東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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第53話 暁宮 満希の新形態『モード・コノハナサクヤ』

 玄僧との戦いが激化する中、コノハから貰った銀の腕輪を使って変身した俺。

 西洋の魔術師を彷彿とさせるその姿『モード・コノハナサクヤ』が、俺の新しい力である。

 

 静かに微笑みながら、俺は銀の杖を番えた。

 

「さぁ、お披露目の時間だ」

 

 サッ、と軽やかに杖を振るう。

 その瞬間に炎が目の前に生み出され、杖の動きに呼応するように動き出した。

 

 炎は杖の指し示す方向、玄僧に向かって突き進んでいく。

 

「ふっ、姿が変わったかと思えば芸当は一緒。この程度の炎などいくらでも防いで……」

 

 玄僧は嘲笑を表情に浮かべながら、先程と同様に腕を交差させて炎を防ごうと動作に移る。

 確かに、これまでの炎なら展開はさっきと一緒になっていただろう。通常の俺の炎は中級妖怪に対抗できる程度の力。今の奴の実力はそれ以上にあるため、今までであったなら実際防がれていた。

 

 ……が、そこは素直に避けるべきだったな?

 

「ぐ……うぉぉぉぉぉっ!?」

 

 俺の放った炎と玄僧の腕が直撃を果たす。しかしその状況は先ほどの時とは真反対。

 玄僧は炎の勢いに圧倒され、炎は余力を見せつけながら玄僧の身体を後ろ後ろへと押し込んでいった。

 

 そう、この形態『モード・コノハナサクヤ』の放つ炎は通常の姿の時よりも遥かに高火力で苛烈。更には『モード・カグツチ』の時に発揮する炎の温度よりも更に高い数値を叩きだすことが出来る。

 

 もちろん、この形態はただ高い火力の炎を出せるだけではない。

 

「苦戦中に悪いが……お次は、こんなのどうだ?」

 

 今度は数回、さっきのように杖を振るう。

 杖を振った分の数だけ炎が生み出され、それぞれが直線的な軌道を描きながら玄僧に向かっていった。

 

 一方、玄僧の方は初撃の炎から何とか脱することに成功していた。流石に防ぎ続けるのはマズイと感じたか。

 俺の次の攻撃を確認すると、顔を強張らせつつも動きを備えようとしていた。

 

「むぅ、また来るか……!しかし今度は避けてしまえば……」

「疾っ!」

 

 避けようと炎の軌道から逃れようとしていた敵だが、俺は先の炎に対して手を翳して念を込める。

 

 すると、炎の動きに変化が生じる。

 先ほどまでは一直線な軌道だった炎たちが、まるで生き物にでもなったかのように不規則な動きに切り替わる。

 

「なっ……ぬおぉぉぉぉっ!?」

 

 動物的動作をするようになった複数の炎は、それぞれの方向から玄僧に向かって襲い掛かり。あるものは直撃、あるものは周辺の地面に着き爆散といった具合に。

 

 玄僧はその衝撃に巻き込まれ、土煙の中へその姿を消していく。

 

 そう、これも『モード・コノハナサクヤ』の持つ力の一つ。

 圧倒的な炎の。

 通常の状態でもそれなりに炎の動きを弄ることが出来たが、この形態の制御力はそれとは比べ物にならないほど優れている。今のように複数の炎も後付けで自由自在な動きに操る事が可能となるのだ。

 ちなみに永久追尾なんて事も出来る。いつかお披露目出来る機会があるかもしれない。

 

 しかし、俺もまだまだこの力を使いこなせているとは言えない。

 本来なら今の炎も全弾直撃させるべきだったのだが、技術が練磨しきれていないせいで何発か外れてしまっている。

 これは、要訓練といったところか。

 

 と内心で反省点を洗い出していると――土煙の中から高速で飛び出す玄僧の姿を確認した。

 現れた奴は一気にこちらまで接近を仕掛けると、再び両腕を金色のオーラで染め上げ、こちらに向かって突き出してきた。

 

「秘奥義、『無心衝』っ!!」

「おっと」

 

 しかし間合いを焦ったのか、俺が避ける準備を完了させるには十分な時間があった。

 

 玄僧の攻撃が届く前に、俺は後方にフワリと跳躍して攻撃範囲から逃れる。奴の攻撃は外れ、俺は敵との距離を十分に取れている地点まで下がり、スッと着地する。

 秘奥義(笑)。

 

「……やはり貴方、私を馬鹿にしているでしょう」

「別に?」

 

 ソンナコト アリマセンヨー。

 

 ……と冗談はさておき。

 

 実を言うと、この形態には致命的な弱点がある。

 接近戦が非常に不得手になってしまうのだ。

 『モード・カグツチ』ならば今の攻撃も見切って受け流すなり回避するなりが出来ただろうが、この姿ではそのような武人じみた芸当は出来ない。受け流すことくらいなら出来なくもないだろうが、次撃を躱しけれる自信があまりないのでやるつもりも無い。防御力も高くないし。

 と言った具合に、この形態は完全な魔術師タイプ。近距離戦闘を専らの苦手分野とし、中・遠距離からの攻撃に長けた力というわけだ。

 

「見たところ、先程の鎧のような身体能力に恵まれている様ではない様子。ならば引き続き接近戦に持ち込み、こちらに流れを向かせれば私の勝ちといったところでしょうか」

 

 正解。

玄僧の言うとおり、このまま接近戦で挑まれ続ければ、相性の差で間違いなく俺は破れてしまうだろう。

 

 もちろん、対策を怠ってるわけが無いのだが。

 

「……なら、やってみればいいんじゃないか?」

「言われずともっ」

 

 玄僧は駆け出した。

 今度は先ほどまで一直線ではなく、何度も反復を行って自分の位置を入れ替えてきている。フェイントの一環だ。

 

 接近の気配を感じながら、それに対して俺は地面を足の裏でトントンと叩いた。

 

 まぁ、幾らフェイントを掛けてこようが……。

 

「辿り着く場所が同じなら、意味が無いな」

「なっ、地面から炎が……ぐうっ!」

 

 俺が足で地面を叩くと、それに呼応して地面から多数の火柱が吹き上がる。火柱は俺を全方位から守る様に周囲から出現し、その隙間は僅かしかなかった。

 接近を臨んでいた玄僧がその炎柱に直撃し、ダメージを負った。

 

 更に俺は杖を払って炎を放つと、近づいていた玄僧を吹き飛ばして更に距離を離した。

 

 ……自分で言うのもアレだけど、圧倒的じゃね?さっきから一方的に攻撃しまくれてるし。

 まぁこっちも接近戦は素寒貧だし、ペースを掴んだ方の勝ちという事かな。

 

「さて……どうやら流れはこっちが完全に掴んでるみたいだし、大人しく降参したらどうだ?今なら2度と神子を殺そうとか考えないと約束するなら、都から追い出す程度で勘弁してやるが」

「……戯けたことを。私はこの国を導くべき存在、その為に力を得て今という時を待ってきた」

 

 膝を手で支えながら、ヨロヨロと立ち上がって見せる玄僧。既にその身体は傷が多数あり、袈裟服も焼け跡が目立つようになっていた。

 しかし、その闘志はいまだ健在。俺の降伏勧告を跳ね除けながら語るその顔には、確固たる意志が感じられた。

 

「このまま聖徳太子に政を託していては、必ずこの国は崩壊に辿り着くでしょう。異国の教えに嵌り、支配の力に固執するようでは民心は離れる一方。そうなる前に私が正さなければならない、この国を支え続けてきた仏の道に戻さなければならないのだ」

「…………」

「そのために、私は頂点に立つための力を授かったっ。この事実こそが仏の意志、そして国の意志でもあるのだ!道の道に走る太子に、そして貴方に……このようなところで屈するわけにはならぬのだ!!」

 

 奴の熱意が伝わってくる。それだけ奴が本気だということ。

 

 この男は神子を蹴落として、自分が彼女の地位に降り立とうとしていた輩だ。そのために仏から特殊な力を貰い、その力を以て都を支配しようとしていた。現に人間を超越したその力であれば、いかに神子と言えども太刀打ちは不可能だったであろう。

 彼女の友人として、今回の一件は許せるものではない。殺すまではいかないものの、玄僧にはそれなりの罰を受けてもらおうと思っている。

 こうした騒動も元を辿れば玄僧の強い想いから為ったこと。

 

 許しはしない。

 

 だけど国を想う心そのものを否定することは、決してしない。

 

「なら、俺も止めさせてもらおう……だけど、1つだけ伝えておきたい事がある」

 

 あの子は、本気で国の事を……民の事を想っていた。

 

 俺は知っている。夜遅くまで苦悩しながら政策案を煮詰めていた、一生懸命な彼女の事を。視察で街に出て来ては人々から敬意の言葉を掛けられて、丁寧に答えつつ視察の方も疎かにしていなかった真面目さも。突然の布都による放火に直面してパ二くる、予想外の事態への脆さも。

 

 そして……分け隔てをせずに誰に対しても向ける、その優しさを。

 

 彼女はもうすぐ尸解仙となろうとしている。この都を代わって統治するのは、彼女が後継人として選んだ人物となる筈。

 彼女が不老不死となる事に成功していたのならば、この先ずっと安定した統治が出来ていたのか、それとも人外として……。そうでなくても、人間のままでも数十年は信頼できる政治をしていただろう。

 今となっては、無意味な仮定の話に過ぎないが。

 

「……上手くいかないもんだな、人生っていうのは」

 

 遣る瀬無い気持ちを抱えながらほくそ笑み、銀の杖を構えだす俺。

 

 不老不死なんてどうでも良かった。水銀に蝕まれた彼女の姿を見て、心が痛んだ。

 願わくば、あの子には――。

 

 

 

 

 

「普通に生きていて、欲しかったよ」

 

 腕輪を指で弾いた瞬間、俺の神力は急激に増長して――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

「どうやら終わったみたいね~」

「……あぁ」

 

 戦いは終わった。

 

 俺の最後の一撃は強化された玄僧を倒すに十分な力を有しており、直撃した玄僧はそのまま吹き飛び、気絶する。

 控えていた弟子たちが慌てて奴を回収すると、そのまま背負って去っていった。帰り際に何か小物の悪役らしき台詞を置いていったが、聞き流していたので覚えてない。

 

 そして今の俺の隣には、先ほどまではいなかった青娥の姿が。

 

 どうやら遠く離れた所からこちらの戦いを観察していたらしく、戦闘が終わった今になって此処にやって来たらしい。ちなみに遠視も道教で得た力の応用で出来るらしい。本当に、何でもアリである。

 

「貴方がそれを言えるの?」

「なにも言ってないんですがねぇ」

 

 読心術やめてください。

 

「それにしても……クスクス、前に見せてもらった力の他にもこんな力があったなんて……女性に隠し事は失礼よ?」

 

 可笑しそうに笑う彼女が目を向けているのは、眼前に広がる焼野原。

 俺の最期の一撃の影響で、半径十数メートルに及ぶ範囲が丸焼けになってしまったのである。これでもセーブしてる方だが。

 

「男にもそれなりに秘密があった方が魅力的、って聞いたことがあるんでね」

「あらあら、それじゃあまだ何か秘密を持っているって期待してもいいのかしらぁ?」

「……お好きに」

 

 そうやって俺の力に興味を持たれても困るんだが……。

 まぁ、確かにまだ力はあるっちゃあるんだけど。

 

「ふふ……とにかくこれで太子殿も暗殺をされる心配を持たずに尸解仙への準備を進めることが出来るでしょうね。何でも屋さんも、またこちらに顔を見せるんでしょう?この都から出て行く前に」

「……気付いてたのか?」

「貴方の事と時期を考えると、そろそろかな~なんて思ってはいたわよ?」

 

 青娥の言うとおり、確かに俺は近々この都を出て行こうと考えていた。別に都の生活に嫌気が差したわけではないし、神子の死が原因というわけではない。

 俺が、不老不死で姿が一切変わらないからだ。

 ここ数年はこの都で暮らしていたが、流石にこれ以上居続けると俺の異端さに気付く人も出て来るはずだろう。そうなってしまえば俺は人に拒絶される可能性が非常に高まり、人の中で生活することが出来なくなってしまう。

 ほとぼりが覚めるまで人の居る場所を避けなければならないのだが……代が替わる位、つまり数十年単位の年月を掛けないと確実ではない。

 なので俺は、神子が尸解仙の準備を完了させ次第、この都を出て行く算段を付けていた。またこれ程の規模を持つ場所に来れるのは、数十年は先となるであろう。

 

「それじゃあ、数日後にまた太子殿に顔を見せに来て頂戴ねぇ。尸解仙になるには千年以上の年月を掛ける必要があるから、いかに不老不死な貴方でも会えるのは相当先になっちゃうから」

「ん、分かった」

「ふふ……また今度ね」

 

 それだけ言うと、青娥はふよふよと宙に浮かびながら都の方へと飛び去って行った。

 

 残された俺も、小さく溜め息を残しながらその場を後にした。

 

 

 

―――終わり

 




近接特化の『モード・カグツチ』
中・遠距離タイプの『モード・コノハナサクヤ』

今後はこの二つを使い分けて戦う事になると思われます(他人事)。
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