柿崎隊A級化計画   作:札幌ポテト

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4話 新シーズン

柿崎隊が結成されてから3ヶ月、新しいランクシーズンが始まった。前回は14位と散々な結果であり、チームとしての弱さを痛感していた。だからこそ、皆が備えていた。個人ランクを毎日のように虎太郎や照屋は出かけ、隊長である柿崎も他チームの研究を入間や綾辻共に行ってきた。

 

2ヶ月というのは短い、しかしそれを濃密にしてきた時間だった。

 

そんな中で行われた初戦を柿崎隊は。

 

「さぁB級ランク戦……柿崎隊の圧勝でしたね」

 

「圧勝というか、蹂躙?まぁそれだけのポテンシャルあるチームだし、当たった所はドンマイって感じだね」

 

3チームほぼ全員を倒し、圧倒的な勝利を飾っていた。本来の力を発揮すれば前シーズンでもある程度は通用していたとは思うが、ここまでに至れたのはここの力が大幅に、特に照屋がエースとして機能していたことが一番だろう。

 

「照屋隊員は単独で6P獲得、これはB級上位でも通用する動きでしたね」

 

「何というか間合いの管理とか、特に引き際が良かった。成長が凄いよ、相当良い師匠が居るんだろうね」

 

だがそれでもまだ成長途中、それが彼女だ。A級に至る力は彼女単体であれば間違いなくあるのだ、彼女についてはこれからにも期待と言った形で実況はしめられている。

 

「そして新しくスナイパーとして入った入間隊員ですが、これだけの試合展開で射撃回数はゼロでした。彼の力は未知数のままですね」

 

「まぁ他のチームはスナイパー居なかったし、周りに気を取らせるのが仕事みたいだったね。どこからでスナイパーが狙ってきそうと思ってたら片腕は空けておきたいし、ストレスになってた。途中でわざとバッグワーム解かせたりしてたみたいだし、これ考えた柿崎隊長の指揮力前より上がりすぎだと思うよ」

 

そしてその指揮を取る柿崎の成長もまた著しい。彼単体としての戦闘能力はあまり向上していないが、指揮を行って全体の統率を戦闘中にも行えていた。これは大きな進歩であり、タイミングが大事な選択の機会を見過ごさないのは指揮役にまず必要な力だからだ。

 

そしてカバー役としての巴虎太郎の活躍も良かった、目立ってはいないがチームの隙をうまく埋めるように努めていたのがわかる。

 

「あと入間隊員は隠れるのがうまかった、東さんっぽいよね」

 

「スナイパーであの人参考にしない人は居ませんよ」

 

「それもそうか、とりあえず次回が楽しみだ。次はどんなカードになってるの?」

 

「そうですね、はやくも9位に上がった柿崎隊。これからの動きにも注目したいですが……次に当たるのは6位の弓場隊と7位の影浦隊、この2チームとの激突ですね!」

 

「A級クラスのアタッカーを抱えたこの二つとか。この強敵を相手にどこまで柿崎隊が挑めるか、楽しみですね」

 

 

初のB級中位への進出、最初の目標とするのに大きい通過点を5人は初日から達する事が出来ていた。これも皆が個々で研鑽を重ねてきた結果だろう、そしてそんな幸先の良いスタートを切った彼らの部屋では。

 

「まぁ普通に殴り合ったら負けると思うぞ」

 

「何で毎回ネガティブな事しか言わないんですかこの人……」

 

入間が雰囲気をぶち壊していた。

 

「いやだって上から見てたけど照屋への合わせは間に合ってないし、照屋は照屋で集中力上がってたけど周りの視野が狭くなってるし、何回危ない場面があったと……」

 

「そ、そうですけど……!」

 

正直に言えば出来過ぎた結果だ、それは本人達も理解している。しかしその結果を得る為の準備は間違いなくしてきたのだ、それを『これ出来てないよ』と一言で締め括られれば納得がいかない。

 

「でも、そこを治していけば勝てるんじゃないんですか?」

 

そこで虎太郎がフォローの為か、はたまた本当に疑問に感じたのか問いかける。この中で一番ボーダー隊員としての時間が短い故にだろう、だからこそ今は吸収していく時期なのだが。

 

「弓場の距離感相手にシールドだけで30秒耐えれたらもうそれブラックトリガー使いしか勝てねぇよ。更に蔵内と王子に神田だぞ、マジで強い。影浦はまぁ……タイマンで勝てるのB級じゃ風間さんと限定的だけど弓場ぐらいか。こっちは今の照屋なら多分30秒ギリ稼げるけど北添も居るしな」

 

「ブ、ブラ……?」

 

「くっそ強いトリガー使いって覚えとけ」

 

弓場はタイマンにおいて破壊力が高いガンナーだ、近接戦では間違いなく最強のガンナーだろう。これを相手に耐える事に徹するという目的で鍛錬を続ける照屋とは相性が悪い、囲んで戦うのが一番だろう。しかしその囲いをするにも層が厚く、全員が照屋と同等かそれ以上の実力者だ。単純な力比べをすれば玉砕する事間違いなしだ。

 

そして影浦隊は今安定感がないチームだ。だが今後スナイパーが入れば自由奔放に動き回る影浦と相性が良く、将来的にはA級レベルにも至れる。そして照屋単独ならば間違いなく敗北する。

 

総合力、個々の能力、どちらにおいても柿崎隊は劣っていると言って間違いはない。

 

「……意外ですね、もっと色々変な事を言うと思ってました」

 

「なぁ照屋、私って古参なんだよ?あと私は常に真面目だ」

 

お前はいつも真面目じゃねーよとは言わないが、ジトリとした目を向ける。ただスナイパーとしてはどうかはわからないが今回の試合で情報収集を最も的確に行っていたのは彼だ。

 

まだオペレーターとして成熟していない宇井が4人を負担するのは難しい、それゆえに彼だけを切り離して単独で柿崎が動かした。宇井は完全に前シーズンと同じ負担で作業を行えたので目立つミスもなかった。

 

そして入間自身、その際の動きなどは今日十分に役立っていた試合でもある。

 

「期待していいんですよね、狙撃」

 

後は、その腕だけだ。

 

「任せとけ、万が一にも誤射が当たったらこの焼肉券をやる。とりあえず前払いとして渡しておくわ」

 

「隊長、本当に信用していいんですよね!?」

 

「お、おう……」

 

やる前から駄目だった時用の謝罪の品を準備してるのは流石に諦めが早過ぎる、リスクヘッジし過ぎだ。ちょっとだけ積み上がろうとした信用すら吹き飛んでいくが、もはや泥舟だろうが幽霊船だろうがこの船に乗って行くしかないのだ、照屋は大きくため息を吐く。

 

「祝勝会は土日に定例会も兼ねてやろう、今日はみんな休んでくれ」

 

「そうさせてもらいます……」

 

柿崎隊のA級への道は、まだまだ始まったばかりである。

 

 

柿崎と入間は2人で食事を取りに来ていた。3人は家に帰したが、時間的に遅くなるから誘っていないという理由だけでもない。シーズン初日の試合後なのでその労いというのは1番だ、しかし2番目も柿崎にとって重要な事でもある。

 

「お前には本当に助かっているよ、入間」

 

「隊長はお前なんだから気にするなよ。おばちゃん、グァバジュースおかわり」

 

2人だけでの密会、もとい作戦会議をするのに都合が良いからだ。

 

「私が隊長やっても、2人はついてこない。お前の言葉だから2人はあそこまで熱心なんだろ?」

 

これまでの柿崎の隊長としての動き、その全てにおいて裏で提案及び指示をしていたのは入間である。何故ならば柿崎は自分に自信がなく、はっきりとした方向性を示せるリーダーとはまだ言えないからだ。

 

だからこそ、同期してそれをよく知りその方向性を示しているのが入間なのだ。

 

「お前の手柄を奪っているみたいで、どうしてもな……」

 

照屋の訓練相手、小南との話をつけたのは入間だ。どういった繋がりかは知り得ないが交渉はうまく行き、週に一度ではあるが彼女が直々に照屋を鍛えてくれている。

 

そして虎太郎のカバー役としての教材も、全て過去に自身で独自に撮ったデータをわざわざ準備していたのである。それは柿崎にも同様であり、東隊や他の隊長達の意図を読む訓練、つまるところオーダー役としての鍛錬にもデータを準備した上で話し合い、鍛え上げてきたのだ。

 

たった2ヶ月で柿崎隊の力が高まったのはそれぞれに明確な課題を数字やデータで示した上で、それを一つの方向に向かわせる事が出来たからだ。

 

真なる意味で言うならばこの隊は柿崎隊ではないのかもしれない。

 

「まぁ私なら司令塔しながらカバー役ぐらいはできるな、優秀だし」

 

そして、本人はそれが出来る力を持っているのだ。隊長としての自信が落ちていくのも仕方ない、昔はただの自己陶酔に耽っているやばい奴かと考えていたが、頭を回すタイプのやばい奴とは思いもしなかった。

 

同期にこれと嵐山がいるのだ、隊長としての自信も無くなってくるのも仕方がないのかもしれない。

 

「なら何で……」

 

「火力役はオーダーを出さない方が良い、リソースが不足するし責任を抱え込む。まぁ個人的には意図を汲み取るぐらいの頭はないとダメだとは思うが、いくら私でもトップランカーと殴り合いながらオーダーは出せないぞ?」

 

そして彼が何故オーダーをやらないか、その理由がこれだ。見ている先がA級到達どころではなく、A級トップを本気で狙っているのだ。だからこそ、B級ランク戦という通過点を通過点と認識している。

 

「ザキ、私はこのチームならA級トップを狙えると思ってる。私に必要だった司令塔にA級レベルにいずれは至れる才能が2人、宇井も優秀だし、私以外の力でA級に上がれたら言う事なしだ」

 

柿崎はハッキリ言って、A級レベルの戦闘力を持った隊員に至れるかと問われれば難しい。不可能とは言わないが、時間もかかる上で向いていない。色々な事に手を出した結果のオールラウンダーではあるが、そこにも限界が見えている。

 

「俺に東さんになれって言われた時は頭が狂いそうだったよ、でも……今は腹を括れてる」

 

だからこそ絞ったのだ、オールラウンダーとして強くなるのではなく、司令塔としてチームを引っ張る力をつけていくという方向へ。柿崎は幸いな事に頭の回転は慣れていないだけで遅くはないし、疑問を持つ事が苦手ではない。

 

司令塔は回をこなしていく事に飛躍的に力が上がりやすい役職でもあるし、積み上げていく事で力強くなっていく役職でもある。そして幸いな事にA級トップの頭脳派に弟子入りした者が、その道を示す事ができる。

 

「なら頑張れ、サポートはするからよ。おばちゃん、グァバジュースおかわり」

 

一気にジュースを飲み干し、また追加で頼む入間。それだけ話している事に熱が入っているのだろう、しかし今まで話したのは目標であって、今ではない。

 

「ただ現状、よくてランクは5位だ。まだチームワークが微妙な分そこを突いてくるし、ザキは頭がパンクすると動きも鈍る、虎太郎やザキが浮いた駒になれば照屋が両方は守れない。課題は盛り沢山、一応オーダーに関しては将来的には虎太郎がサブオーダーとして引き際だけ判断させれたら万々歳かな?とりあえず頑張って慣れてくしかないな」

 

今シーズンのB級には最近流行り始めているカメレオン戦法を巧みに使う風間隊が上位に君臨している。そこに勝てる力は残念ながら今の柿崎隊にはない、風間どころか他2人ですら手に余るだろう。また他の部隊も同様に強い、総合力でも個々の力でも劣るこのチームが勝つにはそれこそ頭で勝つしかない。

 

「でも、この調子なら長くて3シーズンだ。それだけあればA級に上がれる、後は登ってくだけだ。おばちゃん、おかわり」

 

だがそれでも、一年で上がれると信じている。柿崎隊について誰よりも知っているからこそ、誰よりも周りの研究をしてきたからこそ、入間武人という存在は確信しているのだ。

 

だが一つだけ、柿崎には懸念点がある。

 

「……やっぱり、スナイパーで行くのか?」

 

先のランク戦、入間に撃たせなかったのは存在を隠し続けてストレスを与える事や、4部隊も展開していてスナイパーの場所がバレるのは得策ではないと考えていたからでもあるが。

 

一番の問題は彼がスナイパーとして、仕事ができない可能性があるからだ。

 

東とは師弟関係を築いていることは割と知られていたりもする、そもそも隠していないからだ。しかしその東が『狙撃手は合わない』と断言している、逆の意味での信用が出来てしまっている。

 

「私だけでA級に上がれてしまえば私がここに来た意味はないし、望んでない。しばらくは影の実力者ムーブしておくからよろしく、忍田本部長達にもそう言ってるから問題なし」

 

実際、ここでは言っていないが立ち回りの判断を行えるのでその練習ができる。また状況把握とその伝達という仕事を受け持つことでまだオーダーに不慣れな柿崎へ不必要な情報を省いて伝え、負担を減らすという事をしているのだ。

 

あくまでも、柿崎隊というチームがA級トップに至る為に。

 

「本当に変わってる奴だな、お前」

 

昔から嵐山隊に入らず色々な所で目にはするが何をしているかわからない奴、たまに変なポーズを取ったり口上をあげて現れるやばい奴、バカと天才は紙一重とは言うが紙一重で天才の方らしい。

 

「おばちゃん、グァバジュースおかわり」

 

そんな彼がまたジュースをおかわりしている、本日で8杯目だ。そう、8杯目である。

 

「待て、そろそろ止まれ!何回飲むつもりなんだよ、てかグァバってなんだ!?」

 

南国系のフルーツ、グァバ。海外から基本的に取り寄せられているがその殆どは冷凍であり、一応は安価で手に入るフルーツの一種ではある。そう、冷凍ならば。

 

「だって影の頑張る私を労うんだろ?奢りって言うし暫くまた忙しいし、な?」

 

「待て、いくらする……新鮮丸ごと生搾りグァバジュース、一杯1300円!?」

 

なお、海外から輸入で手に入らない、国内で無理矢理生産されている生の果物は基本的に高い。

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