東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

64 / 73
もう少ししたら、この『奇妙な二人旅編』も終了になります。最後に一イベント用意するため、恐らく4~6話くらいだと思われます。
もともとヒロインである紫との絡みを作っておくだけの編で、現時点での互いの好感度じゃ書ける話も制限されるし、これまでの編より話数が多くなるほど内容は練っていなかったので……。

ちなみに今回は終始紫視点となっています。



第62話 『興味が絶えない人ね』

=======================

 

 暁宮 満希。

 

 私、八雲 紫が共に旅をしている人間の名がそれである。

 

 一見すると外見的特徴諸々においてはただの人間と何ら変わりは無く、人間の中に紛れ込ませても特に目立つような事は感じられない。もっとも、妖怪と違って身体の特徴が普遍的である人間そのものがそういうものなのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだけれど。

 

 しかし、それはあくまで見た目だけの話である。その内面内容については他の人間を大きく突き放すほどの特徴がある。

 

 まず一つ目に、彼には寿命という概念が存在しない。正確には、存在しないかもしれない、のだが。

 私が彼を初めて発見したのは、およそ1000年くらい前。場所は天狗が縄張りとしている山で、当時は鬼の襲撃とやらのボヤ騒ぎが一件発生していた。その時の私は生まれて百数十年程度の若さということもあって好奇心が強く、他の妖怪の種族がどんなものなのかについても興味が根強かった。そして、そこで彼を見つけた。

 

 二つ目の特徴は、その身に宿している力。

 彼は人間の身でありながらも神力を使いこなして戦うことが出来ている。千年前の鬼との戦いの際に見せてくれた『モード・カグツチ』や、最近披露していた『モード・コノハナサクヤ』などがその例だ。

 これまで彼を観察していて気付いたのは、神力の源は彼が身に着けている指輪や腕輪という形にされた神具であるということ。首飾りも神具らしいのだが、彼がそれを使っている所は見たことが無い。

 そして彼と旅を共にしてから新たに知り得たのは、その神具は他人の力では外すことが出来ないということ。そして首飾りを使わないのは、所有者である彼自身でも使う事が出来ないということである。なんでも、遥か昔に起きた大爆発から身を守る為に殆どの力を消耗してしまい、今は神力を蓄えている最中なのだとか。ちなみに遥か昔の年数を彼の口から聞いた時は、途方もない数に眩暈を起こしたわ。

 

 そして三つ目に、その交友関係。

 彼の種族は人間であるというのに、同種だけではなく妖怪との関わりを持っている。それも他種族との交流が浅い天狗とである。そしてまさかの神格とも面識があるということで、そちらに関しては親しい間柄であるという事が、以前から始めていた観察と旅中での彼の話から伺えた。おそらくこの大陸の中を探し回ってみたとしても、彼と同じような交友関係を持つ存在は居ないだろう。

 

 最後に四つ目、自己犠牲を躊躇わないほどの他己的価値観。

 これは人間に限った話ではないけれど、生き物というのは基本的に自分を中心として活動を行っているものだ。他者に対して干渉を行うようになるのは自身の状態が安定している時だけ。貧しい者が同じく貧しい者に施しを与えることなど決してなく、飢えに苦しむ者が苦労して手に入れた食料を同じく飢えた見知らぬ他人に渡す事など有り得ない。元来、生物とはそういうものの筈。

 だけど、彼は違った。彼が都で何でも屋を営んでいた際は、依頼の報酬をまともに払えない様な者からの依頼も無償で引き受けるような場面を何度か目撃していたうえ、彼の方から報酬の話を切りだす様なことは、少なくとも私は一度も見たことが無い。あれほど自分に無利益な行いを揚々とやってのけるような人間が、彼なのだ。

 

 他にも取り上げれば色々とあるのだが、以上の4つが彼の特徴の中でも際立っている物の一覧だ。

 

 ここまで語れば十分に理解できたことだと思うが、暁宮 満希はあまりにも特殊な存在だ。

 人どころか並の妖怪以上の寿命を持ち、神の力を扱い、あらゆる種族と面識があり、その思想も常人のそれとは異なっている。規格外という言葉が良くお似合いな人だこと。

 

 そして私はこの旅で、彼についてもっと知ることが出来た。うわべからの観察だけでは分からなかったことも一緒に生活をすることで知り、得るものがあった。

 正直に言うと、彼の前に現れて旅の同行を申し出たのは良い判断だったと今では思っている。

 最初の頃は彼の旅に合わせて徒歩で移動していたけれど、スキマでの移動に慣れていた影響ですぐにヘトヘトになってしまっていた……情けない話だとは自分でも思っている。一方の彼はこれまで一度も私より早く疲れる、というか旅の最中に疲れるようなそぶりを見せなかったわね。

 他にも虫刺されに遭ったり、雑多な道のせいで服が汚れたりと面倒な事もあったけれど……彼からは教わったこと、体験させてもらったことがもっとたくさんあったから今はそれらをひっくるめて面白かったわ。新鮮って感じで。

 

 

 

 まぁそんなこともあって、今も尚私は彼と旅を続けさせてもらっているわ。旅を通じて彼の事は十分に知ることが出来たけれど、まだまだ彼との生活は飽きが訪れないからである。

 彼も私の同行を嫌う様子は無いみたいだし、もう暫くは旅を共にさせてもらうとしましょう。

 

 ちなみに今は、野宿明けの朝餉の準備をする事になっているんだけど……。

 

「……よし、後はこれに火を点けて……やっぱ能力があると火つけも便利だよなー」

 

 彼は炎の能力を使って焚き木用の木に着火を行っていたけど、戦闘向きの力だけあっていつみてもしょっぱい能力の使い方だと思ってしまう。冒頭であれだけ彼の異端さについて語ったのに、今の姿を見るとなんだか台無しな気分である。スキマをしょっちゅう使う私が言えた義理ではないんだけどね。

 

「ん?どうかしたのか?紫」

「いえ、なんでも」

 

 まぁ、これは本人には言わないでおきましょう。気にしなさそうだけど。

 

 ではここから先は、彼の行動がどのようなものなのかを簡単に取り上げて行きましょう。

 

 

 

 朝餉が済まされると、彼は野宿の為に作ったという折り畳み式の宿――彼はこれを『テント』と名付けていた――を仕舞いだす。そしてそれが完了するとその日の旅歩きを始めるのだ。ちなみに朝食は基本的に彼が作ってくれるけど、私もちょくちょく作る様にしている。その辺りは互いの気分だったりする。

 歩く方向は基本的に無計画。道が存在していればそれにそって進むが、これも気分によって変わることがあるため確定とは言えない。

 そして歩いている最中は何かしら二人で話を行っている。無言の時間が無いなんて事は有り得ないけど、折角連れが居るたびだというのに会話をしないのはもったいないし、何より寂しいもの。

 

「……こうして喋ってると思うんだが、俺ってお喋りが別段得意なキャラって感じじゃないんだよな」

「なんの話?」

 

 その独り言は、はぐらかされたままになった。

 

 

 

 一しきり歩いたところで、昼餉の用意となる。折角なので今回は私が作るとしましょうか。

 

 私が昼餉をこさえている最中、満希は自前の書物を目の前で広げて目を通していた。

 彼が読んでいるのは仙道書。以前にも話題にとりあげた道教の書物で、そこには仙人になるための修行法や手法などが書き記されている。

 もっとも彼自身は仙人になるつもりはないらしく、その修行法だけに視点を向け、自分の力を上げるために熟読を行っている。仙人になったところで、その特徴である不老不死も既に会得してるからあまり意味がなさそうだしね。霞だけ食べるような生活も嫌だから避けたいとも言っていたし。

 

 と考えている間にも、私の方は調理が終了した。最近立ち寄った村から貰った食材を利用して、野菜の塩漬けや揚げ物を作ってみた。また、昨日に狩った猪の肉も焼いておき、当然お米も用意してみた。

 この辺りの料理の作り方も人間の調理風景を盗み見て覚えたし、分量なども満希から教わったため会得することが出来た。

 

「満希、昼餉が出来たわよ。冷めないうちに食べてしまいましょう」

「ん?あぁ、分かった」

 

 そうして私二人は、揃って昼餉を取り始めた。

 こうして誰かと一緒に食事をするというのも最初の頃は違和感があったけれど……やはり悪くは無いわね。

 

 

 

 景色が夕焼け色に差し替わろうとしている頃、私たち二人はその日の旅での最後の休憩をとることにした。この休憩を済ませて再び移動を行ったら、日が沈む前までは歩き続けてみようという考えでいる。

 満希は能力の練習という事で、適当な的を複数自作して、炎を操ってみせているところである。ちなみに私はそれを見ながら大人しく休息をとっている。

 

「ふっ!」

 

 気合の入った一声と共に、満希の掌から火球が放出される。火球はかなりの速度で一直線に突き進んでいき、射線上の先にある的に目掛けて命中した。用意した的は炎の接触によって炎を帯びながら、火球の衝撃で十数メートル先まで吹き飛んでいった。

 更に満希は、帯状に炎を形成する。そしてそれを鞭を取り扱のように、的に目掛けて振るった。しなやかな曲線を描きながら、炎の鞭は遠く離れた的を叩き落としてみせた。

 そして仕上げには、回し蹴りの要領で足を振るう動作と同時に、振るった脚先から弧を描いた炎が飛び出す。弧炎は鳥が空を跳ぶような軌道を描きながら的へ向かっていき、的を真っ二つに斬り裂いた。斬り裂かれた的は断面を燃やされながら地面に落ちて行った。

 用意されていた的は全て、その一連の動作によって消えてしまったのである。

 

 こうして見ていると、彼の能力の制御率は今まで私が見てきた能力者の中でも抜きんでるほど優れているのだと実感できる。

 そもそも大抵の能力者は妖怪が多数で、人間が能力を持っているのは稀なことである。妖怪はその持ち前の戦闘力を活用して戦闘を行うがために、たとえ能力をもっていても補助程度にしか使わない傾向も少なくは無いのである。私もスキマの能力があるとはいえ、攻撃寄りの力ではないので移動や攪乱に使用することが多いもの。

 

 彼がここまで精密に炎を操ることが出来るのも、もともと人間の素の戦闘力が劣っているからかもしれないわね。もっとも、それを克服する為に仙道の修業に目を通しているらしいけれど。

 

「ふむ……火力の調整も炎を曲げるのも幾分慣れて来たってとこだな。折角だからもう少しバリエーションに富んでてもいいんだけど……」

「独り言を呟くのは良いけど、山火事になる前に火の処理をしておいて頂戴ね。もう燃え広がってるわよ」

「あっ」

 

 

 という事がありながらも、私と彼は旅を続けている。

 何はともあれ、もう少しだけお世話になっておこうかしらね。

 

「まったく……興味が絶えない人ね」

 

 

 

――終わり

 




まえがき通り、次回が【奇妙な二人旅編】のラストイベントとなります。
数十話ぶりに、あの妖怪が登場です。一体どこの闇妖怪なんだ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。