東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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ルーミア戦の後半です。
あとがきでは『モード・カオス』の詳細を記載させていただきます。



第66話 『食うんじゃない』

 身体が軽い。まるで動き時に無駄な重りを、全て取っ払ったかのような感覚だ。

 そして、力が湧きあがって来るのが実感できる。掘り起こそうと思えば幾らでも力が込み上がるような永久機関、無尽蔵があるのではと思ってしまうほどである。

 

 気が昂ぶっている。

 一見冷静なそぶりを見せていはいるものの、内心では先ほど述べた内容が関係しているのか、早く体を動かしたいとウズウズしてしまっている。これでは戦闘狂と噂の鬼みたいだな、と自嘲する。

 

 ふぅ、と長く息を吐きながら改めて理解させられる。

 これが、『モード・カオス』の力なのだと。

 

「……また珍妙な姿になったわね」

 

 対峙していたルーミアが、表情を硬くしながらそのように台詞を吐いた。

 

「だけど……纏ってるその気を見れば馬鹿でも解る。もし不用意にあなたに近づこうものならば……確実に負ける、と」

 

 一挙一挙の動作を注視するような視線でこちらを観察してくるルーミア。彼女のその顔には先ほどまで浮かべていた余裕さはなく、これまで以上に真剣味を帯びている事が感じとれた。

 

 彼女と対峙していく中で、先に動きを見せたのは俺の方であった。

 俺は地面を蹴破り、ルーミアの元まで一気に駆け抜けていくと――。

 

 

 

 

 

 ――彼女との距離は、1メートルにも満たないところまで短くなっていた。

 

「っ!?」

 

 目を白黒させているルーミアに対して、俺は容赦なく手刀を放つ。

 その一撃は、『モード・カグツチ』の状態で行う時よりも更に鋭く強烈な攻撃になっている事が、自分でも分かった。

 

 ルーミアの腕が交差され、俺の手刀を防ぐべく立ちはだかる。これまでであれば間違いなく防ぎきってしまっていただろう。

 しかし彼女の防御は手刀が入った瞬間に押し負け、防ぎきれなかった彼女の身体が後方にのけ反る。その表情は、驚愕の色が深まっていた。

 

 彼女の動揺を見逃す手は当然無い訳で。

 俺は次手として、膝蹴りを選択。彼女の腹目掛けて撃ちこんだ。

 手刀を防ごうとした自身の腕で視界を妨げられた事によって、俺の膝蹴りを捉えきれなかったルーミアの腹部に俺の膝がめり込む。

 

「ぁ、か……!?」

 

 不意に発生する腹部への衝撃により、潰れた声を上げるルーミア。

 しかし彼女はすぐさま気を取り直すと、ギロリとこちらを睨みつけながら反撃として蹴りを打ち込もうとしてきた。

 

 俺はその蹴りを堂と構えて受け止め、続けて襲い掛かって来た彼女の拳をもう片方の腕で止める。バシンッ!と打ち合う甲高い音が響いた。

 受け止められてもなお力を込めて押し込んでくるルーミアに対し、俺は更に腕に力を込めて、競り合いに負けぬよう押し込みを掛ける。

 

 俺の力に対して僅かに劣っていたルーミアの腕は、徐々に徐々にと押し負けていく。

 

「くっ……何なのよ、その急な力の増し様は……」

「悪いが説明は出来ない。俺もこの姿になるのは初めてでな」

 

 俺に押し込まれまいと力むルーミアに対して、俺は簡潔にそう言い放った。

 

 ……いかんな。

 どうにもさっきから気が湧き立ってしょうがない。冷静でいようと自制はしているつもりなんだが、心の内から戦いたいという衝動に駆られてしまう。

 これは単に俺がこの力に興奮を抑えきれていないのか、それともこの形態が……。

 

「まぁそう言うわけだ。手加減は……期待するな」

「くっ……!」

 

 俺の腕から強引に手を離したルーミアは、地面を蹴って一気に後ろへと跳び下がる。

 

 しかし俺は距離を取られることを良しとせず、一瞬で彼女に肉薄し距離を縮めた。

 

 ルーミアは俺の移動速度に目を開きながらも、背中の大剣に手を掛けてそれを俺に目掛けて鋭く振るった。

 

 俺を切り裂かんとする大剣に対して、俺は真っ向から防ぐ……ようなことは流石にこの状態であってもしたくはないので、大剣の軌道をすぐに見切るとその腹部分を蹴ったぐり、無理やり軌道を歪な方向へと変えてみせた。

 

「なっ……!?」

 

 自分の得物が想定外の動きをしたとあっては、持ち主も当然得物の動きに戸惑わされる。

 おかしな方向に大剣が動いたためにルーミアの身体はそれにつられて引き寄せられてしまい、大きな隙を生み出す。

 

 俺はすかさずルーミアの首に手を掛けると、地面に向かって振り下ろす。

 彼女の手から大剣が離れていき、彼女の身体が地面に叩きつけられたのだ。というか、俺が叩き伏せた。

 

「あ…ぐっ……!」

 

 苦しげに声を発するルーミアであったが、俺は直ぐに追撃を仕掛けるべく拳を握る。そしてそれを、地面に倒れ伏すルーミアに対して振り下ろした。

 彼女の首にはまだ手を掛けているから身動きが取れず回避することは出来ない。俺が拳を逸らさない限りは確実に命中する一撃に仕立てている。

 

 ……が、ルーミアはその攻撃から逃れた。

 まず目前に闇を出現させて、壁のように展開して俺の拳にぶつけた。まるで硬いゴムを殴っているかのような感触を俺に覚えさせながら、攻撃から逃れるための時間を作ったのだ。

 そしてその間に首を掴んでいる俺の拳を殴り、首から手が離れたところで俺の腹に蹴りを加えてきた。

 

 蹴りが来ることを直前で察した俺は、腹に力を込めることでダメージを抑えた。しかし流石に勢いまでは殺しきれず、結果的にルーミアにマウントをとるという絶好のチャンスを逃してしまった。

 

そして逃れた側であるルーミアは、クルリと身を翻して地面に足を着け、姿勢を整えた。

 

「いいじゃない……私の方が苦戦するなんて、こんな体験初めて味わうわ。新鮮で、印象的で、そして何よりも――」

 

 そう言ってルーミアは爪を刺々しく立てながら、俺に向かって駆けぬけてきた。

 

「――苛立たしいっ!」

 

 彼女の怒号を真正面から聞きながら、俺は懐に隠し持っていた短刀2本を両手に携え、構える。ちなみに懐に刀が入っている事は、戦っている最中にようやく気付けた事だ。

 

 そして俺の得物と彼女の爪が、激しい衝突音を響かせながら激突する。

 

 そこから俺とルーミアによる斬撃戦が始まった。

 

 ルーミアが攻め手として重点的に駆使しているのは、爪による引き裂き技。彼女ほど尖った爪であれば普通に殴るよりも殺傷力が高いため、妥当と言えば妥当な話だ。だからといって打撃を行わないわけではなく、合間に体術による攻撃を組み込ませているため変則的な攻撃スタイルと相成っている。

 苛立たしいという発言から普段より冷静さに欠いているかと思いきや……攻め方が真っ正直にならない辺り、やはり彼女の妖怪としての立ち位置はトップクラスだと言えよう。

 

 ルーミアに対して俺が攻撃に用いているのは二振りの短刀。小柄で通常の刀のような威厳は無いが、木も易々と抉れるルーミアの爪に対して対等に競り合い刃こぼれも起こさない辺り、無名ながらも上質な武器であると思われる。

 そんな短刀による斬撃をメインとして攻撃を行っている。その他にもお抱えである炎の能力による攻撃やルーミア同様に所々で体術を放っており、時々彼女の技とぶつかり合う事がある。そしてどこに隠し持っていたのか、身体や服の中に潜んでいた暗器を見つけては、試しとばかりに使ってみた。

 

 ルーミアと激しく切り結び続けて、ようやくこの『モード・カオス』の仕様を整理することが出来た。

 まずこの変身のスペックなのだが、間違いなく他の二つのモードを凌駕している。現状の敵であるルーミアの強さを数値として100で示すのであれば、『モード・カオス』は同値もしくはそれを上回る数となる。ちなみに他の二つは約70~80といったところだ。

 そしてその戦闘能力は、近接遠距離どちらにも他二つのモード以上にパワーを持ったオールラウンダー型、それに加えて短剣や暗器などの豊富な武器を所有。別の表現なら、通常状態の俺に武器を持たせて超パワーアップ!な感じだろうか。

 肉弾戦においては『モード・カグツチ』以上、遠距離攻撃や炎の扱いも『モード・コノハナサクヤ』を上回る。それに加えて様々な武器を服に隠し持っており、戦闘のバリエーションがとことん多い。こうして見ると、非常に強力な形態だ。

 

 しかし、殆どの物事に言えることなのだが良いことばかりではない。この形態にも欠点が存在するのだ。

 

「(……?最初の頃と比べて、動きが鈍くなってる?)」

 

 ルーミアから訝しげな視線を感じる。

 これは……向こうにも気づかれたかな。

 

 ルーミアの怪訝は間違っていない。

 どうやらこの形態、その力に見合って身体にかなりの負担が掛かる代物らしい。

 現に俺の身体は結構な悲鳴を上げており、身体を動かすたびにビリビリした痛みが走ってくる。やはり、今の身体じゃ力に追いつけないか。

 

「(おまけに、こっちの方もあまり長続きしないみたいだしな……)」

 

 チラッと、腕輪と指輪を一瞥する。

 

 俺は変身して戦う際に神力を使用し消耗しているのだが、これらの宝石の濁り具合が視覚的に見分けられる神力の残量だ。一応感覚的にも分かるのだが曖昧で、正確に理解したいのであれば、こうして宝石の輝きの濁りを見た方が良い。

 で、ザッと見た限りだと……この様子だと、残りの変身時間も2分を切ってしまっている。変身してからの時間を計算すると、この状態でいられるのも『約5分間』だけ……やはり短いな。

 

 何はともあれ、今の俺が成すべきことは……短期決戦。

 俺の身体にガタがくる前に、この勝負に決着を着ける必要があるという事だ。

 

 そう決意をした俺は、たった今迫って来たルーミアの攻撃を捌くと同時に彼女の懐に潜り込み、エルボーを叩き込もうと仕掛ける。

 当然これも防がれてしまったが、俺はすかさず彼女の足元を蹴り払った。

 

「なっ」

 

 突然視界が傾くことに動揺したルーミアの声がその場に発せられる。

 

 俺はその声に構うことなく、身体を捻りながらの踵落としを実行する。その照準は勿論、今まさに地面に倒れ行こうとしているルーミアだ。

 彼女の腕が交差の形を取って防御を行おうとしているようだが、俺の脚は遠慮なくそこへ叩き込まれる。

 

 ルーミアの身体を大地との間に挟みながら放たれた足技は、彼女を地面に向けて叩き伏せるとともに、地面に亀裂を走らせた。

 

「あ、くっ……」

 

 ルーミアは背中から伝わる痛みに歯を食いしばっている。

 

 そして俺はその瞬間、機を見出した。

 攻撃に使用した脚に重心を掛け、身体をルーミアの上部へと移し替える。空いている方の脚を使って彼女の脚を踏み抑えると、そのまま彼女の上へと乗っかった。

 

 ルーミアの四肢を、封じてみせた。

 俺の踵落としを防ぐ際に両腕を使用し、どちらも未だに俺の脚を止め続けている。両足はたった今、俺が足首辺りを思いっきり押さえつけたので易々と逃げることが出来ずにいる。

 力を込めて抵抗しているようだが、こちらもそう簡単にぬかせるわけにはいかないのだ。

 

「女性の上に乗っかって襲い掛かるなんて、意外と野蛮なのね」

「木を素手でへし折れる女がそう言っても、なんだかなー」

 

 という軽口はさて置いて。

 俺は変身した時と同じように、腕に付けた腕輪と指輪を打ち合わせてみせる。互いの輪を鳴らした時、神力が一気に増長を始めた。

 増えてきた神力を、全ての指の先に行き渡らせる。十の指に強大な神力が蓄積され、在留を起こす。

 

 そして、その指全てを地面へと着き刺した。

 

 その瞬間――。

 

 

 

 

 

「爆ぜろ」

 

 

 

 

 ――大地は、爆裂した。

 

 突き刺さる指を根源にして赤い光たちが大地を疾走して行くと、次々とその周辺が轟と強烈な音を立てながら爆発を発生。

 爆発は間断なく巻き起こり、周辺の配慮など感じさせないほど盛大に強く、大地を吹き飛ばしていく。木は分け隔てなく宙へとその身を投げ飛ばされ、土草はバラバラと弾け飛んでいった。

 

 俺もルーミアもその爆発の渦中に残り、爆炎の中に身を投じて行った。

 

 そして、数十発にも及ぶ爆発が終わりを告げようとしていた……。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 一息つきながら、俺はゆっくりとその場に立ち上がる。

 そして近くの様子をザッと一瞥してみる。

 

 先ほどまでいた場所は林の中であったのだが……今この場は、完全に更地となってしまっていた。

 立ち並んでいた木々は数百メートル以上も先でガラクタのようにハゲ散らかり、草々が茂っていた地面も、耕し作業を済ませたかのような茶色い土一色に染まり上がっている。文字通り爆心地という奴だ。

 

 なんということをしてくれたのでしょう、という程のビフォーアフターっぷりだが……遥か昔に落ちてきた爆弾よりかは遥かにマシだと言えよう。いや、自然破壊にマシもクソも無いんだけどさ。

 

 ちなみに俺の足元にはルーミアはいない。

 爆発の最中に彼女の拘束を解いたが、あれだけの爆撃を逃れることは幾ら強者である彼女でも至難の業だ。加えてあの爆発はどれも神力をたっぷり込めた特別製の攻撃で、一発当たっただけでも痛烈なダメージになるのだ。それを数十発もあったとなると……あとは言わなくても十分であろう。

 この様子を見る限りだと、爆風で相当遠くまで吹き飛ばされたか。

 

 とりあえず、難敵もこうして無事に倒す事も出来たわけだし、変身を――。

 

 

 

 

 

「なめ……ないで、もらおうかしら……」

「……驚いたな。あれを受けて無事でいられるとは」

 

 ――解こうとしたが、そういう訳にもいかなくなった。

 

 何せ倒したと思っていたルーミアが、こうして俺の前に再び現れて来たのだから。

 

「どこが、無事だって言うのよ……随分と、手酷く、やってくれた……くせに」

 

 息を荒々しく切らしながら、そう彼女は答える。

 

 確かに、今のルーミアが満身創痍の状態であることは目に見えて明らかだ。

 衣服は所々に焦げ跡や破れが生じておりボロボロに、身体の方も泥や土が塗れており出血している部分もちらほらとある。特に頭部には一線を齎すほどの血が流れ出ており、片目を瞑る羽目になっている。

 既に彼女は、十分に戦いを続けられるような身体ではない。

 

 ……仕方ない、適当に首元を打って気絶させておくとしよう。

 

「まだ動けるとはな……とりあえずこの場は眠ってもらうぞ、殺しまではさすがにするきは…………っ!?」

 

 言葉を言い切ろうとしたその直前、俺の身体に変化が現れる。

 

 パァン、と、突然俺の身に纏っていたロングコートなどの服が光となって霧散していき、いつもの学生のブレザー服に戻った。

 そして身体に圧し掛かる倦怠感と激痛。それらが全身を駆け巡っていくのを感じながら、俺は前のめりに倒れ込む羽目になった。

 

「い゛っっ……!?まさか……変身の、反動が……!?」

 

 俺は理解した。訪れているこの痛みは『モード・カオス』の副作用……強力な強さを得たがための、その代償なのだと。

 身体中がビリビリと痛み、口以外碌に身体を動かすことが出来ない。立ち上がろうと試みても、まるで起き上がれる気配が無い。

 

 俺が急に倒れてもがいていると、ルーミアが押し殺すように笑い始める。

 

「くく……どうやら貴方の方が、よっぽど身体が限界のようね……」

「く、そ……」

 

 苦し紛れにルーミアの方を睨みつけるが、彼女はどこ吹く風といった様子で悠々とそれを受け流してしまう。身体が動けないのであれば、威嚇など彼女にとって意味を為さないのは、分かり切っていた事か。

 そして彼女の眼は、既に勝者の輝きを汲んでいた。

 負傷しているとはいえ、彼女はまだ動ける。対して俺はまな板の上の鯉のように動けずにいる。弱り、無抵抗となった相手を殺すのは容易な手段。

 

 一歩、また一歩とルーミアが倒れている俺の方へと近づいてくる。俺に止めを刺す為に。

 

「安心して頂戴……ここまで私を追い詰めたあなたのことは、覚えておくから」

 

 くそ……もはやこれまで、ってヤツか。

 こんなところで死ぬなんてメチャクチャ悔しいけど……どうしようもない、か。

 

 俺の傍までやって来たルーミアは、傷だらけの腕をゆっくりと持ち上げ、その鋭利な爪を立てる。

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 だが……。

 

「悪いけど、連れをみすみす殺させはしないわよ」

 

 ルーミアは、俺に止めを刺さなかった。

 いや……刺せなかったのだ。

 

「これは……結界!?いつの間に!?」

 

 

 なぜならば、今の俺は一人ではない。

 ……が、もう少し早く来てくれればヒヤヒヤせずに済んだんだがなぁ……。

 

「随分な、大遅刻だな……大御所なんて身分じゃ、ないだろう」

「これでも急いだ方なのよ?しかも私を閉じ込めていた闇を解除した途端、急に周りが爆発し始めるんだもの……もしかして私が居る事忘れてたんじゃないでしょうね?」

 

 そんな訳がないだろう…………紫。

 

「あれくらい、お前なら逃げられるだろ……あわよくば、お前を閉じ込めてた闇もぶっ壊してやろうと、思ってたんだがな」

「信用されるのは悪くないけれど……今度からはもう少し穏便にお願いね」

 

 窘めるような口調ではあったものの、紫のその顔には柔和な笑みが浮かび上がっていた。

 

 そして俺に向けていた笑みを控えめにすると、彼女は結界の中に閉じ込められたルーミアへと向き直った。

 

「貴女の手作りのお家で随分とくつろがせてもらったわ。解除しようにも妙に入り組んだ構造にしてくれちゃって、おかげで頭の運動に事欠かさなかったわ」

「念入りに仕込みをさせてもらっていたんだけどね……で、あなたが私に止めを刺す、という事かしら?」

 

 吐き捨てるように台詞を放ちながら、ルーミアは紫を睨みつける。

 

 現に今の状況は、ルーミアにとっては絶体絶命。彼女の周辺には結界が張られており、先程から身体を一切動かせていない所を見ると、どうやら紫は身動きを封じる類の方陣を仕組んだらしい。

 そして一方の紫は傷一つ無く健在。先ほどとは真逆の立場となっているのだ。

 

 しかし、紫は彼女の言葉に首を横に振って答えた。

 

「残念だけれど、私も好き好んで同じ妖怪を殺す様な真似はしないのよ。ここの彼も、同じ口でね」

「ならどうするつもり……?いつまでも結界で縛りつけたところで、私の傷が癒え次第すぐに壊してあげるわよ」

「そんな貴女に、良いものを送ってあげる」

 

 その言葉に訝しむルーミアを余所に、紫は自身の懐をまさぐり出すとその中から一枚の布を取り出した。

 

「パッパラパッパッ パ~ッパッパァ~♪封印リボン~♪」(ダミ声)

 

 おい、そこのドラ○もん。っていうか何でドラえ○ん知ってるんだよ。

 

「このリボンを身に付けた妖怪は、このリボンに施された封印術に力を封じ込まれて弱くなってしまうのよ~」(ダミ声)

「それまた随分な代物を……いつのまにそんな物持ってたんだ?」

「さっき閉じ込められてる最中に、仕返しのつもりで作っておいたのよ~ふぅふぅふぅふぅふぅふぅ」(ダミ声)

「その笑い方やめい」

 

 あかん。これ完全に知っている口ですやん。ドラえもん熟知してますやん。しかも初期の方。

 

「というわけで、ルーミア……だったわね?貴方にはこれを付けてもらう事にするから」

「いや、ちょ、待ちなさいよ!そんなことするなら一思いにやればいいじゃない!止めて!」

「嫌よ嫌よも好きの内、ふぅふぅふぅふぅふぅふぅ」(ダミ声)

「アッーー!!」

 

 ……空気、緩くなったなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その後……。

 

「……まさか、精神的にも封印の影響が出るとはな」

「すっかり毒気が抜けちゃってるわね」

「どくけ?それっておいしい物なのかー?」

 

 俺と紫の目の前にいるのは、ルーミア。

 ……の筈なんだが、紫が封印のリボンを彼女につけた途端、身体がやや小さくなったかと思うと今までの敵意がすっかり抜けきってしまっていたのだ。

 しかも敵意どころか、冷徹で好戦的だったあの性格まで変わってしまっているみたいなんだが……一体何をどこまで封印したんだ、このリボンは。

 

「毒気は食べものじゃないから、お前もそろそろどこかに行きな。あと人間は無闇に襲って食べないようにな」

「食べちゃダメなのかー?」

「絶対に駄目、と言えるような立場じゃないんだが……あんまり派手にやると人間が退治しに来るから、ちゃんと弁えるようにな。猪とかの肉も普通に食べれる筈だろうし」

「うーん、わかった。ちゃんとわきまえるのだー」

 

 ……分かってくれてるのか?これ。

 

「まぁ実力は弱小妖怪レベルにまで下がってるようだし、放っておいても大きな被害は出ない筈よ」

「お兄ちゃんの腕、おいしそうなのだー。ガブガブ」

「あら、早速被害が……」

「食うんじゃない」

 

 腕に噛みついてきたルーミアを放したい……のだが、身体がまだ動かないのでされるがままとなっている。っていうか身体が痛んでるから噛まれただけでも普通に痛い。

 

「なんだかおなかがイッパイになるような気がするから、行く前にもうちょっとだけこうしてるのだー」

「あらあら、貴方の腕がお気に入りになったみたいね」

「勘弁してくれ……」

「ガブガブ」

「だから食うんじゃない」

 

 はぁ……早く身体が動けるようになってくれないだろうか。

 

 

 

―――終わり

 




3話にまで続いた戦闘も、ついに終了です。
次の67話で【奇妙な二人旅編】は終了し、次の編へと進みます。

そして今回出番のあった『モード・カオス』の情報です。

■暁宮 満希『モード・カオス』
【特徴】
 『モード・カグツチ』に変身する際に使用する指輪と『モード・コノハナサクヤ』に変身する際に使用する腕輪を互いに打ち合わせる事によって変身する、現状における暁宮 満希の最強形態。
 服装は黒いロングコートで、端の部分がボロボロな具合となっている。その下には標準的な白いシャツを着ており、ズボンは上着同様に黒色、靴は茶色のブーツとなっている。服装のイメージはアサシン(暗殺者)。
 戦闘力は非常に高く、二つのモードが苦戦する程の強敵に対しても互角もしくはそれ以上の強さを発揮することが出来る。パワー、スピードはどの形態よりも上に位置しており、特にスピードが極めて強化されている。
 戦闘方法はオールラウンドで、近接戦闘に加えて炎を使った遠距離攻撃、変身によって新たに所有している短剣や暗器などの攻撃とその攻撃バリエーションは富んでいる。加えてそのどれもが他二つのモードよりも優れているため、器用貧乏ならず万能の性能と言える。
 しかしそんな強力な力を持つ反面、身体に大きな負担を与えるため戦闘し続けていると肉体にガタが来やすくなる弱点があり、防御力についても『モード・カグツチ』より劣っており、打たれ強くは無い。また神力の消耗が非常に激しく、長く持っても5分間程度しか変身時間が無いため、安易に使うことは禁物である。
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