柿崎隊A級化計画   作:札幌ポテト

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8話 邂逅する2人

「1人なら、俺とやらないか」

 

「……そうだな、助かるよ」

 

「柿崎だ、よろしく頼む」

 

ボーダー入隊から1ヶ月ほど経った頃か、入間は合同訓練に現れた柿崎とここで初めて会った。ちょっと浮いていたというのもあるだろう、しかしそんな中で声をかけてきた

 

「どうした、顔に何かついてたりするか?」

 

知った顔だ、正確には一方的にではあるが。柿崎国治、記憶では元嵐山隊でありB級ランク戦で主人公チームの新戦術によってボコボコにされた部隊の隊長である。

同期という事も頭の中には無かったし、名前を聞いて初めて入間は彼を認識した。

 

「いや、入間武人だ。ポジションは試し中だけど将来的には影の実力者を目指してる」

 

「か、影の実力者……?」

 

「強くなりたいってぐらいの認識でいい」

 

こんな事をいうので浮いているのだが、本人は気にしていない。だがインパクトの大きさで言えば、最高の印象だろう。影の実力者を名乗るのは『そんな奴いたな』と記憶に残させる為だ、本気で狙っている割合は2割もない。

 

「どこの高校なんだ、高校生に見えるが」

 

「いや、高校は行ってない。まぁ行く気もないけど」

 

「それは不味いんじゃないか?親御さんも心配するんじゃ」

 

ボーダーが若い隊員を求めるのは、トリオンを扱う兵隊として育つのが最も適している時期だからだ。若い時にこそトリオン能力は育つ、それ故に元傭兵をメインで集めるような事はしていない。

 

しかし学業は重要な項目だ、それを態々捨てるのも良い顔はされないだろう。高校の卒業資格は持っておくという考え方は一般的な考えである、そういう人間だからこそ周りの人間も近寄り難いのかもしれないのだが。

 

「生憎と、親は居ないからな」

 

「それは……すまん、この前の侵攻でか……」

 

ボーダーに入る人間は基本的には2種類いる。復讐か、義憤かだ。侵攻により多くの人間が命を落とし、連れ去られてしまった。柿崎も義憤によりここに来た人間ではあるのだが、学校を辞めてまで入るという考えはそもそもなかった。

 

「元から居ないから気にするな。まぁ孤児院だから行かない方が色々楽な事もあるし、トリガーに適正皆無だったら流石に保険はかけてたかもしれないけど」

 

ただ、行く理由も無かったのだ。ボーダーに行く理由とやる事はあるが、最悪は前世の知識があるので、卒業認定を後で取れば良いという考えもあるのだろう。しかしそれを知らない者からすれば、相当な覚悟を持った人間に見える。

 

「なら、ボーダーでこれから?」

 

「もちろん、定年退職する予定」

 

「50年も居座るつもりなのか……」

 

ボーダーに骨を埋めるまでの気持ちでここに入ってこれる人間は少ない、なぜならここがどういう場所かも皆わかっていないのだから。そんな中であっさりと『最後まで戦う』と言われたのだから、意識の差を感じても仕方ないのかもしれない。

 

 

入間と初めて会った柿崎の第一印象は『自分という柱を持つ人間』である。基本的にブレない、周りからどのような評価を受けていても自分の行動に筋が通っているならと変える事がないように見えた。

 

現にまだ皆が手探りの状態であり手を繋いで道路を渡っていく中、1人だけ足踏みをせずに飛び込んでいく。車が通っていないと分かっているのか、その先に誰よりも先に向かいたいのか、とにかく行動力という点では皆の目によく映り込んでいる。

 

「じゃあ今度は私から、なんで話しかけてきたんだ?」

 

そんな彼が、柿崎に対してそう思うのも仕方ないのかもしれない。

 

「私に話しかけてくる奴って基本居ないんだよな、嵐山ぐらい?まぁ私が話しかけてるのは才能が見える奴ばっかだけど」

 

見える、とは言うが成績という意味だろうか。確かに入間は戦闘試験を除けば常に高い順位を保っている。戦闘試験に関してはスナイパーという特性上評価はされていないので成績上位者に名前は並んでいない。

 

だが柿崎が話しかけたのはそんな理由ではない。

 

「周りが変な奴って言うけど、同じ仲間だろ。自分の目で判断したかった」

 

何かネジが外れてるとか、常識がないとか言われてはいる。最初の試験でトリオン兵の口に飛び込んでスナイパーを撃ったりと奇天烈な奴ではある、しかしそれだけで中身を判断はしたく無かったのである。

 

自分の価値観を持って、相手を知る。それが必要な事だと考えているのだ、故に少し浮いていた入間に接触したのである。

 

「柿崎、お前良い奴だな。私みたいなやつ、普通は関わらないだろ」

 

これが2人の最初の出会いである。なおこの時に『こいつが隊長だと信頼できそうだな』と勝手に部隊に入る事を心に決められているとは、柿崎は知る由もなかったのである。

 

 

入間が隊室に入った時、異様な雰囲気があった。というか沈黙、皆が頭を悩ませているのがすぐに分かった。

 

「……どうした、珍しく慌ててるな」

 

自分以外の4人全員が頭を抱えているのは珍しい、何かがあったのだ。そしてそれは柿崎が答える。

 

「新しくB級で3チームが増えた」

 

3チーム、つまり今は全部で18チームがB級には存在するという事である。その分少なからずΑ級に入るための門は狭まったという話ならば、そこでは頭を悩ませないだろう。

 

何故なら上位層は基本的に変わらないからだ、特に新設チームが3つ増えたとしても良くて中位層止まりである。それだけレベルが高いのだ、故に悩む理由に想像はつくのだが。

 

「東隊、二宮隊、三輪隊だ」

 

「……マジか、でも加古は?」

 

「来シーズン辺りからぼちぼちだとさ」

 

「メンバー探し中ね……今シーズンで上がらないとマズいかもな」

 

その名前を聞いて、最悪な状況であると察する。親切チーム3つ、これはA級一位部隊が解体されてリーダーを務める部隊であり、それぞれの能力は間違いなくB級上位には食い込んでくるだろう。

それだけΑ級での経験や本人達の実力は高い、対応できる人間もB級にはそこまでいない。

 

特に二宮という男は規格外だ、入間が最も戦いたくない隊員は誰かと言われればチーム戦では東であっても、個人では圧倒的に二宮である。単騎での戦闘力は柿崎と虎太郎の2人がかりでも不利がつくレベルだ。

 

ただ唯一、救いはある。

 

「最初は互いのポイントを食い合うだろうし、それまでにポイントを突き放しておきたいな」

 

3チームが同時期に入る事で、ぶつかり合った際に大きなポイントを取れず上位にまで来るのに時間がかかる事だ。それを加味すれば今シーズンに彼らがA級に上がるとは限らない。

 

「となると、当たることの多い弓場隊の勝ちが必須ですね」

 

「影浦隊もね」

 

影浦隊については一応有利が取れている、人数的な差が大きいだろう。対して弓場隊との戦績はあまり良くない、前シーズンでは勝ち切る事が出来ない試合が多かった。

 

弓場の対面力の高さは突出してるが王子もそれは高い、そして他2人の支援能力も高く侮れない。これを崩す事が恐らく、弓場隊攻略の鍵となるだろう。

 

「逆にこの中でA級に上がれれば……」

 

しかし、この状況はある意味挑戦の場とも言える。この中で勝ち切れれば間違いなく、そのチームはA級に相応しい力を持っていることになる。

 

チーム結成からおよそ1年、個々の力を高め、チームとしての連携も高めてきた。入間のスナイパーとしての癖も全員知っているし、柿崎のオーダーの傾向も理解しており、虎太郎のカバーしやすい位置も知り、照屋がどこまでの相手とどの程度の距離感で戦えるかも分かっている。

 

「照屋、虎太郎、それに宇井も……話す事がある」

 

だからこそ、ここで決意をする。

 

「今シーズンでAに上がる、その為に……」




実家はないのに実家に帰る
→1ヶ月何をしてたのか
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