昇太郎の独り旅‐王道を行かぬ国内旅‐   作:劉鳳

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躁鬱気分に一話だけ投稿したものの再投稿です。十話完結予定です。


序章 生活風土を見てこその旅行

 

序幕 昇太郎の小旅行

 

昇太郎、出身地は近畿南部、現在は中京の某国立大の工学部二回生。週4日の講義、講義後はバイトをし、週2、3日自分の趣味にふけると言う、ごく普通の大学生である。学費は奨学金で賄い、月二万の安アパート暮らし。家族からの仕送りは月三万、バイト代は月十二万で、食費は月二万。部屋の中はものが少なく、講義に使う教科書と作業服以外にあるのは、高校の時から使用しているノートパソコンとスマートフォンのみ。

 

そんな昇太郎の趣味は、小旅行。昔から家族と良く旅行をしており、色々な土地を巡るのが好きだった。家族は観光地ではなく、その土地の息吹きを感じられる場所を好んで旅行をしていた。だからなのだろう、昇太郎がありがちな観光名所よりも、そこから外れた、普段見向きもされない場所を好むのは。

 

昇太郎は高校になった時から、独り旅をし始めた。初めは両親から他の土地に旅に出て、その土地に生きる人々の生活を目に焼き付けなさいと言う社会勉強も兼ねていた。昇太郎が独りで初めて行った場所は、昇太郎の住む地方の町だった。漁業の町であり、太平洋をのぞむそこは、別段観光地として有名と言うわけではなかったが、ある海外のドキュメンタリー映画に取り上げられてから、海外の人間が多く訪れる場所となっていた。

 

昇太郎はその町にやって来た。他の観光地と比べても遜色の無い、美しい自然が広がる港町。しかし、ここが余り観光地として取り上げられていない理由は、港の辺りに来て悟る事になった。海外からの人間がプラカードを片手になにやら叫んでいる。プラカードにはイルカやクジラの絵が描かれているものや、英語で残酷な漁を許すなと書かれたものだった。昇太郎は一時期有名になったと言うドキュメンタリー映画の事を思い出した。この町は、伝統的な漁法でイルカやクジラを捕っている町であり、飲食店ではそれらを使った料理が提供されている。あのドキュメンタリー映画は中学校で一度上映会が開かれていたなと昇太郎は思い出した。何処の国の映画かは忘れたものの、その国の主観でイルカ漁を批判する内容、学校の先生達も何故か映画を称賛するような事を言っていたので、凄く喉に魚の骨が引っ掛かったような違和感を感じたものだ。

 

昇太郎はクジラやイルカ肉は食べた記憶が無いし、ホエールウォッチングの対象位の感想しか持っていなかったが、あのドキュメンタリー映画はどうにも胡散臭い感じがしたものだ。先生は主要な映画祭で賞を貰った作品だと言うが、あの映画を称賛する人の事がいまいちわからなかった。だが、この町に来て、海外の人間が騒いでいるのを目の当たりにして、喉の突っ掛かりは取れたし、違和感の意味を理解した。

 

この町の人々はとても優しい人々だった。漁業に従事する人は朝から港に出て汗を流し、捕った魚の水揚げを行い、今日の成果を仲間の漁師や家族と語り合う。何の変哲も無い、しかし、とても温かい人々だった。彼らは言う、命を頂く商売をしているのだ、そういった商売を嫌う人々から色んな文句を言われる事もあるけど、私はこの町が大好きだし、仕事に誇りを持っていると。

 

一方、海外からのプラカードを持った彼等もまた、優しい人々であった。映画を通して残酷な漁を止めて欲しいからと、純粋に参加している人も意外と多い。来ている人々の中には、地元の人間がごくありふれた良心的な人間である事に驚いており、抗議活動を目的にしながらも、地元の人々と普通に仲良くしている者までいたのだ。彼等は、昇太郎と同じで、イルカもクジラも食べた事の無い人々で、この町の真実を良く知らないと言うのが事実だった。

 

地元の人々や海外の人々それぞれの話を聞きながら、殆どの人間と言うのは、良心的な人間なのだと感じた事であった。昇太郎の最初の独り旅は、今後の小旅行の礎となった。

 

オマケ

 

昇太郎メモ:町の料理店に顔を出す。観光客向けでない、地元民の行き着けの店。クジラ、イルカ料理もあるが、地元のオススメは鮪だった。鮪はどちらかと言えば、同じ県のあの都市のイメージが強かったが、ここでもそこそこの水揚げをしていて、特に冬の時期のビンチョウは美味いとの事でその刺身を頂いた。脂が程よく、身の味もクセが無い上に旨みが濃くて美味しい。ビンチョウをみりん醤油に浸けて干したものも頂いた。これまた美味しい、時間が経ったものから加工ではないからか、近くの店で買ったみりん干しよりも臭みが無い。美味いものは産地で、親父の言う言葉はまさにこれだ。

 

 

 




既に気付いてらっしゃる方が殆どだと思いますが、昇太郎の出身地はあの県ですね、イルカ漁で検索したら簡単に出て来ます。イルカやクジラ料理も美味いのですが、昇太郎は敢えて地元の人々の馴染み深いものを現地でのご飯として頂くので、ステレオタイプな名産品は口にしません
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