柿崎隊A級化計画 作:札幌ポテト
玉狛支部、旧ボーダー本部でもあるここは『ネイバーと仲良くしていく』というかなり異端な存在であり、本部の人間からは微妙な立ち位置にいる支部だ。しかし、隊員同士が毛嫌いし合う事はそこまではない。
むしろ、精鋭が集まるここを畏怖している。
「今日は終わりね、来週は防衛任務あるから夜に来なさいよ」
「は、はい……ありがとうございました」
そして、照屋はそこに在籍するとある人物に一年以上師事している。
名を小南桐絵、アタッカーランキングでは3位の実力者だ。しかもその個人でのポイントは一時期に1位まで駆け上がった時のポイントから変動はしておらず、自身は自分を最強と言うだけの根拠がある。
事実、防衛任務では数少ない単独での防衛を許されている隊員の1人でもある。そんな彼女に週一回の頻度で1日訓練、という名の試合を延々と続けている。
その戦績はとてつもなく、3000回以上負けて勝てたのは7回だけであり、それも最近になって勝ち星が上がり始めたのだ。
これに関しては感覚派の彼女を師事するというのが難しく、それを頭の中で言語化する照屋には中々に時間のかかるからという事でもあったが、単純に彼女が強過ぎるのである。
だからこそ、彼女の力は飛躍的に上昇できたのであるが。
「昇格決まってるんでしょ、おめでとう」
「小南先輩、ありがとうございます」
そして、同じ学校の先輩後輩という関係でもある。中等部と高等部という関係ではあるが、少なからず可愛がられている。
「文香はそのうちΑ級でも太刀川とか除いてタイマン8割勝てるぐらいにはなれるわよ、私が保証してあげる。だから最後の試合も頑張りなさい」
「はい!」
そして次の試合がこの一年以上かけて積み上げた鍛錬の集大成でもある。そういう役回りを可能は受けている、彼女自身胸を張ってA級隊員にはなれるが、胸を張って柿崎を支え切ると言う為の試合なのだ。
「あ、そう言えば。どうして入間さんからこの話を請け負ったんですか」
だがふと、今迄あまり気にしたことのない事が頭の中に浮かんでくる。いや気にして然るべきものではあるのだが、小南を師事する前からあまりに課題があり、考える頭を注ぎ込んできたので気にできなかったというのが正しい。
最初こそは入間の謎の人脈の力と勝手に納得させてはいるが、小南はそれで動く人間ではない。それこそ玉狛の林藤支部長の命令か相応の対価でもなければ動きたくないはずだ。
「あいつ……私がガムを飲んで病院に行った時の写真を持ってるのよ」
「え?」
が、すぐに嫌な予感を感じとる。
「牛タンにかけるレモンの搾り方は握り潰すものって言ってさせた写真もあるし、本を逆さにして読むと頭が良くなるって言ってちょっと試してた時の写真もあるし、あぁ思い出したらムカついてきたわ!『お嬢様学校でこのワイルドな小南を広めたくなければ言うことを聞いてもらおうか』ってふざけ散らかしてた!今度会った時にボコボコにしてやるんだから!!」
小南はお嬢様学校に通っているのだが、隊員の時とはまるで人が違う。それは照屋も知っているが、殆どの人間に弱みとまでは知られていない。
「う、うわぁ……だから最初は乗り気じゃなかったんですね……」
頭の中でその光景が目に浮かんでくる。人の弱みを握った上でそのまま利用する、彼ならばやっても何ら不思議はない。旧東隊にゴキブリのおもちゃをばら撒いた時も月美が折れるまで遊んでいたらしい、その後は土下座してご飯を奢らされたようだが、やる時は嫌な意味でやる人間というのがわかる。
「逆にどうして知り合ったんですか?」
「あいつ、昔からうちのエンジニアと仲が良いのよ。今も研究とかで色々話し合ってるしね、その時に何度か手合わせしてたのが始まりよ。孤月使ってた時は雑魚だったのに、まぁマシには成長したものね」
成長したと普段は他人をあまり褒めない小南が言うあたりに、実力は認めているのだろう。新人王を競い合えるほど優秀な照屋ですら「弱い奴と戦いたくないわよ、いじめてるみたいじゃない」と言わしめる程だ、だからこそ負けず嫌いが出ているのだろう。
「あ、そうだ。一つ入間さん関係で聞きたい事があるんですけど」
そしてまた、頭に浮かんできた事がある。
「カバーをどうすれば良いか、でしょ」
「え、あ……はい。そうです」
簡単に言い当てられる。それだけ彼女の事を分かっているのだろう、感覚派と言ってもあくまでも戦闘での話であり、照屋の課題ぐらいは見通せている。
前の試合で入間はアタッカートリガーを解放して戦った、しかし勝てたのは単打で突破したからであり、チームとしての勝利かと言われたら怪しいものだ。
照屋はその試合で重石をつけられていたので動きづらかったというのももちろんある、だが話はそう単純なものではない。
「知ってる限り付き合いの長い迅と太刀川、いつも試合してる私と風間さんぐらいしか出来ないんじゃない?そもそもあいつ……メイン張るのはコスパ悪いんだから」
入間というアタッカーの扱いは、少し複雑なのだ。
☆
B級ランク戦最終試合、B級の中でチームとしての練度が数字で決まる日であり、上位2チームがA級への挑戦権を得る日だ。ただ今シーズンは東隊が解散した事により1位は審査は多少あるがほぼ自動的にA級への昇格が決定する。
そして首位と少しポイントが離れた2位のチームである二宮隊は、その1位を取るための作戦会議を行っている。
「柿崎隊の最優先は照屋、その次に柿崎だ。入間は無理をするな、最後に俺が倒す。それ以外はいつも通りに行けば良い」
が、特段変わった策を打ち出す事はない。それもそのはずだ、単純なチームとしての火力が柿崎隊を上回っているからである。気を衒った策は逆に虚をつかれる可能性がある。
「入間さんって東さんが師匠なんですよね、最初に倒した方が良いんじゃ?」
しかし犬飼は最優先対象に疑問を持つ。明らかにこの試合、いやB級の中で1番の脅威は入間である。アタッカーとしての実力は間違いなくB級1であり、まだそのトリガーには不透明な部分も存在している。
だが、二宮は入間を熟知している。
「あいつの指揮能力は定石こそ完璧に……いや、経験した戦術ならある程度対応ができる。しかし裏を返せば応用力に乏しい奴だ、東さんに並ぶ脅威にはなりえない」
二宮は単純な指揮、それだけならば入間には劣る部分もある。しかし戦術的な応用力においては大きな差を作っている、単純な知恵比べをしても勝てる自信があるのだ。しかし指揮という点において、柿崎に関してはまだ未知数な部分もあり、落としやすい駒でもあるので早めに落としたいのだろう。
そして単純にチームの潤滑油となっている照屋は2人係なら倒せる駒だ、それも落としておけば戦況に大きく影響を与えてくれる。手数は大きく減るだろう。
「それにあいつはサポート向きだ、アタッカーでもそれは変わらない。『感知』に関しても情報に負荷をかければ限界が来るのを東さんが証明した」
そして本来の入間のスタイルであるが、メインを張るアタッカーではないのだ。基本的にはサポート、何故なら味方の動きにピンポイントで合わせる事ができるだけでなく、敵の動きも把握できるので太刀川などのアタッカーを主軸にその周りから虚をついたり、攻撃を通しやすくするのが得意だからだ。
本人もアタッカーをメインで張るだけの力はあるが、今度は逆にサポートを受けられない。それだけ出鱈目に、直感と感知で動き続けるのでそれこそ予知ができる迅ぐらいしか動きは合わせられないだろう。
少なくとも、入間自身に合わせる気がなければの話ではあるが、合わせやすくする分だけ隙も生まれてくる。
なのでこの試合で入間と対面した場合、二宮と誰かの2人係なら問題なく対処できる。その弱点を、まだ克服するだけの練度が足りていない事も先の試合で確認済みである。
「トップで上がるのはうち部隊だ、ここで決着をつける」
☆
弓場隊は今シーズン、柿崎隊に苦しめられたチームである。前シーズンは3度当たり2勝してるが、今シーズンで当たるのは3回目ではあるのだが、すでに2回負けている。
シールド戦術との相性が悪かったのもあるが、チームの成長、特に照屋の成長が大きかったのだ。弓場が入間と2人係で落とされてきたのも、影響していたが、一つ弱点として『入間と照屋の2人が揃う』という条件でしかそれは出来ない。
なのだマップの転送に、運が絡んでくる。
「1人ちょっと近いね、合流には迂回して……ごめん無理そう」
それゆえに、今迄の試合は時間の有利があったのだが。
「なるほど、最初に数の有利を作りに来たのね」
照屋が転送直後に、真っ直ぐ王子のもとへ駆けて来たのである。周りはまだ戦況の確認をしてる最中だろう、早過ぎるがその狙いは速攻なのだろう。
照屋は弓場と二宮以外なら高い勝率で相手を倒せる。実際に孤月で王子と照屋は切り合うが、一手一手の精錬さが前のシーズンよりも大きく成長している。王子も優秀なアタッカーではあるが、既にマスタークラスからポイントを盛り続けている照屋には分が悪そうだ。
「でも、てるてるってそんな役回りの子じゃないよね。ブージンが出てきたら尚更、つまり……シールド戦術はないってことかな」
なので王子は言葉で揺さぶっていく。照屋に勝る王子の能力はいくつかあるが頭の回転が特に大きい、物事を並行して考える指揮官向きの隊員だ。他の隊員が襲われているという情報もない、同じ事をすればより良い結果が現れるのは入間の方だ。
よって温存しておきたいのだろう、その意図を考えながらでも王子は戦える。そんな時に、空から光が見える。
「(弾?二宮さんか、にしては数が少ない気も……!)」
ハウンドが降ってきたのだ、レーダーに反応は無かったのでバッグワームを使いながらの攻撃だろう。二宮がこういった行動を取る時は他に誰かが控えているか本人が殴り込んでくる時ではあるが、これで照屋が被弾した隙にでも引こうかと考えていた時だった。
「旋空孤月」
照屋が踏み込んできたのだ。自殺行為である、どう考えても今やる行動じゃない。照屋の自身の駒としての価値を考えればありえない。だが、その行動の意味はすぐにわかる。
「なるほどね、今日のブージンはシューターか」
ハウンドが全て、王子に降り注いでいく。いくら彼と言えど火力を一気に集中されてしまえば、一瞬の事である。
柿崎国治
トリオン7
攻撃6
防御・援護8
機動7
技術7
射程4
指揮7
特殊戦術6
Total:52