躁鬱気分に一話投稿したものの元ネタです。あちらはスラム巡りと書いていますが、本来は昇太郎がインスピレーションの赴くままに旅するものでした。
九州は独り旅をするには敷居が高い、そう言うイメージがある。特に昇太郎のような旅の仕方をすると、危険な所にも遭遇するかもしれない。しかし、九州は特色が強く、また、離島も多いので、選択肢は多い。話は変わるが、九州の離島と言えば何処を思い浮かべるだろうか?宇宙に最も近い種子島、屋久杉やもののけ姫のモデルにもなった森のある屋久島、自然の宝庫沖縄、東シナ海の対馬、五島列島等がイメージしやすいだろう。
現在昇太郎は前期日程を終えて大学は夏休み、バイトも一ヶ月離れるので丸々休みである。そこで思い切って九州某県に行ってみようと計画を立てた。と言っても、昇太郎が普通の観光地に行くような人間ではない。旅の計画は普通の人間が誰でもするものだが、本当の地元民の生活の息吹きを感じれなければ意味が無いと感じるのが昇太郎である。観光客が余り寄り付かない離島、都市の地域にめぼしを付け、昇太郎は軽い着替えを詰めたリュックを背負い、アパートを出る。
※独り旅(特に借り屋の人)の出る前の準備
一、火事の原因を作らぬよう、ガスの元栓を閉めて、ブレーカーを落とす。
一、旅行が1週間以上、かつ家賃や電気代の支払日と被りそうな場合、大家さんに空ける旨を伝える。
一、生ゴミは前日までに処理出来るようにしておく。
一、戸締まりは確実に。
昇太郎が最初に訪れる地は、某県に決めた。某県の県庁所在地は離島の玄関口にもなっていて、かつ九州新幹線の駅もそこまで出ているのでアクセスは簡単である。問題は離島への定期便である。離島が瀬戸内海等と比べて格段に遠く、毎日は就航していない為、乗る船の帰りの日数を計算して暇にならないよう計画を立てる。また、離島→離島の往き来も考慮して行く。九州の離島は本島からの距離がとにかく半端無い上、店も島民のみを想定した物資量しかない為、極端な買い物は余り推奨されない。
もう一つ、昇太郎が行きたかった場所がある。某県県庁所在地のとある地域、数十年も経過したバラックの家々が立ち並ぶそこに先ずは行こうと決めた。昇太郎は戸締まり等を再度確認すると、駅まで自転車で行き、そこから自由席で某県までゆらゆら揺られながら眠りについた。
九州某県K市。この市はとある湾を挟んで見事な名山を臨める所に都市部が存在する、景観美しい場所だ。この都市は昔からの有名武家の影響からか、保守的地盤の強い所でもあり、特に外国人に対する目は厳しい。それは終戦後、国に戻らず日本で天寿を全うする事を誓った現在の在日系の人間に対しても変わらない。故に、この都市は中都市以上の全国の市の中でも在日の人間の割合が低い。彼等は、戦後の偏見を耐えて、尚日本人になろうとした。そんな彼等が暮らしていた場所が、今回行くスラムと言うわけだ。この旅行ツアーが絶対組まれない場所を旅するのは、名所から外れた場所を好んで旅する男、昇太郎である。旅としては特に着飾る必要もないので独り旅は気楽、これが昇太郎の旅の仕方だ。
駅に着くと、微かな硫黄の臭いが漂う。九州は全国有数の温泉地が幾つも存在するが、ここはその一つでもある。気軽に風呂に入れる場所と言う点でも、昇太郎にとっては最高の場所と言えた。昇太郎は早速、旅の目的を達成するため、ある場所へと足を進める。
場所は工業港の近く、賑やかな他の場所と一線を画する倒壊寸前な建物が立ち並ぶそこは、その周辺だけ数十年前から時が止まったような印象を受ける。他の居住地とは違い、廃墟のような印象を思い浮かべる。
その一角に足を運ぶと、ここに人が本当に住んでいるのかと言う程に、人気が無い。昇太郎が求めていた生活のいぶきを殆ど感じられない。建物の殆どは簡素な作りで、家が傾いている所も珍しく無い。敷設された道は凸凹で、草が芽を出しているような状態だった。昇太郎は更にそこを歩く。目の前に数匹の猫と戯れる老人を見つけた。
昇太郎は老人に挨拶すると、元気はないが挨拶を返してくれた。昇太郎は老人に話を聞いてみた。老人は、この一帯の成り立ちを簡単に教えてくれた。元々、この辺りには在日会館が存在し、彼等がこの都市で働く場所として地区が形成されていったと言う。戦後の本国引き揚げ組に加わらず、戦後復興から港湾の開発まで、この老人のような人々は地域に住み着き、90年代辺りまではそれ相応の活気があったと言う。しかし、バブル経済の崩壊と、隣国の実態を知った者達による排斥の動きにより、ここ数年で退廃が加速、現在ではこの地区に住む人間は少なく、歩いて来た時に人気が無かったのも仕方がないと言う。
老人は愛着ある場所故に死ぬまでここを離れず、野良猫達と静かに暮らしたいといい、笑っていた。昇太郎はこれ以上は不粋だと思い、老人に礼を言って別れた。昇太郎は更に路地を歩く。路地は生活動線とは思えない程狭く、更に無造作に置かれた鉢植がその道をより狭くしていた。見る家の何軒かに一軒は倒壊していて、解体工事が進んでいる所もあった。人気を感じたのはその辺りが一番多かったが、市内の工事作業員が殆どだった。昇太郎はその地域から離れ、市内のもう一つの地域へと向かった。
九州某県は離島出身者が多数移り住んだ所でもある。戦中はその地域は海軍の飛行場があり、軍関係の人間が定住して次第に娯楽施設も何軒か建ち並ぶようになった。戦後も彼等は本島に帰らず、復興と共に多くの商店街が形成されたが、新興住宅地の設営、他地域に出来た商業施設の関係で、若者がそちらに流れていき、シャッター通りと化し、この地区は昭和の風景を残したまま、寂れていた。
先に訪れた地区と比べると、道は広いし近くに団地や商業施設があるため、前の居住区程の印象は受けないが、やはり錆び付いた看板やバラックの家屋が目立つのを見ると、退廃的な印象は同じように見える。離島出身者が多数を占めている為か、この地区は何処かとある島の人間の顔立ちで、本土の人間より彫りが深い。居酒屋が何軒かあり、島の地酒の名前が目を引く。商店街と思しき一角に来ると、シャッターが開いている店は少ない。店の種類は何故か肉屋の比率が高かった。先の地区もそうだったが、〇〇党と××党のポスターがやけに目立って仕方がない。昇太郎の巡る場所にはこの都市に限らず二党のポスターを良く見かけるのでまたかと言う感じではあるが。
それにしても、二つの地域共に意外と治安は良かった。昇太郎としては退廃的かつやや非合法な空気が好みであったが、目立つような荒事もなく、静かな印象である。しかしはっきりしている事は、観光客の姿は無く、異様で危険なイメージはどちらにも付いている。この都市の発展に陰ながら貢献してきた人々の残り香、それが二つの地区の現在のなれの果てであった。
昇太郎はその日、近くのホテルに泊まった。このホテルも随分と寂れた印象だったが、安いし飯も出るし、温泉地だから風呂は温泉で文句無しだった。そこに住む人々は比較的親切だったので、今回の独り旅は良き思い出として刻まれた。
昇太郎メモ:あのお爺さんの住む辺りでご飯屋を探したが無く、街を歩いて探す事にした。湾岸の高速艇乗り場近くに複合施設があったので、そこを通る。目ぼしい店が無かったが、その道路を挟んで向い側の店に興味をひかれ入店。家族連れ等が目立つファミリーレストラン、レシピは肉系が多く、ステーキはある程度のグラムを決めれる。400gのステーキを頼み、サラダやその他の軽食類はビュッフェ形式。味も良く、お腹一杯に食べれるので最高だった。
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昇太郎は国内旅行を主にしています。基本的に作者の巡った場所を元に書いていますので、昇太郎メモの店は実在します。次回の後編は離島に行きますが、元ネタ文の誤字が酷かったのでかなり先になると思います。