東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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春ですよー(真夏に投稿)

関係ないですけど、2015年がすでに3分の2くらいまで経っている事に驚きです。歳を取るとあっという間感がホント……。




第61話 『春ですよー!』

「おっ、引いてる引いてる」

 

 川で釣りなう。

 

 どこに行くかも決めずにフラフラと旅を続けている最中、俺と紫は旅の道中でそこそこ大き目の川を発見したため、休憩と昼食がてらにここに足を止めた。

 釣りが趣味になっている俺は簡素な釣竿を作ってフィッシングを開始し、その間に紫は近くの森に行って食用になるものを探しに行っている。女性一人が森に行くなんて一見すると危なっかしく聞こえるが、紫だからなにも問題ない。

 

 水面に沈めた餌つきの釣り針を通して、クイッ、と小刻みに引かれていく感覚を手に覚えながら俺は力を入れるタイミングを計る。

 そして、引きが一定の長さを発生させた瞬間……。

 

「ふっ……よしよし」

 

 頃合いを見て、釣竿をグッと引っ張り上げる。

 上げた釣糸の先には、やや小柄ながらもこの川に生息している魚が餌に食らいついている姿を確認できた。ピチピチと尾びれを暴れさせているが、釣り針が外れる様子は感じられないため無意味な抵抗と言えよう。

 

 俺は糸を手繰って手元に寄せると、釣り上げた魚の種類を確認する。

 

「これは……ニゴイかな」

 

 この時代は図鑑も無ければ科目も判明していない時期のため調べようがないため、地域住民による呼び名や過去の記憶を呼び起こして種類を探り当てている。

 俺は生物に関してはあまり詳しくないので、メジャーな種類しか知らないのが難ではあるが。

 

 ニゴイの姿を眺めながら、ふと俺はとあることを思い出した。

 

「そう言えば、これって春に旬の魚だったっけ?というかもう春だったか……」

 

 服がブレザーに統一されていて季節感が偶に麻痺することがあるのだが、今の時期は春。そろそろ気温が暖かくなってきた気がするので、月で示すと3~4月といったところだろうか。

 春と言えば、高校の頃に早苗が俺の通っている学校に来た時は驚いたな。彼女がまだ中学生だった頃は家もやや遠いと聞いていたので冗談だと思っていたのだが、まさか本当に有言実行を果たしてくるとは……。

 

 と、思い出に耽っていたが直ぐに気を戻し、収穫した魚を近くに置いている水入りの容れ物に納めた。

 ちなみにこれを釣り上げる前に既に2~3匹獲得している。まぁ、どれも大した大きさじゃないけど。

 

「春か……折角ならアユとか食べたいな」

 

 昼食前ということで食欲が湧いていた俺であったが、旬の魚の代表格の姿が脳に思い描かれるとさらに欲が刺激された。香魚食べたい。塩焼きにして味わいたい。

 

 というわけで、先程よりもモチベーションを上げながら作業を再開した俺。現金である。

 

「紫の方も、もしかしたら春の山菜とか取って来てくれてるかもな。春なら、ふきのとうとかか?」

「春は良いものですよー」

「ん?あぁ、確かにそうだな」

「はい!お兄さんはよく分かっていますねー」

 

 ……………………。

 

 

 

 …………ん?

 

「……」

「こんにちはー」

 

 気が付いたら、俺の隣に見知らぬ女の子が座っていた。

 

 年齢はパッと見小学校の高学年程度のなりで、髪は金髪のロングと中々に派手。紫の髪はややウェーブが掛かっているが、こちらは真っ直ぐなストレートのようだ。

 服装もこの時代にしては奇抜で、朱いラインが入った白いワンピースを着ており頭にはワンピーと同色の三角帽を被っている。

 

 どう考えてもこの時代の服装とは思えないという事は、この子も妖怪?それにしては妖怪独特の邪気が感じられないのだが……。

 

「にぱー♪」

 

 うん、取り敢えず妖怪じゃあないな。

 

「で、君は誰なんだ?」

「リリーはリリー、リリーホワイト。春告精って言う呼ばれ方もあるんですよー」

「はるつげせい?」

 

 ここで聞き慣れないワードが登場した。

 どうやら俺が今まで出会った事の無い種族のようだが、種族名だけ聞かれてもイマイチピンと来ない。

 

 こういう時にこそ知識の広い紫が居てくれると助かるのだが、彼女はまだ戻ってきてないようだし――。

 

「戻って来たわよー。……あら、その子どうしたの?」

「わお、グッドタイミング」

「ぐっど……なんて言ったんですかー?」

「気にするな」

 

 素晴らしいタイミングで紫が帰ってきてくれた、流石である。

 

 

 

 とりあえずこの子の種族について彼女に問い合わせてみたところ、彼女はこう答えてくれた。

 

 この子は春告精と言って、意味を示すと春を周辺に伝える役割を担った妖精の一種であるらしい。他の3季の際にはその姿をどこかに潜めており、春の到来辺りからその姿を現して春の訪れを伝え回るのだとか。また、その能力も特殊なもので、彼女が通った形跡には春の花が咲き誇るというものがあるという。

 また、この時期になると春告精は一種の興奮状態に陥ってしまうらしく、妖力弾をばらまくなどの行為も行う時があるそうだ。

 

 しかし目の前に居るこの子には、そのような症状は特に感じられない。この点については紫も不思議がっている。

 

「どう言う事かしらね……私も話程度に聞いているだけだから詳しくは知らないのだけれど」

「今は普通に良い子にしてるんだよな。リリーはなんでか自分で分かるのか?」

「えっとですねー。つい最近まではリリーも春だからワクワクしてたんですけど、たくさん遊び回ったらなんだか落ち着いちゃったのですー」

「なるほど、つまりあっちの賢者になったのね」

「なんでその表現知ってるんだよ」

 

 それ、現代人でしか知らない表現だと思うんだが……。

 

「それにしても意外だったわね。あなたも随分長く生きているらしいから、妖精の一体や二体くらいは見かけていると思ったわ」

「言われてみると確かに、これまで出会った記憶がないな。ずっと人間とか妖怪ばっかりだったし妖怪の種類が豊富だったから特に気にしてなかったな」

「妖精はイタズラ好きな傾向が強い種族だから、案外イタズラされてただけで近くにいたっていう可能性も……無いわね。私の気配が分かったくらいなら妖精の気配を見つけるなんて簡単でしょうし」

「どうかな。気を緩めてたっていうのもあるけど、さっきこの子が近くに居たのに気が付かなかったぞ俺」

 

 あんまり気を張ってると、折角の釣りの時間だというのに魚に警戒心が伝わって釣り餌に寄り付かなくなってしまうことがある。なので釣りの間は周囲の様子を確認してから取り掛かる様に心がけている。

 まぁでも、隣まで来てたのに気が付かなかったのは気を緩めすぎたかな……。

 

 とまぁそれはさておき。

 

「で、リリーはなんで俺のところにやってきたんだ?」

「うーんとですねー……なんでかよくわからないんですけど、お兄さんが暖かかったから?ですよー」

「暖かかった?」

「はい!普通の人よりもポカポカーって身体が暖かくて、まるで春のぬくもりみたいな感じでついつい引き寄せられちゃったのですよー」

「ふむ」

 

 俺は一つ心当たりを思い浮かべながら、紫の顔を見てその様子を窺ってみた。彼女も気付いているかどうかを確認するためである。

 案の定、紫もどうやら俺と同じ考えに至っているらしい。俺に顔を見られた後、俺の思惑を察したかのように頷いて見せたからだ。

 

 この子の言う、俺の身体が暖かいというのは恐らく能力の一環もしくは作用によるものだろう。

 俺の能力は『炎を操る程度の能力』と『熱を操る程度の能力』。どちらの能力もモノの温度に大きく影響を及ぼす内容となっており、対象は自他両方に及ぶ。

 おそらく『この二つの能力を持っていること』という事実が能力所有者である俺自身でも気づかないような、先ほどのリリーの言っていたことを引き起こしているのだと思われる。他の人よりも捉えようのない暖かみがある、という奴だ。

 詰まる話、俺の能力はリリーのような子の感性に伝わりやすいんじゃないかという事。

 

 さっきは心当たりがあると大々的に言っておきながら、非常に予測染みた結論になってしまっているのは内緒だ。マジふわふわ。

 

 と考えていたら、先ほどまで俺の隣に座っていたリリーが俺の膝の上に乗っかって来た。

 

「えへへー」

 

 この子、懐いてらっしゃる。

 

「懐かれてるわね。このまま養子にでも迎えるのかしら?」

「ちょっとお互いの外見年齢見てみな、どう足掻いても犯罪の臭いがするから」

「実年齢なら問題ないじゃない」

「普通の人に言ったって戯言吐いてる犯罪者にしか見えないだろ……というか別に養子にしないからね」

 

 と言いつつ、釣竿を脇に置いて膝の上に載っているリリーの頭を撫でてやる。

 

 頭を撫でられたリリーは、俺の手の動きに倣って気持ちよさそうに身体を揺らしたり、機嫌良さそうに声を漏らしたりしている。

 

「~♪」

 

 あらかわいい。

 ……いや、養子にはしないからね?

 

「それはそうと、その子どうするの?貴方のこと気に入っているみたいだし、養子云々は後回しにして今後の旅に同行させるのかしら?」

「まぁこの子が望むのなら拒む理由は特に無いけどな……今はこれに夢中みたいだし、あとで聞いてみるか」

「夢中にさせてるのはどこの誰よ」

「俺だよ」

「知ってるわよ」

 

 じゃあ何で言ったし。

 

 

 

 この後、俺たちはリリーを交えて3人で昼食をとり、適当に散歩をするなどしてしばらく一緒に時間を過ごしていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

「それじゃあポカポカお兄さんに妖怪のお姉さん、バイバイなのですよー!」

 

 時刻が夕方に差し掛かった頃。

 

 今日一日俺たちと一緒に過ごしたリリーは満足そうな笑顔でそう言うと、こちらに向かって手を振りながら飛び去って行った。

 

 途中、リリーに旅に同行するか訊いてみたのだが、『リリーは春を告げるお仕事が待っているから、一緒には行けないのですよー』と残念そうにそう語っていた。今年は既に春が訪れているので春告が終わっている事を考えると、来年の事を指しての発言だったのだろうか?

 

 ところでリリーや、その呼び名はもう決定事項なのかいな?普通に呼ぶ気はないのかな?別に強要まではしないけど。

 

「この時期に興奮状態じゃない春告精に出会えたのは中々貴重だったわね、絡んでみると毒気の無い良い子だったし……どうかしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 これまで出会って来た女性陣であれだけ純粋な子はいただろうか……。

 諏訪子も昔は子供っぽかったけど最近は神奈子に影響されてか微妙に大人染みて来てたし、相方は言わずもがな。文は純粋とは遠い気がする、神子と屠自古もそういうタイプではない。青娥とか純粋とは真逆の位置だし。一番近いのでも布都だろうか……。

 

「そう言えば春告精って、春以外だとどこに居るんだ?」

「さぁ……春告精は春以外だと力の大部分を失ってしまうって聞いているから、他の種族に危害を加えられない様な場所とかじゃないかしら?すくなくとも自力で探そうと思うとかなり骨が折れると思うわよ。もうあの子もどこかに行っちゃったみたいだし、もし次に会えるとしても来年より先だと思った方が妥当よ」

「……そっか」

 

 それを聞いて、残念だった。

 折角リリーとは仲良くなれたし、ああやってこちらに懐いてくれる子は癒されるので砂に一緒に居たいと思えるような存在だからだ。

 しかし彼女の言う事が正しいのならば、やはり次に会えるのは来年以降。しかも長く生きてきて今日初めて会った事も考えると、一年やそこらで再会というのは難しい話だと思われる。

 普通の妖精だったなら話は別だが、彼女は季節に左右される特殊な種なのでそういうことになってしまう……難儀な話だ。

 

「ま、一生会えなくなるわけでもない……か」

 

 そう折り合いをつけて、俺と紫は旅を続けることにした。

 折角出会えたこの縁、暫くは春の風情を楽しみながら旅をさせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにその翌年、晩冬と春の内に5回以上リリーホワイトに会うことになったため、最初に別れた頃に抱いた惜別感が脆くも崩れ去るのは、また後の話。

 

「春ですよー!」

 

 

――-終わり




夏と言えばゆうかりん!
だけど残念!君の出番はまだ先なんDA!

幽香「ほぉ……」

すいませんorz

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