ある僧侶の告白   作:迦羅

13 / 19
十三話

「珍しいわね。アンタが姉と一緒じゃない上に、魔理沙を連れてやって来るなんて。・・・この場合、魔理沙がアンタを連れてやって来たと言う方が正しいのかしら?」

 

 博麗神社の本堂付近。命蓮を抱えて飛んできた魔理沙という普段あまり見る事の無い光景を物珍しそうにしながら、この神社の巫女である博麗霊夢はそんなことを口にした。

 魔理沙の協力もあった命蓮は無事に博麗神社へとたどり着くことが出来た。しかしここを訪れることが目的ではない。自分は彼女に言わなければならないこともあるし、まだまだ頼まれた用事は存在するのだ。

 早々に博麗神社での用事を終わらせなければ。そう考えた命蓮は近くに姉がいない状況で勇気を振り絞り、魔理沙に抱き抱えられているというイマイチ格好のつかない状態ながらも霊夢に声をかけようとする。

 

「あ、あの「それで、アンタが保護者無しにここに来るなんて一体何の用かしら?あぁ、そういえばそろそろ命蓮寺に渡した札が切れる頃ね。ひょっとして、それを貰いに来たの?」…」

 

 全部言われた。先程したばかりの自分の決心を返して欲しい。命蓮の頭の中を羞恥や悔しさが駆け巡り、彼の表情は思いっきり歪む。

 

「・・・え、私何か不味いこと言った?」

 

 普段は他人のことなど微塵も気にしない霊夢も、流石に年下の少年を虐めている様な状況は居心地が悪いらしい。心配そうに彼の顔を覗き込むその姿は、命蓮の緊張を少しだけ解すことに成功した。

 

「はぁ…いえ、それであってます。ちゃんとお金も持ってきていますのでご心配なく」

 

 そう言って彼は出掛ける際に姉から借りた少し大きめの肩にかけるタイプの鞄から財布を取り出す。この鞄はナズーリンが拾ってきた外の世界からの漂流物らしく、もう少しで捨てられた恨みを持った悪霊になるところだったらしい。今ここにその悪霊とやらがいないということは、無事に姉に成仏させて貰ったのだろうか。

 

「何枚欲しいか教えて頂戴。それによって値段も変わってくるわ」

 

「えっと…姉様にはこのお金で買えるくらいあれば良いと仰っていました」

 

「この量だと…二十枚くらいかしらね。持ってくるから、ちょっと待ってなさい」

 

「霊夢、流石に子供相手にぼったくりは無しだぞ」

 

「失礼ね。貴重なお得意様をそう簡単に手放すようなことはしないわよ。それに後でコイツの保護者にバレたらそれこそ面倒だわ」

 

「違いない」

 

 一言二言魔理沙と軽口を交わした後、霊夢は一度本堂の奥へと消えて行ってしまう。そこから足をプラプラさせつつ五分程待っていると霊夢がきっちり二十枚のお札を持って帰って来た。

 

「はい、きっちり二十枚よ。無いとは思うけど妖怪や悪霊がいないのに使うのは止めて頂戴ね。祓う相手がいないのに使ったらそこに霊力が溜まって、力を得ようと知能の低い妖怪が集まって面倒なんだから」

 

「わ、わかりました。ありがとうございます」

 

「別に、こっちも商売でやっているもの。お金を渡された以上、感謝なんていらないわ」

 

「そうだぜ命蓮。霊夢はお前が感謝する様な奴じゃない。普段の態度を見ればよくわかるさ」

 

「アンタも余計な事言わない!」

 

「いって!お祓い棒で叩くのはないだろ!」

 

 ギャーギャーと言い合う二人を、命蓮は仲間外れにされてるという思いを少しだけ抱きつつも眺め続ける。自分にはああいう風に軽口を言い、些細な事で喧嘩出来る存在がいないだけに羨ましく感じる。家に帰ったら響子か水蜜あたりに棘のある言葉でも言ってみようかと考える命蓮であった。尤もそんなことをしたら、二人の精神的ショックがえげつないことになるだろうが。

 

「あの…お話し中申し訳無いのですが、私は他にもお遣いを任されているところがあるのでそろそろ帰りたいんですけど…」

 

「ん、あぁ悪いな。なら私が帰りも下まで送ってやるよ。もしも車椅子が無くなってたらゴメンな」

 

「えぇ!?凄く困りますよそれは!」

 

「祈ってろ祈ってろ。じゃあ霊夢、私は命蓮を送って一度家に帰ったらまた来るから、茶くらい用意しといてくれよ~」

 

「はいはい、わかったわよ。命蓮も気を付けなさいよ。家に帰るまでがお遣いなんだから」

 

「わかりました。では霊夢さん、また」

 

 霊夢に軽く手を振り、命蓮はここに来た時と同じように魔理沙に抱えられながら博麗神社を後にする。階段下に自分の車椅子がちゃんとあるのを見て、ホッと安堵する彼であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星、次は確か…香霖堂でしたよね?」

 

「えぇ、先程から魔理沙さんが別れる様子を見せないと思ったら、ご自身の家と向かう方向が同じだから護衛してくれているんですね。ありがたい限りです」

 

 博麗神社を後にした命蓮は、次なる目的地の香霖堂へと魔理沙と共に向かっていた。博麗神社へ向かうまでは一人きりだったが故に並んで歩いている魔理沙と楽しそうに会話をしている命蓮であったが、それを遠目から見ている白蓮の顔は不満げだった。

 

「魔理沙さん、私の許可なしに命蓮とあんなに長い時間…命蓮も命蓮です。家族でもない魔理沙さんにあんなに笑顔を向けては…貴方の笑みの破壊力は殺人級なんですから、もしも彼女が惚れてしまったらどうするつもりなんですか。ブツブツ…」

 

「あ、あの…聖?瞳孔の開き切った目でお二人を見るのはやめてください。気づかれでもしたらどうするつもりなんですか。あと怖いです」

 

 そう言って星は二歩程白蓮から距離を取る。普段困っている者の相談に乗っている時の彼女とは似ても似つかない。いつから彼女はこんなに病んでしまったのだろうか。そろそろ永遠亭に行くことを薦めるべきか検討するレベルである。

 だが幸いにも二人が白蓮に気づくことはなく、先程と変わらぬ様子で目的地へと歩いている。今回のお遣いの目的地の一つである香霖堂だが、そこへは博麗神社の様に何かを買いに行くわけでは無い。反対に物を売りに行くのだ。

 彼の持っている鞄には、先日ナズーリンが無縁塚で拾ったガラクタが一つだけ入っている。彼女のダウジングに引っかかったたった一つの物なので貴重であることに違いは無いのだが残念な事に使い道がわからなかったので、この際ガラクタ好きの香霖堂の店主、森近霖之助に売って来て欲しいとの要望だ。

 

「命蓮は森近さんとの接点はありませんでしたよね?」

 

「えぇ、里に出る事の無い命蓮様にとっては初めての同じ男性との面会になります。男の人は初対面だと怖い印象を抱かれてしまいがちですし、ちゃんと自分の目的を伝える事が出来るのでしょうか…」

 

「香霖堂は魔法の森には入らない場所にあるのでナズーリンの意見を了承しましたが、やはりやめるべきだったかもしれません。あそこもお店で狭い上に出入り口は一つだけですから、近くであの子を見守ることが出来ないのが悔やまれる…」

 

 博麗神社から香霖堂までの道のりはそれ程遠いものではない。飛んで行けば十分、歩いて向かったとしてもニ十分もかからないだろう。つまり、命蓮は香霖堂へと到着したということだ。

 カランコロンというドアにかかったベルの音が彼らを迎え、次に命蓮の脳に飛び込んできた情報は、沢山のガラクタ――外の世界の道具であった。

 彼はここにある道具を何一つとして知らない。名前も、使い道も、何もかも。しかし普段外に出る事の少ない少年にとって、未知がたくさん詰まったこの店はまさしく別世界であった。

 

「凄い…」

 

「おや、お客さんかな?」

 

 その声は、ガラクタが置かれた棚の更に奥に存在するカウンターから聞こえた。銀色の髪をした男性が一人。自分の家でその一生を終え、復活してからも人間の下を一度も訪れていなかった彼にとって、初めて同姓と接触した瞬間であった。最早都市伝説感覚だった為に本当にいたんだという感動と衝撃が凄い。

 

「魔理沙と…君は、初めて見る顔だね」

 

「あ、その、えっと…初めまして。聖命蓮と言います」

 

「聖…ひょっとして、命蓮寺の関係者かい?」

 

「あ、はい!聖白蓮の弟です…」

 

「(命蓮、ちゃんと挨拶出来て偉いですね!帰って来たら沢山ナデナデしてあげます!)」

 

 彼の様子を窓から眺めていた白蓮は、感動のあまり今すぐ彼の下へと行きたい衝動に駆られたが、すんでのところで我慢した。彼女は我慢の出来るタイプの姉なのだ。でなければ弟が自分の下に帰って来てくれた時点でもう離すまいと既成事実を作っている。

 

「今日は私じゃ無くて、この命蓮の方がお前に用事があるんだとよ」

 

 ポンポンと彼の頭を軽く叩き、車椅子をカウンターの方へと押していく。彼女の言葉で命蓮もハッと目的を思い出しいそいそと鞄を開け、一つの四角い箱の様な物を取り出した。

 

「えっと、これを香霖堂で売ってくれって、ナズーリンさんが…」

 

「見せて貰うよ。・・・ふむ、これは…スマートフォンと言うのか。名付け方から察するに、外の世界の道具かな。使用用途は…多すぎて解明に時間がかかるな…わかった。買い取らせて貰おう。値段は…このくらいでいいかい?」

 

 そう言って霖之助はカウンターからお金を取り出す。外の世界の金銭価値で言うのなら、大体五千円ほどだ。しかしそれを見た命蓮は困惑した様に表情を歪め、彼に言葉を返す。

 

「あの…ナズーリンさんには、この金額の倍くらいで買い取って貰ってくれと言われたんですが…」

 

「倍?倍だって?」

 

「えと…はい。あの店主は外の世界の道具に目がないから、多少吹っ掛けても大丈夫だって…」

 

 もしここにナズーリンがいたら、そんなことまで言わなくていいと彼の脇腹を軽く小突いていただろう。しかしここに彼女はいないし、そもそもとして命蓮に交渉を任せる時点で間違っているのだ。世間知らずな彼にそんなことが出来る筈が無い。

 

「うーん…倍は流石に…僕としてはこの金額が見合っていると思うのだけどね」

 

「で、でも、ナズーリンさんはこの金額でって言っていたので…安く売ってしまったら何と言われるか…」

 

 命蓮のことをナズーリンが怒る?あり得ない。最近段々と白蓮達に毒されて過保護になっている彼女が命蓮のことを怒るなど考えられない。マミゾウとぬえが星とナズーリンのどちらが先に白蓮と同類になるかという賭けで二人共ナズーリンを選んでしまい賭けが成立しなかった程なのだ。まだ天地がひっくり返ることの方が現実的である。

 

「うーん…そうは言ってもこっちも商売なんだ。君には申し訳ないが、譲る事は出来ないかな」

 

 思いっきり表情の歪む彼を見るのが少しばかり心苦しくて、霖之助は目線を逸らす。そこまでは良かったのだが、彼は最悪な事に、窓の方を見てしまった。

 そこにはまさしく、般若がいた。

 

「(森近さん…あの方は良識のある方だと思っていたのですが、とんだ思い違いだった様ですね。命蓮の頼みを断るなんて、彼は人らしい心というものを持っていないばかりか邪悪な思想に毒されている様ですね。すぐさま私が滅ッ!して差しげなければ)」

 

 白蓮は激怒した。必ず、かの狡猾老獪の森近霖之助を除かなければならぬと決意した。白蓮には商売がわからぬ。白蓮は、妖怪寺の僧侶である。教えを説き、商売とは無縁の生活をして来た。けれども弟を泣かす存在に関しては、人一倍に敏感であった。

 反射的に顔を背けることが出来たのは妖怪の血のお陰かもしれない。今まで何とも思っていなかったが、彼は生まれて初めて半人半妖であるという自分の血筋に感謝した。

 

「聖…!笑顔で殺気を振り撒くのはおやめください…!近くの生態系に影響が出たらどうするつもりですか…!」

 

 星が小声ながらもそう言ってるが、白蓮が殺気を収める気配はない。ここまで濃密な殺気を放っているのにも関わらず気づきすらしない命蓮は実はかなりの強者なのではないだろうか。霖之助はそんな現実逃避をすることで精一杯であった。

 

「・・・わかった。今回は特別だ。君の提示した金額で買い取る事にするよ」

 

 深い溜め息を吐いた後、彼は先程出した金額と同じ量のお金を新たにカウンターの上に置き、代わりにスマートフォンとやらを手に取る。命蓮はあまりにも突然のことで一瞬訳のわからないと言う様な表情を見せたが、すぐに笑みを顔に浮かべ、頭を下げてお礼を言う。

 

「珍しいな香霖。普段は絶対に譲歩しないお前が折れるなんて。命蓮の困り顔に罪悪感が募ったのか?」

 

「そんなことで心を動かされてちゃ商売を続けられないよ。強いて言うのなら…命の危機を感じたと言っておこうか」

 

「?」

 

 彼のその言葉に、魔理沙は頭に疑問符を浮かべる。どうやら星は殺気を振り撒くと言っていたが、あれは振り撒いていたのではなく自分一人に向けられていたものだったらしい。

 出来ればもう二度と彼には買い取りに来ないで欲しいと思いながら、霖之助は手に入れた道具を調べるべく店の奥へと入っていくのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。