柿崎隊A級化計画   作:札幌ポテト

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5話 近接型狙撃手

「いやー、凄い試合でしたね」

 

B級ランク戦ROUND2、中々に荒れた試合が今しがた終わった。3チーム10人のうち、残ったのは僅かに一人、それもボロボロの状態でいつベイルアウトしてもおかしくない状況だ。だが、その解説前に一度アナウンスが入る。

 

「えー、一度を除いて全ての弾を外していた入間隊員ですがトリガーに異常は無いとのことです。繰り返します、トリガーに異常は無いとのことです」

 

この試合で色々な意味で目立っていたスナイパーについて、観客からどよめきが上がるほど戸惑っている。

 

「アイビスをあそこまで振り回せるのは凄かったですけど、エイム力がちょっと……ブレ過ぎてますね、牽制射撃にギリギリになるかどうかという感じです」

 

B級中位の場で起こるにはあまりにあまりなエイムを公の場で露わにしていたのだ。身体2つ分離れていればまだ調子は良い方であり、5m離れた位置に着弾する事もあった。スナイパートリガーの不調を疑っても仕方ない、それだけ参考にならない狙撃手だったのだ。

 

「ただ今回の試合、勝負を決めたのは間違いなく入間隊員の狙撃……?まぁ、射撃です。柿崎隊長はこの勝ち筋を通すつもりだったのでしょうか?」

 

「あってもサブプランだと思うよ、絶対メインじゃない。個人的にはサブプランにもしたくないと思うんだけど……え、しないよな……?」

 

しかし、色々な意味で目立っているのは確かだ。解説が頭を抱えている、というか『俺今からアレ解説すんの……?』という目で天を仰いでいる。

 

しかし解説に呼ばれてしまったので仕方がない、だが実況のオペレーターも鬼ではないのでその前に考える時間も兼ねて整理から始める。

 

「とりあえず振り返っていきましょう、今回は市街地Aと普遍的なMAPでしたが……これに意図はあったのでしょうか」

 

「力押しをすれば弓場隊はまず勝てますからね、変にMAPを懲りたくなかったのでしょう。ただ柿崎隊にスナイパーがいたので斜線を切りやすく熟知しているこのMAPにしたというのもあるかと、まぁあんなスナイパーとは思ってなかったと思いますけど」

 

所々で呪詛が聞こえてくる、解説を本気で嫌がっている雰囲気を観客も感じている。おそらく同じ立場ならば、皆そう感じていても仕方ないだろう。

 

「まず弓場隊長と照屋隊員が接敵、しかしこれは入間隊員の狙撃で何とか中断しました」

 

「あと5秒遅かったら落ちてたね、ただこれで狙撃力も見透かされちゃったから弓場隊は大胆に動いてくる」

 

初動、偶発的に接敵した弓場と照屋であったが何とか耐えている間に援護が間に合った。ただあまりにあまりな狙撃であった為、逆に警戒されて難を逃れただけである。

 

「はい、一方で影浦隊長が王子・神田両隊員と接敵します。北添隊員が到着するまでは暫く拮抗していましたね」

 

同時に別で部隊同士がぶつかり合う、影浦隊は2人しかいないので北添隊員は大きく戦地を迂回せざるを得ずに、到着は遅れていた。

 

しかし両チーム共に狙いはやはり弓場隊であった。

 

「その間に、集まれた柿崎隊がいつもの布陣を構築。その上で弓場隊長と蔵持隊員と接敵、数の有利を何とか押して倒しますが虎太郎隊員は落とされ、柿崎隊長も片腕を失ってしまいました」

 

「これは弓場隊長が2人で押せる、と判断したのでしょう。事実有利に進めていました。しかし出鱈目な狙撃が粉塵を巻き上げたと同時に照屋隊員が蔵持隊員の足を奪ったあたりで形勢が傾いてしまい、それに気づいた王子隊員と神田隊員は更に北添隊員が合流してしまった事でバーグワームを使い即座に撤退しました」

 

ここまでは、一般的なランク戦に近かった。弓場隊を相手にチームで柿崎隊は勝利できたのだ、しかしここからはちょっと話が変わってくる。

 

「はい、そしてここからまさかの展開ですが……」

 

「まさかアイビスを片手に北添隊員と入間隊員が撃ち合いをはじめるとはなぁ……」

 

実況と解説、双方が虚空を眺めている。それほどの異常事態が起きてしまったからだ。

 

先に言っておくと別に狙撃手が射手と打ち合わないわけではない、しかしそれはケースバイケースであり、そもそも起きる事は狙撃手にとっては由々しき事態だと伝えておく。

 

「王子隊員の誘導により何とか三分隊が激突したわけですが、そこにスナイパーとしての仕事が出来ない入間隊員が乱入、乱戦になりますが……粉塵の舞う中ですれ違い様に、腰撃ちで神田隊員を撃破し流れ弾で影浦隊長の片腕も奪い、その後北添隊員に蜂の巣にされてベイルアウト……スナイパーの使い方と存在意義を間違えてますね」

 

解説がついに大きく溜息を吐く。今回の試合1番の問題、スナイパーが乱戦に突撃するという異常事態が発生したのだ。しかも積極的に、バッグワームを解いて参戦したのだ。

 

シールドを使う為だろう、しかしそんな中で粉塵の舞う中2人を射抜いたのだ。

 

「近接スナイパー、とでも言うのでしょうか。一応なぜ間違えているかの解説をお願いします」

 

アイビスを片手に戦果を出している、結果良ければ全て良しという人間がいるように結果は出しているのだから間違いではないのではないかという観客が抱えていそうな疑問を聞いたのだろう。

 

「基本的にスナイパーは遠くの物を狙う為のものです、なので基本的にはトリオンもそっちにリソースが割かれています。普通のガンナーの使うトリガーの方が遥かに火力は出ますし、使う理由がありません」

 

しかし、スナイパーである理由はほぼないのである。

 

「更に言えば、この試合で彼はアイビスというかなり使いづらいトリガーを使用しています。重く取り回しの悪い筈のこれを近距離で撃たれてしまえば確かに防げないかもしれませんが、それを使えるなら他のトリガーの方がマシです」

 

遠距離から乱戦の敵を撃っていた方がポイントは稼げる、しかしその腕が無かった。そこまでは分かる、腕がないのだから情報伝達に努めたり支援を行う事は不可能ではないのだ。だからこそ、そこに突っ込んでいくというのが意味不明なのである。

 

ゲームで凸砂という言葉はあるが、シールドという概念がある世界ならばそれがまかり通る事はないのだ。一撃で倒せなければ、数秒と持たずに消されるだろう。

 

しかし、シールドすら貫通するアイビスならば不可能ではない。ただ不可能ではないのだが、そんな事を練習するぐらないならアタッカーやガンナーになった方が遥かに有意義であり効率的だろう。

 

「ただ信じがたい事に、この変態スナイパーはやってのけてしまった。入間隊員の活躍もありチームも勝利、7位に上昇してます。とんでもない逸材がボーダーにはいたようですね。間違っても彼の真似はしないことを強く勧めますが」

 

「こ、今後の柿崎隊に期待……期待?警戒していきましょう、今1番怖いチームです」

 

 

2連勝。B級中位を盤石なものとする一戦に勝利した柿崎隊。個々の力もチームとしての総合力も劣っていたが、影浦のサイドエフェクトをわざと誘導し王子達にぶつけて勝利した。影浦はワクワクしながら戦う事に望んでいる、その特性も利用した事で、ギリギリとは言え勝利を掴めていたのだ。

 

そんな勝利をした彼等の部屋では。

 

「何で私たちもこんな扱いなんですか……?」

 

照屋が絶望に浸らされていた。

 

「[近接スナイパー入間武人、なぜスナイパーなのか徹底考察][柿崎隊異様な狙撃手、その狙いとは]か……照れるな」

 

一方でこの前行われたランク戦についてのボーダー内で発行されている記事を見て、その元凶は優雅にコーヒーを啜っていた。なおコーヒーに大量の蜂蜜が注がれておりもはやコーヒー風味の蜂蜜を飲んでいるのと変わりないだろう。

 

どうやら頭どころか味覚も壊れているらしい。

 

「隊長、何でこの人こんな変態なんですか!?」

 

「な、なんでだろうな……」

 

隊長であり同期であり、長い付き合いの柿崎ですら分からないのだ、誰も彼の考えなぞ分かるはずもない。

 

この前試合でクソエイムスナイパーとして名を馳せてしまった入間は、近接スナイパーとしてスナイパーの合同演習ですら近接スナイパーで挑んでいる。

 

もはや奇才や異端児どころの話ではない、天災である。なお本人も自称している『天災型スナイパー』と自称している。この世になぜ生まれ落ちてしまったのかを考えてしまうレベルだ。

 

「一応アイビスを使う理由はあるぞ?秘密だけど」

 

「アイビス以外に使うつもりとかは?」

 

ライトニングとイーグレットという有能でかつポピュラーなトリガーは存在する、アイビスは玄人向けのスナイパーライフルであるのに対して二つは圧倒的に扱いやすいのだ。

 

しかし、なぜか使わない。

 

「ない。というかアイビス以外は軽過ぎなんだよ、振り回すと扱い辛いし25mすら外した。もうスナイパーはアイビスしか使えない体らしい、許してくれ」

 

だが残念な理由があった、そこはせめてまだ「使う気はない」と言うのであれば説得(強制)してスナイパーとして頑張らせたかったのだが、今の状態が最高値ならばもう無理である、彼は凸砂しか出来ない体なのだ。

 

「隊長、やっぱりこの人おかしいですよ。人間のネジが外れまくってます」

 

「逆にネジだらけだったり?」

 

「悪徳電化製品じゃないですか」

 

柿崎隊のA級への道はまだ、始まったばかりである。

 

そう、こんな状態でもまだ始まったばかりなのである。彼らの心労は計り知れないものとなるだろう。

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