マイティ・ソーが北欧異聞帯を攻略するようです   作:ドレッジキング

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今回は邦訳もされた『ソー&ロキ ブラッドブラザーズ』の話となっております。ぶっちゃけこの本のロキは正史(アース616)とは違う世界のロキなんですが、私はこの本が切っ掛けでロキを大好きになったので、取り上げさせてもらいました。


第2話 一人ぼっちのロキ

鎖に繋がれ、自分の目の前に跪く義兄ソーを見下ろしながらロキは冷ややかに言い放つ。

 

「雷神よ、頭が高いぞ。それが敗者の取る態度か?これぞ貴様の運命。ロキ・ローフェイサンの前に跪くがいい。我こそがアスガルドの新しき正当な王である」

 

周囲には兵士がおり、ロキを一応の王とは認めているようである。彼等はアスガルドの新しき王であるロキに頭を垂れていた。

 

ソーはロキに対して無言だったそれが気に入らないロキはつまらなさそうに言い放つ。

 

「もうよい、これ以上敗者に構っている暇などないわ。アスガルドの王は忙しいのでな。こやつを地下牢に入れろ。新時代の幕開けだ」

 

ロキは部下に命じて鎖に繋がれたソーを地下牢へと連行させた。そしてロキは周囲にいる兵士や貴族に対して嘲笑を行い始める。

 

「どうした?いつまで控えておる?わが神々しさに目がくらむのを恐れておるのか?少し前までは俺の事を嫌悪と嘲りの目で見下しておったではないか…。なるほど、誰であろうと王は王、というわけか」

 

が、その時一人の少年がロキの背中に蹴りを入れた。まだ小さい子供であったが、少年は王となったロキを睨んでいた。

 

「無礼者!」

 

「お許しを!子供のしたことですので…」

 

少年の両親らしき夫婦がロキに慈悲を乞うが、ロキは少年の胸倉を掴んで言い放つ。

 

「子供ならロキの許しを得られるとでも?"ロキの許し"…。そんなものがこの世に存在するとでも思っているのか?王の事を知らんとみえる」

 

だが少年はロキの脅しに屈する事なくロキに言い放つ。

 

「お前なんか王じゃない。絶対に認めないぞ。殺したきゃ殺せ!」

 

その時、ロキは少年の言葉に自分がかつてオーディンに対して言い放った言葉を思い出す。ローフェイの息子であったロキは父親をオーディンに殺され、オーディンの養子として育てられた。

 

"お前なんか父親じゃない!オレの父親は別にいる!お前は父さんを殺した。オレは囚人なんだ。たとえ軍隊をけしかけられたってお前の言うことなんて聞かないぞ!"

 

かつての自分の言葉を思い出したロキは少年に言葉をかける。

 

「幼き者よ、他人の陰口など鵜呑みにするでない。かつては俺もお前と同じく怒り、孤独に苛まれていた。だが見よ!俺はついに成し遂げたぞ。その気概があればお前もいつの日か…」

 

だが少年はロキの言葉も空しくロキの顔面に唾を吐きつけた。

 

「…よかろう、せいぜい凡俗の道を歩むがいい」

 

ロキは少年を突き飛ばすだけでそれ以上の罰は与えなかった。ロキは幼少期から武勇に優れたソーと比較されてきた。アスガルドの神ではない巨人族の子であるロキはアスガルドでは蔑まれる存在であり、ソーは民からも愛されていたのだ。ロキはソーに対する妬みと劣等感をずっと抱き続け、やがてソーを超える為ならばどんな卑怯な手段も厭わなくなる。

 

 

知謀権謀を駆使し、様々な手段でソーや彼の周囲にいる神を陥れようとしてきた。しかしソーはそれでもなお、常に正々堂々と戦い続けたのである。ロキの人生はアスガルドの神々からの侮蔑とソーへの嫉妬によって塗りつぶされていた。誰からも嫌われ、誰からも愛される事のないロキはソーとアスガルドの神々が憎くて仕方がなかったのだ。アスガルドでは「悪魔の子」と罵られ、誰も自分を愛してはいない。自分の事など気にかけない、自分の事など考えていない。それどころか自分の事を見向きもしていない。まるで最初から「いない存在」として見られていたかのようではないか。

 

 

所詮自分はヨトゥンヘイムの巨人の子供。アスガルドの連中にとってみれば「ヨトゥン」は「悪」以外の何物でもない。「ヨトゥン」はアスガルドの神々にとっては「穢れた巨人」なのだ。神々の国たるアスガルドで暮らす巨人族のロキ…。アスガルドの神々は自分を罵り、見下す事でストレスを発散していたのではないかとさえ思うようになっていたのだ。だからこそロキは自分の野望の為にあらゆる手を使ってきた。そしてついにロキはアスガルドの王となる事ができたのだ。だが王となってもロキの心は晴れなかった。

 

 

――ローフェイサンは奴隷の子

 

――あいつは巨人族だからなぁ……

 

――あんな奴が王になって、大丈夫かしらねぇ?

 

――どうせまた悪いことを企んでいるんだぜ

 

――あんな奴は王じゃない、偽王だ!

 

――汚らわしい巨人族め……さっさと滅ぼせばいいものを

 

 

 

「黙れ…黙れ…!!」

 

ロキは夢の中で叫び声を上げる。夢の中の自分に罵られる度に腹が立ち、何度も殴りつけようとするが何故か自分の拳は届かない。目の前にはアスガルドの神々が自分を取り囲み、嘲笑と罵倒を浴びせていた。

 

 

 

 

「おい、ロキ!お前のやった事は分かってるんだよ!!」

 

「貴様は巨人共と通じ、アスガルドを滅ぼそうと企てていただろう!!」

 

「よくもまあ、ぬけぬけと言えたものよ!!」

 

「巨人共に肩入れする裏切り者め!!恥を知れ!!貴様は何せ巨人族なんだからなぁ!!」

 

「そうだ、お前のような者は王に相応しくない」

 

「貴様は王になるべきではなかった」

 

「アスガルドの恥さらしめ」

 

「消え失せるがいい」

 

 

 

 

ロキは夢の中でさえアスガルドの神々に罵られていた。例え夢の中とはいえ自分はアスガルドの王として君臨したのだ。だが夢という一種の現実逃避の空間の中でさえ自分の居場所はなかった。そしてロキは牢に入れている義兄のソーの元へ行く。自分は今王としてアスガルドに君臨している。ならば義兄であるソーにそれを思い知らせてやろうとロキは考えた。そして衛兵に連れられロキはソーがいる地下牢の扉の窓から鎖に繋がれたソーを覗く。

 

「ロキ…」

 

ソーはそう一言呟いた。

 

「どうだ兄上!俺は見事アスガルドの王となったぞ!ついに俺が兄上を超えたのだ!どうだ、悔しいか?俺が憎いだろう?」

 

だがソーはロキに対して何も言わず、ただロキの顔を見るだけだった。

 

「黙ってないで何とか言ったらどうだ!?」

 

ロキが叫ぶがソーは言葉を返さない。ロキはつまらなそうにそのまま牢を後にした。宮殿に戻ったロキは自分の寝室に戻る途中、ボールダーと会った。

 

 

「ソーの破滅を願っていたのだろう?それとも、あれはハッタリだったのか?いざ実現すると怖気づいたのか?」

 

ボールダーはロキがいつまでもソーを処刑しようとしていない事を突いてきた。

 

「何が言いたい?まさか俺が奴を殺すのを見たいのか?」

 

「ぜひ見たいものだな…本当にやれるなら」

 

「どうなろうと貴様がその目で見る事はないぞ。風の噂で聞くがよい」

 

ロキがそう言うとボールダーは小馬鹿にしたようにロキを笑う。

 

「どうせ何もできんに決まってるさ」

 

だがロキはボールダーの言葉を聞き、かつで自分がボールダーを殺そうとして失敗した過去を思い出した。

 

「そうか、かつて俺が貴様を殺し損ねたから、今度も失敗すると思っとるのだな」

 

「お前は失敗する運命なんだ」

 

「…どうしたボールダー?俺たちがこんなに長く話すなど初めての事ではないか?」

 

「その通りだ」

 

「ほぅ、気付いておったか。幼き頃より兄上とその仲間たちから冷笑され、愚弄され、のけ者にされてきた…だが貴様だけは例外だった」

 

 

"ボールダー…貴様からは全く別種の屈辱を受けたのだ。つまり完全なる無関心…"

 

 

ボールダーが竪琴を鳴らし、小鳥達が歌うのを見てロキはどうやって小鳥達に歌を仕込むのかをボールダーに尋ねた。しかしボールダーはまるでロキの事など見ていなかった。目を合わせないどころか自分の視界にさえ入れていない。まるで自分の事など眼中に無いかのように……。

 

 

"ボールダー…勇敢で輝かしいお前は万物から祝福を受けた存在だった。まさに自分とは正反対…こんな奴が少しでも目を向けてくれたら…。だがそんなことはあり得ない。こいつは俺なんかの相手をして、自分の素晴らしさを乱すつもりなど更々ないんだ"

 

 

ロキがボールダーとの過去を語ると、ボールダーは怒りに満ちた表情でロキを睨んできた。

 

 

「相変わらず真実を歪めるのが得意だなロキ。私に目を向けて欲しかった者がどうして私を殺そうとした?」

 

 

「減らず口を叩きおって…。貴様は囚人で俺は王だぞ、分かっているのか?」

 

 

 

―――――もちろんだとも、これも数ある「現実」のうちの一つに過ぎぬ。世界には無数の時間が流れているからな。

 

 

「一体何を言っておる…?」

 

 

―――――忘れたか?ホダーの矢で死にはしなかったが、ひと時、私の魂はヘルを彷徨っていたのだ。死者の国を歩き、永遠を垣間見た私は神について、さらに神すら知らぬ事について多くを学んだ。

 

 

「そんな戯言に惑わされる俺ではないぞ?」

 

 

―――――多くのロキ…多くのソー…そして多くのボールダーがいた。各々の存在は独自だが、本質は同じ1本の木から分かれた枝のごとく。それぞれの個性を持ちながら、ある種の普遍性を宿していた。

 

 

―――――オーディンの義理の兄弟であるお前もいた。巨人族の女アングルボザの夫で、ヘルの父親であるお前も。女性だったお前もいたな。彼女は8本脚の軍馬スレイプニルを産み落とすのだ。また別の話ではボールダーを殺し、アスガルドの崩壊を早め、神々の黄昏をもたらした。だが…

 

 

 

『どのロキも支配者ではなかった』

 

 

 

「黙れ!!」

 

 

―――――ロキ、お前の性質は不変なのだ。あらゆる世界でお前は争いを扇動し、境界を侵犯し、不和の種を撒く…

 

 

「うそだ!!」

 

 

―――――しかし決して支配者にはなれん。混沌の神に統治は不可能。自分でも気付いているんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

―――――密かに心の奥底で…

 

 

 

 

そこでロキは夢から目を覚ました。氷のベッドの上で眠っていたが、ロキの全身は汗まみれになっていた。

 

「クソ…!またあの夢だ…!!もううんざりだというのに……!」

 

ロキは頭を掻きむしり、苛立ちを募らせている。ロキは苛立ちのあまり、自分の寝室に来ていた眼帯の女に気付くのが遅れてしまった。眼帯の女は汗まみれになっているロキの顔を覗き込む。

 

「……大丈夫?」

 

悪夢から現実に戻され、ようやくロキは自分の状況が飲み込めた。数日前、自分はこの異聞帯という世界で目覚め、この異聞帯を支配する王であるスカサハ=スカディの居城に食客として招かれたのだ。ロキは自分の愛用の兜を被ると、ベッドから立ち上がる。

 

「心配は要らん。それより人間の女、何故俺の寝室に勝手に入ってきたのだ?」

 

ロキはクリプターであるオフェリアに対して言う。

 

「…ひどくうなされていたようだけれど、何か悪い夢でも見たの?」

 

「俺の事は放っておいてくれ。用がないなら出ていけ」

 

「でも……」

 

「俺の事が嫌いならそれで構わん。好きにしろ」

 

ロキはそう言うと寝室から出ていった。オフェリアは寝室を出ていくロキの背中をじっと見つめていた。この北欧異聞帯をキリシュタリアから任されたオフェリアは空想樹を育てる使命を帯びている。そして先日、この北欧異聞帯にやってきた北欧神話の邪神ロキ…。ラグナロクによって神々が死に絶えたこの世界にロキが来たのには何か理由があるのだろうか?

 

 

「ロキ……貴方は何者なの?」

 

 

 

*********************************************************

 

 

ロキは氷の居城の主であり、この北欧異聞帯を統べる女王であるスカサハ=スカディの玉座に来ていた。スカディは紫色を基調としたドレスに、服と同じ紫色の長く艶やかな髪の毛をした美女だ。肌は陶器のように白く、瞳は血のような赤色をしていおり、見る者を魅了させる妖しさを持っている。この北欧異聞帯に君臨する王であり、地母神としての側面を持つスカディであるが、外見は美女でありながらも神らしい超然とした存在感を放っていた。スカディはロキの姿を見ると、笑みを浮かべつつロキに声をかける。

 

「来たかロキよ。姦計の神であるお前が復活し、こうしてこの私の城にいるとはな。何の因果かは知らぬがこれも何かの運命であろう」

 

ラグナロク以降、北欧世界最後の神となったスカディは、北欧神話に連なる神であるロキがこうして蘇った事を喜んだ。3000年もの間、この世界で唯一の神として君臨してきたスカディ。他の北欧の神々は全て死に絶え、世界に残ったのは少数の人間と巨人のみ。スカディは自分と同じ存在の神を3000年もの間見ていなかったのだ。

 

「スカディよ、この城に来た時に話したとは思うが俺はの知る姦計の神ロキではない」

 

「それは聞いておる。本来の北欧世界ではお前はオーディンの義弟であった。しかしお前は…自分の義兄を雷神トールだと言っておったな」

 

そう、本来の北欧神話のロキはオーディンと義兄弟であり、死者の国を統べるヘルの父親でもあった。しかしロキはソーの義弟でありオーディンの養子である。つまりロキはスカディの知る北欧神話とは別の世界線から来たのである。これに対してスカディは思う所があったのか、少し考え事をしていた。

 

「ロキよ、私の支配するこの世界に来たのであれば歓迎しようぞ。何せこの世界において神は私ただ一柱だからな」

 

スカディはそう言いながらロキに微笑みかける。スカディはロキに対しては悪い感情は抱いておらず、寧ろ好意を寄せているようにも見える。数千年もの間自分と対等の存在である神を見てこなかったせいか、スカディはロキに対して興味を抱いている様子だった。

 

「……そうだな、確かにお前の言う通りかもしれない。神々が死に絶えたこの世界に数千年もいれば俺のような邪神ですら輝いて見えるだろうさ」

 

「ふっ、ロキ。私はお前の過去に興味はない。だが、お前がどんな人生を歩んできたかは知っているぞ。あくまでも私の知る北欧世界のお前だがな。お前の妻は巨人アングルボザで、彼女との間にフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルの3人をもうけた」

 

どの北欧神話でもロキは神々を欺くトリックスターとしての立ち位置だ。

 

「スカディよ、お前はこんな雪景色が延々と続く退屈な世界に君臨して楽しいのか?」

 

「私は退屈ではないぞ。我が息子や娘達は皆、愛おしい。私はこの世界に生きる全ての生き物を愛している。しかし…… やはり寂しくはあるな」

 

スカディはそう言って、どこか悲しげに呟く。オーディンの妻となる筈であったスカディであるが、ラグナロクにより全ての神々が死に絶えた結果ただ一人、この世界で神として君臨していた。

 

自分の世界に生きる人間や巨人、動物達に等しく愛を注ぐスカディであるが、それは「母」としての愛であり、「女」としての愛を向けられる存在はこの北欧異聞帯にはいなかった。神というのは人間を自分と対等の存在として見る事はできない。神の価値観は普通の人間には計りかねるものであり、その神性故に神は人間とは自分達とは違う次元に存在すると考えているからだ。

 

「ロキよ、お前は…。…!?」

 

そう言いかけた直後、スカディは自分の支配するこの北欧異聞帯に侵入してきた存在を感知する。しかもただの侵入者ではない、「神だ」。

 

そして単なる神ではない。入って来た神こそが北欧神話において戦神として君臨していた存在…

 

 

 

 

 

 

―――――雷神、ソー・オーディンソンだ。




『ソー&ロキ ブラッドブラザーズ』はロキがもう可哀想過ぎて…(T_T)
ぶっちゃけロキ×スカディのカップリングはアリでしょうか?(^_^;)
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