ある僧侶の告白   作:迦羅

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十二話

「お遣い…ですか?」

 

 マミゾウや白蓮達による命蓮のお遣いルートを決める会議が終わった後、白蓮は早速当の本人にお遣いをしてみてはどうかと提案をしていた。

 命蓮は長い間保護者達が部屋に入ったきり誰も外に出てこない上に入っては駄目と姉から言われていたのでもの凄く暇だった。そしてやっと出て来たと思いきやあまりにも唐突な提案、訳も分からず首を傾げるのは当然である。

 

「えぇ、今から貴方に頼みたいんです。いつもは私が行くんですが、生憎用事が出来てしまって…」

 

「わかりました。私以外に誰が一緒に来てくれるんですか?その人にもお願いしないと」

 

「その、非常に申し訳ないんですが…命蓮一人で行って欲しいんです」

 

 白蓮がそう口にしてから数秒間、命蓮は一切の反応を示さなかった。恐らく『一人で』という言葉を自分に使われたのが初めてで、脳の処理が追い付いていなかったのだと思われる。

 段々と反応が無い弟に白蓮が心配になって声をかけようか迷い始めた所で、命蓮は漸く表情を変化させる。変化と言ってもいい方向にではなく、思いっきり表情を歪め泣きそうになっていたが。

 

「な、何でですか…?私一人で遠出するなんて、絶対に無理ですよぉ…」

 

「だ、大丈夫ですよ!当然危険な場所へ向かうことはありませんし、命蓮も何度か会った事のある人の下へのお遣いだけですから。飛ぶことが出来ない貴方でも、日が暮れるまでに帰ってくることが出来ます」

 

「本当ですか…?道中で妖怪に食べられたりしません?」

 

「大丈夫ですよ。いつも出掛けている時と同じで気楽に、そして笑顔にです。貴方ならきっと一人で出来ると信じていますよ」

 

 本音を言えば、白蓮はこの時点で先程までの自分の発言を撤回したかった。彼女にとって命蓮の泣き顔というのはそれはもう尊いものでそれだけで白飯三杯は行ける自信はあるが、それにしたってやはり弟が泣く姿を見るのは心苦しいという気持ちもある。

 今すぐに先程の発言を取り消し、命蓮と二人でお遣いに行きたい。しかしこれは彼を成長させる為なのだ。彼女は心を鬼にして命蓮からの反応を待つ。

 

「・・・わかりました、行きます。何処へ行くのか教えてください…」

 

「ありがとうございます。貴方は勇気のある子だと信じていましたよ。私としても大助かりです」

 

「姉様の役に立てるのは嬉しいですけど…本当に危険は無いんですよね?もしも妖怪に襲われたりしたら私、姉様のこと嫌いになりますよ?」

 

「きらっ…!だ、大丈夫です。ちゃんと私達が見守――安全な道を選びましたから」

 

 命蓮の嫌い発言に大きく調子を崩された白蓮であったが何とか持ち直し、彼に買ってきてほしい物とそれが何処にあるのかを説明し始める。

 もしも彼が妖怪に襲われて自分が嫌われでもしたら提案者であるマミゾウと襲った妖怪に復讐をしてやろう。新たに追加された不安要素に頭を悩ませながらも、弟がお遣いを引き受けてくれたという成長を見て嬉しく思う姉なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命蓮、大丈夫でしょうか…ああは言ったものの、やはり一人では心配です。泣き出したりしないでしょうか…」

 

 命蓮にお遣いのことを話してから一時間程が経過しただろうか。命蓮は終始不安そうな表情をしながらも身支度を整え、自分で車椅子を押して命蓮寺を出て行った。

 現在白蓮はそんな彼を気づかれない程度の距離で尾行している真っ最中である。彼の後を追いかける者は厳正な審査(くじ引き)で決められ、白蓮と星に決定した。

 命蓮寺を出てからここまでの道のりは至って順調であったが、それでもいつ予想外の事態が起こるかわからず、白蓮は常に警戒心をあらわにしていた。

 

「聖、最初の目的地は何処でしたっけ?」

 

「博麗神社です。霊夢さんから博麗の巫女のお札を数枚買ってきて欲しいと頼んだのですが…果たして」

 

 命蓮寺を訪れる者の中には妖怪や悪霊に困っていると言って白蓮達に相談しに来る者もいる。そういった者達に渡す為に、命蓮寺には博麗のお札がいくつか置いてあるのだ。

 というのも命蓮寺と違い博麗神社は人里離れた場所に存在している為、里の住人達も妖怪が怖くて行きづらいのだ。丁度札の在庫が無くなりかけていたので命蓮のお遣いに組み込んだ次第である。

 このミッションで重要な事は二つ。命蓮が霊夢にお札が欲しいという旨を伝える事が出来るか。そして霊夢から法外な料金を請求されないことだ。

 

「今の所お遣いに影響のある様な事件は発生していませんね…というか聖、こういう状況鈴奈庵の本で見たことありますよ。確か外の世界だとストーカーと言うのではないですか?」

 

「違いますよ。私達はただ命蓮に万が一の事態が起きないか見守っているだけです。決してその様な怪しい行動を取っている訳ではありません」

 

 そう、これは犯罪行為ではない。ただちょっと弟への愛が暴走しているだけのただの姉の行動である。恐らくマミゾウがここにいれば『ものは言いようじゃな』と言っているのであろうが、残念な事にここに彼女はいない。

 しかし二人の心配は杞憂だったのか、命蓮は特に何事も無く博麗神社前へと到着する事が出来た。しかしここで、白蓮達が完全に忘れていた問題が発生する。

 

「聖…どうしましょう。命蓮様明らかに困っていますよ」

 

「これは私達の落ち度です。完全に忘れていました…博麗神社の道中に階段が存在する事を」

 

 完全に想定が出来た筈の失態に、白蓮は思わず頭を抱える。階段を前にして命蓮は明らかに困っていて、どうすればいいのかわからないといった様子でオロオロしていた。

 

「どうしましょう、流石に車椅子じゃ階段は上がれませんし…でも姉様だってそれをわかっている筈ですから、何処かに階段以外の道があるんでしょうか…?」

 

 もしこれが白蓮達に聞こえていれば、二人は申し訳無さでいっぱいになっていただろう。このままじゃ埒が明かないので別の道を探すべく来た道を戻ろうとする命蓮であったが、ここで予想外の人物が彼の前に現れる。

 

「よっ、命蓮。何してるんだ?」

 

 軽い口調で彼に声をかけたのは、上空にいる霧雨魔理沙だ。彼女は箒を器用に使って命蓮の前に降り立つ。彼女は上空を飛んでたところ命蓮を見つけ、いつもは姉達と一緒にいるのに今日に限っては一人でいる上に何やら困っている様子だったので声をかけたのだ。普段は本を盗むなど碌なことをしない彼女であったが、なんだかんだ面倒見の良さに関しては周囲から一定の評価を得ている。

 

「あ、魔理沙さん。実はかくかくしかじかで…」

 

「成程なぁ…あの僧侶がお前を一人にさせるなんて、これまた意外な事を。よしっ、この魔理沙さんに任せな!お前を神社の境内まで送ってやる」

 

 そう言うと魔理沙は器用に命蓮を抱きかかえ箒に乗り直す。このままでは命蓮の車椅子が置き去りにされてしまうが、どうせ霊夢への用事が終わったらまた降りる事になるのだ。ならば自分あるいは霊夢が彼を抱きかかえていれば問題無いだろう。そう考えつつ命蓮を怖がらせない様に普段よりもスピードを落として、博麗神社の境内へと向かって行く。

 

「魔理沙さんが来てくれたおかげで助かりました…」

 

「そうですね、後で命蓮には謝っておきましょう。流石に神社の境内は入り口が一つしか無い上に隠れられる様な場所も無いので見つかってしまいますね。大人しくここで待っている事にしましょう」

 

 命蓮がちゃんと買い物を済ませられるか不安だが、流石にバレる訳にも行かない。白蓮達はここで大人しく、命蓮の帰りを待つことにした。

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