俺はどこにでも居る普通の高校生だった。普通に学校に通って、普通に友達と一緒に駄弁って、普通に暮している。何て事無い、腐れ縁の友達の一人が異様な程ツインテール大好きなバカな事以外、は至って普通な学生だった。
でも、俺は周囲に、そしてそんな友人たちにさえ隠していた事があった。だが、その隠し事が友達に知るところとなる。ある事件がきっかけで、俺は全く予想していなかった未来へと進む事になった。
そう、全てはあの、春の日に始まった。
春。大勢の人々が新たな一歩を踏み出す季節。そしてそれは俺、『大鳥 空』もその一人だ。俺は今年の春から高校生だ。俺の通う学校は『陽月学園』と言って、小中高、そして大学まであるエスカレーター式の学校だ。ちなみに俺は中学の時からそこに通っている。今日は入学式だけ、と言う事で俺は中学時代からの腐れ縁の友人達と一緒に喫茶店、『アドレシェンツァ』で昼食を取っていた。
とは言ってもドアにはClauseの看板が掛かっている為、店内に居るのは俺と幼馴染みの二人の、合計3人だけだ。何でしまってる店で飯食ってるのかと言うと、その幼馴染みの実家だからだ。
で、この家に住まう幼馴染みはというと……。
「ハァ。なんであんな事書いちまったんだ」
絶賛、落ち込み気味だった。こいつは『観束総二』。この家の息子であり俺の幼馴染みその1。そして、生粋の『ツインテールバカ』である。
何故この総二が落ち込んでいるかと言うと、こいつはついさっき、学校のクラスで希望する部活の用紙に、このバカは何を血迷ったのか『ツインテール部』などと記入して、しかもそれがクラスメイト全員に暴露される結果になったのだ。
「ツインテール部は無いわよねぇ」
そんな総二の傷を抉るように追い打ちをかけるのは、俺の幼馴染みその2、『津辺愛香』だ。祖父が武術家で、滅法強い。ちなみに髪型はツインテールだ。何を隠そう愛香は総二が好きなのだ。とは言っても肝心の総二には気づかれている気配が無い。
「まぁ、こいつのツインテールバカは今に始まった事じゃないからな」
俺は愛香の言葉に続いてそう呟くと、コーヒーに口を付けた。
「うるせー、俺はバカじゃねぇ。ただ、無意識だったんだよぉ。はぁ~~~~~」
クレバスよりもなお深そうなため息をつく総二。
「無意識でツインテール部って書く時点で相当ヤベーだろ」
「まぁ、このツインテールバカっぷりこそそーじよね」
俺の言葉に同意する愛香。確かに、と考えながら俺は昼飯のカレーを食べる。
「つ~か、二人も二人であの時なんかフォローしてくれても良いだろ~。友達だろ~」
「いやどんなアドリブだよ。何をどうフォローせぇっちゅうんだお前は。庇いようがねぇよ。ツインテールはウル○ラ怪獣のツインテールですって言えば良かったのかよ」
「馬鹿野郎っ!あれはツインテールなんかじゃねぇ!あれはただのムカデお化けだ!」
……この調子である。庇いようがなさ過ぎる。
「まぁ、お前のツインテールバカが早速クラスメイト全員に速攻バレたって事で、諦めるんだな」
そう言って、俺は隣に座る総二の肩を叩く。
「そうそう。諦めも肝心よそーじ」
「うるせー!こんな最悪な出だし、はいそうですかって言って諦められるか!あん時は頭真っ白だったんだよ!」
「頭真っ白なのにツインテールって書けるのかよ」
もはや反射レベルだな。とか考えながら俺は苦笑する。
「少なくともあたしは、単語すら知らない人も多い髪型の名前を咄嗟にだしゃしないって、胸を張って言えるわ」
「説得力がねぇんだよ!無い胸張った所で起伏なんてねぶぇっっっ!?」
あ~あ~、NGワード呟いて愛香に殴られてやんの。
「お前さ~、口喧嘩のたんびにその話題出すの止めとけよ~。その内、ホントに殺されるかもしんね~ぞ」
「ぐ、ぐぅ」
俺が忠告する中で唸る総二。まぁ、愛香がこいつに惚れてる以上、そうそう無いとは思うけど。とか考えながら、俺は残っていたカレーをかっこむ。
「ん?」
その時、総二が俺の方を向いた。だが、正確に言うならば、視線は俺では無く、俺の更に向こう側に向いていた。
「ん?どったの総二」
「あぁいや、あの人」
「は?人?」
店は現在閉まってるのに、人が居るのか?気になって俺は視線を180度回転させた。
すると、確かに店内に人が居た。
「あホントだ。未春さん居ないのにな」
「大方、母さんが確認もせずに出てったんだろ」
俺の言葉に呟く総二。
「ちょ、そーじ」
ん?
何やら愛香の恥ずかしがる声が聞こえたので視線を向けると、総二が愛香のツインテールの毛先を弄っていた。
「あ、悪い」
咄嗟に手を離す総二。
「ハァ、無意識にツインテールに手が行く辺り、お前はやっぱりツインテールバカだよ」
「う、うるせぇしょうがねぇだろ。癖なんだから」
そう言って反論する総二だが……。
「宇宙広しと言えど、んな癖持ってるのはお前一人だけだよ」
「うんうん」
俺の言葉に愛香が頷く。
やがてそのまま愛香が、責任がどうのと言って居た時。
「って言うか、なんで人が?」
愛香が奥に居る人、お客さん?に気づいた。今更かよ!?と心の中でツッコむ俺。
「……一応、店閉まってるの伝えるか?」
俺がそう言うと、3人してお客さんの方に視線を向けるが、肝心のお客さんは新聞紙を広げていた。
かと思ったら、それを突き破って穴をあけて何かこっち見てるし。
「「「……………」」」
あまりに昭和テイストな行為に俺達は対応に困ってしまう。
「……知らせるの、やめるか」
「そうね」
「左に同じく」
総二の言葉に、愛香と俺が頷き姿勢を戻す。しかし……。
「おい、何か奴さんすげぇこっち見てるぞ」
「無視よ空。無視に限るわ」
凄い視線を感じる。それはもう穴が空くんじゃないかって程の視線が。
すると、お客さんが新聞をたたみ始めた。その様子をチラ見するが、相手は女の人だった。白衣を纏い、その下にはかなり大胆な服装をしている。髪の色は、白髪?いや銀髪か?見た目からして、外人っぽいが。出て行くのか?とか思ってたら出口スルーしてこっち来たぞ!?
すると、外人のお客さんは何故か総二の傍に立った。そして……。
「相席よろしいですか?」
そう呟いた。
「待て待て待て待てぇ!」
「何をどうしたらそうなるんだよ!?」
いきなりの事に総二の両サイドからツッコみが飛ぶ。ちなみに止めに入ったのが愛香で俺がツッコみを入れた。その後も、外人さんに突っかかる愛香を見かねた総二が止める。そして、何やら総二が女の人を見つめているが……。
『ツンツン』
俺が総二の脇を肘で小突いた。すると総二が我に返ったかのようにハッとなる。どうせ、頭の中じゃ『この人ツインテール似合いそうだな~』とかしか考えてないんだろうが。
「おい、見とれてるぞ」
「っと、そうだった」
「えっと、『俺達』に用があるんですか?」
「はい。『貴方』に大切な用があるんです」
総二がわざわざ、俺達を強調したのに対し、女の人は、逆に貴方、の部分を強調した。つまり、俺と愛香は一切眼中にない、と。チラリと横を見れば、のけ者扱いの愛香が怒り心頭、と言った感じだ。
やがて、その女の人は『トゥアール』と名乗り、何か変なブレスレットを総二に付けようとして愛香と揉め始める。
……一応、『スキャン』して見るか。
俺は、内に備わる『機能』を使って、何やら付ける付けないの押し問答をやってるトゥアール、さん?の手のブレスレットに視線を向ける。もしこの時、俺の顔をのぞき込んでいる者が居たら、気づいただろう。俺の瞳が、僅かに『動いている』のを。
しかし。何やら総二に胸を突出し『好きにして良いよ』アピールをしているトゥアール。……何かもうさん付けで呼ぶのがアホらしくなってきた。
「おぉいどうするよ。変態だよこの人。変質者だよ。どうする?警察に連絡するか?」
これまで黙りを決め込んでいたが、スキャン以前に看破できない事になり始めたので、とりあえずトゥアールへの脅しというか、警告の意味も含めて言ってみたが……。
「温いわよ空!こういうのは、一度きっちり締めてやらないと!」
「何を締める気だよお前は!?」
相変わらず喧嘩っ早い愛香を止める総二。んでもって……。
「とりあえず貰っとくよ。タダなんだし、これで良いだろ?」
総二が上手く折衷案を見つけたようだ。しかし愛香がそれで納得せず、トゥアールの方も貰うだけではなく、付けてとせがんでいる。にしてもホントに必死だよな二人とも。
なんて、のんきな事を考えていると……。
「世界から、ツインテールが消えてなくなってしまいます!」
「なっ!?どういう事だっっ!!!」
一瞬にしてツインテールバカが語気を強める。その隙をついて……。
「えいっ♪」
トゥアールがブレスレットを付けてしまった。
「「あっ」」
俺と総二が呆けた声が響く。
直後、愛香がブレスレットを外そうと、それはもう総二の腕が取れるんじゃないかってくらい強引に引っ張ってる。
「いででででっ!?おい空!助けてくれ!」
「空!ちょっと手を貸しなさい!この変なの外すから!」
「へいへい」
俺は頷きながら二人に近づき、ブレスレットを観察する。しかし……。
「う~ん。金具などの器具が見当たらないな。って言うかこれどうやって嵌めたんだ?材質は、金属かこれ?」
よく見ると、些かおかしなブレスレットだ。
「これ、俺達で外すのは無理じゃね?」
「そうか。なぁトゥアールさん。悪いけどこれ……」
と、次の瞬間、俺達は眩い光に包まれた。
「突然失礼しました。ですが、説明するよりこちらの方が早いと思いまして」
どこからか、トゥアールの声が聞こえる。そして次の瞬間、周囲に熱とむせ返る煙の臭いを感じて、俺は何回か瞬き、改めて周囲を見回した。
そこは、総二の家から車でも20分はかかるこの辺りでは大きな部類のコンベンションセンターの駐車場だった。だが周囲では、車が爆発し、炎と煙が発生している。
だが気になったのは、傍に居たトゥアールが呟いた、『迎え撃つ』という言葉だった。
「トゥアール。アンタ何をした?何を知ってる?迎え撃つって、どう言う意味だ?」
俺は、殆ど睨み付けるように、敵意と警戒を込めてトゥアールへと視線を送る。だがそんな視線にも彼女は動じていない。二人は、そんな俺とトゥアールへ交互に目をやっている。
「本来なら、総二様だけを連れてくるつもりでしたが、その答えをお教えします。あれです」
先ほどまでとは打って変わって真剣な表情をするトゥアール。そして彼女が指さす先では……。
「なっ!?何だよ、あれ!?」
驚き愕然とする総二。
「か、怪人?」
愛香もだ。驚き、若干体を震わせている。俺達の視線の先に居たのは、蜥蜴を人型に成長させたような、巨大な体躯を持ってその体を鎧で包んだかのような、分かりやすく言えば特撮とかに良く出てくる怪人のような見た目をした化け物だった。
しかし……。
「この世界の生きとし生ける全てのツインテールを、我らの手中に収めるのだぁぁぁっ!」
「「ぶぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」」
「……………………は?」
怪人の叫びで、シリアスな雰囲気は一気にぶっ壊された。二人は盛大に吹き出し、俺は呆けた声を出すことしか出来なかった。
「ちょっとそーじ、あんた着ぐるみ着て何やってんのよ」
「俺じゃねぇ!?」
「いやお前以外あんな事言いそうなの他に居ねぇだろ」
「ひどっ!?」
愛香と俺からの言葉に叫ぶ総二。
そうこうしている内に、怪物とその部下、と思われる全身真っ黒な戦闘員たちはどこからか、ツインテールの女の子を攫って来始めている。そして、その女の子の中には、恐怖から泣きじゃくる子も居た。
『空。お前の力は、その体は、誰かを守る力だ』
その時、俺の頭の中に、俺のこの『体』をくれた、死んだじいちゃんの、今際の際に俺へと残してくれた言葉が、一字一句間違うこと無く、再生される。
……奴らが何者なのかは、分からない。俺に何が出来るのかは、分からない。もしかしたら、負けるかもしれない。だが、やるしかねぇ。いざとなったら、『あれ』がある。
「……」
俺は無言で立ち上がり、歩きだそうとする。
「ちょっ!?空!?」
だがその手を、咄嗟に愛香が掴んだ。
「何してるの!危険でしょ!」
「……悪い、離してくれ。俺は行くよ」
「なっ!?何言ってるんだよ空!相手は車を簡単に吹っ飛ばすような化け物なんだぞ!」
驚きながらも、俺を制止する総二。
「そうですよ。取り繕った正義感では、死にますよ」
更にトゥアールまでもが俺を止める。
けど……。
「悪いな。他人にどう思われようと、俺は俺の道を行かせて貰う。心配してくれるのはありがたいが……」
そう言って、俺は前を見据える。そこには、あの怪物に見下ろされ震える女の子と、更には陽月学園生徒会長、『神堂慧理那』会長があの戦闘員に連れてこられていた。
「なっ!?会長!?」
神堂会長の姿に驚いたのか、愛香の手が一瞬緩む。その隙に、俺は駆け出した。
「あっ!?空っ!」
後ろで愛香と総二の叫びが聞こえる中、俺は振り返る事無く駆け出す。
そして、自分の中に封印されていた機能を再起動する。
『≪マギア・システム≫、第1リミッター、解放』
頭の中で念じるだけで、次の瞬間、俺の体に力が漲る。『ジェネレーター』と『人工筋肉』に搭載されていたリミッターが解除され、瞳は青く輝き、『センサー』としての役割を取り戻す。
そして俺は、陸上選手も真っ青な速度で大地を蹴る。
「え!?嘘!?空あんなに足早かったっけ!?」
リミッターを解放した事で強化された聴力が、愛香の驚く声を拾う。
だがそっちを気にしてる場合じゃない。
「ッッッッ!!!!!!」
叫べば、余計な注意を引く。そう考え、俺は歯を食いしばって思いっきり地面を蹴りつけ、跳躍した。
そして向かう先は、周囲を囲む戦闘員を超えた、女の子を見下ろすあの化け物。
「むっ!?何やつ!?」
俺の存在に気づいたのか、奴は俺の方を向くが……。
「ぐぉっ!?」
掛かった!太陽との位置関係を考えての跳躍だ!奴は太陽を直視し、一瞬とは言え隙が出来る!
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺は怪物目がけて落下しながら、右腕を横に伸ばし力を込める。
「食らぇぇぇぇぇっ!!!!」
俺は、渾身のラリアットを繰り出した。
「ぐふっ!?」
見事ラリアットは奴の首に命中し、全体重を掛けて奴の、その巨体を地面に倒す事に成功した。
俺は、その隙に傍に居て呆然としている女の子を抱きかかえた。
「逃げるよ!しっかり掴まって!」
「う、うんっ!」
短いやり取りをして、俺は駆け出す。駆け出した先に居たのは、会長とその会長を抑えている二人の戦闘員。
だが、突然俺が現れて突進してきた事に奴らは慌てる。
「モケッ!?」
何か変な声出してるが、気にせず行く!
「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は会長を押さえ込んでいる片方に渾身の跳び蹴りを見舞った。
「モケ~~~!?」
腹に蹴りを食らって吹き飛ぶ戦闘員。更に俺は、着地と同時に、もう一人の戦闘員の顎目がけて再度跳躍。頭突きを喰らわせてやった。
「モ、ケ」
顎を押さえて倒れ、のたうち回る戦闘員。
「あ、あなたは……」
助けた会長は、俺の顔と制服を交互に見て驚いている。しかしその時。
「ぬ、ぬぅっ!?逃がすな!」
後ろであの怪人が起き上がった!
「会長!この子をお願いします!」
「え!?」
俺は、抱っこしていた女の子を下ろして会長に任せると、近くにあった中破した車のボンネットを引きちぎった。
「す、凄い」
後ろで会長が呆然とする中、俺はそれを盾のように構える。
「後ろへ!その子と付いて来て下さい!」
「あ、はいっ!」
会長が頷くのを確認すると、俺は足腰に力を込め、再び大地を蹴る。
ボンネットを盾に、周囲を囲む戦闘員達目がけて突き進む。
「モケッ!?」
奴らの驚き困惑するような声が聞こえる。
「邪魔っ!!」
俺は速度を緩めず、そのまま突き進む。
「だぁぁっ!!!!!」
そして次の瞬間、奴らと俺が衝突し、何体もの戦闘員を跳ね飛ばしていく。その後に、会長が女の子を抱き上げながら続く。そして、俺たちは戦闘員の壁を突破した。
「抜けたっ!」
俺は足を止め振り返り、後ろに会長達を庇う。
「ぬぅっ!?おのれ人間め!者ども!行けっ!」
「「「「「モケ~~~!」」」」」
忌々しげにこちらを睨む怪物。向かってくる数百の戦闘員。それだけで足がすくみそうだ。だが……。
「会長!会長はその子を連れて建物の中に避難して下さい!」
「え!?でも、貴方は!?」
「囮つか、殿は必要でしょう、よっ!」
そう言って俺はボンネットを投げつける。投げつけられたボンネットは戦闘員数体を巻き込む。
「早く行け!」
「ッ!……ごめんなさいっ!」
俺の叫びに、会長は少しばかり悩んだ後、女の子の手を引いてかけ出した。
さて、と。目の前には数十体の戦闘員にその数十倍は強そうな化け物。……だけど……。
「来いよおらぁっ!」
俺は、近くにあった、同じく中破している車のバンパーを引きちぎってブンブンと振り回す。その勢いに、戦闘員たちが若干ではあるが、腰が退けている。
「えぇい!何をしている!こんな小僧に!」
だが、その戦闘員達をかき分け奴が前に出てきた。正直、『今の』俺じゃこいつに勝てる気がしねぇが、やるしか、ねぇ!
「おらぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は振り上げたバンパーを、奴の脳天目がけて振り下ろす。
だが……。
『バキッ!』
「ふんっ!脆い!余りにも脆い!」
バンパーは奴の拳一つで半ばからへし折られた。
「ッ!?」
その事に驚き、一瞬対応が遅れた、その時。
「はぁッ!」
「がっ!?」
奴のデカい右腕が、俺の首を掴んだ。
「うっ、ぐっ!?く、そ……」
「ふははははっ!捕まえたぞ小僧!」
俺は何とか脱出しようとするが、こいつのパワー、半端じゃねぇ!
「愚かなり小童。その程度の力で、我に挑むとは、一体どう言う了見だ?」
理由か?理由が知りてぇのか?だったら……。
「了見だぁ?んなのどうだって良いだろ。男なら、泣いてる誰かを守る為に、死力を尽くすってもんだろ。そいつが、俺の、選んだ生き方だ」
「ふっ。成程。……自らより弱き者を守るため、か。武人としてはあっぱれ、と言うべきだろうが、貴様もまた弱者に過ぎぬわ!」
「ぐっ!?う、うっ」
必死に抵抗するが、こいつのパワーの前には、俺の常人の数倍程度の腕力じゃ、どうしようもない。
「安心せよ。殺しはしない。……だが、邪魔されぬように、寝ておれ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間、奴は俺をぶん投げた。
向かっていく先は、奇しくもトゥアールの力で隠れて事の次第を見守っていた総二達の傍だった。
『ガシャァァァァァンッ!』
総二達の傍の車の屋根に叩き付けられる俺。
俺が落下した事で、車はぺしゃんこだ。……クソ。ダメか。俺は静かに目を閉じ、内部の状況を確認する。が、目立ったダメージは無し。流石はじいちゃんのくれたボディだ。とか思ってると……。
「空ッ!おい空っ!」
そこへ、トゥアール、愛香と共に駆け寄ってくる総二。
「空っ!おい、空っ!返事しろよ!おい!」
「ま、まさか……。空……」
まるで俺が死んだ、みたいな感じになってる二人。
「おいおい。勝手に殺すなよ」
そう言って、俺はムクッと起き上がった。
「ッ!?空ッ?!生きてたのか!」
「だから勝手に殺すなっての。この通り、ピンピンしてるよ」
「ほ、ホントに大丈夫なのか?」
「だから言ってるだろ?この通りピンピンしてるっての」
と、言ってみてが……。
「この通りギンギンになってる!?」
何を勘違いしたのかそう叫ぶトゥアール。
「お前は何を勘違いしとんじゃぁ!」
セクハラ発言のトゥアールの顎に掌底による打撃を繰り出す愛香。
……そうだった。この女は残念美人だった。そんな事を考えながら、俺はめり込んだ車から這い出て3人の隣に立つ。
「くそ。あの蜥蜴野郎。言ってる事は総二並みだがパワーは凄まじいな。まるで重機を相手にしてるみてぇだった」
「そうだなって何だと!?」
頷き掛けた総二が俺に向かって声を荒らげる。
「あんな蜥蜴野郎と一緒にするなよ!?」
「いやぁすまんすまん。アイツの言ってる事が暴走したお前に似てるな~って思ってよ」
「確かに似てるわね」
「どこが似てるんだよ!」
「「ツインテールの事ばっか考えるところ」」
「ぐ、ぐぅ」
俺と愛香の言葉に呻く総二。
だが……。
「ん?奴ら、何を……」
俺が気づいた時、奴らは捕らえていた少女達を何か、シャボン球のような虹色の膜を張った鋼鉄のリングに潜らせ始めた。
すると、そのリングを潜った子たちの髪、正確にはツインテールが瞬く間にほどけてしまった。
「なっ!?」
その光景に息を呑む総二。
「あいつら、何してんだ?」
対して、俺はただ首をかしげるだけだった。すると、横に居た総二はトゥアールに詰め寄る。
「そんな大袈裟な。ツインテールじゃなくなる以外、どこも怪我してないみたいよ?」
「大袈裟、だと……!?」
するとこのバカは、何をとち狂ったのか愛香の胸ぐらを掴み上げた。
「何してんだよバカッ!」
俺は咄嗟に総二の腕を払い、二人の間に割り込んで愛香を庇う。
「たかが髪型一つで何怒り狂ってんだよ!大袈裟過ぎるぞ!」
「何だと!?」
一色触発。俺と総二は互いに睨み合う。
「ツインテールはそんな簡単に捨てて良いもんじゃねぇんだよ!」
「そう思ってるのはお前だけだよ!バカか!」
「何だと!?」
「ちょっ!二人とも、あんまり大きい声を出すと気づかれちゃうよ……!」
その時、後ろから聞こえた声に俺達は冷静さを取り戻した。トゥアールが何かしているおかげで今だ気づかれていないが、どうやらこれは完全ではないらしい。
「わ、悪い」
「……すまん」
俺と総二は短く謝る。
しかし……。第1リミッターを外した程度じゃ、奴らには敵わない。って事は……。
「ハァ、やるしかねぇか」
そう言うと、俺は服の下に隠していた、『ある物』を取り出す。
「空?」
「どの道、あの人達をこのままにしておく訳には行かねぇだろ」
「なっ!?無茶よ空!アンタさっき投げ飛ばされてたじゃない!」
「そうです!貴方はいくらか強いようですが、 それでも奴らには敵いません!この場において、奴らに勝てるのは変身した総二様だけです!」
「え!?変身!?俺が!?」
俺の事を止める愛香とトゥアール。更にトゥアールの言葉に驚く総二。
「確かに、今のままじゃ勝てねぇ。けど……。言っただろ?俺は、俺の道を行くだけだって」
そう言って、俺はある物、『ゼツメライザー』を腹に当てる。
次の瞬間、たくさんの針を持つベルトが現れ、俺の体に食い込むようにしてベルトを固定する。
「ぐっ!?やっぱ、痛ぇな、これ。痛覚システム、切っとけばよかった」
針が体に食い込む痛みに、歯を食いしばる。制服が、溢れ出た『人工血液』で真っ赤に染まっていく。
「な、何やってんだよ空!っていうか!今のって……!」
後ろでは、トゥアールも、総二も、愛香も、皆驚いた表情を浮かべていた。
「……。悪いな、総二、愛香。俺、お前達に今まで、隠し事をしてた」
「え?」
総二の呆けた声が聞こえる中、俺はポケットから第2のリミッターを解除するキーとなる、『ゼツメライズキー』を取り出す。
これを使ったら、もう後戻りは出来ない。総二たちは、これを使った俺の姿を見て、どうするだろうか?怯える?恐れる?罵倒する?……ありえるかもしれない。……でも、やるしかねぇ!
「俺、生身の人間じゃないんだ」
「そ、空?あんた、何言って……」
戸惑う愛香の声に、表情を引き締めつつ、俺は前を向く。
「まぁ、見ててくれ」
そう言って、俺はゼツメライズキー、『ドードーゼツメライズキー』の起動スイッチを押し込む。
『ドードー!』
「……アップグレード」
ゼツメライズキーから電子音声が響き渡り、更にぽつりと俺は呟く。そして右側スロットからゼツメライザーにゼツメライズキー装填。左側のスイッチを左手で叩く。
『ゼツメライズ!』
電子音声と共に、ベルトから生えたコードがゼツメライズキーを貫き、同時に俺の体に掛けられていた、第2リミッターが解除される。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
俺が雄叫びを上げるのと同時に、俺の体を覆っていた、『人工皮膚』が服と共に全て焼け落ちる。そして露わになる、白と黒の、鉄のボディ。
だがそれも一瞬だった。更に俺の顔を覆っていたパーツがスライドして外れ、その下から現れた髑髏のような顔が現れ口を開く。するとそこから生え出てきた触手が、俺の体に突き刺さり、同時に周囲にDNAの二重螺旋のようなエフェクトが発生する。
そして触手が引っ込みエフェクトが消えると、ゼツメライザーとゼツメライズキーの力で変異した、俺の体が露わになった。
一番に目を引くのは、ドードーのような頭。次に目を引くのは、赤い装甲に覆われた両足。つま先にはツメのようなパーツもある。対して胴体や腕などには余り差異は見られない。
そんな俺、『ドードーマギア』を総二達がぽか~んとした表情で見ている。
「……これが俺さ」
俺は、振り返る事無くそれだけ呟く。
「っしゃぁ!」
俺は肩を回しパンッと手を打ち付け合うと駆け出した。
「モケ?」
俺に気づいたのか、戦闘員が数人こちらを向く。ちょうど良い!ぶっつけ本番!行くぜっ!
「っしゃぁっ!」
俺は戦闘員の一人の頭目がけて、ボレーキックをたたき込んだ。すると戦闘員の首から、鳴っちゃいけない音が聞こえたのと同時に首が2、3周回ってから倒れ、そして戦闘員は泡になって消滅した。っし!行ける!少なくとも、こいつらなら倒せる!
「今度は何だっ!?」
あの蜥蜴が俺に気づくが、俺はそれを無視して別の戦闘員の腹に蹴りをたたき込む。そして、怯んだそいつの胴体を掴んで持ち上げ、囚われている女の子達の傍に居た戦闘員目がけて投げつけた。
ドカァンッという音と共に、戦闘員数名が巻き込まれる。その隙に俺は女の子たちの方に駆け寄る。
「もういっちょぉ!」
倒れている戦闘員の足を掴んでブンブンぶん回してから、彼女達を包囲している戦闘員の壁目がけて投げつけた。
「モケ~~~!?」
加速を付けて投げ飛ばされた戦闘員によって、ボーリングのピンよろしく吹っ飛ぶ戦闘員達。
「早くッ!あそこから逃げて!」
「ひっ!?」
俺は女の子達に声を掛けるが、怯えられた。その事実に一瞬、やるせなさを覚える。
いや、分かっていた事だ!今更後悔するなっ!
「あそこから逃げろ!早く!」
そう言って、俺は包囲の壁に空いた穴を指さす。すると女の子達はもつれる足でそちらに駆け出す。
「逃がすなっ!捕らえろ!」
「「「「「モケ~~~!」」」」」
蜥蜴野郎の指示を受け、戦闘員たちが大群で女の子達を追う。包囲の壁も、すぐさま閉じようとしていた。
「させるとっ!」
だが俺は、近くにあった車のボンネットを引きちぎって跳躍。
「思うかぁっ!」
包囲の壁を完成させようとしていた戦闘員たち目がけてボンネットを投げつけた。
さっきまでの第1リミッターを解除した時とは違う。砲弾並みの速度で打ち出されたボンネットが戦闘員達を弾き飛ばす。再びこじ開けられた穴から、女の子達が逃げる。それを追おうとする戦闘員と蜥蜴野郎。だけど……。
「行かせると思うか?」
その前に俺が着地し、進路を塞ぐ。
「えぇい!先ほどの男と言い!今度は貴様と言い!だがその姿、貴様!まさか同胞ではあるまいな!?」
同胞?こんな変態の同胞だって?
「はっ!違うね!それに、こっちだってテメェみたいな変態の同胞なんか願い下げなんだよぉ!」
そう叫び、俺は駆け出した。そして俺はこいつらと戦い始めた。
一方その頃、総二たちは呆然としたままマギカ化した空の戦いぶりを見つめていた。
「うそ、だろ。あれが空なのか?」
「ちょっとっ!アンタ、空に何かしたんじゃないでしょうね!?」
驚く総二と、トゥアールに詰め寄る愛香。
「私じゃないですよ!そもそも私は奴らと戦う戦士として総二様を見つけたんです!愛香さんと空さんは偶々付いて来ただけです!空さんに関しては本当に私ノータッチですよ!?」
グルルルッと獣みたいな表情で詰め寄る愛香と冷や汗を流しながら必死に弁解するトゥアール。
そんな中で……。
「なぁ、さっきから話に出てたけど、変身とか戦士とかって、それはつまり、俺が空みたいに変身して奴らと戦え、って事だろ?」
「えぇ、その通りです」
真剣な総二の表情に、トゥアールも表情を引き締めている。
「……俺なら、ツインテールを守れるのか?」
「はい。そして、総二様のそのツインテールを思う心があるからこそ、そのブレスレットで変身出来るのです」
と、そんな二人のやり取りに愛香は、『何でそこでツインテールなのよぉ』と二人の傍で頭を抱えていた。
「そうか。なら、俺はあいつらをぶちのめせるんだな?」
「はい」
「ッ!そーじ本気なの!?さっきの見てたでしょ!?相手は車を片手で弾き飛ばすような奴らなのよ!?仮に空みたいになれたとしても、戦えるか分かんないのよ!?」
「分かってる。愚かかもしれない。危険かもしれない。それでも、ツインテールを弄ぶ彼奴らだけは許せないんだ!」
「ならば、強く思って下さい。変身したい、と」
「あぁ!分かった!」
総二は、胸の前に右手を翳し、変身したいと強く願った。そして、次の瞬間彼はブレスレットから発せられた光に包まれ、『変身』を果たした。
その頃、空、いや、ドードーマギアは戦闘員達を相手に善戦していた。迫り来る戦闘員達を、強化された脚力を駆使して戦っていた。
護身用に格闘プログラムをインストールしといて良かったぜ。おかげで、何とかこの人数を相手にしても捌ききれている。とは言え……。
「数がっ!多すぎる、だろっ!」
手近な戦闘員を蹴飛ばしたと思えば、別のが殴りかかってきたので、それを腕で弾いて回し蹴りをたたき込む。
さっきからこいつらの相手をしっぱなしだ。まだあの蜥蜴だって居るってのに!こっちだってエネルギーって物があるんだ。脳以外の全てが『機械』である俺は、言わば『サイボーグ』だ。そして、戦闘プログラムであるマギア・システムは、生命維持の観点から、内部のバッテリー残量が15%になると、強制的にシステムダウンがされ、つまり俺は戦えなくなる。
必殺技もあるにはあるが、何発も使える物じゃない。クソッ!何とかして、あの蜥蜴野郎を倒さないと!
そう、考え一旦距離を取った時。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「えっ!?」
「何だっ!?」
不意に、どこからか第3者の声が聞こえ、俺と蜥蜴野郎、戦闘員たちはそちらに目を向けた。
かと思うと、何かが高速でこっちに向かって来て、地面のアスファルトを削りながら減速し、ちょうど俺と奴らの間に停止した。
俺の前に停止したそれは、『少女』だった。いや、体躯の大きさからして、『幼女』でも通じるかもしれない。それが、まるで特撮ヒーローのようなメカニカルなボディスーツを身に纏い、炎のように真っ赤なツインテールをしている。一瞬、あのツインテールバカでなくてもこれは見とれるなぁ、などと場違いな考えが浮かんだ。
とか思って居ると、その幼女が俺の方に振り返った。
「空!俺だ!総二だ!一緒に戦うぞ!」
「…………………は?」
その時、俺は幼女の言って居る事が理解出来なかった。
「トゥアールに貰ったブレスレットで変身したんだ!イマジン、なんとかのせいで分からないらしいけど!俺は総二なんだ!だから一緒に戦ってくれ!空!」
「は、はぁ!?」
俺は幼女の言葉に声を荒らげる。
だってそうだろ?いきなり現れた幼女が野郎な幼馴染みだって主張し出したら、普通混乱するだろ!?
「お、お前が!?あぁいや君が総二!?君は俺の知ってる総二じゃない!からかってるのか!?」
「違うって!認識がどうのとかトゥアールが言ってたけど、俺は正真正銘総二なんだって!」
「アホか!?俺の幼馴染みは君みたいな『幼女』じゃないぞ!」
「……………。はい?」
俺の言葉に、幼女はしばし間を置いてから首をかしげた。そして、彼女はギギギと擬音がしそうな動きで近くの車の窓ガラスに目を向ける。
「お……お」
すると、女の子は何やら混乱した様子で『お』としか言わなくなる。そして……。
「女になってるじゃねーかぁぁぁぁぁぁ!!!」
何か良く分からない事を叫んでいるのだった。
この時の俺は、ただ困惑するだけで状況が良く分からなかった。だから分かるはずがない。自分が今後、この少女と共に戦うなんて事が。
第1話 END
仮面ライダーに関しては後々登場予定です。お楽しみに。
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