東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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今話から新編として【奇妙な二人旅編】がスタートです。
思いっきりネタバレした編名になっていますが……まぁ前回でゆかりんヒロイン宣言しちゃってるので、大丈夫ですよね?



第55話 『胡散くさっ』

「私の名は、八雲 紫……お会いできて光栄ですわ、暁宮 満希さん?」

 

 

 

 突然現れた、謎の女性――八雲 紫は淑やかな笑みを顔に表しながらそのような自己紹介をしてきた。

 一見するとただの挨拶で、会って間も無い間柄にしては随分と無防備な様子を『見せている』。

 そう。無防備で『ある』のではなく、これはあくまで『見せている』に過ぎない。敵意こそは向けて来ていないものの、俺が余計な動きをしようとすれば迅速に対処できるよう、内では気構えを崩さない様にしているのが分かった。

 

 たった数度交わしただけで、彼女がどれだけの実力を有しているのかが理解できた。

 間違いなく、彼女は妖怪の中でもかなり上位の強さに位置する存在だと。仮に戦う事になれば、俺も無事では済まない可能性がある。

 

 ……もっとも、俺も危害を加えるような真似をするつもりはないので、今のところはその強さを警戒する必要はない。万が一の時は、こちらもそれなりの対応をしなければいけなくなるが。

 

 とりあえず、今は彼女と話を続けてこの緊張感あふれる空気をほぐしていかないといけないな。さっきも言ったが、表面上は何ともないが内側の空気がかなり張っているので、そこが余計に気疲れを起こしてくる。

 

「まさか本名全てを知られているなんてな……何でも屋をやってたから人間は知っていても不自然じゃないが、妖怪のアンタからそれを聞くと驚くしかないな」

「あら、別に驚くことでもありませんわよ?貴方の評判は人間たちだけでなく、妖怪の間でも有名になっているのだから」

「…………えっ」

 

 俺が……妖怪の間でも有名人?

 いやいやいやいや、おかしいおかしい。それは普通におかしい。俺なんて特に有名になるような事はしてない筈だぞ?それなのにどうしてフルネームが通るほどの知名度を持ってるんだ?

 第一、ここ最近は簡単な妖怪退治でしか妖怪と関わらなかったんだ。その程度で名が知れ渡るのはおかしいんじゃないか?

 

 どう言う事なの……。

 

「うふふ、随分困惑してるみたいね。本当に身に覚えが無いの?例えば、強い妖怪と戦って勝ったりとか……」

「強い妖怪?ここ最近じゃあそんなのと戦った覚えは無いんだが……」

「あら、別に私は最近の事を言っているつもりは無いわよ?そうねぇ……千年くらい前とか」

「千年前?千年前って言うと…………あ」

 

 俺が悩む姿を面白おかしそうに見物していた八雲から与えられたヒントを頼りに、過去の記憶を遡った。そして、彼女の言う事に最も該当する出来事を引き当てることに成功した。

 

「もしかして、妖怪の山で暴れてた鬼か?」

「ご名答♪」

 

 どうやら、ビンゴだったようだ。

 彼女の話から整理してみると、どうやら千年前くらいに妖怪の山で戦ったあの鬼との戦いがきっかけで、俺は妖怪の中でも名の知れた存在になったということらしい。

 

 けど、あれってそんなに世間に知れ渡るような事になってたっけ?あの後諏訪子たちの所に滞在してたけど、そんな話はこれっぽっちも聞いたことが無いんだが……たまたま聞き逃してただけか?

 

「かつて起こった妖怪の山への襲撃、その件を通して天狗の間では情報収集の重要性を感じた者の手によって、諜報部隊などが設立されましたの。後々に製紙技術を学んだ者で、世間の様子を手書きの情報紙によって広報する団体まで作られたそうですわ」

「製紙に広報…………まるで新聞みたいだな」

「……?何か仰いましたか?」

「いや、独り言だ」

 

 新聞って、そんなに昔からあったっけ……昔授業で聞いた話だと、もう少し先の話だったような気がするんだが。まぁ、妖怪間の歴史だし知らない事実もあるか。

 

「で、広報活動を行う天狗が鬼と戦い勝利した貴方の活躍を記事にしたことによって、貴方の名前は妖怪全体に知れ渡るようになりましたの。特に鬼の一族なんて、貴方と戦いたいって躍起になってる連中がたくさんいましてよ?」

「ウェイ!?何で!?」

「なんでって、鬼は元来より戦う事を生きがいとする種族ですもの。同族を破った存在、ましてやそれが妖怪よりも力で劣る人間だというのだから、彼らにとっては戦いたいと思わない方が可笑しい話なのでしょう」

「……またトラブルに巻き込まれそうな予感が……」

 

 なんてこった……まさか一番厄介な連中から目を付けられてたとは。出会った瞬間に戦闘開始とか、何それ怖い。

 とりあえず、鬼にあった時の対応を考えとこ……。

 

「まぁ、天狗の広報もまだまだ洗練されたものではないうえ、妖怪間の出来事しか殆ど記事にしないようですので、ここ最近の貴方の動向までは把握できていないと思いますわよ。ここ最近鬼と出会っていなかったのがその証拠と言っても良いでしょう」

 

 確かに俺は先ほど、ここ最近は強い妖怪と戦ってはいないと言った。それはつまり、俺と戦いたがっている筈の鬼とも遭遇していないという事実に繋がる。もし天狗が人間界の情報にまで手を広げていたらヤバかったということか……。

 近いうちに、文に会いに行って近況を確認しておいた方が良いかもしれないな。

 

「ご丁寧に情報を教えてくれてどうも。で、アンタはどういう理由で俺を監視するような事をしてたんだ?」

「別に鬼だけが貴方に関心を持っているわけではありませんわよ?かく言う私も、強力な妖怪を打倒したという貴方に少なからず興味を抱いていますわ。そう――」

 

 

 

 

 

「――どれだけ強いのか、とね」

「……っ!!」

 

 八雲が最後の一言を言い放った途端、彼女から殺気が込みあがってくることを感じた俺。

 鋭みのある気迫に気圧された俺は、即座に後方に跳んで距離をとった。これまでであった妖怪よりも遥かに強い気に、冷や汗を一筋流した。

 

 このままだと、確実に戦闘になる。

 幸いにもここは人気のない場所だから全力でやれるが……『モード・カグツチ』や『モード・コノハナサクヤ』で倒せるだろうか?もしかすると、それらを使ってでも厳しい戦いになるかもしれない。

 最悪の場合は、『あれ』を使うしか……。

 

 と言った具合に、俺が後ろに下がって彼女の動向に警戒をしていると……彼女の雰囲気が、また変わった。

 

「……うふふ。そんなに身構えなくても、今のは軽い冗談ですわ」

「冗談で出していい殺気じゃなかったと思うんだが……」

 

 どうやら冗談というのは本当らしく、先ほどまで感じていた殺気は既に消え失せていた。

 面倒事にならないのはいいけど、かなり心臓に悪いよ……。

 

「で、本当の理由は?今度は冗談とかそういうの要らないから」

「まぁこれ以上引き延ばしても時間の無駄ですから、素直に言うとしましょうか」

 

 最初からそうしてくれ。

 

「先ほども言いましたけれど……ただ純粋に、貴方に対して興味を持つようになったからですわ。それが理由」

 

 嘘をついているような様子は無く、今度こそ彼女は理由を話してくれた。が……

 

 

 

――胡散くさっ。

 

 

 

 抱いた印象が、これである。

 

 彼女は特に悪くないのだが、先ほどからどこか含むものがあるかのように笑みを浮かべており、物腰は丁寧なのにその表情のせいでどうしても裏があるような感覚を得てしまう。加えて先ほどの冗談の事もあり、まだ何か隠している事があるんじゃないかと疑いつつある。

 さっきは嘘をついている様子は無いと言ったが……彼女の醸し出す胡散臭さのせいで、微妙な矛盾を生み出してしまっている。嘘をついていないのに裏があるというのも、珍しい話だ。

 

「……顔に考えてる事が出てましてよ?」

「あ、やべ」

「はぁ……まぁお茶目な冗談をした後だからそう思われてしまうのも仕方がないとは、私も自覚していますけれど」

 

 殺気ぶつけるのがお茶目て……。もういいや、取り敢えず話を進めて欲しいと目で催促しておこう。

 

「兎にも角にも、先程の理由が紛う事なき私の本心ですわ。妖怪の中でも特に排他的な天狗の住処に侵入しておきながら生きて帰り、出くわした緊急事態を収めてみせて……神格の存在と面識がありそれなりの交友を持っている。その時点で人間離れしているのにもかかわらず、何事も無いかのように人間世界に入り込んで、つい最近まで何でも屋として都で多大な評判を得ている。これほどの人物、逆に興味を持たない方が可笑しいと思いますわ」

「……なるほど。自分で言うのも何だけど、人間の範疇を明らかに超えた活動範囲だな」

「ご理解いただけて何よりですわ。で、ここしばらくは観察をさせてもらいましたがついにバレてしまいましたので……一つだけ、提案をさせていただきたいのですが」

 

 提案?

 俺がその言葉に反応して小首を傾げると、彼女は提案の内容について、口を開く。

 

「提案とは…………私を、貴方の旅のお供に加えさせていただけませんこと?」

「……ついて行きたい、ってことか」

「そう、客観的に貴方を知る事は十分に出来ましたので。現にこうしてバレてしまいましたが、どうせなら貴方と直接言葉を交わして知ってみるのも良いんじゃないかという見解に至りまして」

「ふむ……」

 

 いきなりの申し出ではあったが、俺は別に悪く思うようなことは無かった。

 俺は普段から一人で旅をする傾向があったので慣れてしまっていたが、複数人で旅というのはこれまでを振り返って見ても、殆ど経験が無かった。知り合った友は誰も旅をするような立場じゃなかったし、俺自身も一人の時間が長かったせいか特に抵抗を感じなかったからだ。別にぼっちだからとか、そんなんじゃないから。

 

 ともあれ、彼女が旅に同行したいというのは構わない。連れのいる旅というのも悪くはなさそうだし、折角の機会なのだから無下に断るのも酷な話だと思う。

 

 まぁ問題があるとすれば、俺の行く先が彼女の望む場所と合致するわけではないという事と突然攻撃を仕掛けてくる可能性が0では無い、ということだろうか。

 

 その辺りについて、彼女に尋ねてみた。

 

「ご心配には及びませんわ。私はあくまで貴方の旅のお供なのですから、貴方の行くがままに従うだけのこと。それに後ろから襲い掛かるなんて真似も、私の名に誓って決して致しませんわ」

 

 微笑を浮かべながら、その様に問いを返してくれた八雲。

 

 本人もこうして否定しているし、旅の仲間になるんだったらその辺の信用もちゃんとしておかないといけないだろうしな……細かい事はいっか。

 

「分かった、なら今日から一緒に旅にするってことでいいか。先に言っておくけど、俺も基本的には目的地とか作らずにブラブラしてるだけだから、絶対に面白い旅になる保証はしないぞ?」

「ええ、構いませんわ。つまらない空気になっても、どうせ貴方が楽しませてくれるのでしょう?」

「俺は芸人かっての……まぁとにかく、だ」

 

 俺は軽く一息つきながら、八雲の前に対して腕を伸ばし、手を差しだした。

 何ということは無い。只の握手である。

 先程も言った事だが、これから一緒に旅をする間柄なのだからこうして信用の証を示しておかないとな。俺自身も八雲とは仲良くやっていきたいところだし。

 八雲も俺のやりたい事に気付いてくれたのか、小さく頷いて見せると俺と同様に手を差しだし、俺の手をキュッと掴んで握手を交わした。

 

「もう知ってると思うが、俺は暁宮 満希。過程はどうあれ折角の旅路なんだから、その張り付けたような敬語は無しでいかないか?」

「張り付けただなんて失礼しちゃうこと……まぁ確かに自然なしゃべり方かと言われればそうでもないから、ここはお言葉に甘えさせてもらおうかしら」

「ん、そっちの方が自然だからこっちとしても聞き慣れるな」

「それは良かった。なら私のことも紫って呼んでくれた構わないわ、なんだったらゆかりんって呼んでくれても――」

「じゃあこれからよろしくな、紫」

「んもう、つれないお人ね」

 

 ……どうにも青娥を思い出させるタイプだな。こういう手合いはペースを掴んだらトコトン強いから、呑み込まれないように気を付けておかないと。下手したら終始弄られのポジションについてしまうかもしれない。

 

 

 

 こうして俺と八雲――改め、紫による二人組が出来上がり、旅が動き始める。

 

 中々掴みどころのない連れにある意味で不安を感じながらも、初めての旅の連れという事で内心では嬉しく思っていた。

 俺はこれから先に待ち構えている旅に、期待で胸を膨らませつつあるのであった。

 

 

 

 

 

 あれ、そう言えば紫っていつから俺の事を観察してきたんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=========================

 

 ついに見つけた。

 観察対象、暁宮 満希と接触を為したあの妖怪。我がこの世界で観察を行う、もう一つの目的。

 

 八雲 紫。

 

 現時点で世間に同種がいないとされている、一人一種族のスキマ妖怪。この時代で既に強大な妖力を持ち、妖怪たちの中でも一目置かれた存在。ゆくゆくは幻想郷―――楽園を作り出す、妖怪の賢者。

 

 しかし、スキマ妖怪は―――――――――ない。

 

 ……いや、違う。―――は――――ではない。

 

 可能であれば、今すぐ―――――。もっとも、この身体ではそれ――――――。この術は――――――。

 もうしばらくは、様子見を続けなければならない。

 

 だが、いずれは……。

 

「……まぁいい、今はひと時の安楽を楽しんでいるが良い。暁宮 満希……そして八雲 紫よ」

 

 

 

―――終わり

 




 物凄く久しぶりな描写でしたが、『===』で区切る部分は視点変更を意味しています。私も久しぶりに視点を変えたのでモロに忘れていました、最後に使ったのは第32話でしたから……
 なので最後の分は満希の視点ではありません。一体何ローブの男の視点なんだ……。ちなみにこの人も第16話以来の登場です。


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