東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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小イベント開始。満希と紫の交友を深めるという作者の魂胆が生み出したイベントです。
なお原作キャラは特に出ない模様。もうちょっと先で出すんじゃよ。




第57話 『ということでよろしく、旦那様』

 前回、小川で休憩を行ってから2時間程度。

 

 ひとしきり歩いたところで、俺と紫は村へとたどり着くことが出来た。

 今はその村の入り口付近で足を止め、村の外装を確認している最中だ。

 

 村は大きさとしては平均的で、大きすぎるわけでもなければそれほど小規模というわけでもない。周りは木で作られた柵で囲まれており、外部からの動物の侵入対策は一通り出来ていると観察することが出来る。家屋なんかも視界に捉えることが出来るが、別段ボロボロになっているところもなかった。

 見たところ、特に変わったところがない普通の村といった印象を受ける。

 

 しかし……。

 

「ねぇ、随分と静かすぎるんじゃない?パッと見、ここからじゃ人の姿が見当たらないわよ?」

「確かに……」

 

 紫の言うとおりだ。村にまだ入っていないというのに、人の声どころか物音さえもしない。

 それ以前に、日が落ちていないにも関わらず人の影が見当たらないといった様子である。村人全員が家に入っていると考えるにはあまりにも不自然だ。

 

 流石に無人の村ではないと思うが……。

 

「取り敢えず、村に入ってみるとしよう。何か分かるかもしれない」

「そうね、ここに立ち尽くしていたって何も分かることは無いのだし」

 

 俺と紫は互いに顔を見合わせて頷くと、村の入り口をくぐり中へと進むのであった。

 

 

 

 二人で村へ入り周囲を一瞥してみるが、やはり人の姿は見当たらない。やはりこの村は様子がおかしい。

 

「一体どう言う事かしら……妖怪でも襲ってきたのかしら?」

「それにしては被害が全くと言っていいほど無いな……もう少し奥に進んでみるか」

 

 頷いて同意を示してくれた紫を確認すると、俺は彼女と共に村の奥へと進み始めた。

 道中で家屋の様子や田畑の具合を確かめてみたのだが、戸締りは確りされていたようだし、ちゃんと今日まで農耕が行われている形跡があった。仮に妖怪の襲撃で無人になったとしては、やはり不自然と言えるだろう。

 まるで、村人全員で外出をしているかのような感じだった。それこそどんなイベントなんだよと思ってしまうが、現状を見るとその可能性も確かに存在している。

 

 とりあえずは、血生臭い様子が無い事に安心していくとしようか。

 

 すると、隣にいた紫が……。

 

「……?ねぇ満希。声が聞こえない?」

「声?」

 

 そう俺に尋ねて来たので、俺は彼女の言葉に沿って耳を澄ましてみた。

 すると確かに彼女の言うとおり、小さくはあるが声が聞こえてきた。

 流石に声だけで種族を判別することなんて出来ないが、村の中で聞こえるという事はこの声の主がこの村の住人である可能性が非常に高いだろう。

 

 だが、この声は……。

 

「泣いている……?」

 

 その声は、泣いていた。

 

 もう一度その声を確かめてみるが、やはりその声は悲哀の感情が籠っており、泣いているようにしか聞こえない。

 俺の視線の先に見える、村の中でも最も大きな建物から、その声が聞こえていた。

 

 更に、泣いている声は一つだけに留まってはいなかった。

 近づいていく度に、先程最初に聞こえた声とは異なる声が次々と俺の耳に届いてきたのだ。どの声も、泣いている様子だった。

 

 そして俺と紫は、大きな家屋の入り口の前にまで到達した。ここまで来た頃には、老若男女問わずかなりの人数が声をあげて泣いていることが、外からでも判別できた。

 

「どうやらこの建物のようだけど……まさかこの中に村人全員がいるのかしら?」

「おそらくそうだろうな。取りあえず、中に入って状況を把握しておこう」

 

 そう言って俺は、扉の前に立つとノックを行った。

 

「何やってるの?」

「中に入る前の形式みたいなもんだよ。いきなり戸を開けて入るよりも、こうした方が中にいる人も驚かせずに済むだろ?」

「ふぅん……見かけない文化だけど、悪くは無いわね」

 

 と言った具合に軽く話をしていると、ノックしてから十数秒程度で扉がゆっくりと横にスライドして開かれた。

 

 中から姿を現してきたのは、髪をバッサリ短く切っているガタイの良い男性で、歳は30前後と言った外見年齢をしている。

 男性は僅かに目元を赤く腫れさせながらも、俺たちの姿を確認するとその口を開いた。

 

「……あんたたちは?」

 

 見たところ、突然の来訪であったにもかかわらず大して警戒心を抱いていない雰囲気を感じた。いつもならもう少し訝しげに思われるんだが……まぁいいか。

 とりあえず、いつも通りに自己紹介を済ましていこう。

 

「俺は暁宮 満希。ちょっとした旅人で、近くにこの村を見かけたので寄らせてもらいました。こっちは旅の連れの――」

「紫と申します。旦那様と共に旅をしているしがない女ですわ」

「おいっ?」

 

 ちょっと何言ってんですかこのお人。

 

「はぁ……夫婦そろって旅とは、中々珍しい方々だね」

「あ、あはは……すいません、ちょっと待ってもらえますか」

 

 僅かに呆気にとられている男性に対してそれだけ告げると、俺は紫の腕を引いて少しだけ離れて声を抑えて話をし始める。

 

(おい、なんだよ妻って。俺とお前がいつ結婚したって言うんだよ)

(あら、別に私が何も考えなくてそう言ったと思っているの?ちゃんとこれには理由があるのよ)

(理由?)

(えぇ。私の容貌を見て思うかもしれないけど、私の外見って格好も含めて人間とは大きく違っていて美しいでしょう?)

 

 最後の言葉はツッコまんぞ。

 

(確かにな。で?)

(私の外見を異質だと感じた人間は、高確率で私を妖怪だと判断するでしょうね。鈍い人間は異国の同種だと勘違いするかもしれないけれど、高望みは出来ないわ。私を妖怪だと知った人間は、私は勿論のこと一緒にいる貴方も妖怪の仲間として認識して、拒絶する。そうなってしまえば人間の暮らしに溶け込むことは出来ないわよ)

(成程な、言われてみれば確かにそうだ。……で、それが何で夫婦に繋がるんだよ)

(人間と妖怪が一緒にいるなんて、普通に考えられない事でしょうね。ならばそれが夫婦の契りをかわしていたとしたら?種族の常識を覆す内容を利用すれば、それは非常に優れた隠れ蓑として機能するわ)

 

 つまり……人間の俺が妖怪を妻にしてるなんて普通有り得ないから、外見がどうあろうと妻と称する彼女は人間として見られることに繋がる、ってことか。

 

(そう言うのは事前に教えて欲しかったんだが……流石に俺もビックリするから)

(ごめんなさいね。まぁ所詮は偽りに過ぎないけれど、今後のためにもしっかり私を妻として扱うようにするようにね。ということでよろしく、旦那様)

(誰が旦那様じゃい)

 

 内緒話も区切りがついたところで、俺と紫は一緒に元の位置へと戻った。あまり長引かせると、失礼だし変な疑惑を掛けられてしまうからな。

 

「失礼、急遽確認したい別件を思い出して……目の前で行ってしまい、すいません」

「あぁいや、おれは別に気にしちゃいないけど……で、旅夫婦のお二人が、この村を見つけて立ち寄って来たんだっけか」

 

 紫と夫婦とか、めっちゃ違和感あるんだけど……。

 

「えぇ。備えていた食料も少なくなったので、差支えが無ければ暫くこの村に留まらせてもらいたいと思いまして。もちろん、滞在する間は労働は行うつもりですが……」

「なるほど……滞在云々については、奥の村長に直接話を通して許可が下りれば問題ないと思うが……今は間が悪いから後で出直したほうが良いぞ」

「間が悪い?ここに来るまでどの家にも人がいなかったけど、こんな広間に揃って一体何が……」

 

 男性は沈痛な面立ちを現しながらも、重々しく口を開いた。

 

「……村長の孫娘さんが、妖怪の生贄として明日の晩に差し出されてしまうんだ」

 

 

 

 男性は、俺たちに以下の内容を話してくれた。

 

 つい最近の出来事なのだが、この村に突如として巨大な妖怪が姿を現したらしい。

 その身の丈はそこらの家々よりも倍以上高く、巨木の丸太のように太長い胴体を持っているのだとか。また、刃物のように尖った牙が口元に揃っていてその眼光は一部の村人を気絶に追いやるほどの威圧と鋭みを持った凶悪さだと。

 

 その巨大は村を見下せるように身を立たせながら、村人に対してこのような要求をしてきた。

 

『この村で最も美しい雌を、次の満月の晩に俺様の元に連れて来い。出来なければ、この村は俺様の手によって直々に滅ぼしてやろう』

 

 と。

 更に妖怪は尻尾の部分で近くの巨木を軽々と持ち上げてみせると、その巨木を容易くへし折って見せて『俺様の言う事が聞けなかった暁には、一人ずつこの細木のように絞め殺してやる』と脅迫したらしい。

 

 村人たちはその光景と妖怪の言葉に失意を起こし、苦渋の思いで約束の日の前日である今日を迎えてきたそうだ。

 助けを求めようにも、人間の力では巨木を軽々とあしらう妖怪に勝てるわけがない。それに余計な真似をすれば、どこで見ているかも分からない妖怪に知られた時に大変な事が起きるに違いない。

 

 村人たちは、大人しく妖怪の言う事に従う選択しか残されていなかった。

 

 

 

「……と言うわけさ。この村で最も美しいと評判なのは、向こうに座ってる村長の孫娘さんだよ。あの子は都へ出稼ぎに出た親父さんが戦争に巻き込まれて失って、お袋さんも数年前に病気で亡くなっちまったんだ」

「……肉親は村長さんしかいない、という事ですか」

「あぁ。両親を失って悲しい筈だろうに、あの子は心配をかけまいといつも笑顔を浮かべてたよ。甲斐甲斐しくて誰に対しても優しく振る舞ってくれるもんだから、村の若いもんの中では最も人気がある娘だよ」

 

 そこまで台詞を放ったところで、男性は徐々にその身を震わせ始めた。

 今まで余所の人間である俺や紫と話をしていたことで紛らわせていた気が、今になって湧き上がり、抑えきれなくなってきたのだろう。

 

「あの子には俺も良くお世話になってたってのによぉ……ちくしょうっ、なんであんな良い子が化け物の生贄にならなきゃいけないってんだよぉ……!!」

 

 そう言って男性は、涙が溢れつつある目を手で覆い隠しながら、声を押し殺して悲しんだ。

 

 俺はその光景に居た堪れなさを感じながら、広間に集まっている村の人たちの姿を窺う。

 

 みんなが泣いている。一人にだけ待ち受けている死という現実に、みんなが嘆き悲しんでいる。

 死を明日に迎えようとしている少女も、涙を流している。唯一の肉親である村長が酷く嘆いている前で、同じようにこの現実を悲しんでいる。

 

 当然、このままで良い筈が無い。この人たちが泣く必要など、どこにもないのだから。

 

 

 

 

 

『貴方は私たちに構わず、前に進んでください』

 

 

 

――そう。これが俺の進むべき道だよな……神子。

 

 

 

「すまない、ちょっといいか」

 

 

 

 俺は、絶望に包まれたこの空間に一石を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

「それにしても、貴方も随分厄介事に巻き込まれる性質よね」

「そうか?」

「そうよ。天狗の山では鬼の襲撃に出くわすし、聖徳太子暗殺計画にも裏で関わる事になってたし、今回だって生贄になる人間を妖怪から助けだす……時期的にも神がかってるし、なにか憑りついてるんじゃない?」

 

 ……否定できないのが、何とも。

 

 現在俺と紫は、先ほどまでいた広間――集会所の内に設けられている就寝部屋へ村長の好意によって案内され、各々荷物を部屋で整理している。といっても、整理をやっているのは俺だけで、紫の方はベッドに腰を下ろしてゆったりとしているだけだが。荷物をスキマに収納してるとか、なにそれ便利。

 

 

 

 先ほどまで行われていた集まり――村長の孫娘さんのために開かれた惜別の宴は、もう終わっている。

 というよりも、俺が終わらせたのだ。

 

『俺は妖怪を倒すための術を心得ている。俺に妖怪の討伐を任せてくれないだろうか』

 

 皆が悲しみに暮れている中、俺はその場にいる全員に対してそう声を掛けた。

 

 最終的な結論を先に言うと、村の人たちと村長は俺に妖怪討伐を託してくれた。

 

 だがしかし、村人たちもスルスルと快く許可してくれたわけではなかった。

 話が始まった頃は、村人の殆どから批難の声を浴びせられたのだ。ある者は、ふざけるな、と。ある者は、何を勝手な事を言ってるんだ、と。

 だがそれも当然と言えよう。いきなり現れた余所者が、自分に村の命運を託してくれなんて言って来ても、ハイそうですかと素直に従う方が稀有に違いない。

 

 しかし、批難されただけで大人しく引き下がるわけにはいかなかった。

 

 俺は自分が仙人であるという事を、仙道の書物を証拠品として見せつけながら説得を行い、皆の心を動かした。

 『このまま生贄を差し出しても、また次の犠牲者を要求されるに決まっている。今回で無事に終わる保証なんて、どこにもない』と言った具合に、現状に甘んじていてはいけない事を中心に言葉を掛けていった。

 

 それなりに時間は掛かったが、最終的には村長が皆の様子を窺い決断を行った。

 

 俺に孫娘の命を……村の命運を託す、と。

 

 

 

「貴方も中々に物好きよね。最初の時はあれだけ酷く言われてたのに、懸命に説得してしまうんだから。普通なら愛想を尽かして、別の村に向かうものじゃないの?」

「物好きかどうかはともかく……あんなに泣かれてたら、放っておくわけにもいかないだろ?俺は村の人達とは違って、妖怪に対抗できる力を持ってるんだから尚更だ」

「厄介事に首を突っ込み過ぎて、早死にする性質よね」

「現にこうして生きてるんだから大丈夫だろ」

 

 呆れつつある紫に対してそのような軽口を叩いていると、既に荷物の整理は終了してしまった。もともと大した荷物が無いから、そう時間が掛かる事でもなかったと言えばそうなのだが。

 

「誰がどう言おうと、俺はやりたいことをやる。ただそれだけの事だよ」

「……今更だけど私、ドタバタに見舞われる旅に同行しちゃった感じ?」

「なにを今更」

 

 さぁ、明日に備えて対策を練らないとな。

 

 

 

―――終わり

 

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