東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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 今話から【奇妙な二人旅編】の最後のイベントになります。




第63話 『お久しぶりね、暁宮 満希』

 その日の俺たちは、通りがかった村に立ち寄ったところだった。ここしばらくは旅続きだったので、二人で相談してその村に数か月の宿泊を行うという方針を定め、村長に掛け合って許可を貰おうとしたのだ。

 そして村長が快く了承してくれたため、俺と紫はしばしの間、その村で羽を休めることに決定した。

 

 そんな中、俺たちは村の人たちから奇妙な話を聞かされたのだ……。

 

 

 

「真っ暗闇な場所?」

 

 俺は村で畑仕事の手伝いを行いながら、世間話感覚で村の老人からそのような話を切り出された。ちなみに紫は今は別の場所にいるため、この場には立ち会っていない。

 

 老人は一度だけ頷いて見せると、俺に話をし始めてくれた。

 

「うむ。ここ最近浮き上がった話なんじゃが、なんでもここから幾分か歩いた先にある林の中には、何にも見えなくなるほど暗い場所があるらしいのじゃ」

「何にも見えない……林程度なら森ほど木が茂っている場所でもないんだし、月明かりがあるんじゃないですか?」

「噂によると、月が空に上っているにも関わらずちっとも視界が効かないんだそうじゃよ。そしてこの話でもっとも恐ろしい所は、何にも見えないという事ではない。ただ見えないだけなら可愛いものだったんじゃが……」

「何かあった、と?」

 

 一度言葉を切った後、老人は口を重々しく開きだす。

 

「なんでもその暗闇に入ってしまうと、消えてしまうらしい」

「消える?」

「うむ。もともとこの話は隣の村でその光景を見たという者の証言らしいんじゃが、数人がその場所を見るべく向かった結果、殆どの者が暗闇から出ずに姿を消してしまったらしいのじゃ。偶然出られたという者がそれを知らせたらしくての」

「なかなか奇妙な話だな……ちなみにこの村の人たちの中でその暗闇に行った人たちは?」

「まだおらんよ。消えてしまうなんて物騒な話を聞いた途端に誰も行く気を失くしてしまったようじゃな。村長も危ぶんでか村の者にはその場所へは行かないように言い渡しておるようじゃし」

「でしょうね」

 

 どうやら幸いにも、この村には被害者は現れていないらしい。まぁ人が消えるなんて話が出ておきながら迂闊に近づくようなことはしないだろうしな、引き続きに発生しているのは、恐らく捜索に向かった人たちが同じ目に遭っていると考えた方が良さそうか。ミイラ取りがミイラになる、という奴か。

 

「お前さんもあの場所へは近づかん方が良いじゃろう。人が消えるような場所にわざわざ好奇心で足を踏み入れるなど馬鹿馬鹿しい話じゃし、お前さんが居なくなってはお連れのお嬢さんも悲しむじゃろうよ」

「そうですね。流石に好奇心でそんな恐ろしい場所にはいきませんよ」

 

 

 

 暗闇、か。

 ……俺のこの予想が、当たらなければいいんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 そして時刻は同日未明まで進む。

 

「……で、貴方はまた厄介事に巻き込まれようとしているのね」

 

 半ば呆れたような視線を向けてくる紫の言葉を軽く聞き流しながら、俺は月明かりの外道を進んでいく。

 

 言わなくても既に知っていると思うが、俺たちが今向かっているのは噂になっている真っ暗闇の場所だ。俺たちがお世話になっている村と隣町との境目にある林道にその場所はあり、徒歩で一時間くらいの距離があるという話である。

 

「まぁ、ちょっと気になることがあるからな。紫も嫌だったらわざわざ付き合わなくてもいいんだぞ?今回は報酬があるわけでもないし、得をするような事はまず無いと思うぞ」

「どうせ貴方は損得関係なく動くでしょうに……。気にしなくても大丈夫よ、私も好きで貴方に同行させてもらっているに過ぎないんだから」

 

 今回もいつも通り、紫は俺に同行するつもりらしい。彼女もそれなりに長く生きてきた性質であり、やはり退屈よりも刺激的なことを求める傾向が強いようだ。その気持ちも分からなくはないのだが。

 

「……取りあえず、危なくなったらすぐに村に戻る様にしてくれよ」

「あら、珍しい。貴方がそんな風に心配してくれるなんて今まで無かったと思うのだけれど」

「まぁ、な」

 

 ……どうにも今回は、いい予感がしないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり歩き続けたところで、俺たちは目的地である暗闇の場所までたどり着いた。

 

 俺は周囲を警戒しながら、紫を連れて近辺の様子を観察し始める。

 林道全体の様子を一瞥してみるが、一見して見えているのは無造作に生えている複数の木々や雑多に生えている草っ葉。また、村と村の間にあるという事からか、多少ではあるが人の手によって整備された道が確認できた。

 頭上にも視線を向けてみるが、木と木の間隔が広めなため葉っぱも空を覆い隠せるほど茂ってはおらず、現に今も月の明かりが空から照らされている。これではとても、暗闇の空間を作り出す様なことは出来ないということが理解できた。

 

「……?」

 

 観察を続けていた俺の目に、あるものが発見された。

 俺はそれが見えた場所へと移動し、草むらの中に落ちていた物を拾い上げる。

 

「これは……!」

 

 それは、大きさ的に成熟したと思われる猪。

 ……の、足であった。そう、足だけしか残っていなかったのだ。

 

 だが、注目すべき点はそこではない。足だけが残っているというのは、何か別の生き物が猪を捕食して足だけを食べ残したケースも考えられるからだ。

 注目すべき点というのは、その足の断面部分である。

 

「どうかしたの?」

「この切れ方……あまりにも不自然すぎる。動物が食いちぎったような感じでは全くないし、刃物か何かを使ったにしても、こんな鮮やかな曲線を描くのは無理だ」

 

 隣に寄り添ってきた紫に落ちていた足の断面部を見せながら、俺はそう説明した。

 

 先ほど説明したように、この猪の足元の断面はパズルのピースの一部であるかのようにクッキリとした切れ方になっており、他の生き物が噛み千切ったのは勿論、猟師などが刃物で切り落としたという線を消してしまうほどの状態だった。直線的な断面であれば後者の線が高まっていたのだが、このような曲線は達人の域に達していてもほぼ不可能に違いない。

 

「…………」

 

 すると、その切り口を観察していた紫が……。

 

「…………ねぇ満希。この断面部、ほんの僅かだけど妖力の名残があるわ」

「妖力の?」

「えぇ。かなり薄くて注意深く探らないと見つけるのが困難なくらいね。弱小妖怪が猪を仕留めた形跡なのか、それとも仕留めてから日数が経過しているのかまでは分からないけど」

「いや、腐敗が殆どと言っていいほど進んでいない。多分この猪が仕留められたのも昨日今日に起きた事だと思うぞ」

「なら後者の線は無しね。もし弱小妖怪の仕業なら取るに足りない話で問題ないけれど……もしこれが相当実力のある妖怪の仕業だったのなら、それはかなりの手練れよ。妖力を使用していながらここまで形跡を消すのはかなりの技量がいるもの」

 

 なるほど。彼女の言う事が本当ならば、この猪は妖怪によって狩られたのだと思ってよさそうだ。妖怪も人間の肉体や恐怖などの感情だけを食料としているわけではないというのは、俺も知っているし。

 

 とりあえずこの足は置いておくとして、もう少しこの辺りの調査をして――。

 

「……ちょっと待ってくれ、紫」

「あら、何かしら?」

「……あれも、妖怪の仕業か?」

 

 俺と同じ光景を目の当たりにした紫が、小さく驚きの色を込めた声を漏らした。

 

 その光景とは……。

 

 木が。

 地面が。

 動物が。

 そして、人『だった』ものが。

 

 有り得ない削れ方をその身に残した物たちが、眼前に広がっていたのだ。

 

 その残骸はどれもが先ほどの猪の足と同様な状態となっていた。倒れている木の幹にも奇妙で大きな窪みが出来上がっており、動物や人間の手足が玩具のパーツのようにされ、穴の開いた地面の上でガラクタのように散らばっていたのだ。

 また、動物や人間のパーツには腐敗度に差が生じており、酷いものでは肉が腐り落ちかけているのもあった。俺もその光景に対しては嫌悪感を抱き、目元に力が籠るのが自覚できた。

 

「……ひでぇ事しやがるもんだ」

「満希、ここはいったん離れて対策を練りましょう。どうにも嫌な予感がするわ」

「同感だ。先ずはこの林から抜けて――」

 

 

 

 

 

「あら、折角来てくれたというのにもう帰るつもり?」

 

 突然俺の耳に入って来たのは女性の声。

 だが、それは紫のものではなかった。声は隣にいた彼女から聞こえてこなかったし、何よりその声は別人だったからだ。

 

「「っ!?」」

 

 俺と紫は、声が聞こえた後ろの方へすかさず振り返った。

 

 その瞬間、俺は胸部に衝撃が走るのを感じながら吹き飛ばされ、後ろにあった木に激突した。

 胸と背中に激痛を起こし苦悶の表情になる俺であったが、なんとか堪えて地面に着地し、倒れ込まないように気を張った。

 

「きゃあっ!?」

「紫!?」

 

 彼女の悲鳴が聞こえたため、胸を抑えながらも彼女が先ほどまでいた場所に目を見やる。

 

「なっ……!?」

 

 だが、彼女がさっきまでいた場所には不気味な黒い球体が浮かんでいるだけで、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。

 

 そして、その黒い球体の隣に……『奴』がいた。

 

 金色の長髪を蓄えた、小学生くらいな年齢での容姿を持つ赤い瞳の女性。

 白いシャツと黒いスカートで構成された洋服を着こなし、その背には黒い刀身の巨大な剣を携えていた。

 

 その姿に、俺は見覚えがあった。あれほど刺激的なファーストコンタクトを果たしたというのに忘れる事など無い。

 そしてそれと同時に、今回の話を聞いた後に描いた予想が当たってしまっていた事に、少なからず苦々しさを感じてしまった。

 

 かつて神の決闘に紛れ込んで、下級とはいえ神格の存在を次々と始末していった。その場にいた神をほとんど始末した後は俺に対して戦いを挑んで来て、その圧倒的な戦闘力を以てして完膚なきまでに俺を叩きのめした。

 俺が今まで出会って来た中でも、群を抜いて強い……いや、最強と呼んでも差し支えないほどの実力者。

 

 その名は――。

 

 

 

 

 

「お久しぶりね、暁宮 満希」

 

 

 

 

 

 闇の妖怪――ルーミア。

 

 

 

―――終わり

 





 次回から戦闘開始です。
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