柿崎隊A級化計画   作:札幌ポテト

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15話 最終試合(弓場隊・二宮隊)③

「照屋の仕事は、弓場隊と二宮隊を1人倒す事だ」

 

「……単独で、という事ですか」

 

「あぁ、そうなる」

 

作戦概要が伝えられた、B級を名実ともに一位として決める為に。そしてその作戦の事前準備として、その1番槍を柿崎は照屋に任せる。

 

「開始してすぐ、1番近いやつをやれ。弓場隊はだれでもいい、あそこは1人落とされると様子見する傾向があるからな。二宮隊は辻か犬飼、あの2人のどっちかを倒せれば後はどうにかする」

 

「はい、必ず成し遂げます」

 

「でも気負うなよ、相打ちでも構わないからな」

 

弓場でも戦え、それは暗に『弓場だったとしても勝てるような奴になれ』とも言っているのだろう。既にA級の挑戦権を得ているのだ、ならば挑戦していったほうが今後のチームに有益である。個人ランク戦とは違うプレッシャーがそこにはあるのだから。

 

たとえ失敗したとしても、入間が残っていればやりようはある。

 

この試合は柿崎隊にとって消化試合ではなく、新しい自分達を試す試合なのだ。

 

「ザキ、二宮隊なら鳩原じゃないのか。スナイパーなら尚更、残しとくのはやばくないか?」

 

しかし、名前の上がっていない隊員の1人である鳩原を狙わない事を入間は疑問視する。二宮は個人総合2位だ、照屋では流石に荷が重い。殆どのチームが2人がかりで相手する事を考えている、でなければ勝負にすらならないからだ。

 

対して、鳩原は初期に落とせるなら損はない相手である。二宮隊という敵であるからこそ、駒を減らしておいたほうが良いはずだ。

 

「今回は狙わない」

 

「どうして?」

 

「鳩原は人が撃てないからだ」

 

だが今回に関して、柿崎の考えは違うようだ。

 

「今回はそれを利用できるかもしれない、入間ならな。トリガーについてだが、弾は3つに抑えてくれ」

 

「分かったけど、鳩原も相手しながら二宮もやるって中々きついな。ちなみに選ぶ弾は?」

 

「煙幕と支援が出来たら良いけど、わかりやすくアステロイドは入れてくれ」

 

「りょーかい」

 

入間の強みは何でも出来る事だ、それは他の隊員とは幅の広さが違う。アタッカーもシューターも、その実力を知るからこそ柿崎は託すのだ。

 

「布石を打った後に入間と二宮、2人が正面からぶつかった時が勝負だ」

 

 

先程の乱戦から3分が経過している。依然として、姿を消した入間と虎太郎は現れない。既に点を取った時点で柿崎隊の一位での突破は確定はしている、だがそれだけで試合を遅延してくるわけがないのを二宮は読んでいた。

 

「(向こうの手はある程度読めてる、それにこのまま時間切れを狙うようなチームじゃない)」

 

柿崎がこの試合で求めた事は2つ、1つは個々人が点を取る事でA級への弾みを精神的につける事。照屋のワンマンチームから二枚看板チームに変わろうとしている状況で、全員がA級と胸を張る為の戦いを目指していたのが分かる。また他チームにワンパターンのチームではないと示している、これは全員が万能手としての適正を持つことの証明であり強みであると示したかったのだろう。

 

「1人か、巴はいないようだが……奇襲でもさせる気か?」

 

そして最も求めていたのは、B級の完璧な1位だろう。

 

「よく言うな、奇襲されないように周りをメテオラで更地にした癖に。置き弾もそこら中に仕掛けてるし」

 

入間が現れる。恐らく、この状況を作り出そうとしていたのだ。入間と二宮による本気の一対一をやらせる為に。

 

「お前が俺とタイマンを狙っていたのは分かっているが、アタッカーとして半端なお前は脅威に値しないぞ」

 

二宮が細かく割ったハウンドと同時に、アステロイドを放つ。

 

「シューターの私だって、今でも5本指ぐらいには入ってるだろ」

 

ただ細かいハウンドを細かいシールドで弾き、アステロイドはかわして入間もアステロイドを放つ。だがそれは二宮の貼ったシールドに阻まれる。

 

「アタッカーに比べれば、遥かにマシだ」

 

照屋に無茶な削りを任していたのは、温存したかったからなのは明らかである。それだけ二宮の事を評価しているということかもしれないが、二宮から時間を稼ぐ為に使用したシュータートリガーにリソースが割かれ過ぎている。

 

メテオラは煙幕に、ハウンドは援護、アステロイドは火力としての役割を果たせるものであるが、その全てがないと時間は稼げないと判断したのだろう、万能種としての立ち回りにしてはシューターに寄っている。

 

だがシューターとアタッカー、どちらの入間が脅威かと言われればアタッカーなのは明らかだ。

 

「ただ落とせば、うちの勝ちは揺るがない」

 

しかしそれでも、シューターとしても実力は二宮を師事しているだけあって出来ている。完全に上と言えるのは二宮と出水だけであり、その気になれば今すぐにマスタークラスに入る事もできるだろう。しかしNo.1とは大きな差がある。

 

だからこそ、その差を策略で埋めていく。

 

「(メテオラの置き玉、粉塵に紛れるつもりか……想定内だ)」

 

単純な撃ち合いは不利というのがわかっている、なので準備していたのだろう、更地にされていない方から飛んできた弾が地面を爆破し視界を防いでくる。

 

「っ、これ当ててくるのかよ」

 

ただ、その粉塵の中でもスコーピオンから放たれているトリオンの光は漏れている。そしてその光を撃ち漏らすほど、鳩原は優しくない。

 

完全勝利の為にスナイパーも狙いに行くなら虎太郎には討たれてしまうが、駒として二宮が生き残れば必ず試合は勝てる。シューター寄りにしていた事で鳩原の支援は難しかったが、スコーピオンを使われたのはむしろ好都合なのだ。

 

アタッカーとしての入間を封殺できる鳩原、シューターとしての入間を封殺できる二宮、この2人が残った時点でそこでの勝負は分が悪過ぎるのである。

 

「鳩原を最初に狙わなかったこと、それがお前達の敗因だ」

 

そして二宮は予め置いておいた弾を、入間にぶつけた。感知が出来ていても関係がない、突撃しなければ勝てない状況でなら弾が仕込まれていても入間は来るという確信があった。

 

それに入間の感知に頭を使わせる狙いもある、不発でも構わないのだ。置く事で有利になる、それだけで負荷をかけられる。入間にとって嫌な手を知り尽くされているのだ。

 

ただ置き弾は元から読まれていたので殆どが回避されシールドでも防がれるが、もう一度出されたスコーピオンはまたも鳩原に砕かれる。本来ならスナイパーが連続で同じ場所から狙撃をするのは良くない事であるが、二宮が勝てるなら自分が落とされても良いと考えての行動だろう。入間を落とせば駒としての価値は殆ど残っていないのだ、アタッカーとしての彼を封殺するのが彼女の仕事である。

 

「終わりだ、入間」

 

ただ、まだ諦めていないのが分かる。なので二宮は自身をシールドで守りつつ、弾を構える。粉塵も収まってきたので、輪郭で入間を完全に捉えられている。そして最後の反撃だけを警戒しながら、トドメの一撃を放つ。

 

「アステロイド」

 

それは容易に、入間の体を貫通した。

 

「っ!?」

 

だが同時に、二宮の体にも爆音と共に大きな穴が空いていた。

 

「(集中シールドを貫通しただと、徹甲弾……いや奴の合成弾はそこまで早くできない。何を……)」

 

何をされたかは分かるが、どうしたかが分からない。二宮の集中シールドを突破した弾は徹甲弾と遜色、いやそれ以上の威力があった。しかしどのタイミングでもそれを仕込む事は出来ない、バッグワームで隠れていた時は当然片腕しか使えないので弾を練る事は出来ない。

 

更にバッグワームは二宮の前でとかれた、どう考えてもおかしい。直前までスコーピオンを出していた事からも、入間が高速での合成弾の作成が可能になったという事もない。

 

そしてその答えは粉塵の中から穴だらけになった入間を見てわかる。

 

「相打ちだけど、俺たちの勝ちだよな」

 

遠くで鳩原がベイルアウトしていくのも見える、相打ちとは言え試合の勝敗は決したのだろう。

 

「ここで……アイビスか」

 

アイビスを片手にベイルアウトした入間、それを追って二宮も離脱していく。

 

最終試合はここに決着した。

 

 

「試合終了、柿崎隊の勝利です」

 

「入間隊員はシーズン通して完全生存者になるかと思ってたけど、最後の最後で相打ちしてきたね。これはこれで意外だった」

 

「ですが全試合で柿崎隊は生き残っていますから、凄いチームにかわりありません」

 

あれだけ騒がしかった戦場も、終わってみれば虎太郎1人を除き全員が倒れた。生存力の高さ以上に自分達のやりたい事を力押しで突き通した柿崎隊は、十分に一位としての力を見せた試合だっただろう。

 

「総評としては柿崎隊の狙いはバレバレだったし、甘いところもあった。ただそれでも入間隊員を二宮隊長にぶつけたのは、さすがだったかな。試合に向けた課題も、展開的にはクリアしてそうだしね」

 

ただ今回の試合は各々がやる事をやって勝っている。照屋は無理矢理ではあるが辻と組んだ犬飼を倒し、柿崎は格上の弓場を相打ちにし、虎太郎も辻を撃破した、更に入間も二宮を倒している。全員がチームとして戦って来たが、今回に限っては個人としての力を通せるかを試していた試合だっただろう。

 

だからこそもっと良い手はいくらでもあった、しかし今後の為にこの手を取ったのだ。柿崎隊はまだまだ成長できるだろう。

 

「二宮隊は悪い手がそんなになかった、正直いつも通りに動いてたけど入間隊員の時間稼ぎが効いたかな。照屋隊員の捨て身で1人もっていかれてなかったら、負けはなかっただろうね」

 

また相対した二宮隊は悪くはなかった、各々が仕事はしている。ただいつも通りだったゆえにそれを勘定にいれた柿崎隊の想定通りに動いてしまったようにも見える。

 

犬飼は無理矢理落とされ、辻は距離を取って援護をする二宮の援護を受けれずに落とされた、これは柿崎隊の策にハマってしまっただろう。近接戦の援護は二宮よりも、鳩原が適任だ。だからこそその時に二宮はシューターである蔵内に攻撃を集中し、落とした。判断が悪いという事ではない、むしろ適切であったと言える。

 

だがそれらも全て予期し、柿崎達が制したのだ。

 

二宮達も試合の流れを途中からは掌握していた、今回は知恵比べに準備の段階から差があったという事だろう。

 

「弓場隊はヘイトがなぁ、二宮隊長視点だと弓場隊長の方が脅威だったし弾も向けられたのは仕方ない。柿崎隊もそれが狙いだったように思えるし」

 

そしてそれは弓場隊もだ。二宮の弾が柿崎達に向いていれば確実に柿崎隊は敗北していた、しかし二宮隊は自分達が有利になるには弓場を潰したほうが良いと考えるに違いない。

 

鳩原がいるとは言え、照屋の落ちた柿崎隊よりは脅威と感じられたし辻が落とされるなら弓場隊の方が可能性は高かった。仮にあの時弓場隊が固まって出て来ないで蔵内や神田を伏兵として忍ばせていれば、試合展開も少しは変わっていただろう。

 

「まぁ今回の試合で一番やばかったのは入間隊員のアイビス。あれが今回の隠し玉だったね、完全に虚を突かれた。前の試合考えたらスコーピオンを両手に準備してると思うもんなぁ」

 

「前シーズンでは何度かスナイパーとして仕事をこなしていましたが補足させていただくと、彼は近距離でのスナイプしか出来ず25m以内での狙撃しかまともに出来ません。スナイパーとしては成立していないと言われていたスナイパーです」

 

「そうそう、だからこそ今シーズンは完全に辞めたと思ってたよ」

 

そしてこの試合、二宮と入間の対決が一番の勝負だった。正確には二宮&鳩原VS入間ではあったが、あの不利な状態から二宮をとりきったのは驚きである。

 

「あとあのアイビス、弄ってるね。多分射程を30m以下にして威力に全部注ぎ込んでる」

 

「それは……何故でしょうか」

 

そしてアイビス、明らかに威力が高かった。トリオン能力が10の入間と言えど、あそこまでの威力は出て来ない。ガンナートリガーの機構上威力は上がりはするし、その最たる例であるアイビスではあるが、それでも高かった。

 

射程というスナイパーに必要不可欠な部分を削ったからに他ならない。事実、弾の威力は発射から威力の減衰がノーマルなアイビスよりも大きかったのが分かる。

 

「強いて理由を挙げるなら二宮隊長のシールドを破る為、ですかね。あの場面ではゼロ距離でのアステロイドも防がれます、スコーピオンは鳩原隊員が撃ち抜きますからね。だからこそ粉塵の中でわかりやすい的としてスコーピオンを使い、本命のアイビスが刺さったわけですが」

 

だが単純な二宮VS入間なら、あのトリガーセットの入間は負けていただろう。シューターに寄っていた入間では、二宮のシールドを割りながら攻撃を凌ぐ事は難しく、スコーピオンで決めに行くにも途中で被弾は避けられない。

 

アタッカー特化型なら展開も異なると考えられるが、柿崎隊の目的と考えられる『各々が勝つ』というようなシナリオを描くには、警戒心を高めた二宮を止めるという点で今回のトリガーセットである必要がある。

 

倒すというトリガーセットならば、辻や犬飼は即座に引かされていただろう。しかしシューターのトリガーを3つも見せていれば、特殊なトリガーを複数積む余裕はない。だからこそ単純なタイマンをしても良いと二宮に思わせたのだ。

 

そして最大の要因は鳩原である、彼女は人を撃てないが武器を狙撃する。アタッカーの入間であっても、鳩原が生きていれば二宮と確実に倒すことが出来るだろう。だからこそ、二宮は彼女の腕を信頼している。

 

そしてその信頼を、利用してスコーピオンを撃たせたのだ。シーズン通して完全生存を達成する事など色々と捨て、アイビスによる近距離狙撃で勝負を決めたのだ。置き弾がなければ一方的に入間は討ち取っていたと思うが、流石に二宮もそこまでは甘くなかったという事だろう。

 

だが、そこまであの状況から読み切れというのが無理な話だ。完全な作戦勝ちである。

 

しかし、解説役のオペレーターはその策略よりも気になる事がある。

 

「という事は入間隊員は射手・攻撃手・狙撃手の全てに精通する史上2人目の『完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)』……に、至れるということですか」

 

完璧万能手、それは3種類の異なるポジション(シューターはガンナーでも可)のトリガーをマスタークラスにまでポイントを取る事で呼ばれる万能手の上位に存在する名前だ。これに至れているのは玉狛の木崎レイジただ1人であるが、入間はその頂に登れる状態にいる。

 

ポイントは個人ランクを回していないが、アタッカーもシューターもマスター以上なのは確実であり、スナイパーとしてもあの運用ではあるがマスターに届く可能性があるのだ。

 

そしてシールドの扱いは誰よりも上手く、本人自身のトリオン量も手数の多さと広さを心配させない程度の量がある。もはや至るのは時間の問題とも言える。

 

「いや、それは流石にスナイパーの人達に失礼でしょ。万能手なのは認めますが仮に呼ぶなら『変態万能手(クレイジーオールラウンダー)』ですね。少なくとも僕個人としては完璧と呼びたくないです」

 

が、そう呼ばれてしまうには流石に完璧万能手の名は重過ぎたようだ。

 

「あー、そうですよね……変態万能手、一番しっくりきます」

 

「一番何してくるか分からないチームですよ、A級での活躍も楽しみであると同時に怖いですね」




巴虎太郎

トリオン6
攻撃7
防御・援護7
機動8
技術7
射程4
指揮3
特殊戦術6

Total:48
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