マイティ・ソーが北欧異聞帯を攻略するようです 作:ドレッジキング
スカンジナビア半島全域を巨大な嵐の壁が覆い尽くしたというニュースはたちまち世界中に広がった。ニック・フューリー率いるS.H.I.E.L.D.はスカンジナビア半島に出現した巨大な嵐を調査するべく、調査隊を派遣したものの、嵐の壁はクインジェットはおろか、ヘリキャリアの侵入さえも阻んでしまったのだ。フューリーはこの嵐の壁を突破するにはソーの力が必要だと考え、オクラホマにあるアスガルド城へと向かい、ソーと交渉する事となった。
アスガルドは先のオズボーン率いるアベンジャーズやH.A.M.M.E.R.、オズボーンが雇ったヒーローとは名ばかりのヴィラン連中との戦いで崩壊状態だったが、ソーはフューリーの要望を直ぐに受け入れてくれた。というのもソー自身、スカンジナビア半島に出現した巨大な嵐の壁の事が気になっており、フューリーの依頼がなくとも自分とウォリアーズ・スリーと共にスカンジナビア半島へ赴くつもりだったからだ。かくしてソーとウォリアーズ・スリーはヘリキャリアに乗り、スカンジナビア半島を覆う巨大な嵐の壁の前まで来た。自分達の眼前に広がる嵐の壁の大きさに圧倒されたファンドラルが思わず息を飲む。
「我が君ソーよ、ご覧ください。これが……ストーム・ウォールですか?」
「ああ、そうだ。この半島を覆う巨大な嵐の壁…。我の持つムジョルニアの力でなければ通る事ができぬようだ」
ソーは懐から自分の得物であるムジョルニアを取り出す。この嵐の壁はS.H.I.E.L.D.が誇る兵器の数々を以てしても突き破る事ができなかったのだ。だがソーの持つムジョルニアであれば話は別だった。
「この壁の向こう側がどうなっているのか確かめたい。この嵐の向こうにスーパーヴィランがいたとするならば、無辜の民が犠牲になろうぞ」
ここまでの巨大な嵐の壁を構築できるようなヴィランは限られているが、それでも何人かは思い当たる。強大なコズミックパワーや魔術の使い手であればこのスカンジナビア半島全域を覆う巨大な嵐の壁を創造する事など容易いだろう。ソーはムジョルニアを天に掲げ、天から雷を呼び寄せる。何億、何十億ボルトあるか計測不能な程の巨大な雷が天から降り注いだかと思えば、ソーの持つムジョルニアに吸収されていき、雷の力を用いたソーはムジョルニアを振り上げると眼前にある巨大な嵐の壁目掛けて轟雷を放った。オメガ級ウェポンであるムジョルニアの力は想像を絶しており、星すらも砕く力がある。北欧最強の雷神の一撃を受けた巨大すぎる嵐の壁に、直径数メートル程の穴が開いた。
「ファンドラル、ヴォルスタッグ、ホーガン、我に掴まれ」
ウォリアーズ・スリーにそう命令すると、三人はソーの身体にしがみつく。そしてソーはムジョルニアの力を用いて飛行し、嵐の壁にできた穴目掛けて突っ込んでいく。音速を遥かに超えるスピードで嵐の中を進んでいくソーとウォリアーズ・スリーはようやく嵐の壁の向こう側へと出る事ができた。嵐の壁を突破した四人はそのまま地面へと降りる。どうやら平野部に降り立ったようだ。ソー達の眼前には辺り一面の銀世界が広がっていた。
「……信じられぬ。今は北欧でさえ冬の季節ではない筈だ。なのに何故このような雪原に覆われておるのだ?」
ヴォルスタッグは目の前に広がる雪景色を見て首を傾げる。嵐の壁の外はまだ9月になったばかりであり、北欧といえどもこのように雪に覆われる季節ではない筈だ。しかし現にこうして一面の雪景色が広がっている。まるで北欧神話の世界に迷い込んだかのような感覚に陥ったウォリアーズ・スリーだったが、ソーは冷静であった。このような現象を起こせる存在は珍しくない。所謂『現実改変』を用いれば季節を変える事など造作もないからだ。アベンジャーズはこれまで強力な現実改変能力者と戦ってきたが、このスカンジナビア半島にも現実改変能力を用いるヴィランがいるという事だろうか?
「……魔力に満ちておる。しかも相当に強力な」
ソーは自分がいるこの雪に覆われた銀世界が魔力に満ちている事を感じ取った。アスガルドでも魔術は一般的だし、自分の義弟のロキは魔術にかけては天才的だった。現代の北欧においてここまで魔力に満ちている場所など限られているし、その魔術を行使できるのは北欧に一人しかいない。ソーがロキの名を口にした時、ウォリアーズ・スリーはロキという言葉に反応した。
「ロキ!?ロキだって!!?」
「ロキだと!あのロキがここに来ているのか!」
「だがロキは…オクラホマでの戦いで命を落としております」
確かにロキはオクラホマで行われた戦いで命を落としている。ロキはヴォイドに全滅させられたアベンジャーズのメンバーを復活させたものの、ヴォイドの攻撃によって致命傷を負い、そのまま死亡した。ロキが生きているなど考えられない。
「我が君よ、とりあえずこの周囲を散策してみるのは如何でしょう?半島で暮らしている無辜の民の生き残りがいるかもしれませぬ」
ファンドラルの進言もあり、とりあえずソーは雪に覆われ魔力に満ちたこの世界で生き残った人間がいないかどうかを調査する事にした。ソーとウォリアーズ・スリーは徒歩で周囲を散策し始める。この魔力に満ち溢れている空間は神話の世界を想起させた。地球における北欧神話の発祥地たるこの北欧世界が今こうして銀世界と化している。否、単に雪で覆われた世界というだけではない、遥か遠方に見える白い山嶺の向こう側に青い炎が浮かんでいるのだ。山と比較してあの規模の炎となれば相当巨大な筈である。それに異常な部分はもう一つあった。
――――空に浮かぶ太陽である。
ソーとウォリアーズ・スリーは空に浮かぶ異様に大きい太陽を見上げる。しかも宇宙空間の手前辺りに浮かんでいるのだ。明らかに普通の天体ではない。
「なんだあれは……あんなものは見たことがないぞ」
「山嶺の向こう側に浮かぶ青い炎といい、空に浮かんでいる出鱈目な太陽といい、この世界はやはりおかしい。魔術に長けた存在が創造した異世界なのであろうか?」
ヴォルスタッグは自分達がいた世界とは余りにも異なる世界に戸惑いを隠せない。ソーは先程から感じる違和感に気付いていた。
「……どうやら我は招かれざる客人のようだな」
「我が君よ、それはどういう意味でしょう?」
「見ろ、この世界の者達を」
ソーは自分達が歩いてきた方向を指さすと、人が歩いてきた。否、人ではない、巨人である。数メートルはあろうかという複数の巨人の群れがソーとウォリアーズ・スリーに向かって近づいてくるのだ。しかも巨人達は顔に仮面を付けている。しかも明らかにこちらに敵意を向けているではないか。
「ぬぅ…!?ここはヨトゥンヘイムなのか!?」
ヴォルスタッグは自分の得物である剣を抜く。アスガルドは昔からヨトゥンヘイムに暮らす霜の巨人達と抗争を繰り広げていたが、まさか自分達に迫ってきている仮面を付けた巨人達もヨトゥン族だというのか。
「どうやら戦うしか無いようだな。我らとて巨人共の相手は慣れている」
ホーガン、ファンドラルも自分の得物の武器を抜いて構える。そして巨人達は勢いよくソーとウォリアーズ・スリーに向かってくる。巨人の数は十体前後といった所か。
「ふんっ!!」
ホーガンは巨人の一体に強烈なパンチを喰らわせる。巨人は吹っ飛んで地面に倒れ込む。
「せいッ!!!」
ファンドラルは別の巨人に蹴りを叩きこむ。その衝撃で巨人は木に激突する。ファンドラルは木に激突した巨人に肉薄すると、巨人の喉を切り裂いた。一方、ヴォルスタッグは二体の巨人を相手にしている。巨人が拳を振るうと、ヴォルスタッグは腕を交差させてガードし、巨人の攻撃を防ぐ。しかし、巨人の力は凄まじく、ヴォルスタッグは後退してしまう。一般的なアスガルド人は普通の人間とは比較にならない程に強大であり、平均的なアスガルド人でさえ30トンもの物体を持ち上げる程のパワーを持つ。ヴォルスタッグは全盛期を過ぎたとはいえ、平均的なアスガルド人よりも腕力に優れている。ヴォルスタッグは巨人の足に組み付くと、勢いよく巨人を持ち上げ、地面へと叩きつける。
――ゴォン!!
巨人が倒れたと同時に、ファンドラルがもう1匹の巨人を倒す。
――ガァアン!!
ファンドラルは巨人が起き上がる前に頭を踏みつけ、顔面を破壊する。
――バキィイイン!!!
ホーガンは武器であるメイスを持ち、巨人の頭部を粉砕した。
「これで終わりだ!むんッ!!!」
ヴォルスタッグは渾身の一撃を巨人の胴体に放つ。巨人は血反吐を吐き出しながら絶命する。
「ふう……どうやらこの世界は巨人だらけのようだな」
ソーは全滅した巨人達の死骸を見てそう呟く。この世界がヨトゥンヘイムだとすれば元々スカンジナビア半島で暮らしていた人々は何処に消えたのだろうか?しかも巨人達は全員仮面を付けている。この仮面が何なのかは分からないが、とりあえずこの世界を調査してみない事には始まらない。
「我が君ソーよ、この世界はヨトゥンヘイムなのでしょうか?元々あった世界がヨトゥンヘイムに置き換わったとしか思えませぬ」
「まだ分からぬ。だがこの世界の事をもっと確かめねばなるまい」
そう言うとソーはウォリアーズ・スリーのメンバーを引き連れて引き続き調査をする事にした。
ぶっちゃけアスガルド人って並みのヒーローよりずっと強いよね…。そういえばマーベルのソーを型月世界で召喚したらクラスは何になるだろう?