた周囲の住民が騒ぎ始めた。

 

 とりあえず、今の一撃で周りに被害は出なかったらしい。僥倖。

 

「残念ながら、我々に協力いただけないというのでこのような措置を取らせていただきました。我々の内情を知ったまま生きていては、こちらも都合が悪いのでね」

 

 お前ら自分からペラペラ喋ってなかったっけ?

 こいつらなに、自分に都合の悪い事は頭に入れないの?自己中なの?

 

「さて、協力者を得る事は出来ませんでしたが仕方ありません。二人とも、ここは騒ぎになる前に退きますよ」

「「はっ」」

 

 と、俺がこうして生きている事に気付いていない一行はその場から立ち去ろうとしていた。

 こいつら、俺に色々暴露した挙句に殴って帰るとか……。

 

「おふざけも大概にしとけよ」

「っ……!あれを喰らって生きているとは……」

 

 普通に痛かったけどなこの野郎。

 咄嗟に防御してなかったら確実に気絶、もしくは死んでいただろうし。

 

 驚きを見せている玄僧を尻目に、俺は一向に対して言葉を掛けた。

 

「ここだと人を巻き込み過ぎる。この先の郊外でケリを付けるぞ」

 

 そう言いながら、俺は南の方角に向かって指を指した。

 俺が示した方向には都市化を進めていない郊外地があり、その場所は人の住処が一切ない広々とした空地。

 他人を巻き込まない上に、俺が能力を思う存分に使うには絶好の場所だといえる。

 

 そして向こうも、俺の提案に乗らざるを得ない筈。

 先ほどもあいつらは言っていたが、俺は奴等が神子の暗殺を企てている事を知っている身だ。そんな奴を生かしておけば、直ぐにでもその情報が神子たちに知れ渡ってしまい、暗殺は不可能となる。

 加えて向こうにも民を巻き込まないという精神があるのであれば、此処での戦いを控えようとする筈。先ほどの攻撃も、無闇に周囲を巻き込まないために威力を調整したのではないかと密かに推測を立てているのだ。

 

 ……けど今の攻撃、人間が出せるような威力じゃなかったんだが……。

 

「ふっ、いいでしょう。貴方はどの道直ぐに始末しなければならない存在。最期くらいはお好きな死に場所を選ばせてあげましょう」

 

 計画通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 場所を移し替えて、今いるところは先ほど指定した南の郊外。

 無闇矢鱈な都市化工事を好ましく思わなかった神子が放置した更地であり、今では有事の多目的スペースとして、時折利用されている場所だ。

 家も無ければ、大きな木々も見当たらない。ほとんどの物は材木として都の建築に宛がわれたからである。

 

 だだっ広いこの土地に居る人数は、俺と向こう側の坊さんたちの計4人。とことんスペースを余らせた頭数と言えよう。

 

「さて……このような場所を選ぶとは、貴女も中々随分と物好きな方だ。これほど都から遠ざかってしまえば、助けを乞うても誰も来てくれることは無いでしょうに」

 

 袈裟服の袖部分を丁寧にまくりながら、玄僧はそのような事を言ってきた。

 

 確かに。

 ここは普段から人の往来があるような場所ではない。寧ろ縁が無さ過ぎて誰も来ないような辺鄙な空き地だ。

 もし誰か人を呼ぼうとしても、帰ってくるのは静けさだけ。人が済まないこの辺りに人がいるなど、時間帯云々を抜きにしても確実に有り得ない話なのだ。

 

 だが……俺にとってはむしろ好都合な話だ。

 

「別に助けてもらおうとか思ってないから安心しな。寧ろ……そっちの方こそその心配をした方が良いんじゃないか?」

 

 人がいないという事は言葉の通り、誰も巻き込む可能性が無いという事。

 俺が能力を使おうが、その被害に遭うのは目の前の男か後方で様子を窺っている取り巻きの二人しかいない。存分に力を行使することが出来る。

 

 神子だけではない。

 この都に住む誰一人として、この男の野心の巻き添えになるべきではないのだ。

 

「戯言を……」

 

 俺の挑発混じりの言葉にピクリと眉を動す玄僧。

 先程から自信に満ちていたその表情には、俺に対しての敵意を小さくも確かに現していた。

 

「ならばお見せしよう。私の力こそがこの国を治めるに相応しいものだと。仏に選ばれし私の、真の力を」

 

 

 

 

 

 その瞬間、玄僧の身体は俺の眼前にまで接近していた。

 

 10メートル程度はあった距離を、まるで一歩進んだかのような時間と気軽さで、間合いに入り込んできたのだ。

 

 

 

――またこれかいっ。

 

 心の中で悪態をついていると、すぐそばには迫り来る玄僧の拳。

 それをスレスレのところで横に逸れて回避する。

 

「逃がしはしないっ」

 

 無事に避けたのも束の間、空いていた手の方で追撃が走る。

 その照準は回避したての俺に真っ直ぐと向かってきており、回避を先読みしたうえでの攻撃であると。

 

 が、俺もその程度は読んでいた。

 玄僧の腕にジャブ間隔の打撃を横から入れて、軌道をずらすことで攻撃を躱したのだ。

 

「お返しだ」

 

 やられてばかりというの癪だったので。

 俺は能力で炎を生み出すと、攻撃によって隙が出来た玄僧のどてっぱら目掛けて豪炎を放った。

 

 俺が炎を出したことに明らかに動揺した玄僧であったが、腕を交差させて炎をモロに喰らう事を防いだのだ。

 

 ……というか、どうやって炎を防いでるし。普通あんなことじゃ防御出来ない筈なんだけど。

 さっきから向こうのやっている事が人間らしくない件について、濃い一時間問い詰めたくなってきた。

 

「むぅぅっ……貴方は呪い師の類であったかっ」

「いや、ただの人間だよ。ちょっとばかり長く生きているけどな」

「おのれ、奇怪な……」

 

 お前が言うな。

 

 ……とツッコんでいる間にも、玄僧は俺が放った炎を見事に防ぎきってみせていた。

 流石に無傷というわけではなかったが、それでも表面の皮膚が僅かに焼けて小さな煙を出している程度だ。

 炎の温度は全開ではなかったにしても、生身の人間が受けてあの程度で済むような出力にはしていなかった。

 

 手段は分からないが、どうやら相当な強化を身体に施しているみたいだ。

 

 

 

 ――少し早いかもしれないが、モードを展開しておいた方がいいか。

 

 

 

「パッと見じゃ分からなかったが、随分と身体を改造してるみたいだな。普通、炎はあんな防ぎ方をしないって」

「改造……ふっ、随分と陳腐な表現をするものですね。ですが私のこれはそんなものとは圧倒的に次元が違う。何故ならこれは――」

 

 

 

 

 

「――我が信ずる仏より賜った、真の力なのだっ!」

 

 

――『モード・カグツチ』発動。

 

 

 

 右手の指にはめられた黒宝石の指輪を瞬発的に弾いて、音が周囲に響き渡る。

 刹那に俺は光に包まれると、先ほどまでのブレザー服から一変。

 

 黒色の厳つい鎧に包まれた姿――『モード・カグツチ』に変身を果たしたのだ。

 

 変身を完了させた俺は、すかさず迫り来る拳撃を防ぐ。

 この形態になったからにはわざわざ躱す必要も無いので、掌でガッチリとガードしてみせた。やはり、人間が発揮できるような腕力ではないな、この一撃は。

 

「っ!炎のみならず、今度は身体を変形させるとは……とことんまで地に堕ちた呪い師というわけか」

「だから呪い師違うっての。あくまで人間だよ」

「口ではどうとでも言えましょう。だが、私が仏より受けた恩恵こそ正義、私の一撃は仏直々の一撃と思うが良い!!」

 

 高らかに宣言を行う、玄僧。

 当然その手は戦いの最中で呑気に休むような事をしていない。すぐさま俺に肉薄すると、続けざまに拳打を放ってきた。

 

 俺は次々と襲い掛かってくる拳を捌きつつ、相手の力について思考を巡らせる。

 

 奴が身体に掛けているのは、恐らく肉体自身を大幅に強化する術。

 一気に接近戦に持ち込める瞬発力に人間の域を飛び越えた腕力。加えて腕を盾にした程度で防ぎきれるわけがない炎を防いでみせ、そのダメージも微小な結果に終わっていた。

 まるで道教における肉体強化のような光景だが、奴は根っからの仏教信者。道の道に進んでいるとは到底思えない。

 そうなると、仏教に進んであの力を手に入れたという事になる。ならばそのソース源は……。

 

 そう言えば、奴は気になる事を言っていた筈だ。確か、『仏から貰った力だ』だとか『自分の攻撃は仏のそれと同様』だとか。

 単なる比喩表現という可能性も十分にあり得るが、それが飾りの言葉でないとしたら……。

 

「(俺と似たような力の持ち主、か?)」

 

 神格から送られた神具。

 神具そのものに膨大な神力が込められており、それに意図的な刺激を加えることで往々の効力を発動する代物。俺が使用している『モード・カグツチ』もカグツチの神力を鎧として形成し、自分の肉体含めて大幅に強化を施させている内容である。

 使用量も限界があるが、どうやら時間の経過で消費した神力は元に戻ってくれるらしい。昔に諏訪子から聞いた話だが、どうやら信仰があるかぎり幾らでも回復できるとの事である。

 ちなみに俺が持っている神具は、指輪と腕輪と首飾りの合計3つ。どれも遥か昔のプレゼントだ。

 

 と、神具の話はここまでにして。

 俺が推測するには、恐らく奴も力の境遇は似たようなものだと考えている。

 が、見たところ奴は神具らしき物を持っているように見えない。

 

 単に見えない所にかくして所持しているのか。

 

 それとも、仏から直接力を注がれた……とか。

 

 なんにせよ、俺が現状の情報だけで推理できるのはここまでだ。あとは時間が経てば分かるようになるだろう。

 

「戦いの最中に考え事ですか?……愚かなりっ!」

「っと」

 

 推測も一区切りついたところで、際どい一撃が俺に向かって襲い掛かって来た。

 が、外れ。

 その攻撃もギリギリで回避したことで、奴の拳は俺の頭の真横を通過する形となった。

 

 当然そこを狙わせていただくわけで、俺はすかさず奴の腕に組みつくと一気に振り抜き、背負い投げの要領で玄僧の身体を投げ飛ばそうとする。

 幾ら肉体が強化されているとはいえ、『モード・カグツチ』の膂力にかかれば奴の身体などおもちゃのように軽い。

 そして俺は大きく振りかぶり、適当な方角目掛けて玄僧の身体を投げ終えようとした。

 

「甘い」

「ぐっ……」

 

 だが、敵もタダで転ぶような真似をしなかった。

 玄僧は俺が手を離した瞬間、宙に浮かんだ身体を即座に調整。そして離れ切る前に俺の頭部目掛けて蹴りを叩き込んできたのだ。

 

 芸当が人間離れしすぎてるだろ……と文句を言いたくなくなったが、攻撃直後にそんな事を言う余裕は流石に無かった。

 

 結果、玄僧は少々不恰好ながらも受け身を取ってすぐさま体勢を立て直し、俺は蹴りの衝撃で地面に膝を付ける形となってしまった。

 予測できなかった反撃によって体勢を直すのが遅くなった俺に対し、玄僧はすかさず攻勢に躍り出る。

 

 地面を強く蹴って肉薄を仕掛ける最中、玄僧はその両腕に金色のオーラを纏わせていた。

 なにあれ。ていうか何で腕が光ってんの。

 

 そして拳の両方を構えて……。

 

「受けよ、仏より授かりし秘奥義…………『無心衝』っ!!」

 

 光る両腕で、パンチ。そして おじさんが いっしょうけんめい かんがえた かっこいい わざめい !

 何が起きてるか良く分からんけど、まともに受けたら駄目だってことだけは何となく伝わった!

 

 突然光り出した坊さんの腕から放たれる拳に動揺する俺であったが、どことなくその攻撃に危機感を覚えたことで次の行動は定められた。

 迫る金色の拳をオーバーに横転することによって、余裕のある回避を果たすことが出来た俺。

 

 一方、俺に目掛けて放たれた金色の拳による攻撃は空を切り、代わりに標的となった地面に5m近いクレーターを作り出した。

 

「…………えっ」

 

 もう一度言おう。

 ただの光るパンチで、地面に5m級のクレーターを生み出しおったのだ。

 突然出して外れたにも関わらず意外な威力を持っていた事を知った今、迂闊に防御に走らなくて良かったと安堵している。

 

 けど当たらなかったから意味が無い。パンチさん可哀想。むしんしょーさん可哀想。

 

「さっきから馬鹿にされているような気がしてならないのだが」

「……気のせいだろ」

 

 意外に聡い人だこと。

 

 悪ノリはさておくとして、あの攻撃をモロに受けるのは冗談抜きで危険だろう。

 『モード・カグツチ』は防御も強化されているので、喰らったとしても死なないことは無いと思うが……過信は禁物だ。ああいう技に限って装甲無視の効果とか備わっているかもしれないし、未知の技というのはこの辺りが怖いからいけない。油断だろうが余裕だろうが、あの威力の技を下手に受ける気はさらさら持ち合わせていない。

 強化したスピードなら、あの程度の速度は十分に対応できるとは思うが……。

 

 

 

――ここはやりやすい方で行くべきか。

 

 

 

 俺の中で、次の一手は決まった。

 

「しかし、何度も避けられると思わない事です。次こそ貴方の肉体にお見舞いさせて――」

 

 俺は、左手の手首に着けられた装飾品に手を掛ける。

 

 それは、かつての友からほぼ強引に贈られた品。

 ワガママでおてんばで、腕っぷしもそれなりにある事からしょっちゅう組手の相手となった、勝気なヤツ。

 だが、年上ばかりが知り合いだったあの時の俺にとっては凄く貴重だった、同年代の大切な友人。

 

 コノハナサクヤ――コノハがくれた、親友の証。

朱い宝石を散りばめた銀のブレスレットにゆっくりと手を添え。

 

 

 

 

 

 指で弾いて、響かせた。

 

 

 

 その直後、俺の身体は『モード・カグツチ』の時と同様に強い光に包まれる。

 だが、驚くような事は何もない。この力は既に諏訪子たちとの修行で明らかにしており、その力も扱い方も十分に理解できている。

 だからこんなにも、安心できている。

 ……まぁ、あいつの力だっていうのも理由としてあるかもしれない。少しだけだが。

 

 

 

 俺の身を包んでいた光はやがて消え失せ、そして俺の新たな姿が明らかとなった。

 

 手を隠すほどに長い袖元に加え、地面に着きそうなくらいに長い丈を持つ、赤い外套。

 頭の上には外套の色と同色の帽子が乗せられており、唾部分が長い三角の形をしている。

 長い袖に隠れがちな手に掴んでいるのは、頭頂部に朱い宝石が装飾された、銀の杖。

 

 御伽の話に登場する魔法使い。

 今の俺の姿を例えるならば、まさにその言葉がピッタリだろう。

 

 西洋の魔術師のような恰好となった、今の俺の形態――『モード・コノハナサクヤ』。

 

 

 

 

 

「さぁ、お披露目の時間だ」

 

 銀の杖を番えながら、俺は静かに微笑んで見せた。

 

 

 

―――終わり

 




 若干ボケ要素が混じった戦闘……まぁ、今後は東方キャラとのガチンコバトルもあるので今回くらいはこんな調子でもいいかな、と。宵闇ちゃんとかUSC様とか。

 そして満希の新しい形態、『モード・コノハナサクヤ』の登場。
 その力の詳細は、次回。

 それでは、次回もお楽しみに!
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