マイティ・ソーが北欧異聞帯を攻略するようです 作:ドレッジキング
雪景色で覆われた北欧の大地をソーとウォリアーズ・スリーの面々は探索し続けた。歩き続ければ街の一つや二つ見つかるだろうと踏んでいた一行であったが、一向にそれらしいものは見つからなかった。
「……駄目だな。一面雪に覆われている。建物らしきものは一つも見当たらない」
北欧広しといえど、これだけ歩きつづけて街の一つも見当たらないとはどういう事なのであろうか?しかも道中では巨人の襲撃が複数回あり、その度に撃退はしているのだが、肝心の人間がどこにもいない。
「我が君ソーよ、この地に住んでいた人間たちは巨人共と入れ替わったのでしょうか?」
ヴォルスタッグは半ば冗談半分にそう言うが、それを言った後で本当にそうだったらどうしようかと不安になっていた。
「まだ断言はできぬ。それに、この街の住人達はきっと今もどこかに隠れている筈だ」
ソーの言葉を聞いたウォリアーズ・スリーは頷き、探索を続ける事にした。この雪原に覆われた世界には所謂魔力が満ちている。アスガルドの神であるソーと、配下のウォリアーズ・スリーも自分達がいる氷雪の銀世界がミッドガルドとは根本的に空気が違う事を感じ取る。大気に満ちたマナの気配が恐ろしく濃く、それでいて優しく満ちている。もしかすると元々あった北欧のスカンジナビアの大地は、この氷雪の異世界と丸ごと入れ替わったのではないか……?ソーの胸にはそんな予感がしていた。その考え自体、あながち冗談でもないと思えるのが恐ろしかった。この地に住んでいた人間は何処に消えたのか?そしてこの地に生息している仮面を付けた巨人たちは一体何なのか?この謎を解くには調査を続けるしかない。そう思い、雪道を歩き続けるソーとウォリアーズ・スリー。ふと、ファンドラルが何かを発見したようだ。
「我が君よ、ご覧ください!あれは集落です!」
「あれは……」
ファンドラルが指差した方向を見ると、確かに集落と思しき村がある。周囲を外壁で囲んだだけの小規模なものだが、それでも人が住んでいるのならば情報収集できるかもしれない。一行は急いでそこへ向かった。
「我が君よ、それにしても少々古めかしい村ですな。今時のミッドガルドの人間はもう少し近代的な街を築くものですが……」
ファンドラルの言葉にソーも同意する。確かに自分達が向かっている村は現代からすれば古めかしい建物だ。北欧の田舎ではあのような建物も珍しくはないのかもしれないが……。が、その時である。ソーとウォリアーズ・スリーの面々は上空から異様な気配を感じ取り、緊急停止した。
「あれは……」
ホーガンは上空に複数の人間が浮かんでいるのを指差す。そして浮かんでいる人間……彼女たちはソーたちが目指している村落の門へと降下していく。どうやらソーやウォリアーズ・スリーの存在には気付いていないようだ。
「いったい何が始まるというのだ……?」
「分からぬ。だが余り良い雰囲気ではないな」
ソーと配下三人は背中から羽根?を生やした美女たちが向かった集落へと足早に向かった。そして前方に集落への入り口とおぼしき大きな門が見えてくる。そしてよく澄んだ声がソーたちにも聞こえてくる。
「人よ、人よ。今は喜びを許す。定めに従い、是より大扉をおまえたちのために開く。扉が開かれたならば迷わず進み、そして巨人の贄として見事に果てるがいい。さすれば、戦いを知らぬおまえたちの魂も戦士の館へと招かれる。人よ、喜べ、人よ、笑え。是は唯一の神よりの愛である」
"巨人の贄"という物騒なワードが聞こえてきたが、それよりも"戦士の館"というワードにもソーとウォリアーズ・スリーは違和感を感じた。まさか……
「我が君よ、これは只事ではないですぞ」
「ええ、私もそう思います」
「同感です」
三人が口々に言うので、流石にソーもただならぬ気配を察知していた。そもそも、あの空に浮いている女達は何者なのか……?仮にあれが本物の女神だったとしても、あんなものが存在する筈がない。いや、女神ではない。あの空に浮いている女達は"戦乙女"……ワルキューレだ!
そしてワルキューレとおぼしき女の声が聞こえてくる。
「では開こう。お前たちの命、ここに尽きる!」
所謂"人身御供"であり"生贄"という事だろうか?あの村落にいる住民を外にいる巨人の生贄にしようとしている事は会話の一部を聞いただけのソーとウォリアーズ・スリーの面々にも理解できた。だが何故そのような事をする?本来ワルキューレというのは戦い 戦いで死んだ戦士の魂をヴァルハラに迎え入れるのが役割。戦士でもない一般人を巨人の生贄に捧げるなど本末転倒もいいところだ。では一体、あの女たちは何者なのだ?分からない。しかし少なくともこのまま放っておく訳にはいくまい。そんな事を考えているうちにも事態は進行していた。どうやら何かしらのトラブルがあったらしい。相変わらず聞こえてくるのはワルキューレとおぼしき美女の声のみだが。
「人よ、奇妙なる響を得た。人よ、是は驚愕すべき事態であり、唾棄すべき罪である。定めの儀式を阻む者は誰か。定めの儀式は人が命を追える荘厳であり、輝きである」
定めの儀式というのは人間を巨人の生贄に捧げる事を言っているのであろうか。明らかに本来のワルキューレの役割から外れた行動を取っているようだが、これも何か事情や理由があるのであろう。ソーはウォリアーズ・スリーを置いて一人、集落の門へと進んで行く。
「わ、我が君よ!関わるのは危険です!」
慌ててついて来るホーガン達を尻目に、門の前まで来たソーは聞き耳を立てる事にした。中でどのような会話が繰り広げられているのか気になったからだ。そして門の向こうからは少女の声が聞こえてくる。ワルキューレとは別の、人間の少女と思われる声だ。
「……待ってください。御使い、ワルキューレ」
「え、え、えっ、マシュさま……。だだだめよ、定めの日に決まりと違うことなんて!」
「……ヴァルハラと言いましたね。大神の宮殿、戦士の館。それは北欧の神話に於ける文字通り勇者、勇士、英傑、英雄そういった戦士たちの魂が辿り着く場所である筈です。ですが彼らは剣も持たず鎧を身に付けてさえいない!彼等は戦士ではありません!それをみすみす、巨人に殺されるのを見逃すというのですか?あなたは、こうして人々に崇められる存在なのに……!」
マシュという少女がワルキューレの行おうとしている儀式に真っ向から反対していたのだ。マシュの言葉を聞き、ソーは思わず笑みをこぼす。
「ふむ、その通りだ人間の娘よ。ワルキューレは本来戦士の魂をヴァルハラへと導く役割を持つ。剣も鎧も戦う手段も持たない民を贄にする行為は断じて許しがたいな。それが例え神であったとしても……」
が、そんなマシュの言葉も空しく、ワルキューレは非情な宣告を行う。
「神なき者か。神なき者が、私たちの神域へその足を踏み入れたと連結記録に記されてはいたが。貴様たちがそうか。では、誅戮を下さねばなるまいな―――」
ワルキューレはマシュに攻撃を仕掛けようとしている。ワルキューレとしての本来の役割から外れるばかりか、それに異を唱えた少女に裁きを下そうとするとは、最早ワルキューレとしての使命から逸脱してしまっているとしか思えないのだが――やはりこれは普通の出来事ではないようだ。そしてソーはついに介入する事を決めた。集落へと続く門を軽々と片手でこじ開けるとそのまま中に入って行く。突如として集落の中へと入って来たソーを見て、ワルキューレやマシュは動揺した。
「え?え……?だ、誰なのでしょうか……?」
突如現れた大男に対し警戒の色を見せるマシュ。が、一方のワルキューレは顔色を明らかに変えていた。
「……!?成程……ここで出てくるのですか……」
ソーはワルキューレを後目に、マシュの方へと近づいていく。2メートル近いソーを目の前にして、マシュはつい身を引いてしまう。
「あ、あの……貴方は一体……」
「我の名はソー・オーディンソン。先程そなたがワルキューレに対して真っ向から放った言葉、実に見事であった。よくぞ言ったものだ」
「……私は当然の事を言ったまでです。戦士でもない普通に生きていた人々が巨人の生贄にされるなんて見過ごせません!」
ソーの言葉に強く頷くマシュ。が、ワルキューレは口を挟んでくる。
「この世界の唯一の神が定めた神聖な儀式を妨害する事の意味、知らぬ訳ではあるまい?」
戦士でもなく、戦う手段さえ知らない平穏に生きてきた人間を巨人の生贄として捧げ、ヴァルハラへと招くというのはワルキューレの本来の役割とは明らかに異なる。ソーは戦いを知らぬ非力な民を巨人の餌にしようとするワルキューレの所業についに怒りを露わにする。
「ワルキューレよ!!貴様の本来の役割は戦で死んだ戦士の魂をヴァルハラへと招くことであろう!だが今の貴様がやろうとしているのは戦いも知らぬ人間を巨人の贄として捧げ、魂をヴァルハラへと導こうとしているという愚行だ!自分のしている事の意味を理解するがいい!」
ソーの怒号は村落中に響き渡り、大気はビリビリと震える。余りのソーの迫力にマシュは身を竦ませてしまう。だが、当のワルキューレはその怒声にも微動だにせず、冷たい視線を送っていた。
「……ここは一旦引きましょう。ですが次は無いと思いなさい。例え貴方が戦神トールだとしても……」
そう言うとワルキューレは空中へと飛び去っていった。
やっぱソーは慈悲深い神様ですわ……
この作品では全員生存ENDを目指しています(けどどっかで無理が出てくるかも…)