柿崎隊A級化計画 作:札幌ポテト
「東さん、知ってたんですか!?」
「弟子だからな、そうでなくてもアイビスの動きを見ればある程度察せる」
試合後、結果と敗北して東隊の反省会は始まる。今回の場合は対策をしたにも関わらず、その上で圧倒されてしまったので、反省できる点はあまり多くはない。
「ただシールド戦術は完全に対応してたし、狙撃の誘導も悪くなかったぞ。今回は戦術に対する柔軟性が足りなかったな」
しかし、強いて言えば敵の戦略に対しての立ち回りがまだ精錬されていない。敵の手を潰して圧倒していった過去のチームと違い、攻略出来る準備をしていなかったゆえに、押し潰された。
それだけ、火力を押し付けられたという事でもある。
「でも強いですって、個人ランクで会ったこともないのに…」
しかし、事前情報で読み切るにも判断材料が少ない。試合の映像だけでは感じ取れないものもある。それに戦い慣れていた、それだけの経験値がどこからやってきたかも不明だ。
「あいつはいつも太刀川や風間、それに迅と斬り合ってるからな」
「迅さんとって、ブラックトリガーですよ?」
「あぁ、勝てる気がしないってボヤいてた」
だが個人ランク戦に出ていないというのが大きい、あそこまでやれると予期できる人間もいないだろう。
「うーん、じゃあ何で今になってアタッカー解放したんだ……?」
しかしそうなると、なぜ今更という疑問も出てくる。シールド戦術は火力役を防御役にする、効率の悪い戦術だ。照屋に前を張らせるよりも、役が逆になった方が良い。仮にシールドの技量が足りていなくとも、そこは2人を盾役にすれば問題もないだろう。
それだけ、入間の力は頭が抜けていた。
「チーム練度じゃない?」
だがその答えは、推測ではあるが正しそうだ。
「あの動き、カバーも相当気を張らなきゃ誤射が出るわ。チームの動きと噛み合わないから封印してたのもあると思う」
入間の動きに慣れろと言われても、誰もすぐには慣れることは出来ない、それだけ無茶苦茶な動きなのだ。しかし照屋の方は普遍的でありながらも精錬されているので、合わせやすいというものだ。
そして、それは正しいだろう。
「それと機動力、虎太郎君が8で入間さんが9。照屋さんも最近になって8になってるし、隊長以外が高いからこの3人でしかまだ練習してないのかもしれないわね」
「これからはシールド戦術がサブオプションになるとして、メインは前衛2枚体制の攻撃型のチームになるのか。やり合いづらいなぁ」
チームとしての力が大きくなっている。
「一つの敗北を気にかけすぎるなよ。気負わずに切り替えていけ」
☆
「それじゃあ、二宮隊の対策だな」
辛くも勝利を収めた柿崎隊、単独一位で最終戦を控えている。もはやB級ではその連携にかなう相手はいない、問題なくA級への挑戦権を得られるだろう。
「前の試合はすまなかった、皆の頑張りがなければ1位は守れていなかった。ありがとう」
「10ポイント取って2位に上がった二宮達がおかしいんだよ、気にすんな」
「そうですよ、隊長の頑張りの貯金は入間さんの100倍以上あるんですから」
「え、私の頑張りって評価されてない?」
「あー、もうわかった。早く対策するぞ!」
しかし、一位で終われるかは話が違う。最大の敵にして脅威、No.1シューターが率いる最強の部隊、二宮隊がいるからだ。
B級上位であっても、圧倒的な力で粉砕している。それだけの火力を持つ部隊だ。
「シールド戦術はどうですか、辻さんなら相手出来ますし」
「無理」
故に挑むなら守りの一手にしてチームの要、シールド戦術であるが議論の余地も残さずにその戦術の要が否定する。
「二宮のトリオン量相手には勝てない、圧殺されて終わる。ある意味単純故に強過ぎる代表だならな。それにスナイパー、鳩原なら出した瞬間の盾も割ってくる。エスクードもコスパが悪いしな」
二宮隊の強さ、それは圧倒的なまでの個の強さがある。連携が拙いというわけではないが、個として皆秀でている。中でもスナイパーとシューターは最強であり、シールド戦術が最も得意とする中距離での支援が不可能に近い。
「なら、殴り合いですか?アタッカーなら近づければ」
となれば、他の戦術でいくしかないだろう。幸いな事に二宮隊は近接能力の高いチームではないので、近づければ有利に立ち回れる。唯一の孤月使いである辻も、入間も照屋ならば対応ができる。
「言っとくが二宮と私が殴り合う策もやめた方がいいぞ、あいつも私の師匠だからサイドエフェクトも知ってる。タイマンだとシューターしかした事ないけど、一度として勝ててないしな」
「シューターも出来るんですか」
「出水や二宮と比べられたら劣るけどなー、いやまぁあの2人が天才過ぎるのもあるけど」
しかし、それもまた断っていく。
「太刀川さんには勝てるんですよね、アタッカーで行くのは?」
「アタッカーは読み合いと練度で勝負が決まる、トリオン量の影響が少ない殴り合いだしな。だから練度で負けても、私の場合は読み合いで勝てるから良い勝負は出来るんだが……二宮は近づく前に削られる。シールドの練習も元はと言えば二宮に勝つ為に練習したんだがなぁ……二宮と誰かが居たら確実に勝てない」
二宮のシューターとしての練度は高い。その二宮ならば機動力に自信のある入間と言えど、正面からの殴り合いではシールドを破られ被弾、機動力が無くなり分が悪くなる。昨今、シールドの強化について色々な取り組みがされているので改善がされ、機動力を全開にすれば肩を並べる事は出来るかもしれないが、逆がうまく行くわけでもない。
トリオン量最大の二宮のシールドは誰よりも硬いのだ、アイビスですら一枚しか突破は出来ない。攻撃力と防御力においては、B級最強と言っても過言ではない。
故に、二宮の攻略は鍵となると同時に最大の壁となるのだが。
「その上でワガママ言ったら、怒る?」
☆
「柿崎さん、本当にそれで行くんですか」
照屋は恐る恐るといった様子で聞く、そんな策で大丈夫なのかと心配しているのだ。しかし普段はそんな事は言わない、柿崎に対する信用があるからだ。
ただ今回に限っては照屋だけでなく、他の面々の顔色も悪い。
「あぁ、2位以上が確定はしてるってのはあるが…入間を信じてる」
しかし力強く、答える。A級への挑戦、思い残す事なく行くためにも頭の中で勝機を見出せているのだろう。入間の言った突拍子のない案を作戦にまで昇華させるのが、彼の仕事でもある。
そしてそんな様子を見て、入間も思うところがある。
「ザキ……なら、その右手は?」
振り上げた拳をそのまま静止させ、思いとどまろうとしているのか震えているのだ、顔色が悪いとは言ったがそれは入間を除いた全員であり柿崎も例に漏れない。全身から『こんなので行くのか?』という葛藤が伝わってくる。
「ザキ、私達って結構な付き合いだよな!?信頼してくれてるんだよな!?」
「いやー、流石にそんな事するとはなぁ……」
「対二宮とかで準備してたとっておきなんだぞ?私ってそんな信用ないか!?」
「前科が多いからなぁ……」
思わず泣きついてくる入間に柿崎は目を合わせない。諦めの境地にいるようだ、入間という存在を抱えた代償とでも思っていそうである。
「分かりました。弓場隊と二宮隊、どっちも倒して堂々とA級にいきましょう」
そして吹っ切れたのか、照屋は柿崎の信頼の方が勝ったようである。柿崎も覚悟は決まっているので、入間の策を主軸に二宮隊と戦う事になるようだ。
「それで……シールド戦術が無くなるわけですけど、その代用はどうしますか。弓場隊も脅威にはかわりありませんし」
しかし弓場達は優しくない、シールド戦術と火力の押し付けで今までは勝てていたが、今回はその防御の要が存在しない。更に射撃戦だけで比べれば勝てるかどうかは怪しいものだ、それだけ個としてもチームとしても優秀なのだ。
「照屋、お前にしか出来ない仕事がある」
「嫌な予感がするんですけど」