東方光照譚―その手を差し伸べる―    作:たいお

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あらすじ:かぐや姫拾った。


第69話 輝夜―かぐやひめ―

 さて、どうしたものだろうか。

 

 つい先程の出来事なんだが、俺は偶然見つけた竹林で筍を採っていた。季節も頃合いで、順調に筍狩りを行うことが出来ていたんだ。

 そしてその中に光る竹を見つけてしまい、俺はそれを切ってみて正体を確かめた。

 その光る竹の中に入っていたのは……。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 ただ今即席で作った毛布製の寝床の中で気持ちよさそうに眠っている、この小さな女の子である。

 なんとこの女の子……昔話として特にメジャーな知名度を誇る、あの竹取物語に出てくるかぐや姫だと思われるのだ。断定していないのは、まだ本人に直接真実を問い質していないからである……が、既にその線は濃厚なものとなっている。

 

 竹取物語とは。

 日本の物語として最古のものだと言い伝えられており、その作者はいまだ不明として扱われている。内容としては、讃岐造という名のとある老爺が竹藪の中で光る竹を見つけ、その中からかぐや姫を見つけ、自らその子を育てる事を決意。やがてかぐや姫は都の貴族たちの求婚に対して無理難題を以て断り、その後月の民によって天へと連れ帰られていった……というのが簡単な概要となっている。

 ここまでのシチュエーションは、竹林に来た目的以外は殆ど言い伝えの通りになっているため

 

 えっ……と言うかコレ、俺ってとんでもないことやらかしたんじゃね?

 もともとかぐや姫は翁に迎えられて育てられていく話だったんだから、此処で俺がこの子を見つけちゃったら、翁もうかぐや姫に出会えないよね?話では輝夜を育ててからは竹の中に金を見つけて裕福な暮らしになるってあったから、翁の富豪ルートへし折っちゃってるよね、俺。

 ……というかそもそも、このままじゃ竹取物語が存在しなくなって、歴史的にも色々変化が起きてしまうんじゃ……。

 

 ……………………。

 

「か、返すの……?またあの竹の中に?」

 

 発言しておいてなんだが、それ流石に無いな。

 あの竹の仕組みがどうなっているのかは分からないが、俺はあの竹を切ってしまっている。そこにもう一度戻したところで、翁がいつかぐや姫を見つけてくれるかは見当もつかない。明日か3日後か来週か、はたまた一月一年十年後か……いずれにしても、従来と違う状態にしてしまった竹にまたこの子を戻して何か支障が来たされたとなれば、それこそマズイ行動になる。

 故に却下。

 

「翁を探すか……?」

 

 物凄くうろ覚えだが、確か翁は都に位置する大和国(奈良県)のどこかに住んでいるという事を聞いた覚えがある。

 いつの間にか俺も大和の国内、或いはその近隣にいたんだな……というのはどうでもいいとして、竹の加工をしている人というのも別段多くはなさそうだし、足を使って地道に探していけばいつか見つかるとは思う。

 もっとも、仮に出会えたとしてもどこをどう説明してこの子を引き取ってもらうかが掠りも思いつかないから、保留。最後の手段として一応候補に取り上げておこう。

 

 後はそうだな、俺が――。

 

「んぅ……?ふわぁ」

 

 あ。

 

「うぅん、ここは……そうか、私は……」

 

 ……どうやら目が覚めてしまったようだ。まだこの子の処置をどうするか決まっていないのに……。

 

 毛布の中で可愛らしく欠伸を起こした少女は、まだ眠り足りたいのか、トロンとした目で何か小言で呟きながら辺りを見渡す。今頃彼女の視界には、うっそうとした竹林が見えているのであろう。

 そしてその見回す最中、俺の姿が視界に入った途端、その動きをピタリと止めた。まだどろんだ瞳を此方に向けて来ながら、その口をゆっくりと開いたのであった。

 

「あら……おはよう」

「え?あぁ……おはよう」

 

 その口から発せられた言葉は、呑気にも何気ない挨拶からであった。

 

 俺も咄嗟の事で呆気にとられてしまったが、直ぐに気を取り直して挨拶を返す。

 

「もしかして、貴方が私を保護してくれたのかしら?」

「保護……まぁ偶然見つけてそのままにしておくのもアレだったから、勝手だけどこうさせてもらったよ」

「いいえ、朧げだけど眠っていた最中に優しく包まれる感覚があったから……心地よくて穏やかになれた気がするわ。ありがとう」

 

 自身の身辺を見ながらそう俺に問いかけてきた彼女に対して、俺はそのように答えた。流石に硬い竹の中に入れたままというのは気が引けるのも確かであったし、荷物にあった毛布で包ませてもらったが、一方で彼女はその事に対して悪く思わないでくれた。寧ろ感謝の言葉を述べ、ニコリと柔和な笑みを此方に浮かべてきた。

 なるほど、昔山田が『美人の笑顔はどんな化粧よりもヤバい。可愛すぎて死にそう』とか言っていたような気がするが、あながちその通りかもしれない。普通の男だったらこの笑みを見た瞬間に惚れてるだろうな、ニコポニコポ。

 

「取り敢えず此処にいても埒が明かないし、一旦竹林の外に出るとするか。えっと……」

「……あっ、私の名前かしら?私は輝夜……そうね、蓬莱山、とでも結えて置きましょうか。蓬莱山 輝夜、それが私の名前」

 

 やっぱりかぐや姫だったかー。まぁ予測通りと言われればそれまで何だけどさ。

 というか、蓬莱山って名字があるなんて初耳だな……けど今の口ぶりだとたった今付けたような感じだったが……。

 

「輝夜、ね。俺は暁宮 満希、好きなように呼んでくれて構わない」

「暁宮 満希……?何だか聞いたような名前だけれど……」

 

 そう言ってかぐや姫――もとい輝夜は、俺の顔を見つめながらうんうんと唸り出す。

 

 俺の名前に聞き覚えがある?そこまで有名人になった覚えは無いんだが。

 それに輝夜って言い伝え通りなら地球人じゃなくて月の人間だった筈だ。尚更俺の事を知ってるのは――。

 

 ……あっ、もしかして。

 

「なぁ輝夜……月の様子はどんな感じだ?またぶっ飛んだ技術で栄えたりしてるのか?」

「っ!!」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、輝夜の眼が大きく見開かれた。

 俺の言葉は彼女の動揺や興味を誘うには十分すぎる程の内容だったようで、彼女の表情にはそれらが分かりやすく浮かび上がっている。

 

 やはりそうか。

 彼女は月の人間。つまり俺が昔暮らしていた未来都市の同族、俺の事を知っている誰かから聞いたから俺の名前に聞き覚えがあったのか。

 

「どう言う事?この星の現在の技術では月の事を知る事なんて絶対に不可能な筈よ、人がいるどころか叡智的技術が確立されている事すらも、理解できるわけがない」

「知っているも何も、かつて俺も今の月の住人たちの暮らしに混じってたからな。訳あってこうして今も生きて」

「一緒に暮らしてたって……月への移住は何千年も前に行われた事なのに今も生きてるなんてとんでもない話よ。……いや、穢れが全くないのを見る限り、あながち眉唾語りというわけにはならないかしら」

「穢れ?」

「うーん……説明してもいいけれど、少し長くなりそうだから今度話すね」

 

 そう言って彼女は説明を後回しにして来た。

 

 俺も別に文句はなかったので、この場での追及はしないことにした。

 

 それにしても……穢れ、ね。

 もしかすると、俺のこの不老不死の原因の手掛かりが掴めるかもしれないな。

 

「あっ!」

 

 突然、輝夜の方から驚く声が発せられた。

 

「思い出した!どこかで聞いたことのある名前だと思ったら、月の都で有名人の名前と一緒っ!それに永琳も貴方の事を話してたの!」

「俺が月で有名人って、いや、それよりも今永琳って……」

 

 前者も十分に驚ける内容であったが、それよりも驚愕すべきワードが彼女の言葉が出てきて俺は思わず反応した。

 そう、『永琳』。

 かつて能力を開花させたばかりの俺を拾ってくれて、助手として都での居場所を提供してくれた、俺の恩人の一人の名前だ。天才的頭脳を持っており、都一番の薬師兼政府の重役一員として多忙な日々を涼しい顔でこなしていたスーパーウーマン。基本的に放任主義でありながらもここぞという時には世話を焼いてくれる一方で、自身で作った妙な新薬を使って実験を知り合いに行わせようとするなど、その特徴と言ったら都の知人の中でもかなり飛び出たもの。

 

 まさか、こんな所で永琳さんの知り合いと出会えることになるなんてな……。

 

「うん、永琳は私が月に居た頃に家庭教師を務めてくれていたの。他にもアマテラス大姉様やコノハ姉様、カグツチ兄様も時々私の所に遊びに来てくれてね、皆が貴方の話をしていたのよ?」

「永琳さんだけじゃなくて、アマテラスさんたちの名前まで一気に聞けることになるなんてな……」

 

 世間は狭いなんて言う言葉があるけれど、どんだけ狭っ苦しいんだか……。

 けど永琳が家庭教師を務める程となると、この子も恐らくかなり上の立場に属していたに違いないだろう。アマテラスさんは政府の重鎮だったし、コノハも名家のお嬢様だって話だから地位は高い筈、カグツチに至っては都の頂点であるイザナギ・イザナミ夫妻の息子なのだから当然立場も高い……そんな面子と知り合いなのだから、輝夜もそれに近しいほどの地位が無ければならないだろうし。

 

 誤解が無いように言っておくけど、俺はあの人たちと知り合いだからって高い位についていたわけじゃない、あくまで永琳の助手と言う立場に過ぎなかったので悪しからず。

 あれ?でもこれも十分に凄いポジションなんじゃ……まぁいいか。

 

「ところで、月で俺の名前が有名だっていうのはどういう事?」

「知らなかった……のは当然かな。なんでも自らの命を犠牲にして妖怪の手から月の民を守り通した英雄、って言う感じで逸話が広がってたのよ。生きてるけど」

「まぁ、その辺は俺も予想外だったしな」

「で、その健闘を後世まで残していきたいって私のお父様が言いだしたのがきっかけで、そんな伝説が語り継がれることになったのよ。私は箱入りだったから見たことは無いけど、あなたの銅像が都の中央の広場に設置されてるみたいよ」

「なにそれこわい」

 

 想像してみたら身が震えた、というか俺の知らない所でどエライ事になってるんだけど……。今回の件といい鬼が俺に興味を持っている件といい、どうして俺の目の届かない場所で凄い展開が起きていることが多いんだ。

 

「ところで、お父様って?」

「ツクヨミって名前よ、お父様は自分の事をあまり話してくれないけれど、永琳が言うには月の都を作るにあたって先頭に立って指示していた人なんだって」

「……さいで」

 

 ツクヨミとかメチャメチャビッグネームじゃないですか、ヤダー!

 そりゃこの人マジもんのお姫様ですわ……月の都の創造主の娘とか、そこらのお偉いさんも頭が上がらないくらいの地位でしょうよ……。

 

 と、ここで俺の胸中に疑問が一つ浮かび上がった。

 

 『こんな子がどうして月から降りてきているんだ?』と。

 

 彼女の口から語られた情報を整理するにしても、都の設立者の娘である輝夜が月ではなくこんな場所にいるということには首を傾げたくなる話である。

 月の人たちが地球に居る輝夜に対してどれだけ補助をしているのかは分からないが、ここは人間の盗賊や妖怪が出没するような環境である。そんな危険を伴うような場所にこんな子がいる理由に皆目見当がつかない。

 では、原作通りの理由で地球にいるのか?という疑問も生じるがそれは直ぐに失せられる。

 何せかぐや姫が翁たちの元に現れた、というか竹の中にいた理由を思い出そうとしたのだが、竹取物語ではその理由が示されていなかった筈なのだ。確かかぐや姫は月で罪を犯してしまって、その影響で地球に来た事になっているがその罪状が書かれておらず真相は当事者のみが知り得る。

 

 原作と同じなのかは分からないが、当事者である本人がこうして目の前に要るのだ。ならば何故この地球に来ているのかを聞いても…………。

 

「(……いや、止めておこう)」

 

 聞こうとも思ったが、止めた。

 

 俺はかぐや姫の事もであるが、目の前にいる輝夜の事を何も知らないのだ。

 それなのにグイグイ問い詰めるというのは、彼女の事情を含めずと思うとあまりに無遠慮な話である。

 

 色々と聞きたい事もあるんだが……今は彼女の方から話してくれるまで聞かないでおくとしよう。

 

「取り敢えず、輝夜はこれからどうするんだ?」

「ん~……折角月の事を知ってる人に出会えたんだし、このままあなたについていきたいんだけど、駄目?」

 

 まぁ、知ってた。

 

 やっぱりこれ、俺が翁の代わりにやっていかなきゃならないって事だよね、育てることとか求婚の取次ぎとか色々と……ナンチューコト、スッゴイカワイソ!いや、一番可哀想なのは愛娘に出会えなくなった翁と媼の二人だけども。

 

 とはいえ、この状況で他の人に託すなんて物凄く変な話だしな……輝夜も見ず知らずの他人よりも知人の知り合いとの方が気が楽みたいだし。

 

「いや、駄目じゃないさ。それじゃあこれからよろしくな、輝夜」

「うん、よろしくね。……大兄様」

「大兄様?」

「カグツチ兄様の兄貴分だったんでしょう?それならこの呼び名がピッタリかなぁ、って。それともこれから養ってくれるから、お父様の方が良い?」

「それはマジでやめて」

 

 そんな呼ばれ方されたら、間違いなく俺はストレスで胃袋がカスカスになってハゲになる。そして輝夜の父親であるツクヨミって人にそれが知られたら、俺は確実に殺されると思う。

 

「取り敢えず都に行こう……と思ったけど、輝夜のこともあるからもう少し後に回すか」

「え、私は別に平気だけど?」

「小人を養う俺の身にもなっテ!」

「……あ、そっか」

 

 ……大丈夫なのか?この組み合わせ。

 

 

 

―――終わり

 

 




輝夜は公式で『天然気味でやや世間ズレしている感がある』『性格は人見知りせず天真爛漫、好奇心旺盛』ということらしいので、その辺りをここでも設定しつつ描写していこうと思っています。
とりあえず口調は基本的に標準語で、身内や気心の知れる相手には砕けた言葉を使用するイメージで。我儘放題云々は育ての親が翁から主人公に代わったことで、少し控えめになるような感じでいきます。
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