柿崎隊A級化計画 作:札幌ポテト
B級ランク戦の最終試合。結果として柿崎隊は二宮隊を全員を含めた5人を落とし、7ポイントで名実ともにB級1位に輝いた。それまで1位を取り入間の覚醒もしてはいたが『二宮隊や東隊が最初から上位なら3位以下』という評価も受けてはいたので、そういった輩も黙らせた試合であった。
そして、数々の苦難を乗り越えた5人は焼肉屋で祝勝会を開いている。
「というわけで、A級昇格を祝して……乾杯だ」
無事にA級を確定させている。と言っても東隊が解散した影響で今回に限りは昇格戦がないだけで、一位である柿崎隊だけが確定した状態だ。
また今シーズンはその東隊の抜けた枠に入るだけなので挑戦権は3位にまであり、二宮隊だけでなく今シーズン3位の三輪隊も挑戦権を得ている。試合数が8と例年よりも少なかったのは、早くA級の数を戻したいという上の思惑もあったのだろう。
「A級、8チームだけの特別待遇……想像したこともなかったです」
そしてA級にはB級とは違う待遇が与えられる。試験用トリガーの利用や固定給、それらは普通のB級隊員では得られない。精鋭にのみ与えられる特権なのだ。
「あ、今後はそれ増えるかもしれんぞ」
「そうなんですか?」
「私が3社ぐらいスポンサー増やしたから、多分それで枠一つぐらいは増えるんじゃないか。維持費が高いけどA級っていう駒は城戸さん的には増やしたいと思うし」
相変わらずこの人は裏で何をしているのか、そう皆が見るも言ってることは間違ってはいない。城戸司令的には優秀な隊員が増える事は遠征に増やせる人数も防衛に割ける人数も増えるので助かるのだ、ただ維持費が正規隊員よりもかかってしまう。なのでA級は限られた枠にしか設定されていないが、お金があればそれは増えるのも自然なことだ。
「ちなみにどうやって増やしたんですか」
「三門大学経由で仲良くしてた研究所があってな、更にそこから海外の会社と繋がったから許可取って研究成果のサンプル見せたら割とすんなり。重工業の会社はかなり食い付いたな」
「この人って何でこんな凄そうなのに中身がアレなんだろう」
普段が普段なのでやってる事はすごい事なのだろうが、素直に尊敬出来ない。天才とは凡人のやらない事をする者と人は言うが、やったらダメな行動までやるタイプの彼は天才というより天災だろう。何をしでかすかわからない、だからこそ柿崎隊がA級に行けるのではあるが。
「あれ、二宮じゃん」
隣に来客が現れる。
「入間……柿崎隊の祝勝会か」
「そっちもだろ、ほぼ昇格決まったもんだし」
「慰労会だ、それに今日は負けている」
二宮隊の面々であり、皆気さくに挨拶をしてくれる。ただ入間と二宮のかけ合いが珍しいのか周りの目が行くが、気にせず2人だけはまだ話している。
「お前相変わらずジンジャーエール好きだな」
「お前はコーラかオレンジジュースしか飲まないだろ」
「甘ければ甘いほど良い」
「それで太刀川ときな粉を撒き散らして怒られた気もするが」
「あれは餡子を準備しない太刀川が悪いだろ」
「もう一回怒られてこい」
一応、師弟関係であると皆は耳にしている。ちなみに弟子入りしたのは二宮がシューターとして1位を取った瞬間に東隊に現れた入間が初手で土下座をして来た所から始まる。なお入間の初手での土下座は東、忍田に続く3人目である。
「2人とも、仲良さそうですね」
「ああ見えて、東隊以外で東隊に誰よりも顔を出してたからな」
「だから月見さんも怒り慣れてるのか……」
人に教えれば自分の力を言語化しやすい、そう東からも助言はあったので弟子入りは通った。ただ入間のスタイルと根本的に異なり最初は二宮も頭を悩ませたが、サイドエフェクトを用いた完全なサポート特化型に変わる事でシューターとして今では5本の指には入る使い手とはなっている。
そしてそんな彼をよく知る二宮でも、今日の試合は負けた。
「今回のは誘われたな。柿崎、お前たちの勝ちだ」
いつの間にか両チームの慰労会と新興会に変わったが、二宮は素直に柿崎を褒める。今回の試合の敗因はわかってはいるのだ、それに乗せられてしまったゆえに柿崎達が勝ったのである。結果としては二宮隊全員を、柿崎隊の誰かが討ち取っている。
「だがなぜあの策を立てた、照屋を捨てる判断と入間に歪なトリガーを仕込ませたのは今迄のお前とは傾向が異なる」
しかし、そんな策を取る理由が二宮には読めなかった。それは試合中でも同じであり、試合後でも読めない所がある。柿崎隊の対策は考えた上でいつも通りにいけば勝てる試合の筈だったのだが、いつも通りは崩された。だがそれでも勝てる試合だったのだ。
「入間が『二宮は私がやる。対二宮とか硬い奴用の改造アイビス作ってるから、これで戦いたい』ってワガママ言って来たから……ですね」
だが、思ったより原因は分かりやすかった。
「こいつの奇行を策に入れきれてなかったか」
「いや、制御の出来ない力って前に話たろ?あれでピンと来てな……私ってアイビス扱えてないし、なら逆にもっと火力上げれば良さそうだなって」
「話が飛躍し過ぎててわからないんですけど」
もはや柿崎隊のツッコミ役として存在する良心、照屋が呆れたように呟く。なお周りの反応も『そうはならんだろ』という顔をしている。
「私って1発の火力は無いだろ?スラスターとか旋空とかスコーピオンにはないし。だからアイビス担いでたんだが」
「え、その理由でアイビス使ってたんですか!?」
「その理由以外で持つと思う?」
「貴方はカッコいいからとかそんな理由でも振り回すでしょ」
「確かに、そうでもあるな」
今までアイビスを振り回して来た理由も分かってしまい、柿崎隊全員が頭を抱えた。これの何がヤバいかと言えば今後も彼はこのアイビスを握り続けるという意思表示をしているからであり、その理論が破綻してないと考えているからだ。
もう合成弾も使えるので素直に徹甲弾を使った方が遥かにいい、というかして欲しい。特に今回限りの作戦と考えていたのか柿崎は祝勝会とは思えない顔色の悪さをしている。
「それに二宮用ってのは本当だぞ、シールド硬すぎるのが悪い。あの時の距離だとスコーピオンで切り裂けないし、更に鳩原も居たら絶対勝てないし」
ただ今回の場合、二宮隊全員を倒すという所にも焦点を置いていたのでアイビスの方が都合が良かった。
「だから必然的に最後は私と二宮の1対1で戦わせなきゃならなかったから、最低でも犬飼と辻を落とす作戦にしなきゃだったわけよ。照屋が今回の功労者だな、お疲れ様」
時間稼ぎのため、そしてトリガーの内訳を悟らせて油断を誘うために三つのシュータートリガーを使って二宮を相手し、その間に鳩原以外を倒す。鳩原についてはスコーピオンをわざと撃たせる事で完全に二宮に勝ちを確信させられたので、上手くいっただろう。
今までの試合は入間をどう頼るかという展開であったが、今回に関しては入間をどうその状況にまで運ぶかという試合でもあったので、それも二宮の考えを狂わせていたのだろう。
「本当に疲れたんですからね、個人ランク戦と違って全方位集中しながらの1対1。でもまぁ……これでA級も自信を持って戦えそうですけど」
特に照屋のプレッシャーは大きく、時間制限のある中で倒すというのが難しかった。特に犬飼が残っていれば射撃戦となり近付けず、確実に入間は勝てなかったので、落とし切ったのが今回の試合を大きく影響していただろう。
だがその上で一つ、二宮には懸念事項があった。
「俺が撃ち合いに乗らなかったらどうする、そこで破綻はしていたと思うが」
二宮が入間と相対した時に時間をかけ過ぎた。逆に言えばそうならなかったら二宮隊が落とされる事はなかっただろう、何故なら二宮一人で戦況は支配できるからだ。
「でも二宮、楽しかったろ。B級じゃ撃ち合ってくれる相手居なかっただろうし」
だが、それについても織り込み済みのようだ。
「そっちが私を知るように、こっちも二宮を知ってるんでね。お前なら久しぶりの撃ち合いだし多少は乗ってくると思ったよ」
「……なるほど、完敗か」
「予想よりは早かったけどな」
「これならA級で不甲斐ない試合を見る事もないか」
完全に柿崎の策に乗せられていたようだ。恐らくアイデアなどは入間が出してはいるものの設定されたゴールまでうまく中身を詰めている、柿崎の指揮能力は7ではあるが、入間と揃えばより大きくなっているのだろう。
ただ、A級には制約も現れてくる。
「それで、お前たちは遠征に行く気なのか」
「いやはどっちかというと本部長派だし。もう少し遠征艇が広くなれば全然構わないんだけどね、狭いの嫌だし」
「なんか、まるで乗った事があるように言いますね」
「知らないのか?こいつは既に遠征に行ってるぞ」
「「え?」」
そしてしれっと、聴き過ごせない単語が出てくる。
「俺も初耳……だな」
それは柿崎ですら、聞いた事がないようだ。
「お前、言ってなかったのか」
「いやだって柿崎隊結成したばっかの時だし、私もここぞという時まで力は隠して驚かしたかったし、でも遠征後の収穫の検品はよくやってるし、それはザキには言ってからなぁ……勝手に伝えてると思ってたわ」
遠征、それはネイバーフッドでの探索を目的とした精鋭による調査部隊だ。その精鋭とはA級隊員の事であり、本来ならばA級以外から選ばれる事は基本的にはない。
ただし、連れて行くのに納得する理由があるものは除く。
特殊なサイドエフェクトと精鋭部隊にいても問題がない戦闘能力、そして本部長などといった上層部との関係があった故に一度だけ、遠征に参加している。
「この際色々聞いておきましょう、まだ何か隠しているかもしれませんし。付き合ってるボーダー隊員とか」
「いるのか入間!?」
もう何を隠していてもおかしくない、なので照屋がかなり踏み込んだ質問をする。思えば彼のプライベートを良く知らないし、彼自身についてもどうかと言われれば答え難い。だからこそ思い切って聞いたのだろう。
「居ないけど、そもそも考えたこと……ん?いやドキッとした事ぐらい……ないな、本当に考えたことないな。あれ、トリガーの事しか考えた事ないぞ?こんな女性だらけなのに」
「それ絶対周りに言わないでくださいね、後始末面倒なんで」
聞いたのだが、隣で二宮隊の氷見が箸を握り締めている。別に好意的に見られたいというわけではないが、女性としての魅力を感じないと言われていれば殺意も湧いてくるだろう。一方の鳩原は苦笑いをしているものの、男性陣ですら少し引いている。
「特に月見さんとか、殺しに来ますよ」
「なんで月見が出てくるんだよ」
「いやだって『好きな子に意地悪するタイプ』と思われてますよ、その理論で言えばそういう事になりますし、月見さん真面目にどうしようか相談されたんですからね」
実は入間が明確に嫌がらせをしているのは全ボーダー隊員の中で月見蓮ただ1人だけなのだ。小南の場合は利己的に利用する際にしただけでその後に何かをしてるわけではないし、なんならその見返りとして玉狛の料理当番をかわりに行く程である。
なので小学生みたいな頭をしてると認識されてる入間の恋愛観も、そこから変わってないと思われているのも仕方ない。なんならそうとしか思えない。
そして残念な事に顔が良く、喋らなければ努力の姿勢は好意的に映り、肩書きも良い。月見的にも男として見れないかと言われればそうではない対象であり、そこから好意を向けられていると思えばお嬢様学校育ちの恋愛経験の少ない彼女は少女として悩んでしまうのも仕方ないだろう。
しかし、当の本人の顔はそういうものではない。
「いや、やられたらやり返すだろ。私は本気で嫌われない程度に抑えてやり返してるだけだ」
「分かりました、ただのクソ野郎ですね」
とりあえず原作の選抜試験編様子見して今後の展開考えてます、しばらくお待ちください。