動乱してたのたった2話だったなんて言えない……!しかもそんなに動乱してないなんて余計に言えない……!
そして過去最長の18話構成。過去話とか日常回が無かったら他と大体同じくらいだったでしょうが……。
かつておこった宗教戦争における敗北者の一人、玄僧によって画策された聖徳太子暗殺計画。
聖徳太子は仏教を民に広めておきながら、その裏では異なる教えを重んじているという噂がごく少数で発生。その噂を利用して、神子の体調不良という時期を絶好の機会としたことにより密かに計画が進められていた。
玄僧は計画の人手として、何でも屋を営んでいた俺――暁宮 満希の力を得ようとしていたが、拒否をされてしまい、口封じとばかりに俺に襲撃を仕掛けてきた。
襲撃するだけあって実力はあり、何かしらの方法で仏の力を借りた奴は人智を超えた力を以て戦闘。一時はその高い性能を俺に見せつけてきた。
しかし、俺の変身する『モード・コノハナサクヤ』の力によってその実力も完封され、玄僧は成す術も無く敗北。負傷した身体は弟子たちが回収して、いずこかへと去っていった。
こうして人目の裏で行われた戦いは、玄僧の計画失敗という形で終結した。
――――――――――――――――――――
玄僧との戦いが終わって数日後。
ついにこの時がやって来た。
神子が今の肉体を消滅させ、尸解仙へなるための時が。
既に準備は整っているらしく、いつものメンバーが一つの部屋に集まっている。
神子が、屠自古が、布都が、青娥が、そして俺が。見知った顔ぶれがこの場に揃っている。
神子は相変わらず寝たきりで、数日前よりも肉付きが落ちてしまっている。やはり尸解仙となる以外に道は無いという事か。
屠自古と布都は、そんな神子の様子を心配そうに見守っている。時々青娥にキツイ視線を投げ掛けているのだが……まぁ気持ちは分からなくもない。結果的には神子が焦って行動したのが原因だが、雑学気分で要らない事を教えてしまった青娥にも責任の一端はある。もちろん、この場に居る全員がそうなのだが。
青娥はいつも通り……という程でもなく、普段であればもっと飄々とした笑みを浮かべていたはず。だが、今の彼女はそれを控えめにして微笑み程度に抑えている。彼女なりに今の空気を汲んでの、この表情という事だろうか。
俺も、心境はかなり複雑だ。
何せ今日という日を迎える前日、神子たちからとある頼みごとをされたのだから……。
「さて、それじゃあ準備も出来ている事だし近々始めるとしましょうかぁ」
「えぇ……よろしくお願いします、青娥殿。……屠自古も布都も、心の準備は出来ていますか?」
神子に問いかけられて、静かに頷く屠自古と布都。そして……
「では満希殿……貴方も、部屋から立ち去る準備を」
「…………あぁ」
そう、これが彼女たちから頼まれた願い事の一つ。
俺は神子が尸解仙となるための瞬間、つまり彼女の死を看取ろうと思っていた。俺は彼女が水銀の服用で急激に体調を崩した時に傍に居てやることが出来なかった、だからせめて今回は近くに居ていこうと考えていた。
だが、そんな俺の考えを彼女たちは否定した。
俺が彼女たちの死を看取ると言った際、代表として神子がこう言ってきたのだ。
『貴方はこれからも生き続けていく人。他の誰よりも人と出会い、そして別れを体験することになるでしょう。そんな貴方に、私たちが目の前で消える光景を……大切な友人である貴方の悲しみを増やすような事は、したくありません。だから、貴方は私たちに構わず、前に進んでください』
それを聞いた俺は、最初は否定していた。
この数年間という付き合いで俺と神子たちには確かな絆が築き上げられていた。友と呼ぶには十分なほど言葉を交わし、関わりあってきた。そんな友である彼女たちの死を看取らずに進むなんて……と。
だが、彼女たちは俺のその気持ちを徐々に揺るがせた。彼女たちの瞳が、その心中に込められた想いを乗せて、俺に伝えてきたのだ。
最終的に俺は折れて、彼女たちの願いを聞き入れるという形になった。
俺自身、完全に同意できたというわけではないのだが……彼女たちの強い想いが伝わり、負けてしまったのだ。
だから俺は、彼女たちの死を見送れない。見届ける事は出来ない。
「屠自古、布都……やっぱりお前たちも神子と一緒に行くのか?」
「当然だろ、アタシらは太子様の部下なんだ。太子様を先に行かせて、この先のうのうと生きていくことなんて少なくともアタシには無理な話だ」
「それは我も同じじゃ。死ぬのはちと……いや、正直に言うと凄く怖いけれど……太子様の為ならばこの命、捨てることも躊躇わぬ」
屠自古、そして布都。
彼女たちは神子と運命を共にするという選択を選んだ。つまり、彼女と共に死に向かうという道を。神子が尸解仙になるという話を聞いた後で、それぞれが考えて導き出した答えらしい。
その瞳には、既に決意が込められている。決して揺らぐことのないほどの芯が通った強い眼である。
彼女たちが神子と一緒に死を迎えるという話は、事前に聞かされている。本当なら二人には生きていてほしいのだが……大事な人がいなくなるという気持ちは俺もよく分かっているので、無理に止めることは出来なかった。
それが、非情に悔しい。
「……分かった」
「済まぬ……我らの都合で、友であるお主一人を残してしまおうとして……」
「いや、いいさ。俺に二人を責める権利なんてないからな」
「満希……?」
俺も、ずっと昔に友だちを……蓮子とメリーを置いて、死んでしまうような事をしてしまった。
大事な後輩を……早苗を一人にさせて、別れの言葉もないままに一生会えなくなってしまった。
そんな俺が、今の彼女たちを責める事なんて出来るわけがない。
「なんでもない」
それだけ簡潔に言い放つと、俺はその場からゆっくりと立ち上がった。
そう、もう間もなく尸解仙への手筈が開始される。だから俺は、ここらでこの場を去らなければならない。
……長い長い、別れの時だ。
「じゃあ皆……俺は行くよ」
既に荷物は住居の方で纏め終えており、不必要な物やかさばって邪魔になるような物は近所の人に譲り与えたり、売って旅資金の足しに替えている。ここから出たらすぐに都を出れるようにと、昨日の内に準備を済ませておいたのだ。
この場に居る皆にそう告げると、俺は部屋を出て行こうとした。
すると……。
「……少し、待ってください」
布団に伏している神子に、俺は呼び止められた。
当然その呼び止めに応えるために進めていた足を止め、彼女の方へと振り向いた。
まだ何か、用事があるのだろうか?
そう思いながら振り返り終えた俺が視界に捉えたのは、突き出された彼女の腕であった。その先の手は、小指だけを緩く立てているような状態となっている。
その形はまさしく……指きりげんまんを行う時の手であった。
「……ここに居るみんなで、約束をしましょう」
「やく……そく?」
「はい。私と、屠自古と、布都と、青娥殿と……そして満希殿とで、約束を――」
――何年と時が経ったとしても…………いつか必ず、この5人で再会しましょう。
各人が言葉を閉ざし、沈黙の時間が流れ出す。
しかし、それは決して悪い方向での静まり方ではない。各々が神子の言葉で何かしらの感情を抱いたのだと、皆の顔を見てそう思えた。もっとも、その感情が一体何なのかというのは、複雑すぎて言葉にすることは出来ないのだが。
かく言う俺も、彼女の言葉を聞いて何かを感じていた。やはりこれも、言葉にしようとすると難しかった。
誰もが言葉を発せずにいた数秒間を置いて、先ず始めに神子に声を掛けたのは、青娥であった。
「太子殿……私とも約束を交わすのですか……?事故とは言え、水銀の事を話してあなたを今のような状態にさせてしまったのは、私の――」
「これは私が逸る気持ちを抑えきれずに決行してしまった事に対する、自業自得に過ぎません、貴女は水銀の手段を推奨するようなことは一切していませんでした……貴女に罪はありませんよ」
「太子殿……」
神子が倒れたあの日、青娥はいつもと変わらない微笑みをその顔に浮かべていた。心配するようなそぶりは無く、布都たちから憤りの感情を向けられていたにも関わらずいつも通りの彼女でい続けていた。
俺も彼女の様子を見ていて、その人柄を自己で確定させてしまっていた。仙道を歩んだ彼女にとって、人との繫がりがどのようなものなのかを。飄々としたあの佇まいからは、その答えは決して良いものではないと導き出されていた。
だが、今ならハッキリと理解できる。
彼女は……青娥は、間違いなく神子の友人の一人なのであると。
他の2人は青娥に対してはやはり割り切れない思いがあったのだが、神子と青娥のやり取りを目の当たりにしては、やはり何も言えないらしい。暗黙の了解と言ったところであろうか。
もちろん、俺も反論することは何も無いが。
「なら皆、約束をしよう」
俺の言葉に頷く4人。
既に差し出されていた神子の手の、立てられている小指に向かって。
屠自古が。
布都が。
青娥が。
そして、俺が。
自らの小指を重ね合わせ、繋ぎ合わせる。
彼女たちから伝わってくる温かみを手先で感じながら、俺は全員に向かって言葉を掛ける。
「みんな……今日までありがとう。そして――」
――必ず…………必ず、また会おう。
――――――――――――――――――――
俺は、事前に纏めておいた荷物を背負って都を発った。
都では既に聖徳太子である神子とその腹心たちの死が話題になっており、巷は同様の声で溢れかえり、権力者たちは彼女の代わりを探そうと翻弄されている。都を出る直前に見た街の景色は、いつになく慌ただしい様子となっていた。
そう長くない内に乱れが収まり、神子の後釜による善政統治で都を良くしていってほしいと、願うばかりである。
神子はもう、この世にはいない。
神子だけではない。屠自古も、布都も共にいなくなってしまった。尸解仙となるべく、仙界へとその魂を置いていったのだという。
そして、その話をしてくれた青娥もいなくなってしまった。
都から出て行ったという事ではなく、彼女もまた、神子たちと共に仙界へと行ってしまったのだ。もっとも、彼女の場合は仙人になるためではなく、一時的な休息という意味で仙界へ行ったらしい。そんな気楽に行けるんだ……。
余談だが、急に仙界に行く理由として『最近動いてばかりだったから、少しお休みしておきたいから』と青娥は言っていた。もっとも、今回ばかりはその理由は偽りで、本心は神子に対する罪悪感ゆえの行動のように俺は感じられたので、内心では彼女の素直じゃない一面に苦笑していた。直前にあんな顔をしていては、察してしまうというものだ。
とにもかくにも、彼女たちと再び会えるようになるのは何年も先の話になる。具体的な年数は分からないままだったが、話によると大体2千年くらいで仙人になれるらしい。
だが神子を初めとする彼女たちは才能溢れる才女たち。もしかするとそれよりも早く仙人になれるかもしれない……と、仙人の先輩である青娥は太鼓判を押していたのを思い出す。
案外、2千年より早めに会えるかもしれない。
「……それまで、土産話を目一杯作っておかないとな」
月が綺麗な夜空の下、酒とつまみを用意して、どこか見晴らしの良い縁側で思い出話を俺が語る。
布都は語られる冒険譚に目を輝かせながら身を乗り出し。
屠自古はそんな姿を呆れ見つつも、内心を浮きやかにして耳を傾ける。
青娥はいつも通りの飄々とした笑みを浮かべながら話を聞き、酒をゆったりと口に含め。
神子はそんな皆の姿を、まるで子を見守る母のような眼差しを向けながら、楽しそうに微笑む。
――いつの日か、そんな時が過ごせることを信じて。
……柄にもなく、まだまだ先の未来に胸を弾ませてしまっていたらしい。歳を重ねたとはいえまだまだ若い部分もあるという事だろうか、中々にセンチメンタルなイメージだったと自分でも思う。
とりあえず、気持ちを切り替えていこう。
確かに神子たちと別れることになったのは悲しいが、俺が生きてる限りはまた会えることが出来るんだ。
ならば今は暗くなっているよりも、今後の事について考えていかなければならないだろう。暫く都周辺で生活する事は出来ないだろうから、旅中心の生活になるだろうし、その辺りを少し詰めていかなければいけない。
という事で……それじゃあ、先ずは――。
「さっきから盗み見してる奴……いい加減出て来たどうだ?」
眼光を鋭くして向いた先は、何の変哲もない道の外れ。
そう、普通の人間からしてみれば本当に何も無いただの景色にしか見えていないだろう。
だが、俺は『違和感』を感じた。
まるで、その部分だけがずれているような感覚……その部分にだけ、何者かの手が加わっているかのような様子があった。
加えて、微弱ではあるが妖怪の気配を感じることが出来た。恐らく、景色に同化か何かして姿を消すことが出来る能力とかを持っているのだと思うが……。
念のために、いつでも二つのモードに変身できるように身構えておく。
すると……。
「まさか私の『スキマ』に気付くことが出来るなんて……どうやら噂に違わないお方のようですわね」
「……っ!」
どこからともなく聞こえてきた女性の声。
その直後、俺が先ほどまで注視していた場所の違和感……その正体が明らかになった。
空間が、裂けた。
まるでジッパーを開いたかのように、空間がぱっくりと裂けてしまったのだ。避けている空間の両端には何故かリボンのような物が付けられており、裂け目の中には無数の目玉模様が広がっていた。正直、キモい。
「あらあら、やはりこの風景は見慣れないようですわね?」
裂けた空間に俺が気味悪がっていると、その中から人の姿がスッと現れ出て来た。先程聞こえた女性の声と共に現れてきたことから、声の主は多分この人物なのだろう。
裂けた空間――確か、さっきはスキマと言っていたか?スキマから出てくる人物を俺は観察し始める。
まずその髪の色は、この国では滅多に見られ無い金髪……またかとは言ってはいけない。ちなみにロングヘアで、髪の先をいくつか赤いリボンで纏めている。
服装についてもこの時代では特殊な仕様で、頭には赤いリボンのついた白のナイトキャップ、身体には白いフリル付きのパープルドレスを装着している。
顔つきは美人の枠に余裕で入るほど整っており、並の男であれば一目で惚れてしまいそうな魅力があるだろう。だが浮かべている笑みが、なんだか胡散臭い。
と、言った具合なのだが……さっきから感じている力をみると彼女もどうやら妖怪の類のようである。まぁこれで人間だったら驚きなのだが。
「まぁ、中々新鮮な光景だったよ。それはそうと、そんな芸当が出来るんだからあんたは相当名の通ってる妖怪じゃないのか?」
「いえいえ、名のある妖怪だなんてとんでもありません。私なんてどこにでもいるようなしがない一妖怪に過ぎませんわ」
俺の前に佇んでいる女性は、ドレスの両側をつまみ優雅な仕草で頭を下ろした。
そして再び顔を上げた時にその口から放たれた、彼女の名は……。
「私の名前は『八雲 紫』……お会い出来て光栄ですわ、暁宮 満希さん?」
これが、俺と彼女の初めての出会い。
この出会いがこの先の運命を大きく揺れ動かすのだという事を、この時の俺はまだ知る由も無かった。
―――終わり
???「ところで紫さん」
紫「なにかしら?」
???「古参妖怪でありながら50話越えにしての漸くの登場、貫録ありますね」
紫「貫録なんて、そんな大層なものはありませんわ」
???「そうですかありがとう、ヒロイン決定おめでとうございます」
紫「それほどでもない。…………えっ?」
というわけで、ゆかりんこと八雲 紫がこの作品のヒロインになりました。