東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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とある旅の一日。そんなお話。




第56話 『仙人にも色々あるんだろ』

 紫と旅を始めるようになってから4日が経過した。

 今の気候は晴れ模様。雲も空に浮いているが雨雲ではないため、雨天になる心配は恐らくない。

 

 俺と紫は未だ村らしき場所に辿り着いておらず、簡素に作り上げられた道を見つけたためそこを歩いている最中だ。

 俺たちの進路は未だ決まっておらず、歩いた先に村が見つかれば僥倖といった適当具合で歩みを進めているため、次に村に辿り着く日取りは未明となっている。

 

 俺は普段からこのような感じだったので別段思うようなことは無かったのだが、紫は違っていた。

 どうやら彼女は普段からスキマを行使した移動手段を用いているらしく、こうして自分の足で長時間歩き続ける機会があまりなかったという。なので決まって休憩が必要になるのは彼女の方だった。

 いかに強大な妖怪と言えど、やはり鈍る部分があるとこのようなことになるという事がよく分かった気がする。

 

 とりあえず、ついさっき休憩を入れたばかりなのでまだ暫くは紫も大丈夫だろう。何やかんやで日を重ねるごとに休憩と休憩の間、つまり歩く時間が少しずつ長くなっているので彼女も旅歩きに慣れ始めてきているという事だ。

 これからもこのような数日歩き続けな日があるのだから、やはり慣れていくと彼女にとっても助かる話だろう。

 

 

 

 そんな道中、俺と紫は他愛も無い話をしていた。

 

「スキマ妖怪って、紫しか存在してないのか?」

「ええ。私以外にスキマ妖怪がいるなんて話、今まで聞いたことも無いわ。とはいえ妖怪の中には一人一種族として確立された種もいるのだから、私だけが特別ってワケじゃないのよ」

「スキマかぁ……いつも使ってるあの裂け目も、前に話してくれた能力の一環ってことか」

「正確に言うと、私がスキマ妖怪であるがために持っている能力だけどね。こんな感じで」

 

 と言うと紫は、目の前にスキマを展開して見せてくれた。

 

「うわ、やっぱキモッ」

「落とすわよ?」

「すいません」

 

 紫って、いつもこの中に入って移動とかしてるんだよな。この中に入るとか正気を失いそうだよ……周り全部が目ん玉とか、それなんて罰ゲーム?眼Q?

 

 ちなみに紫の能力というのは『境界を操る程度の能力』。

 境界という概念が存在すれば、人であろうが物であろうがなんでも境界を通して操ることが出来るのだという。彼女が普段使っている空間の裂け目も、空間の境界を弄る事によって生み出しているらしい。

 考えるまでも無く、チートの領域である。勝てる奴がいるのだろうか、これ。

 

「というか、何で境界の中身って目玉だらけなんだ?」

「別に本当に目玉があるわけじゃないわ。あの光景はあくまで使用者自身が抱く印象によって変わる物、つまりあの目玉が沢山ある光景は私の中での印象が具現化した結果なのよ」

「どういう印象を抱いたら目玉になるんだ……」

「色々よ」

 

 それ以上は特に話してくれる様子は感じられなかったので、深く追求する事は止めた。いつか酒の席でポロッと暴露する可能性があると、適当に期待でもしておいてこの話題は終了しよう。

 

「取り敢えず、このまま進んでいけば村かなにかに辿り着ける可能性がかなり高い。ある程度進んでも着かなかったときは休憩を挟んでいこう」

「どうして村が近くにあるってわかるの?」

「今俺たちが歩いている地面だけど、簡単な造りとはいえ人の手が加えられたような道になってるだろう?人の行き来が殆ど無いような場所にこんなものがあったとしても無意味に等しい、あるとすれば人や馬車が通りやすい場所……ひいては人の住居の近くということになる」

「へぇ……なるほど。私は普段スキマで移動してるから、そんなところ気が付かなかったわ」

 

 関心を払う様子を見せながら、紫は自身の足元に続いている道を一瞥していた。

 

 俺の経験が活かせているのであれば、今日中にはどこか適当な村に辿り着けるのではないかと踏んでいる。具体的な距離までは分からないが、日の沈む時間までには行けそうかもしれない。

 

 ちなみに見ている側にとっては『空に跳んで上から確認すれば済む話なんじゃない?』と思われるかもしれないが、あくまでそれは完全に迷子になった時の最終手段に過ぎない。旅自体が急ぎの用事でもないのだし、わざわざ跳躍飛行を使ってまで村に到着する理由も無い。こうした人間らしい行動に従って動くというのも、長く生きる上での立派な刺激とも言えるのだ。あと、跳んでいる所を通りすがりに見られたら、面倒な噂が流れてしまうかもしれないというのも、理由として取り上げておく。

 ちなみにこれは紫のスキマ移動を否定した発言ではないので、あしからず。便利なのは何も悪くないし。

 

 とどのつまり、退屈しない様に少しでも人間らしい活動をしていこうという長寿者の小細工である。旅の同行者である紫も、俺の方針に口出しはしないという約束だったし多少は俺のやり方でいかせてもらうつもりだ。

 

「まぁ、せかせかした旅でもないんだ。気長にゆっくり行くとしよう」

「……見た目は若々しいのに、発言が年寄り臭いわね」

「ほっとけ」

 

 まぁ、事実年寄りだからな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 それから一時間程度が経過した。

 

 俺と紫は広く横に広がっている細長い川に到達したため、休憩のためにそこに立ち寄った。木造の橋が掛かっていたことから、やはりこの道は正しかったのだと推察できる。

 

「ふぅ……冷たくて気持ちいいわね……」

 

 紫はニーソックスと靴を脱いで傍らに置き、岩場に腰を下ろしてその足を川に浸けている。脚を通して水の冷涼を感じている彼女は、すっかりリラックスしている。

 いかに歩き旅に慣れ始めたとはいえ、やはり疲労が重なっているのは明白。中でも最も疲れているであろう足に直接癒しが与えられているのだから、彼女が喜ぶ理由も共感できる。

 

「まだ日が落ちる時間でもないし、ここで適当に休んでいくか」

 

 そんな彼女に対して、俺はその隣に座って別の作業を行っていた。ちなみに足は水に浸けていない。

 自分の荷物の中からとある物を取出し、それを眺めていたのだ。

 

 

 

 それは、今はいない友人――霍 青娥から餞別として受け取った、別れの品だ。

 

「その書物は?」

「あぁ、友人から貰った物だ。……仙人になるための方法が書かれた、仙道の本らしい」

 

 俺はそう言って紫に手に持っていた物――仙道書を見せた。

 

 現代の本の形と非常に近いこの本は、以前俺が神子たちと別れた際に、都から出る前に青娥が持って来て手渡してくれた物だ。

 彼女曰く、この本には仙人になるためのあらゆる方法が記されており似たような本を神子も読んでいたのだとか。大陸から持ってきた私物で、眠っている間は読まないからという事でプレゼントされたのだ。

 

 本の構成をザッと見で確認されてもらったが、冒頭付近は仙人への昇格手段が数十種類とその具体的な方法。以降は仙人になってからの修行法がこれまた多数、具体的に記入されていた。

 冒頭の部分は、別に興味が無い。何か不老不死染みた身体だし今更仙人になったところで大したメリットが無いように思えたからだ。

 だが、後半の修行法については検討する価値があると思えた。

 いかに老いない身体とは言え、瀕死の重傷を負ってしまえば死ぬ可能性が跳ね上がるだろう。それは生き物として当然の流れであり、俺もまた例外ではない。

 そんな事にならないためにも、まずは俺自身の力を高めておかないとダメだ。鬼が種族単位で俺に興味を示していると聞いた以上、いかに【モード】の力が強くても、俺自身がその力を使いこなせなければ話にならない。

 

 そのためにも、この本に書かれている修行法はやっておくべきだと思った。

 

 今後も起こってくるであろう、更に大きな戦いに備えて。

 

「仙人ねぇ……座禅でも組んで瞑想でもするの?」

「そういう印象持たれやすいけどさ、仙人って……。この本では別段特別な事をする必要はないらしいぞ?座禅組んで瞑想したり、呼吸の仕方を洗練させたり」

「結局座禅組んで瞑想するんじゃないの。前者はともかく、後者は何で呼吸を良くするだけで修行として成り立つの……?」

「まだ詳しく見てないから分かんないけど……仙人も色々あるんだろ」

「うわぁ、胡散臭い」

 

 お前が言うな。

 

「まぁ、じっくり読み込むのは村に着いて宿を確保してからにでもしておくさ。今はのんびり休憩休憩」

「あら、どうせなら水浴びでもして気分転換でもしたらどうかしら?」

「いや、別にそんな気分ってわけでも――うおぁ!?」

 

 紫から出された提案をやんわり断ろうとした直後、固い岩に座っている感覚がフッと消え、突然の浮遊感を身に受けた。

 何が起こったかと理解する前に俺は落下し始め――水の中へと飛び込んで行った。

 

 直ぐに現状を把握した俺は水の中、もとい川の中から水面に向かい進み頭を出した。一応言っておくと本は一緒に落ちていなかった。相変わらず岩場に座っている紫の手元に収まっていたから、彼女が落ちない様にキャッチしてくれていたのだろう。

 

 いや、俺を落とした張本人にくれたも何もあったもんじゃないけども。

 

「ぶはっ!おい、紫!今スキマ使っただろ!そもそもいきなり何しやがるんだ!」

「こんな美女を胡散臭いと思った頭は良く冷ましておくべきではなくって?」

「なにこのエスパー心が読めるの?っていうかそんな印象、出会った時から抱いてるわ!」

「あらそう、じゃあ折角だからもう一回行ってらっしゃい」

「おい馬鹿やめ――おぅ!?」

 

 そしてTake2へ……。

 

 

 

 

 

 ちなみに当然ずぶ濡れとなった俺であったが、その後に能力を使ってあっという間に乾かしてみせたので旅には何の支障も起きずに済んだ。

 紫曰く、『貴方の能力なら服なんて直ぐに乾かせるでしょう』という理由であんなお茶目なイタズラをやらかしたらしい。怪我をしない程度の高さから落としたのがその証拠でもある。

 

 とりあえず、水場に来たら紫のイタズラが来ることを警戒しないといけないと内心誓う俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに貴方、何年くらい生きてるの?千年近くは生きている事ぐらいは知ってるけど」

「そうだな……昔通りすがりの妖怪から聞いた話だと、一万年くらいは生きてるってことになるんだが」

「えっ」

 

 

 

―――終わり

 




次回は村に到着。そして恒例のトラブルが。
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