柿崎隊A級化計画   作:札幌ポテト

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10話 サイドエフェクト

新シーズンのランク戦が始まってから、時間は経った。それこそ試合の半分以上を消化しており、様々なイベントも起きていた。特に新チームの勢いは凄まじく、潰しあっていた影響はあったが上位に食い込み始めた。仮に潰しあっていなければラウンド4には上位を独占していたかもしれない、それだけの力と勢いのある3チームなのだ。

 

しかし、一位はそれを迎え撃たなければならない。

 

「まさに破竹と言っても良い展開です、柿崎隊。ラウンド6にて遂に1位を確保、上位でも安定した力を発揮しています」

 

「まさかここまで上がってくるとは、脱帽ですね」

 

柿崎隊はB級チームの中で1番ポイントを獲得できている、中位から始まったという点を踏まえてもその力は恐ろしいほどにハマっていた。新戦術シールド特化役を置いた4人、もしくは2人でのフォーメーションが上位陣に刺さっていたのである。

 

今迄は照屋は上位で通用する隊員であったが、他3人がそのサポートをする事で中位に食い込めていた。しかし上位のサポート力や連携力に劣っていたゆえに前シーズンでは中位止まりの結果となった。

 

しかしサポート陣が強くなるのではなく、照屋をもっと強くするという戦術に切り替えた事で状況は一変、特にほぼ情報収集以外行えず支援狙撃も出来なかった入間が戦力として機能した事が最大の要因だろう。

 

「ただ上位に来てから安定して生き残れては居ますが、あまり撃破でのポイントが取れてはいません。追い詰めてはいますが、取りきれていない事が彼らの課題でしょう」

 

しかし照屋1人に火力が左右されやすいので彼女の調子によってチームの調子も変わる、現にポイント取得率のおよそ80%が照屋の絡んだポイントだ。典型的なワンマンチームになっている。

 

「ただ生存力という点において照屋隊員と入間隊員は素晴らしいですね、殆どの試合を他チームに囲まれても突破できる力もありますが……入間隊員に至ってはまだ撃破された事がありません」

 

しかし、このチームにおいてもっと貢献度が高いのは生存ポイントだ。殆どの試合において全員が生存しており、完全敗北を一度としてしていない。

 

囲まれた時も入間と照屋の2人がシールドを張った上で何人か落とし、突破する状況が数回あった。それだけ両者の連携力も素晴らしいという事だが、その生存力を支えるのは彼ら個々の力だけとは言えない。

 

柿崎の指揮により大まかな方向性、そして支援がある事で突破できているのだ。断じて彼らだけの力ではない、しかし彼らの力の大きさも当然ある。

 

「何故ここまで刺さっているのでしょうか、次に当たる事にもなりますが東隊員はどうお考えでしょう」

 

ここでもう1人の解説役、そして現在B級4位にまで押し上げた東隊の隊長に質問が向かう。今は新チームとそのメンバーへの指導のために絶対的なオーダーを行わないが、東は指揮役である。B級の上位チームを理解しているはずだ、それ故にどのような仕組みかも理解している。

 

「やはり入間隊員のトリオン量があるからこそ成り立っている戦術ですね、二宮隊員程ではありませんが平均以上のモノを持っています。だからこそ以前の荒船隊との試合では2方向からの狙撃を防ぎながら照屋隊員の荒船隊長との戦いをサポートしています」

 

シールド、そしてシュータートリガーは大きくトリオン量に依存する。トリガーを持続するのに他トリガーがリソースを使う中で、それらは火力や防御力にリソースが吐かれているからだ。

 

故にシールド特化戦術は誰でもできる戦術ではないが、それ以外にも理由はある。

 

「そして、断言できますが……ボーダーで誰よりもシールドの使い方が上手いです」

 

「シールドの使い方、ですか?」

 

それが、彼にとって唯一無二と言っても良い技能だからだ。

 

「シールドは基本的に広く展開して攻撃を防ぎますが、効率的な話で言えばピンポイントでシールドの厚みをもたせれば破られる事はありませんからね。ただそうしないのは当然、隙ができるからです」

 

シールドは全身を覆うように展開すれば厚みがなくなり割れやすい、対して特化させれば手のひらサイズでスナイパーの弾を受けても割れないだろう。無論個人差はある、しかしそんな特化で防御が出来るならば皆している。

 

「仮にピンポイントでシールドを張る事が出来たとしても、シューターなら軌道を変えて当てる事が容易です。更に言えばスナイパーの狙撃は少しでもズレてしまえば致命傷となります」

 

リスクに対するリターンが基本的には釣り合わないのだ。ゆえに誰もやらない、致命傷を避けるように展開したりとシールドをその場凌ぎの防御として使う者が多く、それが基本的な運用だ。誰でも使うトリガー故に誰でも理解しており、その使い方は似通ってくる。

 

だからこそ、異常なのが分かるのだ。

 

入間のやっている事は、その特化させた理論値の防御を展開し続ける事なのだから。

 

「要するに、それらの課題をクリアしてしまえている事が彼の強みです。そしてそれに信頼を置いて突撃出来る事がこのチーム戦術としての強みです」

 

そしてそんな理論値に任せて戦えるのだから、弱いわけがないのだ。

 

「では攻略は不可能、という事でしょうか」

 

「現状出来たチームは居ませんが……どんな戦術にも、必ず穴はあります」

 

しかし、完璧な戦術というのは存在しない。どこかに隙間が出来るし、どこかに苦手とする視点が存在する。そしてそれをいかに誤魔化すかは、指揮官の手腕で決まる。

 

「次回は東隊、影浦隊、三輪隊でのぶつかり合いです。全チームにA級クラスのエースを持つ激しい攻防が予想されます、お楽しみに!」

 

「……と、いう事だ。今まで騙しててすまなかったな」

 

入間は隊室にて、チームメンバー全員に打ち明けていた。少なからず負い目もあるのか珍しく表情は優れない、ただ打ち明けられた事でスッキリした様子でもある。

 

すぐにいつもの調子に戻れるだろう、そしてそんな彼を見て。

 

「いやまぁ、分かってましたね」

 

「察しはついてましたし」

 

今更かよという顔をしながらアッサリとしていた。

 

「え、結構私の衝撃的事実話したんだけど!?」

 

「いや、あの動き絶対スナイパーのモノじゃないですから」

 

「まぁ……流石に気付きますよ?アイビス担いであの動きは」

 

彼の事について、元から柿崎は知ってはいた。しかしそれはボーダーに入ってからの付き合いがあった故に隠せなかったのだ、なので入間は隠せていると思っていたのだろう。

 

「そっか……なら私のサイドエフェクト、半径200m以内のトリオンの動きを把握する力も見抜かれてるかぁ」

 

「なんですかそれ!?」

 

「え?」

 

だからこそ、変なことも口走った。

 

「私みたいな学(歴)がない奴が研究室行きまくってるの、大体これが理由だし。スナイパーにしてもかなり報告が正確だったと思うし、てっきり気付かれてるかと」

 

「そんなの気付きませんよ?」

 

入間の能力はボーダーにとって唯一無二のものである。トリオンの感知という分かりやすく汎用性の高い能力であり、その存在はボーダーにおいて、特に研究面において重宝されている。

 

学校に行かずとも程々に忙しいのはそういった背景もあるのだ。

 

「どこまでわかるんですか?」

 

「射撃戦なら飛んでくる弾種、速度、大きさ、トリオン量は分かるな。迅の奴には流石に劣るけど、狙撃もアイビスなら避けれる」

 

そしてその重宝される最大の理由はその精度にある。範囲内に人やトリオン兵が入ればそのトリオン量が把握できるし、その位置や距離も把握できる。

 

シューターの弾丸が飛んできても合成弾であるのかも、どこからどの角度で飛んでくるのかも、その数と割った弾の形すら見なくても分かるのだ。戦闘面において、絶対的な恩恵も得られている。

 

そして研究面ではネイバーから持ち帰られたトリガーの解析、新型トリガーの試作や検品、ありとあらゆる場面で仕事が行える。未来が見える迅ほどではないが、ボーダーにとって価値のある存在なのだ。

 

「弱点は?」

 

「バッグワーム使われてると分からなくなる、まぁボヤかされてるって感じだからいる方向ぐらいは分かるけど。ちなみに初期の頃は頭がパンクしまくってたんだぞ?今は太刀川やら迅やら月見やら東さんやらのおかげで慣れたけど」

 

そして、それらしい弱点もない。いや克服しているのだ。考え続けて体を動かし続ければ、いずれ体が思考という手順を踏まずに動いてくれる。だがそこまでの修練は並大抵の努力で叶わない、彼が手先など不器用である反面でトリガーに対して器用だったのも幸いだったのだ。

 

「なら、このシールド戦術は……物凄く刺さります。凄いです隊長、ちゃんと5人チームとして戦えますよ!」

 

「私も悪かったとは思うけど、凄く棘を感じる」

 

だからこそ、ここでΑ級に上がるための策が刺さるのだ。

 

「あと、喜んでるところ悪いがこのシールド戦術……多分途中から通用しないぞ」

 

しかし、世の中に万能の戦術こそあれど全能の戦術は存在しない。

 

「え?もしかしてシールドめちゃくちゃ下手とか」

 

「私以上に使える奴マジでいないからな?」

 

多少なりとも誤魔化せるし、隙の幅を大きく減らせる技量はある。しかしその弱点を付ける条件を持ち、その知恵を考えられる存在がいればその限りではないのだ。

 

「東隊、あと二宮隊には確実にぶち抜かれる」

 

絶対的なチームが、B級にいる。3位の二宮隊と4位の東隊にだけはこの戦術が通用しないと見ている。彼らが入間の特性と技能を把握しているというのもあるが、攻略できるだけの力を持つ者達だからだ。

 

他の部隊でも、どこまで通じていくかは断言できない。

 

「そっちも考えはある、ただぶつかるか攻略されるまでは基本この戦術で行く」

 

そして柿崎もその考えには至っているようだ。

 

「ところで入間さん、私の動きに合わせられますか?」

 

「当たり前だ、私は後3回の変身を残しているんだぞ?」

 

「冗談に聞こえないんでやめてもらえませんか」

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