ヤンキーボーイ・ヤンキーガール   作:鯖太郎

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葛葉

 剣持さん達の喧嘩を目撃してから数日経ちましたが剣持さんは特に私に対してアクションを起こすことも無く、これまでと変わらず朝挨拶をして、それ以外深く関わることの無い関係は続いていました。

 まあ、優等生を装ったヤンキーと私のような文化部所属の普通の生徒に深い関わりなんてある方が珍しいですけどね。

 

 少々話が変わるのですが、最近知ったのですが葛葉さんって隣のクラスらしいですね。

 この前廊下を歩いていたらあの特徴的な声が聞こえてきたのでそちらの方向を見ると、あまり見かけたことの無い優しげな雰囲気の方と親しげにお話していました。

 私結構情報通と言いますか、まあ私に限らず女子というものは噂好きな生き物でして、誰と誰がデートしてただとか誰々が他校の生徒と付き合ってるだとかそういう話ばっかりしてるんですよね。

 それでも、葛葉さんって噂話が全く入ってこなくってたまに流れてくる噂も根も葉もない眉唾物ばかりなんですよね……謎の多い人です。

 

 何より一番私が気になっているのが、あの時白髪だった髪の毛が真っ黒になっていたことですね。

 あの路地裏で目撃した時と同じ髪色ではなかったので、一瞬どなたか本当にわかりませんでした……学校来るために黒に染め直したんですかね? 

 よくわからないですが、葛葉さんは病弱だから学校を休みがちである、という話は嘘でしょうね。あんな切った張ったの大喧嘩をする人が病弱なわけないですから。

 なにか休みがちなのも理由があるんでしょうか? いやー、少し知っただけなのに次から次へと疑問が出て来てしまいますね……

 

「んー……気になりますね」

 

「やっぱり気になるよね! どこが具体的に気になった? 私はやっぱり張った巣が帯電してるってとこかな!」

 

 あ、声に出ちゃってたみたいですね。失敬失敬。

 

「いえ、なんでもないです。独り言ですからどうぞ続けて貰って大丈夫ですよ?」

 

「みんなで話してる時にいきなり独り言しないでよ……」

 

「多分ですけどみんなで話してないですよね? 1人で虫の生態について熱く語り始めたので放置してたんですけど」

 

「え、みんな聞いてなかったの? 私のクモ可愛いって話」

 

 友人たちが口を揃えてへぇー、そんな話してたんだー、と答えます。私もその1人ですね。

 まあ、いつもの事ですしトリップし始めたらほんとにノンストップで生き物について語り始めるのでこうなったらいつも適当に相槌打ちながら流してます。

 当の本人も話すだけ話したらいつも満足して落ち着くので。

 

「そういえば葛葉さんって皆さんご存知です?」

 

 ついでと言ってはなんなのですが、ちょっと情報収集してみますか。

 

「え、もしかして気になってるの? やだー! いっつも1人だったのについに春が来たのね……」

 

「違います! たださっき見慣れない方と一緒に居たので……心当たりあります?」

 

 腹の立つ後方オカン面されたので蹴りを入れつつ。

 

「え、葛葉くん誰かといたの? 誰? 気になる!」

 

「そもそも葛葉くんちゃんと見た事ある?」

 

「確かに外見パッと出てこないね……」

 

 ご友人達が口々に話していますがどうやらこの様子だと望み薄ですね……まあ私の情報源がほとんどこの方たちで、今まで葛葉さんのお話にならなかった辺りあまり期待はしてなかったのですが……頼るべきは自分ってことですかね。

 まあ、自分で始めた話なのでひと通り先程見たことを話しましょうか。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 あの後ひと通り私が廊下から見た光景についてお話して皆さんに何か知っていることはないかと聞いてみたものの、やはり有意義な情報は得られず、そして葛葉さんと一緒にいた謎のゆるふわ系の方も一切情報が出てきませんでした。

 情報が出てこない、と大それた言い方しましたけどただ単にあの3人が知らなかっただけですけどね。

 とは言っても私はともかくご友人達は交友関係が広いので知っていてもおかしくないのですが……同じ学年じゃない方なのかもですね。それでしたら知らないのも無理ないかもしれません。

 

「知りたい欲求と何となく近づいたら危なそうっていう警戒心との戦争ですねこれは……葛葉さんに近づくのなんだかめちゃくちゃ危ない気がするんですよねー……なんて言うんでしょう、襲われそう、とかもっと悪い人たちに絡まれそう、みたいな単純なものじゃなくって……うーん……」

 

 言葉にするのが難しいんですけど、私の理解の及ばないような目に遭う? というか常人じゃないような気がするんですよね……おとぎ話に出てくるような存在、と言うとまたちょっと違うのですが。

 まあ、本能が知ろうとしてはいけない、深入りしては危険だ、って警鐘を鳴らしているような気がしてならないのです。

 

「危ないかもしれませんがちょっとまたあの路地を通ってみましょうかね……いや、でもいつ彼らがいるとかは一切分からないですしどうやら危険な場所みたいですし……どうしたものでしょうか」

 

 これ以上部屋でうじうじ悩んでも進展もなさそうですし、仕方ありません、気分転換にちょっとお散歩にでも出かけましょうか。

 何かいいアイデアが降って来ることを祈って。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いやー、完全に私やってしまいました……少し悩んでたとはいえですよ? 

 

「ぜんっぜん気づかなかったですけど今3時前じゃないですか……」

 

 女子高生が出歩くにはあまりにも不健全かつ不安すぎる時間ですね。

 先程葛葉さんについて超常的な恐ろしさがあるといいましたがこれはただ単に治安的に恐ろしいですよこれ。

 可愛い可愛い女子高生の私がこんな時間に公園のベンチで1人座っていたらそれはもう何に巻き込まれても自業自得って言われても仕方ないレベルですね。

 

 どうしましょうか……考え事しようかと思いましたけど流石にこの時間に出歩くのはいくら私が非日常が好きとはいえ事件に巻き込まれるのはご勘弁願いたいですしね。

 思わぬ形ですが、夜中のお散歩も切り上げてさっさと帰りましょうか。

 

「えっと、どっちでしたっけ?」

 

 考え事しながら歩いてきたせいで帰り道の検討が全くつかないんですけど……!? 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 真っ先に私が取った行動はスマホの地図アプリを利用して帰宅ルートを検索する、という手段でしたが電池が切れているのか液晶には何も写されませんでした。

 

「おかしいですね……充電してたはずなんですけど」

 

 帰ったらいつも充電コードに刺しますし、先程家を出てくる時にコードを抜いた記憶はあるんですが……ライトでもつけっぱなしになってたんですかね? こうなってしまってはもうどうしようも無いので私がここに来るにあたって通ってきたと思しき道を辿るしかありませんね。

 と思って歩いたはいいものの一向に景色が変わりません。流石に私でもそろそろ怖くなってきましたよ? だって進んでも進んでも同じ家が繰り返し現れるんですもん。

 50mほど歩くとある路地の所まで戻され、20分ほど同じ通りを何周もしていました。途中から楽しくなってずっと歩いてましたけどそろそろ疲れましたね……こんなこともあろうかと常にとある神社で買った御札を携帯していたのですが、今が使い時でしょうかね。

 

「さて、効果のほどはいかがでしょう……かっ!」

 

 使い方もよく分からないので右手に御札を乗せ、戻される境界の空間の辺りに思っきり叩きつけましたが……

 

「っと……まじですか」

 

 強い抵抗があってまさか跳ね返されるとは思わず危うく尻もちをつきかけましたが、もう大体の要領は掴めましたね。

 先程跳ね返された空間に向かって押し込むように御札を押し込むと、やはり強い抵抗はありますが10秒ほどそれを続けているとパリッという小気味よい音がして抵抗がなくなり前のめりにっ……!? 

 

「おおっ!? っと……ん? あれは……」

 

 何とか私の素晴らしい反射神経で堪えましたが、その結界の中には葛葉さんと思しき人影が見えますね……あれは恐らく葛葉さんであってますかね? というのもあの日路地で見た姿でも今日、日付的には昨日学校で見た姿でもない葛葉さんに似た豪華な、と言うよりも高貴な姿というのが合っているんでしょうか。

 ただ体格や顔の形の雰囲気が著しく似ていますし、あの葛葉さんの放つ独特のオーラが今までの何倍もの濃度で感じます。そして何よりその煌びやかな衣装は返り血に染まっていました。

 足元には月明かりに照らされて血溜まりが鈍く、そして淀みながら光っており、その中央には羽の生えた異形の人型が力なく倒れており、異常性をこれ以上なく明瞭に示していました。

 

「あれは一体なんなんですか……っ」

 

「あ?」

 

 やばっ……いですね……思わず口をついて出てしまった言葉が葛葉さんと思しき男性の耳元に届いてしまったみたいです。

 反射的に電柱の影に隠れましたがここから1歩でも動こうものなら見つかってしまいますし、じっとしていてもこっちに来られたら見つかるでしょう。

 ……あれ、私、詰みました? 

 足音が少しずつ大きくなってきて葛葉さんらしき人影が徐々にこちらへ向かっているのを感じます。

 もうこうなったら先にこっちから招待明かした方がいいんですかね? いや、だからどうなるんですかって話ではあるんですけども……0距離で面と向かいたくないじゃないですか……いや、でも…………あ、そういえば私制服から着替えてないですし同じ学校の制服って事で見逃されたりしないですかね……しないですよね……

 

「「あっ」」

 

「いや、違うんです、そんな葛葉さんの秘密を暴こうだなんてこれっぽっちも思ってなくってですね、ただちょっと色々気になることがあって悩み事を解消しようと思って公園で考えよう! と思ったわけなんですけども、いつの間にか時間の方がとても遅くなってしまっていて私としても帰らなきゃ! と思ったわけなんですよ、ええ。そしたら何故か同じとこをぐるぐるしちゃって、仕方ないので私の持ち歩いてた御札を使ったらですね、たまたま入れちゃったみたいでして。そうなんですよ、そうしたらですね、何故か路地裏で見た時とも学校で見た時とも違う姿の葛葉さんがいらっしゃって、しかもその下に血みどろの羽の生えた方がいらっしゃるじゃないですか! で私混乱しちゃって、そもそもなんで今とかこの前は白髪だったのに学校では黒髪なのかな? とか……」

 

 やばいやばいやばいやばいやばい! 何とか頭をフル回転してとにかく私は悪くない、敵対していませんよ、ということを全力でアピールしなきゃ……! 

 

「ッお前ェ……」

 

 徐々に葛葉さんのお顔が赤く染ってもう耳までも真っ赤に染まってます! 私、完全に怒らせちゃったみたいです……あぁ……私の長い人生設計もこれで全て水の泡ですね……17年という短い人生でした……象用の麻酔銃で打たれても倒れないような胆力のある素敵なダーリンとキャッキャウフフな……

 

「お前ェ……お前マジでお前ェ!!! お前ェェ!!!!!」

 

 ……あれ? 一向に葛葉さんが何もしてこないと思って顔を上げると葛葉さんは顔を真っ赤にして目に涙すら浮かべながら歪めた顔は怒りにでは無くこれは……羞恥ですね。

 どうやらこちらに害意はないようですしお話してみましょうか。

 せっかく葛葉さんのことを知れる機会かもしれませんしね。

 

「こんばんは葛葉さん……であってますよね?」

 

「ッスー……いや、そのォー……ハイソウデス」

 

 大丈夫そうですね、どんどん行きましょう、今が攻め時です! 

 

「2、3ほどお聞きしたいことがあるんですがよろしかったですか?」

 

「あっ……はい、大丈夫d……」

 

「ありがとうございます、では早速1つ目なんですけども、葛葉さん今髪の毛長いですし白髪じゃないですか、でも前路地裏で喧嘩してらっしゃいましたよね? その時は白髪で短髪でした。そして今日学校で見た時に至っては短髪な上に髪色が真っ黒でしたよね? その髪の毛ってどういう仕組みになってるんですか? あ、いや、その前にそもそもなんですけど葛葉さんって種族的には何になるんですか? 明らかに人間じゃないじゃないですか。あのーざっくりで大丈夫なんですけども、まあもちろん詳しく教えて頂いても全然嬉しいのですが……

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後根掘り葉掘り葛葉さんに対して思いついた疑問を全てぶつけ続けているともうすっかり日も昇っていました。

 いやー、しかし吸血鬼がこんな近くにいるとは思いもしませんでしたね。

 葛葉さんが吸血鬼という事実に興奮してしまってものすごい勢いで質問し続けていたのですが、今葛葉さんを鏡に写したらぼんやりとしてるんじゃないですかね? もう疲労困憊を全身で表していました。

 ちょっと申し訳なかったですけど私の好奇心を刺激してしまったのでこうなってしまったのは仕方ないですね、はい。

 ただどれだけ聞いても普段から集まっている不良グループ? 喧嘩集団? まあ、あの剣持さん達の集まりについては何も教えてくれませんでした。

 自分の秘密を教えたとしても仲間のことは教えない、彼の中で譲れない部分があるのでしょうね。

 結局今日は一睡もする時間なんてあるはずもなく徹夜で登校する羽目になってしまったのですが、眠気なんてあるはずもなく、剣持さんの時と同じように、いや、それよりも遥かにこの大きな衝撃は頭から離れることはしばらくなさそうですね。

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