「ねぇ大兄様。何かお手伝いする事ない?」
昼の時を過ごしていた時だった。
暇つぶしがてら竹の加工を手探りながらも挑戦していた俺は、突然輝夜から声を掛けられてそのような事を言われたのだ。
少々呆気にとられながらも、俺は彼女に確認の意味を込めて聞き直しを行う事にした。
「どうしたんだ?急にそんな事を言いだしたりして」
「だって私の身体が大きくなるまで都には行けないんでしょ?この世界の娯楽なんて都にばかリ集まってるんでしょう?ゲームすら無いし」
「あるか馬鹿野郎」
こんな時代にゲームがあったらビックリだわ。
「ちょくちょく大兄様がアウトドアに連れてってくれるのは嬉しいし楽しいから好きなんだけど、それ以外はやっぱり暇になっちゃうの。ああいうのは日を置くから楽しいって言うし」
「まぁ、確かにそれは言えてるが」
作業の手を止め、輝夜の言葉に耳を傾けていた俺は少し思案を行う。
確かにこの仮住まいには暇潰し用に個人で集めていた本が用意されているだけで、娯楽に関するものは殆ど置いていない。景観についても周囲は竹ばかりで変わり映えしなく、仕方がないとはいえ確かに退屈をしてしまう環境だ。
本当なら都に連れて行ってやりたいんだが、今の輝夜の身長だと世間にバレたらとんでもない騒ぎになって、生活どころじゃなくなる可能性があるからなぁ。彼女には申し訳ないが、暫くはこの家で我慢してもらうしかない。
さて、それはさておいて輝夜の退屈を晴らしてくれる事、ね。
「そうだな……取りあえず思いついたものから手を付けてみるか?案外輝夜が気に入るような作業があるかもしれないし」
「うん、その辺りは大兄様に任せるね」
さいですか。
まぁ自発的に何かを手伝ってくれるっていうのは正直嬉しかったし、俺も頑張ってみるとしようかね。
――――――――――――――――――――――――
「というわけで、まずは夕飯の食材調達を兼ねて鹿狩りでもしてみようか」
「ハンティングね、アウトドアでもやったこと無かったからどんな感じにやればいいの?」
「まぁそう慌てるな。先ずは」
俺はそう言って、彼女の目の前に弓と矢を差し出した。
それを見た輝夜は、俺と弓矢を交互に見比べながら、ポツリと呟いた。
「大兄様、弓なんて使えたの?」
「射的感覚で時々使ってたから、ド素人と言うわけではないぞ。流石に本職の人には負けるけどな」
「大兄様が弓を使ってる姿なんて、全然想像できないんだけど……」
まぁ、俺も柄じゃないのは知ってるしな。
「けど、私の背丈じゃ大兄様が使っているようなサイズじゃ大きすぎるんじゃない?」
「大丈夫だ。こんなこともあろうかと、輝夜の背丈に会った弓を既に用意しているんだ」
「真田志郎並の準備の良さには驚いてるけど、サイズもピッタリとなると未来予知でもしたのかと疑っちゃうわ」
そんな能力は無い。真田さんの用意周到さは大好きだけど。
「弓矢が準備されてるのは良いとして、流石にこんな大きさじゃ獲物は仕留められないんじゃない?針でチクって刺す程度の痛みしか与えられない気がするんだけど」
「その点についても大丈夫だ。矢を放つ直前に炎を込めて威力を高めてやるから、小さい矢でも十分な殺傷力に仕立てることが出来る。矢が身体に刺されば体内で火が破裂炸裂する仕様だから、大柄な獲物でも十分に倒せる」
「なにそれこわい」
だってこれ位しないと一発の矢で倒しきれないだろうし。2発目は逃げられる可能性がかなり高くなって失敗になりやすくなるし、小柄な物を狙うには今の輝夜の腕前じゃ難しいものがある。
どうせ俺がサポートして撃たせるつもりだったし、ついでに強化させる程度だから大した差支えもない。
「……まっ、いいか。それじゃあ早速獲物を探しにいきましょ?」
「そうだな。というか結構乗り気なんだな」
「だってこういう経験、似たような事すらやったことなかったし」
まぁ、あんな発展した都会だったらこういう先時代的な作業は無縁だろうしなぁ……。
獲物を探し始めて十分程度経ったところだろうか。
自分の狩る獲物を探すべく先陣を切って森を歩いていた輝夜が、その足を止めてこちらに手招きをし始める。
「……ねぇ、大兄様」
「ん、いたか」
遠くを見るような眼に加えて掛ける声を抑えていたことから、俺は直ぐに察することが出来た。
俺は輝夜の隣に立って、彼女と同じ風景をその眼に留める。
視界の先にいたものは、体長が1m強くらいはあるイノシシであった。こちらの存在に気付いていないようで、悠々と森の中を歩いているところである。
「イノシシか……定番のボタン鍋とかが無難なところか。あ、角煮とかも食べてみたいな。けど調味料が揃ってないか」
「大兄様、夕餉に思考が向くのはいいけどちゃんと仕留めないと意味がないからね?」
「分かってる分かってる」
早速俺と輝夜は、イノシシに気付かれないように細心の注意を払いながら弓を番えて準備を始める。
イノシシはかなり神経質のようで、気配などに敏感らしいからな。ここで逃がしてしまうのはあのサイズを見ても非常に惜しいものがある。是非とも確実に仕留めたいものだ。
しかし輝夜は弓を番えようとしても、長い袖元がもどかしいようで逐一袖をまくっては戻り、またまくっては戻りと言った様子となっている。
「うぅ、振袖がジャマで上手く構えられない……」
「今更だけど、狩りに行くような恰好じゃないよなそれ。俺もなんで言わなかったんだか」
「だってこれ以外の服が寝間着しか無いんだもん。洗濯しても一晩で乾くとはいえ、大兄様が作ってくれるとかしないと手に入らないんじゃない?」
「また小物づくりをせにゃならんのか……」
というか、女物の服を編むなんて色々と大丈夫なんだろうか。俺。シルバニアのお家でも作る気なんだろうか……。
輝夜の方もようやく落ち着いて弓を構える状態になれたようで、俺は彼女の後ろからサポートを行うようにする。
百聞は一見にしかず。そして一動は一見にも勝る。一応やり方を教えてはいるが、言葉だけでは伝わりにくいこともある筈なので、俺がその辺りをギプス的ポジションに立って教えるのだ。手取り足取り教えるって、こういう型が由来なんだろうか。
「……弓引くのって割と力がいるけど、大丈夫なのか?」
「うん、だって私こう見えても力があるし」
マジか。人って見かけによらないもんなんだな。まぁルーミアを見た後だと何故か納得できてしまうな。
む、そろそろイノシシも移動を始める頃みたいだな。
「今だ、此処で撃て」
「よし……!」
イノシシはピクリと身体を震わせて身の危険を察知したようだが、時すでに遅し。
輝夜の放たれた矢はイノシシの死角から空を切り裂いて一直線に突き進み、イノシシの太い身体に直撃、そのずんぐりとした肉体を貫いた。
そしてその瞬間、矢の全体が炎で包まれ始め、イノシシの身体にも炎が移っていった。
イノシシは自分の身を覆うとする炎から逃れようとするが、これも間に合わず。あっという間にイノシシの身体は、完全に炎に包まれていった。
イノシシは炎の熱に苦しみもがき、必死に暴れて炎を振り払おうと抗う。しかし炎の勢いは衰えることも無く、容赦なくその体を焼き尽くした。
そして炎が消えた頃には、すでにイノシシは絶命していた。
「……割と惨いものを見た気がするんだけど」
「奇遇だな。俺もだよ」
今回は念のための仕掛けだったけど……多分もうやらないな。見ていて罪悪感が半端ない。
俺は焼けたイノシシを回収しながら、そんな事を考えるのであった。
食料の調達を終えた俺たちは家へと戻り、夕食の仕込みをしているついでに薪割りをする事になった。
夕食に使う焚火と今日の分の風呂焚きで薪が切れそうになると分かったら、『折角だからやってみたい』という輝夜の要望が届いてきたのだ。
と、いうわけで……今は輝夜に薪を割らせてみている所だ。
斧が重いんじゃないかという心配は薪割りの仕方を教える前から湧かなかった。なにせ身の丈を超えるイノシシを片手で引き摺ってしまってたんだもの。金太郎もビックリだよ!
「んしょっ。ねぇ、大兄様」
「ん?」
「大兄様って、今日教えてくれたこと以外にも色んな家事してるんでしょ?」
「そうだなぁ……今日は食糧調達と薪割りをやったんだったな。後は3食分の炊事、洗濯、家の掃除とか、家事じゃないけど庭の整備、都への買い出しとついでに立地調査、農作業、売り物用の小道具作り、それと――」
「うん、やっぱ手伝う。手伝うからちょっとは身体を労わって」
言わせんぞ、とばかりに言葉を遮られてしまった。
輝夜は俺の身体を案じているようだけど、別に全部を毎日やるわけじゃないから言う程苦でもないんだけどな。伊達に長生きしてないから、手早く済むコツとかも掴めているし。
俺も輝夜の事はなんだかんだで保護者の視点で見ているし、あまり家の手伝いばかりさせるよりものびのび暮らしてほしい所だが……まぁ、本人の好意を跳ね除けるのも良くは無いか。
「分かった。それじゃあまた明日からちょっとずつ教えていくか。明日はなにかしてみたいことはあるか?」
「えっと…………多すぎて、何があったっけ?」
「……リストとか作っておくか」
永琳さんへ。
輝夜は今、保護者思いの良いこに育ってきています。
―――終わり
一月以上の遅延、申し訳ございませんでした。
そして今回の回を書いていて、学べたことがありました。『余計な話を書かずに、さっさと本筋書かないとダメ』だと。書いていて全然筆が進まず、筆休めに始めたISの作品がこの作品以上の手応えだったのが相まって、だいぶ執筆を疎かにしてしまいましたし……。
次回からさっさと輝夜を成長させて、ストーリーを動かしていこうと思っております。
ISの作品も軌道に乗って来たので、今後どちらがメインを張るかが未明ですが……。アニメのバトルシーンとか見てるとこっちの作品を書きたくなるので、それを利用して投稿が遅くなり過ぎない様に続けていく所存です。
それでは、次回をお楽しみに!