柿崎隊A級化計画 作:札幌ポテト
柿崎隊が新シーズンを終え、各々が力を付けている。次のシーズンこそはランクでより良い成績を出すために、皆がちからをつけている。
照屋は小南に限らずに様々なアタッカーと戦う為に個人ランク戦に没頭し、虎太郎も同様にオールラウンダーに至る準備をしている。そして隊長である柿崎は常にチームランク戦を視聴してその知識量と対応力を磨き続けている。
皆が皆、備える時期であると認識していたのだ。
一方その頃、入間はーー
「この馬鹿が迷惑をかけてるようね、大丈夫かしら」
ーーとあるオペレーターにボコボコにされていた。
「だ、大丈夫……ではないですけど」
「頼む虎太郎!嘘でも何でも良いから普段はいい人と言ってくれ、300円あげるから!!」
あり得ないほどに、見たことがない程に入間に余裕がない。その事に部屋にいる照屋と虎太郎は驚いている、こんな存在に天敵など存在できないとまで考えていたのだから当たり前だ。
しかもその天敵である人物、月見蓮という女性オペレーターであるのも意外な事なのだ。
「違うんだよ月見、私は至ってまともな人間だろ!?ちょっとたまにはっちゃけるだけだよ!?」
毎日はっちゃけてるだろ、とは言わないが2人は目を逸らしながら『まぁやってます』という意思を月見に伝える。その分だけ彼女の掴む彼の首根っこへの圧力もあがっているだろう。
しかし、疑問がある。
「あの、お二人はどういった関係で……」
月見蓮とはボーダー内においては有名な人物ではある、何故ならば現Α級1位である東隊のオペレーターだからだ。指揮能力の高さやオペレーターとしての能力の高さ、そしてその凛とした雰囲気と美貌からは他の女性オペレーターから羨望の眼差しを受けている。
そんな彼女が何故わざわざ、突如部屋に訪れて入間をしばきに来たのかと考えると疑問なのだが。
「彼、うちの隊長の一番弟子なの」
認めたくないように、彼女は俯きながら呟いた。
「え、えぇぇぇぇーー!?この人がですか!?」
照屋は普段、あまり大きな声を出さない。そんな彼女でもあまりの事に頭がショートしているようで、何度も頭の中でΑ級1位の隊長とB級1番の変態を見比べている。
ちなみに入間が関わると大抵は頭を抱えて大きな声も出ている。
「あの腕で東さんの弟子なんですか!?え、あの腕で!?なんで??」
「言わせんな恥ずかしい」
本当に恥ずかしいのはお前という存在だよ、とは言わないが虎太郎ですら現実を受け止められないようだ。
東春秋はボーダーの古参であり、スナイパーの伝道師、そしてやはりA級1位の隊長というのが誰でも知っている情報だからだ。その一番弟子と聞いて目にしているスナイパーの腕に違和感があり過ぎている。
「はぁ……、アイビスを振り回してるのは良いとしてもチームメイトにまで迷惑をかけて、言うことがあるわよね」
「す、すいませんでした……でも私ってアイビス振り回す以外でそんな悪いことしてる?」
「してないわけないでしょ、そうね?」
むしろそのパターンで今回は来たと言った様子だ。彼女としてはアイビスを振り回すことそのものは咎めていない、真に咎めているのはその行動だろう。
恐らく、何かしらの確信を持っている。
「……先月の他チームと合同で行った防衛任務での苦情。内容としては誤射が怖いので撃たないでほしいという件ですが、ついでに銃声でオペレーターの声が聞こえない時があるとも」
「いや、その……敵の数が多かったら球数も増えるし……待ってくれ月見!まだ私の有罪は決まってないだろ!?」
基本的にボーダーは防衛任務をしている。その防衛を行う時はチームで行うのだが場合によってはチームが複数で行う場合もある。特に入間は防衛任務を他チームと組んで行う場合もあるのだが、スナイパーとして役立たないという話が良く出てくる。
かと言って近接スナイプをしていても色々とクレームが出てくるのだ。
「次に私達が変人チーム扱いされてる件ですね。KillClip集として勝手にボーダー内部に流通させた、今シーズンランク戦での近接スナイプ動画……のせいで現れたスナイパー志願者について、正統派のスナイパー達から苦情が」
「最近、奈良坂の目が冷ややかだったのはそのせいか……いやでも私は流しただけで悪くないだろ?広報が欲しがってたから作っただけで、スナイパーに人集めたのは感謝し……いや、ほんとすいませんでした。深く反省します」
いつもなら最後まで屁理屈をこねまくる入間なのだが、何故か月見の前では萎縮しまくっている。余計に怒らせるだけという事を、何の意味もないと頭に刻みつけているらしい。
一応動画はC級に対して参考となる動画があればと広報が募集しており、有志の手で作られた物を出来は良かったので採用されてしまったのだ。
なおその動画は暇だから作ったというが、作るからにはと凝ったものをと宇井を巻き込んで作っている。ちなみ嘘をうつしてはいない、ただスナイパーの上振れを集めた動画を出しているので勘違いはさせてしまうだけである。
無論それが問題ではあるのだが。
「最後に……」
「まだあるの?!もう流石に心当たりないんだけど??」
月見の表情がどんどん悪くなっていく、今までの二つはまだ理解している側面もあるので「今後は気をつけます」で逃げ切る考えもあるかもしれないが、本当に心当たりがない。何をしたのかと耳を傾ける。
「最後に研究室から。顔だけは良いし、手広く手伝って貰えるし研究中は真面目な事からその毒牙に女性陣がかかる前に出入り禁止して欲しいと匿名での署名がいくつか、ですね」
「それに関してはまったく悪くないだろ!?」
入間はある理由によりトリガー開発や研究での関係で引っ張られる事が多い、個人ランク戦はあまりしないが実は多忙な人間なのだ。しかし研究の時はたまに変なトリガー開発案を出す以外は真面目にこなしている。
普段の彼を知らない者からすれば『真面目』な『好青年』でかつ『顔が良い』という存在だ、オペレーターや隊員達とは雲泥の差で好感度が高い。
それ故に、普段の彼を知る者からすれば憂いてしまうのも仕方がないのかもしれない。
「まぁこんな馬鹿を好きになる人間は、この世に居ないとは思うけど……確かに由々しき事態だわ」
「由々しき事態は研究者たちの社会性とか倫理観だろ!?え、流れが怖いんだけど。嘘でしょ?」
だが総合した結果、裁判の結果はやはりといった所である。
なお前回はとある餅好きの男と共にきな粉餅の粉を撒き散らしてしまい、痛い目を見ている。その時の目を、今もしている。
「月見さん?マジで言ってるの!?おま……私を敵に回すと大変な事になるぞ!?あの時の仕返しでセミをくっつけたのそんなに怒るか!?」
虚勢のつもりか、しかし体は情けなくビクビクと震えており心なしか表情も青白い。思い出しているのだろう、心と体に刻まれているのだ。もはや抵抗する力も湧いてこないらしく、ズリズリと扉の方へ引き摺られていく。
「安心しなさい、その反骨心を今度こそ折ってあげる。後はあれは絶対に許さないから」
「嫌だ、太刀川殴って満足しとけよ!前でも折れかけてたんだから諦めてくれよ!!頼む照屋、虎太郎、助け……!!」
「あ、しばらく返さなくて良いんで」
「月見さん、よろしくお願いします」
「裏切り者があぁぁぁぁぁーーー!!!」
そのままどこかへの引き摺られて、入間は消えていった。
思えば常に何かしら変な話を聞いたり変な特技を見せられたりとたまになら見聞きしても良いレベルの濃いイベントが常に発生していた気がする。
1人の男が消えるだけでここまで隊室が平和になるとは思いもしなかっただろう。
なおこの2週間後、ボーダーのとある隊室にてゴギブリのおもちゃが大量にばら撒かれたのは別の話である。
真理の扉に連れてかれる感じのイメージ
最近はProject:;COLD って謎解きミステリーをやってます、おすすめです。