東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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 イベント終了の処理回です。
 前話もそうでしたが、小イベントと言っておきながらキャラを掘り下げるシーンをぶっこもうとしている作者の無計画性が露呈してしまっている……。




第60話 『我ながら情けない』

「勇者様!どうかこの私を……側室でも構いませんので、貴方の妻にしてください!」

 

 突然、村長の孫娘である女の子がそのような事を言ってきた。

 

 

 

 

 

 …………えっ?

 

 何?妻?どゆこと?

 

「……あ、あれ?返事が無いという事は……勇者様、やっぱり私なんかを娶るなどお嫌でしたか……?」

「いやいや、そう言う事じゃなくて。っていうか勇者様って何?妻だとか娶るだとかって何事?」

 

 あ……ありのまま今起こった事を話すぞ!妖怪退治を終えた翌日、つまり今日の朝方に村長の孫娘が俺の寝泊りする集会所の前に待機していて、『妻にしてください』と言ってきた。

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何を言われたのか分からなかった。頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超展開だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

 

 って、あれ?別に超展開で合ってるんじゃね?いや、だからなんだって話だけど。

 

 と、ポルポルごっこはそれまでにしておいて。

 やっぱり、展開が急すぎてイマイチ理解が追いつかない。状況整理させる時間が欲しいです。

 

「あらあら、なんだか慌ただしい事になってるわね満希」

「なんで狙い澄ましたかのようなタイミングで登場してくんのお前」

 

 そうこうしていると、俺と同じく集会所の中で寝泊りをしている紫が建物の中から姿を現してきた。当然、人前でスキマを使えばすぐさま彼女が妖怪だとバレてしまうため、この場では使用を控えている。

 

 すると紫の姿を見るや、否や村長の孫娘は少々顔を色を悪くし始め、表情にも怯えのような感情が浮かび上がっていた。これまでの所ではこのようなリアクションを行っていなかったのに、何故か今になって怯えている。

 

 何?脅迫でもしたの?この妖怪は。

 

「そんなことしてないわよ」

「さいで」

 

 なんだかだんだん、心の内を読まれる事にも驚かなくなってきている自分がいる。成長、だが嬉しさ皆無。

 

「あ、あの、私は……」

「あら、別に気にする必要なんてありませんことよ。旦那様が侍らせる娘が一人二人増えたところで怒るほど狭い器量は持ち合わせておりませんもの。ねぇ旦那様」

「だから誰が……っていうか、つまりどう言う事なんだ?」

「鈍いわね……つまりこの子が怯えていたのは、貴方に妻が増えることに対して私が怒るだろうと思ってたからよ。愛する人が増えて自分に向けられている愛情が無くなることを恐れるのが人間なんでしょう?」

 

 あぁ、なるほどそう言う事か。不倫的なアレね。

 

 えっと、確かこの子は俺の妻になりたいって言ってたんだよな。

 そうすると、この子は俺の事を……。

 

 ……好いてくれている?

 

「え、マジで?俺の事を?」

「こんなに鈍かったとはね……先に言っておくと、昨夜の時からその兆候はあったのよ。惚れてるかどうかなんて、愛情云々に疎い私ですら簡単に見抜けるっていうのに……」

「そ、その……確かに昨夜は勇者様のお言葉とお姿が頼もしく感じて、その時点で惹かれてしまって……」

 

 指を手前で弄りながら、モジモジと恥ずかしそうに喋ってくる少女。

 

「ちなみにその勇者様っていうのは、俺があの妖怪を退治したから?」

「は、はいっ!勇者様は通りすがりの御方でありながら見ず知らずの私の命を救って下さった命の恩人、この呼び名こそきっと相応しいかと思い勝手ながらそうお呼びさせていただいています」

「そ、そうか……」

 

 やや興奮気味になりながらも、少女は嬉しそうにそう語ってくれた。

 そして少女は、そのままの調子で話を続けてきた。

 

「私がこうして今も生きていられるのは、勇者様がその優しき御心を以て助けてくださったお陰です。今日の夜には村総出で勇者様の偉業を称える宴が行われますが、それだけでこのご恩を返しきれるとは、私は思っておりません。だから……」

「貴方と婚儀を交わして夫婦となる……という事よ」

 

 ……なるほど。これで事情は分かった。

 俺としては宴を開いてくれるだけでも十分なんだが、この子はそれだけでは満足いかないという事か。確かに命を救ったという点を考えると、俺も彼女の思いは分からない事も無いがな。

 

「ですから……その、勇者様……私を貴方の……」

 

 期待をするように、俺の顔を覗き込んでくる少女。

 その頬は恥じらいが入っていることにより赤く染まっており、こちらの顔を見てきた入るものの、たびたび顔を反らしてしまっている。

 

 ここで彼女の気持ちに応えて彼女の夫となるのも、一つの選択であると言えよう。

 

 

 

 

 

 ――だが。

 

 

 

 

 

「済まない。君の思いには応えられない」

 

 

 

 俺は、彼女の思いを受け入れなかった。

 

 

 

「……えっ?」

 

 俺のその一言を聞いた孫娘は、先ほどまで恥じらいを持っていた表情から一転して、呆気にとられた顔つきに変貌する。

 

 一方で紫の方はというと、何も言葉を発しなかった。

 沈黙を保った状態で、ただジッとこちらの方を見つめてきているだけであった。

 

「君が俺の事を慕ってくれているっていうのは分かった。それについては素直に嬉しく思うし、君は村一番の美人と評判されるだけあって凄く綺麗だ。そんな子に告白を受けたら、男としては冥利に尽きるような話だと言っても過言じゃないと思うよ」

「なら、どうして……?」

「俺はしがないただの旅人だ、そんな奴と結婚してしまったら色々と苦労が絶えないだろう。旅に同行したらしたで安全や衣食住を保障できるような環境じゃないし、仮に村に残る様にしても、旅はなにが起こるか分からないからそんな頻繁に村に顔を出せると約束できないしな」

 

 そう言って、俺は理由を話した。

 

 彼女が俺の事をどう思ってくれているかは理解できた。

 トラックに撥ねられて死ぬ前に生きていた時代では、俺はこういった色恋沙汰には縁が無かった。

 小学校の頃は言わずもがな。中学校の時は……色々と動いていた時期ではあったが、恋とかそう言う事に目を向けている時ではなかった。高校の頃は早苗たちのような決まったメンバーと深く交流、それ以外はそこそこな交友関係といった具合。大学に入ってからは、蓮子やメリーと行動する機会が多かったが二人とはそういう関係を築いていなかった。

 まぁこんな具合に、俺には特に女性から好かれる要素が無いので仕方が無かったと言えばそうなるだろうか。

 こうやって素直に好意を打ち明けられたのは、恐らく初めてのことだと思う。当然、男としては嬉しい話だ。

 

 だが。

 

 俺は単なる旅の人間であり、不老不死的な存在だ。

 自分では人間だと言い張ってはいるが、やはり普通の人間とは『違う』という事を根本的に否定することは出来ない。

 それに引き替え、この子は普通の人間だ。普通に年を取るし、寿命だって他の人間と何も遜色ない。能力を持っているわけでもない、どこにでもいる普通の女の子だ。

 

 だからこそ……そんな子と俺が結ばれるなんて、あるべきことではない。

 

 

 

 そこまで思考を廻らせると、俺は大きく息を吐いて再度口を開く。

 

「そう言うわけだ。君はこの村の人たち全てから慕われるくらいの良い子なんだ、俺が訪れた時に村の皆が泣いていたのがその証拠だと断言できる。根無し草の俺なんかと結ばれるよりも、また普通に暮らして、普通に恋をして、普通に結婚して……。折角の人生なんだ、不自由のない満足の出来るものにしたほうがずっといいさ」

「…………」

 

 少女の沈黙は重かった。

 顔を俯かせていたためその間の表情を窺うことは出来なかったが……この無言が示すには、きっと悲しんだ顔になっているのだろう。

 

 それでも、俺の今の思いを変えることは出来ない。

 これが、俺にしてやれる彼女への気遣いなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 あの後俺は紫を連れて村長の孫娘と別れ、寝泊りを行っていた集会所に置いていた荷物を纏めた。

 

 そしてその夜、俺と紫は人目を忍んで村から出て行った。

 

 今日の夜には俺の妖怪退治を称えるための宴が催される予定だったらしいのだが、それに参加しない様にするためだ。

 本来ならば、その宴は妖怪による犠牲者が出なかったことを喜ぶための祝いの席に過ぎないはず。俺がやった事はあくまで俺の意志によるものだったのだし、別に宴会に参加したかったという願望も無いので無理に出る必要もなかったのだ。俺という部外者が主賓になるというのも居心地が悪いしおかしな話だろう。

 

 というわけで簡単な書き留めを集会所に残して、誰にもバレることなく村から退出したのだ。

 

 

 

「ねぇ満希、本当に良かったのかしら?」

 

 村から離れた道の途中で、紫が俺に対して声を掛けてきた。

 

 俺は紫の方へ向き直りながら、歩く足を止めずに返答を行う。

 

「別に宴会とか出る必要なかったからな……食料も妖怪退治の前におすそ分けしてもらったし、十分休息も取ったから無理に留まることもないだろ?」

「確かにそっちも聞きたい事の範疇ではあったけど、そういう事じゃないわよ。……あの告白してきた女の子の事よ」

「…………」

 

 彼女の言葉を聞いて、俺は口をスッと閉ざした。

 

 俺のその様子に構わず、紫は台詞を続ける。

 

「あなたがあの子の告白を断った時、あの子の身の振り方が困る事という点を重点的に指摘してあの子の反論を押し込ませた。だけど貴方が結婚を了承して、せめてあの子が亡くなるまでは村に留まるという選択肢もあるって言う事は、貴方と同じく色恋沙汰には疎い私でも思いつくことが出来たわ」

「……」

「あの子と結ばれるのが嫌だったのなら、キツめの言葉を使って突き放した方が、後味が悪くなるとはいえ確実で手っ取り早い事は明白よ。なのにそうすることなく、紳士的な態度でやんわりと諦めさせてみせた。本当はあなたも、あの子との恋事に多からず未練があったのではないかしら?あるいは……」

 

 探るような視線で覗き込まれているのが分かる。それが俺の心情を窺おうとしている紫の物だという事はハッキリとしており、疑う余地も無い。

 これは、単なる興味本位の質問なのだろう。彼女が自らの疑念を晴らすために行った何気ない問いだ。

 

 ハッキリ言っておくと、未練なんてものはない。

 

 ただ、あるとするならば……。

 

 

 

 

 

 怖いのだろう。

 

 俺は今まで、人を好きになるという事が無かった。

 告白してきた少女の事に対しても、好きという感情を抱いていなかった。もっとも、知り合ってたったの数日しか日にちが経っていないので仕方ない事なのだが。

 あの時あの子の申し出を受け入れて、あのまま村に留まるもしくは彼女を旅に連れていくなどして、一緒に過ごす時間を作っていけば、俺もあの子の事を好くかもしれない。

 

 だけど、心の中ではそうなることを恐れている自分がいる。

 

 『好きな人が先に死んでしまう』という事を、頭に浮かべてしまうのだ。

 

 好きな人が出来るという事は、それは嬉しい事のはず。

 ならば、それを失った時の悲しさは……一体どれほど辛いのだろう。

 

 だからこそ、こうして悠々と時を過ごしていられるのかもしれない。

 今の今まで、俺は恋をするといった傾向に陥らない様に無意識的に感情を動かしていただろうから。

 以前、天狗の山から去る前に射命丸から質問されたときに『好きな異性のタイプは?』という質問をされたことを思い出すが、あの時も適当に受け答えしていた気がする。

 

 なんだかんだ言って、自分から避け続けていたのだ。

 

 

――我ながら情けない。

 

 

 

「……どうかしたの?」

「いや……なんでもない」

 

 歩調を崩すことなく、俺たちはそのまま歩いて行った。

 それから紫は特に掘り下げるように聞いてくる事はしてこなくなり、以降は他愛も無い世間話に話題を切り替えてきた。俺が返答をぼやかしたため、聞いても無駄だと納得したのかもしれない。

 

 俺自身も自分からその話題を出す様な事はせず、彼女の話題に乗っかったり自分から適当な話題を挙げたりして振る舞って見せた。

 

 

 

 ……こんな俺にも、いつか恋やら愛やらをする日が訪れるのだろうか?

 

 

 

―――終わり

 




 難産が続きます……。
 なにかテコ入れしないといけないかな……。

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